円卓の朝は早い



 円卓の朝は早い。



 カンカンカンカン

 耳をつんざく金属音。その音は、どっかしらの英霊の愛馬のように部屋中を蹂躙する。

「え……え…? なに…?」
「起きてください立香。朝です。もう食事もできていますよ。起きなさい」

 ベディヴィエールの朝は立香を起こすことから始まる。フライパンとステンレスのお玉を持ち、これらをアガートラムで容赦なく叩きつけ合う。

 カンカンカンカン

「わ、わかった。起きる。起きます」
「では顔を洗って、食卓へ来てください。あ、タオルはそこです」
「うん……え? ……うん」

 洗顔を終えた立香がテーブルにつくと、そこにはなんとも豪勢な、ホカホカと湯気がのぼる朝食が用意されていて目が覚める。しかも立香好みの和食揃いときた。

「わ、おいしそう。いただきます」
「あなたはまだ育ち盛りですから、栄養をしっかり摂らなければね」

 起床時はどこぞの近所迷惑が不法侵入してきたかと思ったが、なんともありがたい。玉子焼きは甘いのが好きです。
 モッモッと無言で食べ進めていると、ふいに箸が誰かの箸とぶつかった。

「あ、すみま…」
「いえこちらこそ」
「トリスタン卿も、早く食べてしまわれてくださいね」

 あ、トリスタンはわたしサイドなんだ。
 二人で健康的な朝食をモッモッとやっていたらあっという間に時間が迫ってきた。迫ってきたというか

「まずいベディ! ゆっくり食べすぎた! 遅刻かも!」
「お任せください立香!」

 そうどこからともなく現れたのはガウェインで、藍色のマントをこれでもかとはためかせている。
 「あっ」という間もなく、ガウェインは立香を抱きかかえた。結構雑に抱きかかえた。

「さあ、しっかり掴まって。そう。少々荒い移動になりますが、少しの辛抱です」

 そのままガウェインは真上に飛んだ。

「えー! ちょっとちょっと! なにこれ! やだこれ!」
「あまり喋っていると舌を噛みますよ!」

 電柱の先から屋根へ、場所によっては高層ビルの屋上から屋上へと飛び移りながら移動していく。「私たち、風になってるー!」どころの騒ぎじゃない。

「このまま貴女の学舎に降りますが、よろしいですね?」
「は?!」
「こうした移動の方が幾分速いでしょう」

 現状をつかみきれないまま到着し、ガウェインから離れた。ガウェインは髪の毛一本乱れていない。比べて自分は足元すらおぼつかない。

「え? なに? なんだったの?」
「ではお気をつけて、立香」

 これ以上の何に気をつけろというのだ。






 授業が終わり学校を出ると、エントランス付近に紫っぽい人影が見えた。

「お迎えに上がりました、立香」

 立香の姿に気づいたらしいランスロットは、騎士然とした(騎士か)凛々しさで立香を迎えた。

「迎えに来てくれたの?」
「ええ。貴女の身をお守りすることが本日の私の務めですので。それから……」
「それから?」

 夕飯のおつかいを頼まれておりますと、ランスロットは小さなメモ紙を取り出した。
 おつかい。
 折り畳まれたメモ紙を開く姿が小さな子どもみたいで、こんな風貌してるくせに愛らしいじゃないか。

「じゃあ、買い物して帰ろうか。一緒に」

 そんな平和な夕方。






 夕食を終え、風呂からあがるとモードレッドが立香の二画面ゲーム機で何やらピコパコやっていた。隣に座りゲーム画面をのぞき込む。

「……モーさん、マリカ強いんだもんなあ」
「騎乗スキルっつーやつだ」
「宝の持ち腐れですな。あとで対戦しようよ」
「やだね。だってお前クソ弱えじゃん」
「えー」

 濡れたままの頭にタオルをかぶせ、ぼうっと天井の一転を見つめる。
 なんだか今日は、なんだかすごかった。

「なあ、マスター」

 ピコパコとゲーム機を見たままモードレッドさんが言った。

「うん?」
「お前さあ、帰ってこねえのか」
「どこへ?」
「どこへってそりゃあ……カルデアだよ」

 カルデアねぇ……と呟いたつもりが声になっていなかったようで、立香から返事がなかったことを気にしたのか、モードレッドは顔をあげた。

「あ、ごめん。聞いてるよ。カルデアね」
「……もういい。それより早く髪乾かせ。風邪引く」
「うん。……カルデアに戻ったら、モーさんとあまり、マリカできなくなっちゃうしね」
「だからやらねっつの」

 そう言ってモードレッドは立香の髪をがしがしと拭いた。結構強い。いやかなり強い。バスタオルが千切れそうなくらいには力任せに拭かれている。
 痛い。痛い。

「ぎゃ! 痛い! いたたたた!」
「っるせえ我慢しろ! マリカやるんだろ!」

 あ、結局やってくれるんだ。

「おや、何やら騒がしいと思ったら」
「ゲェ、ガウェインかよ。こっち来んな」
「実は私も騎乗スキルを持ち合わせておりまして…」
「む。ここで名をあげねば騎士の恥。私の騎乗スキルを蔑ろにしてもらっては困ります」
「ゲェ、ランスロットてめぇ! っんでそういけしゃあしゃあと……こっち来んな!」
「どうされましたかお揃いで。騎乗スキルがなにか?」
「ゲェ、優等生サマのお出ましだ。こいつ、見かけによらず騎乗スキルだけはオレたちより上だぜ。だけは、な」
「あれ? そういえばトリスタンは……」
「私は……私は悲しい……ポロロン(訳:騎乗スキルがない)」



 円卓との夜は長い。