反抗的な女王蜂
「北欧エリアのデュエルチャンピオン……お前、ではなかった失礼、君が?」
正直なところ、期待はずれというか、拍子抜けというか、そういう類のものが極東エリアのデュエルチャンピオンたるWの感想だった。別に人を見た目で判断するつもりはなかったが、それでも目の前の少女が「そう」には見えない。
デュエリストに年齢は関係ない。そんなことは理解している。
世界を救ったあの少年は自分よりも遥かに年下で、自分がライバルだと認める男も年下の少年だ。世界には若くしてデュエル関連会社の社長になった男もいるというし、この世界においては年齢なんて言うものは飾りでしかない。
すべて実力のみで判別される世界だということは、W自身がよく知っている。そもそも、己だってデュエルチャンピオンを名乗るには若すぎるくらいなのだから。
だが目の前の少女は己よりも幼い。見たところあの、世界を救った少年と同じくらいか。彼は彼で少々特殊な事情があったから、そういうことがあっても飲み込むことは出来たが、彼女に関しては違う。
凛とした佇まいは大人のそれと見間違う。しかし顔立ちは完全に子供のもので、自分が事前に仕入れていた情報とは真逆のように思えた。
曰く女王。
何者も寄せ付けず、実力のみでその座までのし上がった無欠なる女王蜂。そんなものが事前に仕入れていた、彼女──北欧エリアのデュエルチャンピオン、名前の評価だった。
しかしどうも噛み合わない。デュエル中の態度を見れば少しは変わるのだろうか。
「ええと、こんにちはFr*ken。お名前は名前さんで間違いないでしょうか」
「……そうです、Herr。あなたはWさんですね?」
スウェーデン語をドイツ語で返されるとは。教養はあるようだな、とひとりで勝手に納得した。しかしこちらを見上げる姿はやはり少女のもので、どう見ても女王蜂という様相ではない。
じ、っとこちらを見上げる彼女の視線がなんだか痛い。あの、なにか、と苦笑いを零しながら名前を見下ろすと、彼女は一度目を伏せて、それから視線を強くしてWを見た。
「……あの」
「はい?」
「初対面の女の子にお前、はないと思います」
「え」
いきなり何を、と言いかけてハッとする。初めに彼女を見た時に思わず滑らせた二人称は確かに『お前』だった。その事を言っているのだろう。
失礼、と訂正したのだからそんなことを言わなくてもいいだろうに、と思わなくもないが、失言をしたのはこちらだ。甘んじて受け入れよう、と頭を少し垂らした、その時。
「それから、人を見た目で判断するのは良くないと思います。……見たところあなたも、デュエルチャンピオンを名乗るには私ほどではないといえじゅうぶんお若いですし。……昔は、今の私以上に態度を変えていらしたのでしょう? ねぇ、例のデュエルの勝利だってジャッジキルで、私まだ疑ってるんですよ。いえ、あなたがお強いのは知っておりますが……あのデュエルはカミシロと互角だったのでは? と思うのですがいかかでしょう。あ、不躾な物言いで申し訳ありません、でもどうやら随分舐められているようでしたので。それでこの先デュエルで手加減されたりしたらたまったものじゃありませんから、挑発として受け取ってくださいませ? ね、Mr.……トーマス・アークライト?」
「…………この、」
機関銃のように放たれる言葉の羅列。口の端が釣り上がったのが嫌でもわかる。
どうにか深呼吸をして、耐えたかった。ぷつり、とWの中の何かがキレる音がする。
反抗的な女王蜂
(このクソガキ全然可愛くねえ)(女王蜂、ですから)
2018.12.12 執筆
Title...反転コンタクト
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僕らが生きた世界。