偽りを貼り付けた顔

 視線の先にいる男は大層つまらなさそうに、しかし優しげに見える笑顔を貼り付けて私を見つめる。文句の一つでも言ってやろうかと思ったけれど、あいにく私の貧困なボキャブラリーではそれをすることはできなかった。その代わり今やっているデュエルで叩きのめせば、と考えてもみたがそれはそれでおいておく。
 彼の右頬の傷を見てみれば、彼は居心地悪そうに体をよじる。何も言わない私を見かねたらしい彼は、薄っぺらな敬語で言葉を紡いだ。


「どうしました? もう終わりですか?」
「……それ、やめてくれる?」
「それ、とは」
「その敬語。あんた、それ、本性じゃないでしょう」


 私がそんな言葉を投げかけてみれば一変。彼は被っていた『紳士な決闘者』の仮面を脱ぎ捨てて、ちっと大きく舌打ちをした。
 ほら、やっぱり。その言葉を発することはなかったけれど、思った通りだ。彼は紳士的な決闘者なんかじゃない。


「……お前、いつからそれに気づいていた」
「あなたを初めて見たとき。あの時から、あんたは仮面を被ってるって思った。薄い笑顔と敬語、万人に通用するとは思わない方がいいんじゃないの? W」
「あぁ?」


 やだ、こわぁい。
 微塵にもそんなことは思っていないけど、言ってみればさらに舌打ちされた。怖いとは思わないけれど、面倒な人を相手にしたなぁ、とは思う。まぁ、どうでもいいか。
 オッドアイの彼の目が私を睨む。その中に楽しげな光はどこにもなくて、ああ、悲しいなぁ。


「ちっ、てめぇみてぇなヘボデュエリスト、No.集めのためじゃねえと絶対に戦わねえ……」
「あら、じゃあNo.には感謝しないと。私の願い事、叶えてくれたんだもの」
「願い事、だぁ?」
「うん」


 No.にそんな力はない。そう言いたげにWの目が細められる。そうね、確かにね。このカード自体にそんな摩訶不思議な力はない。あるのは「No.以外には破壊されない」っていう効果と、それ相応の効果。
 でも、でも。


「私ね、あなたみたいなデュエリストと戦いたかったの」
「あァ……? てめぇみたいな力もねえデュエリストが強者と戦いたかった? っは、巫山戯るのもいい加減にしとけよ」
「ふざけてなんかないけれど。私、仮面を被った相手に本気で戦ってあげるほど、優しくないのよ?」
「……へぇ」


 にやり、と彼の口の端が上がる。なんだ、彼もやっぱり決闘者、ということなのね。
 仕切り直し、とでも言うように彼はデュエルディスクを構え直す。それを見た瞬間私の胸は高鳴る。嗚呼、漸く。


「その偽りを貼り付けた顔から、本当のあなたを見せて、本当のあなたと、戦わせてくださいな?」
「……上等だ。最高のファンサービスを味わわせてやる!!」



偽りを貼り付けた顔
(あなたの心に触れたその瞬間、恋に落ちると思いもせずに)



Title...Discolo
2015.06.11
僕らが生きた世界。