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「サテライトの治安はおじょーさんが思ってるほどええもんやないで。
 おじょーさんみたいな身形のええ子は、一人で出歩かん方がいいと思うんやけども」
「そんなこと言われたってえ……」


 仕方ないじゃないですかぁ……と、少々間延びした声で少女は続ける。
 しかしペースに呑まれぬように虎吉は一度だけ下唇を噛んで、少女に言った。


「おじょーさんはなんでこんなところにおったんや? 否、まず名乗うて貰おうか。なんかの事件の犯人やったら困るさかいにな」
「あうう……。 る、ルミネ……。ルミネ・アンデルセン……ですう」


 ルミネ、ルミネ、と、虎吉はその名詞をいくらか反芻する。
 それを呑み込んで、虎吉は少女ルミネの姿をもう一度見つめた。

 シティにあるデュエルアカデミアの制服ではないものの、所謂セーラー服をきており、何処かの生徒だということはなんとなくだが推測できる。
 面倒ごとを拾うのは得意分野なのかもな、と自嘲気味に笑ってから虎吉は姿勢を正した。


「俺は須永 虎吉や、……ゆーても、知ってるかもしれんけど。……誰に俺のこと聞いたん?」
「う、う、言えませえん……で、でも……虎吉さんと、美咲さんに用事があってえ……」
「あははー、意地でもここは通さんかな。生憎やけど、俺、美咲の害になるようなやつは排除するつもりやねん」
「が、害になんて……」
「お嬢さんがどういう存在かわからん限り俺はお嬢さんのことを信じひん。お嬢さんが味方なら取り越し苦労で済むんやけど、万が一の可能性は何処にでも蔓延ってるんやで」


 にーっこりと笑って、しかし穏やかな雰囲気は纏わせずにルミネを笑顔で威嚇する。
 ひっ、とルミネは小さな悲鳴をあげてしまった。正直、セキュリティがすることではないと思われるが、虎吉なので仕方がない。


「誰の差し金や? レクス・ゴドウィン長官か?」
「ひぃ……」
「……なにが目的なん? 返答次第では俺も仕事≠キるハメになんで」
「ええっとぉ……」


 びくびくおどおど。
 そんな効果音が似合うような態度を取り続けるルミネにも、虎吉は敵意を隠さない。
 彼女が"敵"ならば虎吉も手加減するわけにはいかないのだ。

 あの子を──美咲を守るために。


「美咲さんを守るためって言ったらどうしますう……?」
「とりあえずデュエルして、あんさんの本心探らしてもらうで?」
「ですよねえ……」


 うぅん、と小さく唸ってルミネは暫く考え込む。
 虎吉はそれをじろりと見つめて──いたが、多分見れば見るほどルミネは縮こまってしまうだろう、そう思って一度天を仰いでみた。
 シティと違って広く、だが汚い空だ。

 やがてふぅ、と小さな声が聞こえた。
 目線をルミネへと向けてみれば、彼女はデュエルディスクを構えている。
 それを見て虎吉は何処か愉快そうに、それこそ新たな玩具を得た子供のような笑顔を浮かべてルミネの目を見据えて。


「……ふぅん? 一応聞いといたるわ。なんのつもりや、ルミネちゃん?」
「で……デュエリストは、デュエルで全てを分かち合い、勝ち取るって、そういうもの……ですよ、ね?」
「ははっ、まあ、せやな。特にここサテライトでは……」


 デュエルディスクを展開させる。
 口角を思い切り釣り上げて、虎吉はそれ≠宣言した。


「それが常やわな。──デュエル!!」

僕らが生きた世界。