Chapter 2

02



「ふむふむ……ほうほう……ははーん、なるほどね…………うん、さっぱりわからん!」
「いやわかれや」

 グッ!と親指を立てて言い切ったボクを碧ちんがすぱん!とシバく。痛い!
 でもでも、やっぱりわからないものはわからない。さっきから何回も説明を聞いてるけど全くと言っていいくらい理解が追いつかないのだ。いや、いくら学年順位万年ワースト10のボクと言えどこれは誰だってわからないと思う。だって……

「事故って目が覚めたらふかふかのベッドで寝てて、更に見知らぬおっさんが『今日からうちの子だ!』って言ってきた、なんて意味わかんないよ!!」
「いや結構理解してるじゃねえか!!!!」

 ばしん!と再び頭をシバかれた。だから痛いよ!このくだり絶対2回もいらないよ!!
 若干泣きそうになっていると雛希ぽんがよしよしと撫でてくれる。おお、神よ……なんて優しいのだろうボクの幼なじみは!そのまま雛希ぽんにしがみついていると、黙っていた美緒ちゃんがため息を吐きつつ口を開く。

「さすがに今回ばかりはりりかに賛成するわ。状況が把握出来ても何でこんな状況なのか、理解は出来ないもの」
「おお〜それだよそれ!ボクが言いたかったのはそれだよ美緒ちゃん!!やるねぇ!フーフー!」
「お黙り」
「何で!!?!?」
「お前がしゃべるとややこしくなるからだろ」
「がーん!」

 味方が出来たかと思えば秒で裏切られ、口を塞げと言われる。酷い世の中だ。再び雛希ぽんに泣きつくとボクの頭を撫でながら今度は雛希ぽんが話し出す。

「たしかに美緒ちゃんの言う通りかも。というか、私達なんで生きてるんだろ?確実にお陀仏になったと思ったんだけど……」
「その辺りはたぶん誰もわかってないんじゃねえかな……あの榊とかいうおっさんも何も言ってなかったし」
「一応助けてもらったんだし、おっさん呼びは止めよ?」
「それにしても、その榊さんとやらの話も荒唐無稽よね……」

 たしかに、と全員頷く。
 さっき碧ちんから聞かされた話はそれはそれは摩訶不思議なものだった。あの事故の後、ボク達の中で一番早く目が覚めた碧ちんは噂の榊さんと話をしたらしい。その榊さん曰く、ボク達は明日から榊さんのお家で生活することになっていると言うのだ。何でもボク達の両親が榊さんの経営する会社の大きなプロジェクトに関わっていて、それが大成功を収めたので榊さんから慰安旅行をプレゼントされたらしい。その旅行の間、子供達は自分が預かるということで。
 ボク達を受け入れる準備を済ませ、いよいよ明日となった今日、ボク達が家の前(正しくは南門前らしい)でぶっ倒れており、保護したは良いものの、目を覚ました碧ちんが訳のわからないことを喚くので更に困惑したと言う。とりあえずお互い落ち着いて、尚且つ全員目が覚めてからまた話そうということで今は席を外してもらっている。めっちゃ良い人だ。でも言ってることは訳わからん。ツッコミ所多すぎる。

「一応親にも電話してみたけど、榊さんと全く同じこと言ってたし、何なら今日からお世話になれって言われた……何て親だよ全く」
「ええええええええ……こんな凄い家住んでる人と一緒に仕事なんて絶対してなかったじゃーん……」
「そんなあなたに朗報です。『あ、これ夢だ』と思ってもう1回寝たけど、こりゃびっくり!夢じゃありませんでした!!」
「全然朗報じゃないんですけど!?!?」
「あんた二度寝したかっただけでしょ」
「でも、碧ちゃんの親御さんがそう言うなら、ここでお世話になるしかないよね……?」
「そうね……何でかわからないけど、私達普通に生きてるし」
『はあ……』

 再び部屋を沈黙が支配する。皆この意味不明な状況にお手上げだという感じだろう。碧ちんに至っては壊れ始めてるし。うーん、どうしたもんか……ああああこれもうダメ!脳みそパンクする!!
 元々考えることが苦手なボクは思考停止してぼふん!とベッドに倒れ込んだ。まじでふかふかだこれ。たしかに二度寝したい。
 すると、倒れ込んだ拍子にふと1つの可能性が思い浮かんだ。皆も落ちこんでるし、場を盛り上げようと思ってついついそれを口に出してしまった。

「ねぇねぇ、これってさあ、アニメとかでよくある異世界転生的な状況に似てるよね!」
「「「……」」」
「はあ〜〜っ今どき異世界転生ものならもっとわかりやすい内容にして欲しいよね!ゲームの世界に転生とかならまだわかるよボクは!うんうん」
「「「…………」」」
「ほんとにも〜困ったもんだよね……って、皆どしたの?そんな黙って、」
「「「それだああああああああ!!!!」」」
「うわっ!えっ何!?!?」

 急にボクを指さしながら皆が絶叫する。何何何!?いきなりどうしたの!?!?
 焦るボクに全く構わず3人は向き合って会議を始める。ちょ、待ってボクも混ぜて。

「なるほどね、それなら事故って生きてることも説明つくわ……」
「おーい」
「まさかりりかのアニオタ的観点からこんな結論に至るとは……」
「ねーねー」
「でも今はこれしか思いつかないよね……」
「おーい、皆ー?」
「親がよくわからない設定になってるのが謎だけど、このままここでお世話になっても大丈夫なんじゃない?」
「ねぇってばー!」
「まあ、他に方法無いもんね……」
「ねぇ無視しないで????」

 もしかして皆本気にしてる??まじで????しかも普通に受け入れようとしてない??この発言にアニオタより食い付き良いの普通にヤバいよ!
 若干引きつつあるボクには目もくれず、皆はそのまま話を続ける。すると、やたら大きなドアが開いて1人のおじさんが入ってきた。あ、この人が榊さんか。慌てて全員立ち上がり、榊さんの前に並ぶ。軍隊か。ボク達を順番に見てこくりと頷くと、榊さんは話し始めた。

「全員起きたか。具合はどうだ?」
「あ、はい。おかげさまで全員何ともないです。保護していただきありがとうございます」
「そうか。それなら良い。……それで、話はまとまったか?」
「えっと……はい、どうも事故って記憶が混乱してるみたいなんですけど、もう大丈夫です。お騒がせしました」
「そうか。こちらでも君達を轢いたというトラックを調べてみたが、特にめぼしい情報は得られなかった。また何かわかり次第君達に伝えよう」
「そうですか……ありがとうございます」

 何となくだけど、そのトラックの情報はここじゃ得られないんじゃないかなと思った。ほんとに何となくだけど。
 てか真面目に大人としゃべってる碧ちんキモい。学校の先生相手でもそんなにかしこまって無かったのに!そう思ったのがバレたのか碧ちんに思いっきり足を踏まれた。

「では明日……もう今日だな。これから君達と一緒に生活する榊太郎だ。困ったことがあったらすぐに言いなさい」
「あっ、はい、よろしくお願いします。遅くなりましたが、堂本碧です」
「錦戸美緒です」
「す、鈴代雛希です」
「江夏りりかでっす!」
『これからよろしくお願いします!』
「……ああ、よろしく」

 そうして、ボク達の色々微妙な異世界生活(?)は幕を開けたのです。

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