不幸せだったらいいのに


「不幸せだったらいいのに」


 突然、俺の隣にいる女がそんなことを言い出した。恋人の隣でなんてこと言ってるんだとかなんとか、言ってやろうかと思ったけど、なんか反論されそうだし面倒なのでやめておく。
 ただそれでも興味は湧くもので、眠ったウェストに布団をかけながら名前に視線を送ってみた。


「……誰がだ?」
「きょーすけくんが」
「は」


 流石に意味がわからなかった。なんで、俺が。
 俺はお前の恋人で、むしろお前に幸せを与える立場じゃないのか。

 というか、俺は……もう。


「若い頃に抱いた野望でセキュリティに捕まった上虐待され、勘違いから遊星と敵になったうえに、恋人であるお前を殺してしまって、挙句死んで生き返ったそのあと死んだみたいになって、遊星やお前に再び迷惑かけるとか、充分すぎるくらいの不幸は体験してきたんだが……」


 ああ、思い出すと虚しい。あの頃の俺は……若かった。いや、若かったというよりは、青かった。遊星には謝っても謝りきれない迷惑かけてるな……。
 そんな俺の心中を知らず、名前はけろっとした顔でいう。


「うん、だからあと一回くらい不幸せになって」
「理不尽すぎだろ名前」


 お前そんなに俺を殺したいのか?心にそんな疑念が生まれ悶々とする。

 ……名前に何かしただろうか? 記念日は二ヶ月前にしたし、誕生日は半年後だろ?
 あ、まさか冷蔵庫にあったプリンを勝手にニコにやったのがまずかったか? いやでも、そんなこと気にするような奴じゃねえし……。

 真剣に悩んでいると名前のくすくすとした笑い声が聞こえてくる。なんで笑われてるんだ。こっちは真剣だっつーのに。


「名前、なん……」
「一回目のそれは、不本意ながら地縛神に助けてもらった」
「え」
「二回目は遊星のおかげで誤解が解けて、三回目と四回目はゴドウィン兄弟が救ってくれた」


 ……何が言いたい?
 そう思って眉間に皺を寄せると、名前が近くに寄ってくる。こつん、小さな音を奏でて、俺と名前の額同士がぶつかった。


「五回目も、遊星のおかげ。……ズルいもん。私はまだ京介を幸せにできてないのに」
「……何言ってんだ、名前?」
「嫉妬だよ。恋人の私が京介を幸せに出来ないなんて、やだ」


 くすりともう一度笑って、そのまま唇を一瞬だけ触れさせる。珍しい。名前からキスなんて、滅多にないのに。


「だから、もう一度不幸せになって。そうしたら、私が助けて、幸せにしてあげる」

「……馬鹿野郎。お前が隣にいる限り、俺はもう不幸せにはならねえよ」


そんな会話をした、ある日の昼下がり。


不幸せだったらいいのに
(じゃあ別れてから付き合ってあげようか?)(ヤメロ馬鹿)




Title…Cock Ro:bin


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僕らが生きた世界。