07

「じゃあ虎兄、先攻、 どーぞ?」
「はは、そりゃどーも。せやけどなぁ、年下のオンナノコに譲られるつもりはあらへんよ」
「そ。じゃあ遠慮せずいただくね?」


 びりびりとした空気が二人の間を貫く。
 二人は何処か楽しげに、しかし重たい様子で笑んでいた。

 美咲は、仲間のために。
 虎吉は、仕事に基づいて。

 相反する志を宿し、違えた2つの刃。その2つがいつか交わる日は来るのだろうか。否、交わらなければならないのだ。
 未来へ思いを馳せながら耀太は二人の姿をじっと見つめる。来たる、壮絶な運命を持った未来。
 やがて小さな息を吐き出して、そのまま空間へと消えていった。


「私のターン」


 生ぬるい空気を吸い込んだ。
 決して綺麗とは言えない酸素は、美咲の肺を侵食して、体内を巡る。


「――ドロー!」


 瞬間、吐き出した。体内という器を失った空気がサテライトへ霧散していく。
 無意識のうちに行っている生きるための儀式が、美咲には少しだけ煩わしく感じられた。シティでの空気を知っているから、なおさら。


「手札から魔法カード《天界騎士の乱舞》発動!」


 緑の縁のカードがデュエルディスクにセットされる。ソリッドヴィジョンに映し出されたそれからは、いくつもの魔法陣が現れては消える。
 虎吉は黙ってそれを見ていたが、美咲が手を動かしたことで少しだけ反応を示したように顔を上げた。


「天界騎士の乱舞の効果により、私はデッキの上から三枚のカードを除外する」
「ええっと、なんやったっけ。久々に見たから、効果忘れてもーたわ。
 ……んー。たしかその中に存在した《天界騎士》を無条件で特殊召喚、やっけ?」
「守備表示って制限はあるけどね」


 ふっと一瞬だけ笑って、美咲はカードをディスクの中へといれていく。
 余談だが、普通のデュエルディスクには除外エリアがないことが殆どである。
 が、美咲のディスクはKCが特別にチューンアップしたものであるがために、除外エリアが設けられているのだ。
 特別除外効果の多い天界シリーズのために作られたようなものである。


「じゃあ、除外された《天界騎士 クラウォン》を守備表示で召喚」


☆7
DEF 2500


 その姿を確認するや否や、虎吉は「んぉ」と意味のない言葉を漏らした。
 1ターン目から上級モンスター――しかも守備力2000越えのモンスターが出てくることを、予期しなかったのか。
 続いて、美咲はカードを二枚手にとり、伏せた。


「ターンエンド」
「んあ? 通常召喚せんのか、珍しい。ほな行くで、俺のターン!」


 美咲が通常召喚しないことは、実は虎吉が言うほど珍しい話ではなかった。
 彼女のデッキには、魔法罠がモンスターとほぼ同じ比率で入っているうえに、高レベルモンスターの投入枚数は多分、デッキのカードを同じ比率で入れている人よりは多い。

 故に、通常召喚を行わないことは多々あった。
 ただ、特殊召喚メインの美咲のデッキではそれを事故≠ニとらえることは殆どないが。


「ドロー!」


 虎吉に引かれたカードが、空中を切る。
 風圧なんてものは殆ど無い。しかし、その勢いは間違いなく美咲の頬を掠めた。
 冷めた目で見ていた美咲だったが、虎吉の変わった表情を――楽しげに笑う彼を見て、一変し、目に焦りの色を浮かべた。


「手札から儀式魔法《CC(カラフルセレモニー)漆黒王の裁断》発動!」
「1ターン目からぁ!?」


 大してやっとることかわらんでー、そう言いながらケタケタ笑い、儀式魔法を発動させた。

 儀式魔法。
 デュエルモンスターが始まった当初からある召喚方法で、勿論最近出来たシンクロ召喚よりも歴史は古い。

 儀式を執り行うには、儀式を有する魔法と、儀式に使う生け贄が必要である。
 降臨させたいモンスターと同じレベル――あるいはそれ以上になるように、生け贄となるモンスターを手札、またはフィールドからリリースし、召喚させる。

 無論、モンスターと呼応した魔法、それに生け贄が揃わねばならないので、儀式召喚は簡単ではない。
 が、虎吉のデッキは彼曰く《CC(カラフルセレモニー)》と言われる、ある種のシリーズデッキであり、それを容易にしている。


「手札に存在するレベル8《CC-純白妃 ハクトウラ》をリリース!」


 一瞬だけ現れた、アルビノの美女。
 彼女は右手に抱えたロッドから、光を放ち――


「《CC-漆黒王 ライクロア》儀式召喚!!」


☆8
ATK 2900

僕らが生きた世界。