08

「……もー。やっぱり私よりエグいじゃない」


 ぎっと睨み付けた先にあるのは、真っ黒な鎧兜と真っ黒な髪。
 《漆黒王 ライクロア》の姿。
 鎧兜から垣間見える瞳すら黒く、まるで全ての絶望を飲み込んだかのような容貌をしている。
 それにすら怯えないのは、彼女の生い立ちが重すぎたせいか、否か。


「エグいのは、お互い様やろ?
 いくでライクロア、クラウォンぶっ潰しぃ!」
「……んうっ」


 守備表示ゆえにダメージこそないものの、破壊されたクラウォンの叫びと、ソリッドヴィジョンが巻き起こす風に少し小さな声をあげてしまう。
 いくらデュエル慣れしてるとはいえ、反動には慣れない。
 それがこの男の――虎吉の操るモンスターの、攻撃なら、尚更。


「……クラウォン効果発動! 破壊された時除外されたカードを墓地に戻す!
 私が戻すのは《天界魔女 セレン》!
 そしてこのタイミングでセレンの効果が発動、除外されたセレンが墓地に戻ったとき、墓地に存在する《天界騎士》を除外してこの子を特殊召喚っ!!」
「……ごめん、なんて?」


☆6
ATK 2000


 もうわけわからん!
 そう喚く虎吉を他所に美咲は勝手にデュエルを進めていく。
 状況を整理すると

美咲
手札 三枚
フィールド 伏せ二枚とセレン
墓地 一枚(乱舞)
除外 三枚(内一枚クラウォン)

虎吉
手札 三枚
フィールド ライクロア
墓地 二枚(儀式と生け贄)
除外 なし

 という状態である。あっているかどうかは、少し怪しいが。
 ついでにいうと、まだ二ターン目だ。


「……いやー、あそこまで行くと清々しいよなほんと」


 二人のデュエルを観戦していた青嵐がぼそりと呟いた声は、空気に濁って消えていく。
 と、同時に青嵐自身も風と同化するように消えていった。
 まるで、自分の出番はもうすぐだと、言わんばかりに――。


「じゃーまぁ、エンドしとくわ」
「伏せないの?」
「ん? まーな、美咲に小細工は必要あらへんやろ?」
「らしくないなぁ。慢心は失態を生むっていうのに、ね?」
「……」


 ぴっ、と、ディスクから軽快な起動音がなる。
 張り付けた笑顔でそれを見る虎吉も、冷たく微笑む美咲も、ソリッドヴィジョンに現れるそれを、じぃっと見つめる。


「リバースカードオープントラップ発動、《天界へ導かれし者》」
「なんやそれ?」
「自分フィールドに《天界天使》もしくは《天界魔女》が存在し、尚且つ相手に伏せカードが存在しないエンドフェイズに発動可能」
「あぁ」


 だから伏せないのか、と聞いたのか。
 美咲のペースに飲まれぬようにと、美咲の疑問をスルーしたのが仇になった。
 そう悟った虎吉は小さな舌打ちを漏らして美咲の言葉を待つ。

 対して美咲はまだ冷笑を浮かべていて、本当に十七歳なのかと疑いたくなるほどに艶やかな表情であった。
 いったいこの笑顔はこれまで何人の人間を見いらせ絶望を呼び、これから何人の人間を虜にし破滅させるのだろう、と考えると少し怖い。
 それと同時に希望を呼び、救うことになっているぶん、イーブンだとは思うが。

 彼女は無自覚である。
 勝手に美咲を偶像化し、それと違い絶望するのも他人である。
 それを押し付けられて、苦悩してきたのは美咲で。
 今シティでセキュリティをしている虎吉だからこそ分かったことだが――


(人のプレッシャーほど残酷で、鋭利なものもあらへんな)


 美咲の幼少期を、虎吉は知らない。
 だが、何処か壊れて≠「る美咲を作りだしたのは、間違いなく人のプレッシャーだということを、虎吉はシティで働くようになってから、理解したのだった。


「フィールドに存在する《天界天使》《天界魔女》を一体指定、レベルの合計がそのモンスターのレベルと同じになるように《天界龍》をデッキから特殊召喚する。
 尚、この効果で召喚した天空龍はフィールドを離れたときゲームから除外される。
 私が選択するのは無論セレン、デッキから《天界龍 フォイエ》と《天界龍 メギド》を特殊召喚」


天空龍 フォイエ
☆2
DEF 200

天空龍 メギド
☆4
DEF 1500


「なんやなんやもー、爬虫類がぞろぞろとーっ」
「爬虫類じゃない、ドラゴン」


 美咲の抗議に同調するようにフォイエとメギドもぎゃう、と小さくないた。
 フォイエとメギドも精霊であるからこそ虎吉の言い分に反論し、喚いたのだ。
 くすくすと笑う虎吉をじろと見つめてみるも彼は意に介せずといった様子。
 小さくため息をつきながら、デュエルを続行する。

僕らが生きた世界。