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「……あと、ね。人型、とか、」
「? ……ああ、言っていたな、さっき」
「……うん。あの、……わかってるかどうか知らないけど」


 そう言いながら、美咲は自身のデッキの上から二枚を取り出す。そのカードには白い縁、対になるようにえがかれたようなドラゴンたち。
 片一方は蒼い龍、もう一方は紅い龍。テキストに並ぶ文字は、「アキュートストーム・ドラゴン」と「ファンタジアソル・ドラゴン」の名前。
 美咲が持つ切り札三枚のうちの二枚。……もっとも、一枚は今美咲の手元にはないが。


「……耀太は、ファンタジアソル・ドラゴン。青嵐は……アキュートストーム・ドラゴン。
 二人とも、精霊としては私が所有する前から存在してた……けど、人型を取るようになったのは私に所有されてから……らしいの」
「ま、正しくは美咲と同じ能力者がいた五千年前から美咲に所有されるまでの間、人型をとれなかったって話だけどなー」


 青嵐がけらけら笑いながら──苦笑いである──、空中を見つめる。それはまるで遥か昔を思い出すような目だった。
 耀太はそれを渋い顔で一瞥、目を伏せてもう一度美咲に目線を移す。その顔の意味を、誰かが知ることは永劫ないだろう。


「能力者……か」
「まぁ、な。美咲と同じタイプの能力者は極めて珍しいわけだが。
 人型をとらせ、実体化させるだけの能力者なら美咲の知り合いに二人ほど。
 精霊が見えるだけの能力者は……あー、虎吉とか? んで、実体化させるだけの能力なら……一般には"サイコデュエリスト"って呼ばれてる奴等は結社組んでたり。
 因みにこいつの母親も母親で能力者だったけどな」
「あ、バカ耀太ッ!」
「えっ?」


 青嵐の大声に耀太は一瞬怯み、ハッとしたように口をおさえる。しかし時すでにおそしで、いってしまった言葉は戻らない。
 あちゃー、と頭を抱えた青嵐、苦笑いを浮かべるしかない耀太、ぽかんと口を開ける遊星、呆気に取られる美咲。
 互い違いの表情を浮かべて、顔を見あった。


「……耀、太。母さんのこと、知って……」
「っ……あー、口止めされてたんだけどなぁ、……あいつに。まぁ、知ってる。因みに青嵐もグルだ」
「ぅおいっ俺まで巻き込むなよ!」
「いや事実だし」


 美咲を放っておいて言い合いを始めてしまった二人。こんなことは日常茶飯事なのだが、美咲はそれを止めようとすることが出来なかった。

 顔を見たことがない母。声を聞いたことがない母。なにも記憶に残っていない――母。

 そんな母を、耀太らは知っている? 今までそんなこと一度も思案したことはなかった。だが、普通に考えれば可笑しくはない話だ。
 耀太と青嵐、そして"あのカード"に宿る精霊は美咲が所有する前から存在してたのだから、美咲の両親を知っていても不思議ではない。
 何故今までそんな事実に気づかなかったのだろう。

 美咲は一度だけ自嘲的に笑って、耀太と青嵐を射竦める。
 その目線に捕らえられた二人は真顔に戻って、美咲から投げ掛けられるであろう質問に答えを用意した。
 そしてその用意は無駄になることはついになかった。


「耀太、青嵐。母さんのこと、教えて。今は能力のことだけで、いいから」


 いつになく真剣な瞳の美咲。それを横から見つめていた遊星は少しだけ複雑な気持ちだった。
 遊星にとっても、親とは元々存在しないものではある。しかし、美咲はシティで圧迫された暮らしをしていたらしく、今でもたまに歳不相応な甘えたがりな一面を見せたりすることがある。それはきっと、親から愛をもらえなかった故の。

 自分には友達がいた、保母がいた。しかし、美咲は? 美咲の幼少時代は、いったいどんなものだったのだろう。
 ここにきて浮き彫りになる、美咲の知らない一面。耀太や青嵐のことも薄々気づいていたとはいえ、何も彼女から語られることはなかったという事実。
 それを目の当たりにして。


(……俺は、美咲の何を……)


 ぢくり、と、痛みが、熱が。遊星の心を焼いた。


「………前の母親は、予言者だった」
「──えっ?」









「……なん、っです……か、その、モンスター……っ!」
「ははっ、惚けんなやルミネちゃん?
 あんさんも持っとるんやろ、神に遣えしモンスター──シグナーフォース、は、な?
 いくで、シャル。ダイレクトアタック」
「──!!」

僕らが生きた世界。