彼に愛される理由
「遊馬くん、小鳥さん、名前さんっ!
良かれと思って、一緒にかえりましょう!!」
オレンジ色をした彼は明るい笑顔で私たちに声をかけた。
にこにこという擬音がぴったりな笑顔を貼り付ける真月くんに、遊馬は何の疑問も持たない。もちろん、小鳥も。
なんでこんなことを考えているのか私自身不思議だけど、多分、ひとつは、彼が私に明確な好意を向けてくれているからだ。それがどういう思いなのかは知らないけれども。
「おう、いいぜ真月! なあ小鳥、名前?」
「あー……ごめん、あたしパスするねー、先生に呼ばれてるから」
「えっ、名前がお呼びだし? 珍しいこともあるものね」
曖昧な笑顔を浮かべて小鳥を見る。嘘なんだ、お呼びだしだなんて。
別に遊馬と小鳥、それに真月くんのことが嫌いとか、そんなのじゃない。むしろ好きだ。だったら何故こんな嘘をつくのかなんて簡単で、所謂集団が嫌いだからだ。集団、というか、この世界そのものが嫌いなのかもしれないけれど。
それなのに。
「わぁ、それは大変です! 僕、よかれと思って名前さんのこと待ってますね!
遊馬くん、僕から誘ったのに一緒に帰れなくてごめんなさい。でも、だあいすきな名前さんを一人にするわけにはいきませんから!」
ほら、ね。いやまあ、真月くんがこう言うだろうっていうのは分かってた。だから別にそれをやめて、なんてのは言わない。
遊馬と小鳥もそれは何と無く分かっていたらしく、快く彼の言葉を了承していた。
バイバイ、と軽く手を振って、彼らが教室から出て行くのを見送る。いつのまにか、教室は私と真月くんの二人だけになっていた。
「ふふ、嘘がへたっぴですね、名前さんって。そんなところも愛らしくて好きですけれどね」
「君みたいには、振る舞えないよ」
「さて、何のことでしょう?」
彼は二人きりになると途端に行動が態とらしくなる。いや、態とらしくなる、じゃなくて、態となのだ。
本性、なんてものは知らないが、多分本当の彼はこんな純粋な子ではない。出会って数日後にはそれを何と無く悟っていた。
「ねえ、真月くん」
「はい、なんでしょう」
にこにこ。態とらしい笑顔をこれでもかと言うくらいに貼り付けた真月くんと言葉を交わす。
集団じゃなければなんでもいいや、めんどくさいことにならないんならね。
「君の好きって言葉は本心? それとも」
「ふふ、どっちだと思いますか?」
「わからないから、聞いているんだけれど?」
「あはは、そうですよね。よかれと思って教えてあげますけれど、その言葉は本心ですよ」
けらけら。普段の彼からは想像出来ないような笑い声をあげて、私の顔を覗き込む真月くん。
その悍ましいほどに澄んだ紫色の瞳は、その奥に何かドス黒い感情を秘めているようにも見えた。
「何で?」
「だって、名前さんって僕ととても似ているから」
「似ている?」
「いつも上っ面に笑顔貼り付けて、その下に醜い感情を携えているのでしょう?」
そう、そうなのだ。本当の私はみんなが見ているいい子ちゃんなんかじゃない。それを見抜いたのはやはり、この真月くんは、聡いというか。
いや、聡いだけじゃあないのかもしれない。同類だからこそ、分かったのか。
「僕は、名前さんのことだぁいすきです。ほんとですよ。名前さんは僕のこと、好きですか?」
「さあ、どうだろう。私は君の本性知らないから、なんとも」
「ふふっ、だいじょーぶですよ。きっと僕の本性も、名前さんは好きになってくれます。だって、あなたととても似ているんですから! ねえ、名前さん」
にひ、と笑った彼の口元が、今までに無い位歪にゆがむ。ぞくり、背筋に悪寒に似たものが走った。でも、不思議とそれは嫌なものじゃない。
ああ、ようやく、会えた気がした。真月くん、の形をした、誰かに。
「遊馬クン達を裏切って、僕と二人で世界を手に入れませんかァ、名前ちゃん?」
彼に愛される理由
(そういった彼の笑顔に、私はまた、惹かれるの)
2014.07.05 執筆
Tltle...Cock Ro:bin