遺伝子は識っている

 あの人の顔を見た時、私の背中に電流が走ったような感覚がした。
 気のせいだと、自分でも思った。だって私は彼と今初めて会ったわけで、こんな──懐かしさを覚えるのなんてありえないことで。
 おかしい、こんなのはおかしい。それはわかっている。分かっていたんだ。けれど、私は彼に声をかけずにはいられなくて、でもなんて声をかけたらいいのかわからなくて、口をゆるりと開けて──。


「ズァーク」


 出てきたのは、聞いたことのない……だけれどどこか、懐かしい響きを孕んだ名詞らしき言葉。口から零れたその音が、私と彼の鼓膜を震わせて。心臓がぎゅっと掴まれた気分になって、思わず私は少しだけ顔を伏せた。
 彼もどうやら、私のその言葉が彼に向けられたものだと把握しているらしい。視線が私に向けられて、数回ぱちぱちと瞬きをした後。


「何? ズァークって」


 ……当然の反応を返された。
 残念ながらというか、当たり前というか、私は彼の問いかけへの答えを持ち合わせていない。だって、私だってこんなことをいうつもりではなかったのだから。
 答えられなくて、なんと言おう、と迷っていると、彼の表情がみるみるうちに不機嫌そうなものへと変わっていく。
 どうしよう、何か言わないと、と言葉を探して彼の顔を見る。やっぱり懐かしい感じがして、だけどそんなこと言えるはずもなくて。せめて、引き止めてしまってごめんなさいとだけでも言おうとした、その時。


「君、オベリスク? 強いの?」
「え? あ……多分、普通」
「なにそれ。変なの」


 初対面の相手に変なの、とは失礼な人だ。いや、私も彼に変な言葉を投げかけているのかもしれないけれど。
 それに、私の言葉は卑下だとか、そういう類のものではない。客観的に見て、私はオベリスクの中でも中の中だろうし。だから私の『普通』という言葉はひとつもおかしくない。
 だというのに、彼はそれを変、と一蹴してしまった。なんとなく悔しいというか、悲しくなって彼にじっと視線を投げかけたら、彼は首を傾げた。


「何? 何か、おかしなこと言った? 僕からすれば、君の方がよっぽどおかしいけどねえ……」


 ……驚いた。まさか自分の発言が失礼なものなのだとは、微塵も思っていないらしい。
 どうしたものか。彼の為を思えば、発言の何が悪かったか教えるべきなのかもしれない。けれど、それはそれでなんだか説教臭くて嫌だ。そもそも、同年代(多分)にそういうこと言うのは、私の性分ではない。
 うんうん唸って考えていると、彼がまたポツリと言葉を落とす。


「楽しい? それ」
「え?」
「デュエルって、勝つから楽しいんでしょ」


 なのに普通の強さで、勝てるかも分からないデュエルをして、楽しい?
 言外にそう言われてる気がした。そうして、初めてちゃんと彼と視線を合わせる。紫色の目は、私が今まで見たそのどれよりも澄んだ綺麗な様相でそこにある。

 怖い、と素直にそう思った。
 それと同時に、あの紫の双眸で見られていることにひどく心臓が高鳴った。ばくばくと痛いくらいに脈動する胸元に手を当てて、拳をぎゅっと握る。このままだと、死んでしまいそうなほどだ。
 微塵も狂気を感じさせないような、それほどまでに澄んだ瞳。その奥に孕んでいる狂気は知っているはずなのに、


(──あれ?)


 なんで、識っているんだろう。私は彼と初めてあったわけで、そんなもの知っているはずないのに。
 私は間違いなく、この人を知っている。この人に潜む残虐性を、この人が放つ、悲痛な叫びを。この人が持つ──願い事を。
 ぐるぐると、思考が回転する。何も言えなくなった私に、彼は無邪気にふっと笑って。


「僕、君に興味湧いてきちゃったな。デュエルしようよ。君が何にデュエルの楽しさを見出すのか教えてほしいなぁ」


 デュエルディスクを展開する彼に、私は誰かの影を見て。
 自然と上がる口角を隠すこともせずに、胸の高鳴りのまま、私はデュエルディスクを起動させた。どこかで見たような紫色の瞳が、楽しそうに綻んでいる。



遺伝子は識っている
(毒竜を見て私は確信する)(このひとは、私の──)



2016.11.30 執筆
Title...ポケットに拳銃
僕らが生きた世界。