いつまで経っても子供な君


 アークライト家にお仕えして何年経ったかは忘れてしまった。一家の長男であるクリス様がカイトくんのデュエルの師である前からの付き合いなので、長いことは間違いない(その頃はクリス様ではなくクリスさんと呼んでいた)。
 研究所を傘も無しに飛び出したクリス様を追いかけたのは今となってはいい思い出だ。……クリス様がカイトくんを拒んだので私も拒まれるかと思ったけれど、拒まなかったことに酷く安堵した。
 後から知ったことだけども、カイトくんの父がクリス様の父上……バイロン様の仇であったので、カイトくんは仕方なかったのかもしれない。私がついていくことを良しとした理由はよくわからないけど、昔にクリス様が「君は私の妹みたいなものだからね」と返された。おかげさまで召使になれたわけだけども、恐れ多い。

 それから沢山のことがあった。
 施設にいるクリス様の弟、トーマス様とミハエル様を迎えにいって(ミハエル様はすぐに懐いてくださったがトーマス様は暫く警戒なさってた)、……カイトくんの父であるフェイカー殿の策略によって異次元を彷徨い、幼児退行してしまったバイロン様――否、トロン様の復讐に皆が身を投じ、名前を捨てた数年。それを九十九遊馬くんに助けられたWDC。クリス様とカイトくんも和解(?)して……。

 そんな目まぐるしい日々。
 一時はどうなることかと思ったけれど、トロン様に捉えられていたクリス様、トーマス様、ミハエル様の魂も解放されトロン様も助かって……トロン一家ではなく、アークライト家としての日々が戻ってきた。
 復讐にもとらわれない、ひとつのあたたかな家族。クリス様が少し研究をお休み気味になったこと以外は、何の問題もない家族。

 ――いや、何の問題もなくは、ないのかもしれない。可愛らしい意地を持った、ある意味では三男よりも子供らしく、公私共に大切な彼≠フ問題。


「……では、《焔征竜−ブラスター》でダイレクトアタックを」
「っあ゛ー! ちくしょう! なんで名前には勝てねえんだよ!! もう一回だ……!!」


 卓上デュエルでトーマス様にトドメを宣言すればトーマス様が頭を抱えなさった。
 紛いなく極東チャンピオン――凌牙くんとの戦いはともかくとして、だ――であるトーマス様のデッキと、私の征竜デッキはどうやらとても相性が悪いらしく、トーマス様とのデュエルは殆ど私が勝ってしまう。
 とは言っても私はクリス様やミハエル様には勝てないし、トーマス様が勝てる方に勝てないことの方が多いし、間違いなくトーマス様の方が強い。……のだが。やはり極東チャンピオンの意地……なのだろう。
 だから卓上デュエルとは言え、彼は私にこうやってデュエルを挑むのだ。


「トーマス様、明日もお仕事でしょう? あまり夜更かしは……」
「駄目だ、勝つまでやる! 手ェ抜くんじゃねえぞ」
「もう、無理はなさらないでくださいまし」


 向こうの方でミハエル様が紅茶を淹れているのが見える。本当は私の仕事なんだけども、立ち上がろうとしたらトーマス様に止められるのでどうにも出来ない。一家の稼ぎ頭はトーマス様だから、ある意味ではトロン様の次に権力があるわけで(トーマス様に逆らえば私の給料が下がってしまう)。トロン様の強情なところは全てトーマス様が掻っ攫っていったのかもしれない。
 私がミハエル様に目を移している内にトーマス様がデッキをシャッフルする。しかしそれはいつもよりも随分とゆっくりした動きだ。


「……トーマス様、眠いのならばおやすみになられた方が……」
「うるせー……」


 ……ああ、やっぱり眠いのね。声が段々と上擦っていく様子で確信した。
 まったく、この人はどうしてこうも強情なのでしょうか。身体的に子供なトロン様は既に寝たというのに。
 デッキをシャッフルなさる手に手を重ねて止める。こうでもしないとデュエル最中に寝てしまいそうなので、無理矢理にでも寝させようと決めた。
 第一、明日の仕事は『W様』としての仕事だ、眠さで『トーマス様』を出してしまうことも多分ある。流石にそれはトーマス様自身が嫌がるので、その前に止めておかなければ。


「寝ましょう、トーマス様」


 手を引けば嫌々ながらついてくる。子供のような行動に思わず笑ってしまう。意地っ張りなところも含めて、本当に子供の頃から変わっていないなあ、なんて。

 邸の廊下を進んでいく。
 程なくしてついたトーマス様の部屋。どうやら鍵はあいているようなので合鍵を取り出す必要はなさそうだ。ドアノブに手をかけ力を入れると、ガチャリと小さく音がなった。


「トーマス様、つきましたよ」
「……ん」


 観念したみたいだ。開け放した扉の向こうには深々とした闇が広がっている。遠隔操作で電気をつければアンティークドールがお出迎え。トーマス様の人形趣味は少し行き過ぎている気がしなくも、ない。でも私も人形は好きなので気味が悪いとかは思わない。
 とりあえずベッドへトーマス様を座らせる。大丈夫かしら、ああ寝巻きを用意しなきゃ、と用意しようとしたその瞬間、手を力強く引っ張られ、トーマス様とともにベッドへダイブしてしまった。


「きゃ!?」
「寝る」
「……トーマス様?」


 驚いた。そして冷静になる間も無くトーマス様に抱きしめられる。おおおお、これはどういうことか。あれか、抱き枕的なあれか。
 困惑する私にトーマス様がふと微笑んで、私の額に顔を寄せる。やだ、かっこいい。


「一緒に寝るぞ」
「私、まだ仕事が」
「命令だ。……それとも僕と寝るのが嫌なんでしょうかあ?」
「そうじゃなくて……クリス様のお夜食を……」
「お前は兄貴に甘すぎんだよ」


 くすくす笑いながら額に唇が落とされる。こら、と言ってもやめる様子は無い。
 子供の戯れ、ではないので困ってしまう。いくら子供っぽい行動が多くてもトーマス様は私より二つ年下なだけだ。この行動に意味を含ませてるのは当然だ。


「どーせ未来の義兄だ。甘やかさなくていいんだよ」
「っ、トーマス様、それは」
「二人きりの時くらいトーマスって呼べっつってんだろ」
「……トーマス」
「ん」


 ぎゅう、と背中に回る手に力が篭る。眠いのに、いや、眠いから? 強く抱きしめられた。首元にかかるトーマス様……じゃなくて、トーマスの髪の毛がくすぐったい。
 次第に息が深くなっていって……トーマスは幸せそうな顔をしたまま寝た。

 トーマスの子供のような体温が私の眠気を誘って行く。ああまだ仕事あるのに。明日の朝ごはんも用意できてないし、ミハエル様の服にアイロンもかけてないのに……もう、睡魔が、限界。
 バイロン様、すみません、今日は少しだけ子供に戻って、トーマスに甘えさせてもらいます。おやすみなさいませ。


いつまでもたっても子供な君
(寝る直前に「あと一年待ってろ」と聞こえた気がした)




title...確かに恋だった
2019.07.04 サルベージ

元々はお題「100の大好きな君」にあったもの


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僕らが生きた世界。