神様お願いします、
「………行く、んだよね」
空に浮かぶ孤城を見て、私はぼそりと言葉を落とした。一瞬ジャックは不思議そうに顔をきょとんとさせ、私の視線をなぞって始めて気づいたようにふと、笑う。
私を心配させないように、と。そういう意味で笑っているのは、知っていた。
滑らせるようにジャックの腕へ目線を移す。その白い衣の下には、神に選ばれたものの証であるシグナーの痣があるということは、痛いほど知っていた。
一年前の、ダークシグナーとの戦いだけでも、ジャックが危機に晒されるのは嫌だったのに。どうして──どうしてシグナーなんて関係なく、ジャック達は戦わなきゃいけないの?
分かってる。それは彼が神に選ばれた存在だからということは、わかってる。
「そう心配するな。このジャック・アトラスが、イリアステルに負けると思うのか?」
「思わない、けど」
ジャックが強いのは、私が一番知ってる。サテライト時代から彼とは一緒にいた。襲われそうになった時、助けてもらったことなんて何回もある。
偽りだったキングも、この前のドラガンさんとの戦いで本当の意味でキングとして君臨していたことの証明になった。彼が強いなんて、分かり切ってる。
……だけど。
「……どうして私は、神様に愛されなかったの。神様に愛されて、ジャックのそばにいたい。
ジャックの命が危険に晒されてるのに、なんで私はそのそばにいれないの……」
理不尽だと、素直にそう思った。
アキちゃんも龍可も戦う力があるのに、どうして私にはそれがないの?
拳をきつく握った瞬間、ジャックの大きな手が、私の頭を包み込んだ。
小さい頃とは違う、随分大きな手だ。
「神が名前に力を与えたとしても、俺は貴様を連れて行きはせんぞ」
「……え?」
「危険だと分かってて何故連れて行かねばならん? ……名前、お前は今まで通り笑っていろ。
勘違いするな。俺が帰るべき場所は破滅の未来でも道化の王者だった過去でもない。名前がいる今が、俺のあるべき場所だ。
だから笑って、今まで通り俺の帰りを待っていろ。……分かったな」
それだけ言って、ジャックは踵を返す。私の返答を聞く前に行ってしまった。
最後の声が少し震えていたのは、多分、気のせいじゃない。
未だにジャックの熱が残る頭に自分の手を乗せる。そのままほぼ無意識に、言葉を落としていた。
「……それでも、私は神様に愛されたいよ。だって――」
神様お願いします、私を愛してください
(そして愛してくれるなら)(私の愛しいジャックを守ってください)
Title…王さまとヤクザのワルツ
2015.07.15 サルベージ
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僕らが生きた世界。