見透かされた真心


※学パロ







「何してるのよ名前」
「ん、アキちゃ……」


 ぼぉっと、とある方向を見つめていたら写し出されたのは親友の笑顔。
 相変わらず綺麗な顔立ちで本当に羨ましい。
 ……ついでに言うと胸もデカイ。羨ましい。少しでいいから私にわけなさいよ!

 心の中で虚しい主張をしながら、私は体を起こしてアキちゃんの苦笑いを見つめ返した。


「また見てたの? クロウのこと」
「ちょっアキちゃん! 声デカイよ!!」


 私が一番声がでかいことは内緒だ。そして間違ってないから困る。

 私が見ていたのは……同じクラスのクロウ・ホーガン君のこと。
 彼は見た目不良。多分彼以上の人はなかなか見つからないってくらい、ものすごく不良。
 顔にはタトゥーみたいな傷がいくつもあるし、目付きも鋭い。
 ……そんな不良な風貌に惚れる女の子も実は少なくない。

 ジャック君や遊星君みたいな、熱狂的なファンが何人もいるわけじゃないけどみんな影からあの人を好きって思ってる。一種の、憧れみたいなものだ。
 だけど私は、外見に惚れたんじゃない。

 私も彼に恋する一人として、この学校で悶々とした日々を送っている。だけど私が胸を張って言えるのは、他の人みたいに外見だけが好きってわけじゃないってことだ。
 私は彼の人柄が好き。

 彼は孤児院育ちと、いつだったかアキちゃんに聞いた。
 そこでも結構年上だったらしく、そこの孤児達のお兄ちゃん的存在だという。
 事実その孤児院の前を通ったらその中で子供達と遊ぶクロウ君の姿を見つけたこともある。

 この通り、今でも孤児院の皆と遊んだり、お裾分けをあげたりしているらしい。
 しかも、遊星君達と同居してて、暮らすためのお金は宅配業をして稼いでる。

 ……立派だよなぁ、クロウ君。
 私なんかまだバイトすらしたことないのに。

 ……とまぁ、私はこんなことが出来る彼が好きだった。
 私なら生きることで精一杯で、仮に私が彼と同じ状況に置かれた上でバイトをしていたとしても、多分差し入れなんてできない。
 そういうことをやってのけるクロウ君が、私にとってはとても眩しく見えたのだ。


「本当、クロウ見てる時の名前の顔は幸せそうよねぇ」
「もう、からかわないでよぉ!!」
「はいはい」


 苦笑いを浮かべながら押し付けられたのは見覚えのある黒いファイル。
 よくよく見ると……日直日誌?
 どうしてこれがアキちゃんの手元にあるのか、どうして押し付けられたのか。考えを巡らせるよりも先に開いたのは口だった。


「あれ? 今日の日直って?」
「私とクロウよ、放課後にでも二人きりになりなさい」
「むっ、無理無理無理無理!!」
「大丈夫よ、私からクロウにはもう言ってるから」


 アキちゃん手回し早すぎる!
 彼女は自分の恋のこと以外にはかなり行動が早い。いつの間にしたのか、そんなことは聞いても教えてくれないんだけど。

 意図せず紅潮していく私の頬。涙目になって、アキちゃんを睨んだ。


「アキちゃん……!!」
「頑張ってねー」


 にっこりと、女の私でも見惚れてしまうような綺麗な笑顔を浮かべて、アキちゃんは去っていく。
 こういうときはアキちゃんを恨みたくなる……。

 二人きりに? ……無理。
 今度同じようなことを、アキちゃんにもしてやろう。そんなことを考えながら遊星君に視線を向ければ、遊星君には案の定不思議そうな顔をされた。







「お、名前」
「……っ、クロウ君」


 人も疎らに――を通り越して私だけがそこにいた、オレンジ色の西日が射す放課後の教室。

 私はとりあえずアキちゃんに渡された日直日誌を書くために残っていた。
 そこにやってきたのは、鮮やかなオレンジ色の髪の毛をヘアバンドをしてあげているクロウ君。

 やっぱり……顔も整ってるなぁ。目つきは、悪いけど。
 二つのオレンジに彩られたクロウ君の顔を見て改めて思う。
 これならやっぱり影にファンが出来てもおかしくないよね、なんてことを考えてた。

 考えながら、考えないようにしていた。
 私とクロウ君が、この場に二人きりということを。
 考えちゃったらその瞬間、取り乱すことは明白だったから。


「悪いな、本当。アキ、今日はミスティ先輩と帰るらしくて……って、名前なら知ってっか」
「ううんっ、大丈夫」


 勿論、事前にそういう辻褄合わせは聞いてるし、きっとミスティ先輩も――というか、本当にミスティ先輩と帰って何処か寄り道してそうだ。二人して美人だから、変なのに狙われてないといいけど。

 シャーペンの頭をノックして、芯を数mm伸ばす。緊張で手元狂いまくって字はめちゃくちゃ汚い。だけど日誌に視線を落とさないと緊張で死ねる気がした。


「字綺麗だなー」
「きゃあっ!?」


 何故か耳元で聞こえたクロウ君の声。瞬時に把握したのは、彼が後ろから私に覆い被さるような形で日誌を覗き込んでいたということ。
 ち、近い! でもこういうのは、無意識なのかな。私は、緊張するのに。

 ばくばくと、心臓がうるさい。これ、私の音だよね?
 こんなに聞こえたことのない、うるさい程のそれを抑えるように胸元で手を握った。


「……っ、あぁ、ワリぃ」
「だ、大丈夫! こっちこそごめんね!」


 何に謝ってんだ、と笑われたので取り敢えず「……叫んだこと?」と返しておいた。耳元で叫んでしまったことは本当に申し訳ないと思ってるから、うん。
 そしたら、なんだそれ、と言って再びクロウ君が笑った。

 いまいちバカにされてるのか違うのか分からなくて、困惑。
 もう一度日誌に視線を落として、取り繕うように言った。


「く、クロウ君! あ、あのね?
 ……いつも宅配で疲れてるでしょ? アキちゃんから聞いたよ。
 日誌、私が書いとくから寝てていいよ」
「え? でも、名前は元々日直じゃなかったし……」


 それは、確かにそうだけど。
 アキちゃんに仕組まれたことだし、そのアキちゃんの想いすら無下にするようなことだけど。


「……駄目。身体壊すよ? 目の下クマ出来てるし、無理しちゃダメ……」


 だから授業中も寝てるんでしょー。
 そう茶化してみれば一瞬クロウ君は口をぽかんと開け、そして吹き出した。
 でもその顔はいつもより何処か疲れていて。


「あー、隠せねーんだ?」
「冗談言ってるんじゃなくて、寝ときなさーい」
「奥さんかっての。んじゃあお言葉に甘えるな」


 ありがとなー、と言う言葉がだんだん小さくなる。
 そして私の後ろから離れ、クロウ君は自分の席――……ではなく、私の隣に座って寝てしまった。

 しばし、沈黙。
 クロウ君に言われたことを思い出して、嬉しいような、恥ずかしいような、虚しいような、微妙な気持ちになって、俯いた。


「奥さん≠チて……特別な意味じゃないよね……?」


 その言葉に答えは返ってこなかった。

 きっと、彼は誰にでもこんなこと言える人だ。過度な期待は、いらない。
 自分に言い聞かせるように、私は目を一度だけ伏せた。

 ……ゆっくり終わらせようかな。クロウ君に、少しでも安息の時間を、なんて。
 この時間を失いたくなくて、わざとペンを滑らせるスピードを緩めた。







「んし……終わった」


 日誌も書き終えた、黒板の掃除や花瓶の水変えみたいな日直の仕事も終わった。
 起こすのは忍びないけど……仕方ないよね。いつまでも寝かしてあげたいけど、それはきっと彼自身が望まないから。


「クロウ君ー……」


 肩を軽く揺さぶる。けど、相当疲れていたようで、それだけじゃ起きなかった。

 うーん、どうしよう。耳元で叫んでみる? でも……。
 そんな葛藤を一人で繰り広げながら、顔を近づけてみた。
 ……睫毛長い。鉄板設定みたいな発見をして、思わず笑顔になった。
 寝てるとまだあどけなさが残るな……当たり前か、結局は同い年なんだもんね。起きてると大人っぽくて逞しいのに。


「ん……」
「!」


 ゆっくり、彼の灰色が開かれる。焦点のあわない目で、じーっとこちらを見つめていた。
 彼の目に私の顔が映って気づく。顔近いじゃん! その事実に焦って、思い切り飛びのいた。


「ご、ごめん……っ!!」
「いや、大丈夫。つーか、まさか全部終わっちまった?」


 真っ赤になった顔で小さく何度も頷いてみたらそか、と小さく返す。ごめんな、と言うクロウ君は体を机から離して腕を組みながら伸びていた。
 赤くなった顔を隠すように鞄に教科書を詰め込む私はきっと挙動不審。


「名前」
「……な、なに?」


 心を落ち着かせて顔をあげると、端正なクロウ君の顔がそこにあった。
 一瞬遅れて感じた、唇に触れた、熱。

 ……え? あ、れ?
 何? 何が、起こってるの?

 世界が動きを止めた。まるで何十分もそうしていたように、私はその場から動けなくなる。
 唇から離れた熱。同時に私の目がもう一度クロウ君の顔を捉えた。
 いたずらに笑って、紡ぐ。


「休ませてくれてサンキュ。後、さっきの≠ヘ特別な意味だから。……じゃーなっ、返事はまた聞くぜ!」


 いたずらな笑顔から一転、すぐにあどけない笑顔を浮かべて、彼は走り去っていってしまった。
 唇に触れたのが、彼の唇だと気づくのには……ほんの少しの時間が必要だった。
 


見透かされた真心
(恋心まで見抜かれてた)



title…反転コンタクト
2013.01.21……加筆修正


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僕らが生きた世界。