変な味


「なぁ名前、お前浮気してんの?」


 突然の物言いに唖然。何言ってんだよこいつ、と言うことすら忘れたままクロウを見やる。
 私の作ったご飯をもそもそと食べながら、よくそんなことを言うわね。茶碗を取り上げようとすると躱(かわ)された。

 遊星の元から離れ、ネオドミノシティから離れて、海外で同棲するようになっておよそ二年。
 シティでの友達が徐々に結婚していて、そろそろ私たちもかなぁなんて考えてた矢先にこれか。
 テレビの向こうからジャックの高笑いが聞こえる。煩いので切ったらクロウに見上げられた。


「なに」
「聞いてんだよ」
「彼女に聞くことかしら」


 違うのか? と小首を傾げるクロウはどこかズレてる。天然でこれだから私も困る。

 とにかく、だ。
 何故そんなことを思うに至ったのかを問い詰めるべきなのか。あとそれを聞きたいのはむしろ私の方だ、と。

 私は一般人だがクロウは有名人だ。パーティに呼ばれることもあればファンに囲まれることもある。ファンサービスと称して何処かで遊んでいたりしないのか、とか何とか考えることもある。
 私はここ最近買い物以外じゃ外に出ることもない。そんな私がどうして浮気なんてできるのだろうか。男の連絡先も遊星だったりジャックだったり鬼柳、あと龍亞のしかないというのに。


「ヘンな味がする」
「ヘン? 何がよ」
「飯。ヘンっつーか、ちょい酸っぱい。柑橘?
 味付け変わったっぽいからそうかと思ったんだけど、ちげえの?」
「んなわけないでしょ」


 味付けの変化に気づくとはこいつやりおる。じゃなくて、ああ、そういうことか。
 クロウの他に好きな男ができて、そいつの口に合わせた味付けになったのか、と言いたいわけね。ふーん、案外可愛いこと聞くのね。
 確かに味付けを変えたのは事実だ。だけどそういうわけじゃないんだなぁこれが。


「第一、それならバレないようにクロウ用の味付けするじゃん」
「ああ、そっか」


 その辺までは頭が回らないらしい。回してくれないかな、デッキは回るくせに。
 じゃあ、とクロウが顔を上げる。今度は、なに。
 それと、今更だけどヘンな味って失礼ね。美味しく作ったつもりなんだけど。


「じゃあ何で味付け変えたんだよ」
「だめなの?」
「だめじゃねえけど」


 不安になるから、と続けてご飯を口に放り込む。カップラーメンばかり食べてたあの頃より上手くなった料理に翻弄されるとは思わなかった。
 味付けくらい自由にさせてくれないかしらね、あの頃とは違うのだから。
 でも、そうか。不安にさせるのは流石にいただけないかな。理由なんて簡単なものだけど。


「女の人ってね、味覚変わるのよ」
「ん?」
「まぁよく言うのは酸っぱいものが食べたくなったり、お酒が飲めなくなったり」
「あー、なんか、聞いたことあるかもしんね」
「そういうのって」


 クロウの隣の椅子に腰を下ろす。こういうの言うって緊張するわね。
 告げたらどんな顔するのか。いつも表情豊かな君の顔がどれになるのか想像するだけで楽しい。
 不思議そうに私を見るクロウの手を取って、私のお腹に手を当てる。灰色の瞳に映る私はとても楽しそうに笑っていた。


「妊娠したときによくあるみたい」
「そーなのか……って、え?」


 ああ、幸せ。



ヘンな味
(そういう、のは、もっと雰囲気読んで言えよな……)(ふふ、じゃあ結婚しましょう?)(名前お前ェ! それは俺の台詞だろ!?)



2014.02.13 執筆
Title...反転コンタクト


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僕らが生きた世界。