見えない綻び
*女の子同士の恋愛描写があります。大丈夫な方のみお楽しみください。
あ、と璃緒ちゃんが私の指を見て小さく呟く。つられて自分の指を見ると、そこにはさっきの調理実習の時間につけてしまったらしい切り傷があった。
痛みは特に感じないが、赤く血を見せているそれは耐性のない人から見れば痛々しいものだろう。璃緒ちゃんは耐性がないわけじゃないだろうけれど、少しだけ心配そうに私の顔を見た。
「痛くないのですか、名前さん?」
「うん、あまり」
「そう。でも、ケアはしておかなくてはなりませんね」
手を貸して、と璃緒ちゃんは私の手を取る。あまりにも流麗な動きに男ならば──否、同性たる私やほかの女の子でも見惚れてしまう。
そのまま彼女は一切の躊躇いなく私の指を口に含んだ。ぴちゃりと水音を立てながら、丹念に傷を舐めていく。
「……ん、」
14歳の彼女は──私のことはおいといて、だ──無意識かもしれないが、彼女の今の顔は酷く官能的だ。14歳の璃緒ちゃんがこんな顔をできるのか、と思うくらいに。
ぬるり、唾液が私の指を覆う。それを見下ろす今の私は、どんな顔をしているのだろう。知りたくもないけれど少し不安になって目を閉じる。
程なくして、私の指は彼女の口内から解放される。ゆっくり目を開ければそこに立つ璃緒ちゃんは酷く煽情的な顔をしていた。まったく、そんな顔を学校で容易にしていれば、いつか凌牙くんに怒られることになるだろうに。なんて考えながら、彼女の目線を見つめてみる。
先程までの蠱惑的な表情をしていた璃緒ちゃんはもういない。目の前にいるのは、いつもどおり凛々しくて可愛い璃緒ちゃんだった。
「貴女はいつも自分の事を蔑ろにするから、心配なんですのよ?」
「ん、ごめんね」
心配なんて思ってないくせに。心の奥底で毒づいてみる。そんな私の心のつぶやきは、届く筈がないのだけれど。
ねえ、と璃緒ちゃんが私に声をかける。言葉を返すことはなく、ただ視線でそれに応えた。どうしたの、と彼女の瞳を見つめたとき、彼女のルビーの奥底に、何か仄暗い焔がともったように見えた。
「好きよ、名前。凌牙よりも、……世界の誰よりも」
ほんの少し変わった声のトーンと口調。いつもの璃緒ちゃんからは想像できないほど甘美な声で囁かれたそれは、まるで悪魔の囁きのようだった。
本当は友達のままでいたかったのだけれど、ごめんなさいね。そんな薄っぺらな謝罪を口にしながら、彼女は私に口づけた。
見えない綻び
(神代 璃緒を辞めれば、)(メラグの私なら、愛してくれる?)
Title...反転コンタクト
2015.06.24 執筆