崩れるのが怖いから
彼はまるでガラス細工のようだった。
アストラル。普通の人には認識できない存在。ここではない世界――アストラル世界の住人だ。
今でこそ小鳥たちにも見えるけど、アストラルが遊馬のそばに現れた当初から見えているのは、私と遊馬だけ。ついでに言うと、みんなにアストラルが見えるようになった今でも、触れられるのは私と遊馬だけ。
私はアストラルを通して見る世界が好きだった。多分、アストラルが見えていない人はもちろんの事だけど、アストラルを見ることができる人でも、私の言ってることは理解しにくいだろう。
それでいい。他の人になんて、分からなくていい。私だけが分かっていればそれで、良い。
否、本当は。
†
彼女はまるで飴細工のようだ。
名前。私の生まれた世界とは違う世界……この世界の人間で、いわゆる遊馬の幼馴染というもの。
遊馬を除けば、私のことを最初から認識していた唯一の存在でもある。何故彼女が私のことを認識できていたのかは定かではないが、最近彼女が纏う雰囲気――カオスの気配が強いことを考えれば、なんとなく、想像はついた。バリアンではないにしても、彼女はそういう、何らかの力を持っているのかもしれない。
私は彼女が私を見る目が好きだった。否、それは恐らく正しくはない。正しくいえば、彼女が私を通して世界を見る目≠ェ好きだ。
彼女は決して私をみない。というよりは、私のその先にある透かした世界を見続けている。勿論呼べば私を見てくれるが、そうでなければぼう、っと、私を透かした世界を見続けている。その目がたまらなく、愛おしい。
否、本当は。
†
「あすとらる、」
『ん?』
久しぶりに、アストラルの名前を呼んでみた。どうした、と言いた気に私を見る金と銀の双眸。この世のものじゃないと思ってしまうほど(というかこの世のものじゃないけど)澄んだその双眸は、私を捉えて離さない。
どうかしたのか? と聞かれたので
「なんでもない」
と、それだけを彼に伝える。遊馬が怪訝な顔で私とアストラルを交互に見たけれど、まぁ、放っておこう。
これ以上、話してしまえば。
†
「あすとらる、」
久方に聞く、彼女が私を呼ぶ声。何かあったのだろうかと思って
どうかしたのか?
と聞いてみれば、名前はぶんぶんと首を横に振った後にへらりと笑い、
「なんでもない」
と、それだけを私に伝えた。遊馬が怪訝な顔で私と名前を交互に見たが、多分彼は何も分かっていないので放っておく。
何もない、と言われて安心した。正直、これ以上話してしまえば。
†
触れたい、と、思ってしまう。あの頃のように、触れて、笑い合いたい、と、思ってしまう。
でも、できない。私は怖いのだ。彼/彼女に、触れるのが。
硝子のような、飴のようなあの人に触れてしまえば、壊れてしまいそうで。
だから私は今日も、
「綺麗、だね」
『ああ』
曖昧に笑って、濁して、過ごす。
崩れるのが怖いから
(あなたがいなくなってしまうんじゃないかって)(もう触れられなくなってしまったのではないかと)
((そう思うと、触れられなくて))
2014.10.15…執筆
Title…Discolo