だってあなたは同盟者



ーーああ、これが本来の彼女の寝顔………なんて……なんて安らかに眠るお方なのでしょう…………まるで死ん……死んでません……よね……?



「死んでません」

 勝手に殺されてしまっては(それも耳元で)夢の世界からも追い出されよう。今までギリギリのところを持ちこたえてきた命だ。ここにきてそうあっさりと殺すのはやめてくれ。
 そんなこんなで目を覚ますと、褐色の美女二人に上から覗きこまれていた。

「やっとお目覚めですか同盟者。心配で見にきてみればこの体たらく……信じられません。これではすぐに身体を壊して死んでしまいますよ!」
「ハッ……! それは……それはとてもよくない……よくない……」

 さっそく朝からの訪問者に、寝起きから思考にエラーが生じる。
 ……まあ、いい。そういうものなのだろうしと起き上がり、お湯を沸かす準備をする。

「何かのむ?二人とも」

 何かと言いながらここには麦茶しかないのだが、まだ。
 例によってマーリンが用意してくれた、雪の結晶がワンポイントで彫られたグラスに注ぐ。聞いといて何だが勝手に麦茶を注ぐ。二人は「感謝します同盟者よ」「ああ……ありがとうございます……」とたかが作りおきの麦茶なんかに丁重にお礼をくれたりした。

「まさか二人が来てくれると思わなかったな」

 それもこの二人にかぎって、この朝っぱらに。

「あたりまえです。だってあなたは同盟者ですから」

 ニトクリスはずっとそうだった。「同盟者」とわたしを呼びつづけた。
 たとえばマスターである自分が尻込みをしたとき、「マスターなんだからしっかりしろ!」と背中を押してくれるサーヴァントは数多くいたけれど、対等に、ともに尻込みをしてくれたのはニトクリスだけだった。
 たとえば自分がもし「逃げたい」と言っていたなら、きっとほとんどのサーヴァントがわたしに痺れを切らして、呆れて、わたしのもとから去っていくのだろうが、ニトクリスだけはわたしの、藤丸立香のそばにいてくれるのだろうと勝手に思いつづけている。
 だからわたしは「同盟者」と呼ばれるのが嫌いじゃない。それはきっと、同じ世界を見れている証だから。

「シェヘラザードも、元気そうでよかったです。本当に」
「お心遣い痛み入ります……。……私は」
「うん?」
「私は、貴女の物語を……記録し、語らねばなりません。いえ、語りたいのですから」

 ふと、とある追体験を思い出した。あなたが「ドクターのことを知りたい」と言った日のこと。
 もちろんわたしもドクターのことを知ってほしいと思った。だからあなたを喚んだのだし、あなたはドクターのことを知る義務がある。義務。
 それはやけに爽やかな復讐心だった。けど今じゃもう思い出だ。

「もし、人の世の事情で、貴女の物語がなかったことにされても……それでも私は語りつづけましょう。世界を救った貴女の、藤丸立香の物語を」
「そっかぁ。シェヘラザードが覚えててくれるんなら、うれしいなあ」

「な! わたしも忘れませんよ! 忘れませんからね!」とニトクリスがムキになって言う。
 エラーから始まった朝にしては、とても愛しい時間だと思った。