僕は「私」と恋をする

*イマジナリーフレンドアンチノミー
*ブルーノは自分=アンチノミーということを自覚しています





「あなたは?」


 シティの明かりが遠くに見える海岸で、対峙するのは「私」と名前。小さく疑問を口にして言う名前に、僕らは真実を告げることができなかった。
 僕はブルーノ。だけど「私」は? その答えは僕も「私」も知らなくて、思わず黙り込む。

 ついに僕は名前に名前を言うことなく背を向ける。小さく待って、と聞こえた気がしたけれど、僕は振り返らない。振り返ってしまってはならないんだ。「私」が小さく一言。


「君を一番想ってる人間、とでも言っておこうか」


 ……なんだ、その臭い台詞は。思わず僕は「私」に心で突っ込みを入れてしまった。僕、っていうか「私」はこんなに気障な人間だったっけ?
 記憶を失った僕にどうこう言えることはないけれど、僕は心の中で苦笑いを零した。もしも、もしもだけれど名前になにかあらぬ誤解をされたら、「私」はどうするつもりなんだろう。







「おー、名前。どーしたぼへっとして」
「元々締まりのない顔がさらにだらしないぞ」
「名前、白米溢してる」


 そしてそれは翌日朝の話。
 名前は朝食を何処か上の空で食べていた。三者三様の反応をしても(最初からクロウ、ジャック、遊星ね)名前は答えを返さない。
 ……可愛いけど、行儀悪いよね。どうしようかと悩んでいると、名前が急に口を開いた。


「グラサンさんに告白? された」
「ぶふぉっ!」
「大丈夫かブルーノ!?」


 予想外の言葉が聞こえてきて動揺してしまう。しまった、思いっきり噎せた。まさかそれが原因だったなんて!
 僕はどうしようもなくなって、取り敢えず大丈夫だと遊星に伝える。誤魔化さないと。
「それは僕だよ」とはまさか言えなくて。まったく、「私」のせいでとんだ大恥だよ……!


「告白、だぁ? なんだよあのグラサンブッ飛ばす」
「ふん、気に食わんな」
「アクセルシンクロは感謝してるが名前は渡さない」
「遊星落ち着こうねー私別に貴方のものじゃないからねー」


 ……余計に「私」が僕だなんて言えなくなった。
 もう、名前、本当に好かれてるよね。おかげさまで僕、よくわからない状況になっちゃったじゃんか。
 思わずむむむと眉間に皺を寄せると、勘違いしたらしい名前が僕に話しかける。


「あ、ブルーノはグラサンさんにあったことないんだよね?」
「え!? あぁ、うん」


 厳密には会えない、んだけどね。だって「私」は僕で、物理的に会えないんだから。
 そんなことを考えていると、名前は僕の目を見ていった。


「……似てるかも、目」
「え、え?」
「ああでも、性格は真逆だしなぁ」


 焦った、ば、バレたかと思った……! 今この状況でバレたら、か、確実に遊星に殺される……!
 このままじゃ僕、生きづらすぎる。弱ったなぁ……。


「なんならブルーノ、グラサンさんの仮の名前つけてよ。目似てるよしみで」
「なんつーよしみだ」


 クロウからもっともな突っ込みが炸裂する。名前はよく、こう、訳のわからない理論を展開させては僕たちを困らせる。今回もそれだ。
 それに、僕が「私」なんだし似てるじゃなくて同じなんだよ。まさか、そこまで気づかれるとは思っていなかったけだ。
 暫し逡巡して、僕は。


「……アンチノミー、とか」


 不意に頭を過った言葉を口にした。なんで、この言葉だったんだろう。なんだっけ、アンチノミーの意味って。たしか……


「アンチノミー? って二律背反だよね…なんでそんな難しい言葉を?」
「二律背反? 魚の塩漬けじゃなくてか?」
「それ多分アンチョビ」


 さすがに「私」にアンチョビなんてつけないよ! とは叫べないから取り敢えずクロウを睨んでみた。効果はないみたいだけど。っていうか気づいてないけど。


「……性格が真反対って言ったよね? 彼がテーゼだとすれば僕がアンチテーゼ、だからアンチノミー」
「……ごめん私バカだからわかんない」
「つまりは、」


「私」と僕は、ずっと、きっとこれからも


「正反対だけど同じくらいに同じことを想ってるんだよ」


 君を一番想ってるんだ。




僕は「私」と恋をする
(「僕」は随分臆病なんだな)(僕は「私」程強くはないよ)



title…Cock Ro:bin
加筆修正 2015.04.23
僕らが生きた世界。