ホムンクルスが死んだ日


※人外主
※未完成


「ホムンクルスって知ってる?」


 じっと遊星の目を見てそんなことを言えば、遊星はそのディープブルーの瞳を瞬かせる。あれ、そんなにおかしいことを聞いたかな。
 二三回そうやって私を見て、遊星がDホイールに向けていた体を私に向ける。少しだけ考え込み、そして。


「広義的には人造人間、狭義的にはヨーロッパの錬金術師たちが作り出そうとした人造人間のことで、成功したのはパラケルススというルネサンス期の錬金術師のみと言われその製造方法は──」
「あー、ごめん、ごめん遊星、聞き方が悪かった、あってるけどそこまで詳しくなくていいから」


 ……なるほど、私の聞いたことがわからないんじゃなくて、私がどこまで聞いていたのか分からなかったのか。
 遊星は頭がいい。それはものすごくものすごい。私の貧弱な頭では追いつかないほど頭の回転が早い。それは周知の事実だろう。
 そんな遊星だから、曖昧な質問をしてみれば予想していた答えの十倍が返ってくる。昔はそれすらしてくれなくてどちらかというと足りない返答の方が多かったので、この方がましといえばマシだ。……ただ、そこまでは求めてないので制した。
 でも、さすが遊星というか。私が求めていないところまで彼は知っていた。いや、私だってそれくらい知ってるけれど。


「私が聞いてるのは前者までかなー」
「ああ、なら、人造人間、ということか」


 そうそう。頷いてみれば遊星は軽く頭を傾ぐ。寧ろどこまで聞かれてると思ったんだろうか。たしかに、私の言葉が足らなかったような気もするけれど。
 些か突然過ぎたし。それは今になってようやく自覚した。私にとってはなんら突然なことではなくて、自分の頭の中では順序を組み立てて話していたのだけれど。
 そんなこと、遊星が知ることではなくて。そりゃ遊星もどこまで話せばいいのか迷って当然だよなぁ、と思って苦笑いが浮かんだ。


「……聞かれている意味はわかったが、随分と急だな?」
「私の中では、だいぶ考えた方なんだけどね」
「言われないとわからない」
「それ遊星が言っちゃうの?」


 昔は本当に無口で、必要最低限のことすら喋らないことだってあったじゃない。そういう意味で視線をじとりと投げかければ、少しだけ面食らったようにたじろいで、彼はすまない、と小さく呟いた。
 いえ、別にね、謝って欲しかったわけじゃないのよ。ただ今の遊星はよく喋ってくれるようになったよねってそう思っただけで。いや、たしかにちょっと視線は冷たくなったかもしれないけど。


「それで?」
「ん?」
「急じゃない、のなら。何かを考えていたのだろう」


 ああ、と遊星の言葉に少しだけ頷く。確かにこちらからだけ質問を投げかけるのは不躾だし、それを遊星が不思議に思うのだって当然だ。
 しかし、どうしたものか。確かに私が投げかけた言葉なんだけど、もう少し文脈というか、言いたいことをまとめるべきだった。自分の中ではまとめていたつもりだったのだけれど、まだ足りなかったというか、……ここにきてたじろいだ、というのが正しい表現なのかもしれない。
 ええい、ままよ。話しかけたのは私なのだから、黙っているなんて不躾にもほどがある。ので、意を決して私は口を開いた。


「ホムンクルス、っていうか、人造人間って、どこまで人間なんだろうな、って思ってさ」
「ふん?」


 心を持って、人と同じ生活をして。そんなホムンクルスは、どこまでを人間と定義していいのだろうか。残念ながら、私にはわからない。わからないからこそ、遊星に聞いたのではあるけれど。

 急にこんなことを聞いて、おかしがられるだろうか。そっと遊星を盗み見ると、笑わないで真剣に聞いてくれていた。
 ……ああ、いいなぁ、私の突拍子もない話を笑わずに聞いてくれる。そういう誠実さに惹かれたんだ、なんて言ってもポカンとされそうだ。


「ホムンクルスは人造人間、だけどそれを誰も──例えばそのホムンクルス自体も認識出来なかったら、それは人造人間じゃなくて人間だと定義付けられないのかな、とか。色々考えてたんだけどパンクしちゃって、遊星の意見を聞いてみたいなぁ、なんて?」








※未完成

Title...ポケットに拳銃


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