笑えないオチ

※SS
※報われない
※男主
※夢以外の恋愛表現があります。お好きな方・大丈夫な方はお楽しみください。苦手な方はブラウザバック推奨です。







「私、時々思うの」


 ぽつり、レイがそんなことを零した。あまりに突然のことだったから、何を、とすら聞くことが出来ずに、ただ目を丸くする。そんな俺のことなんてお構い無しに、彼女は手元の花冠を編み続けている。……これじゃあ聞かせる気か否かわからないじゃないか。
 俺の心の声なんて届くはずもなく、レイは手元に視線を落としたまま。少しだけでもこっちを向いてくれたら、俺に聞かせるつもりなんだろうな、というのは分かるんだけども。


「名前と出会ってなかったら、私、どんな人生を歩んでいたのかしら、って」


 今度は俺の名前が出てきて、ようやく俺に話しかけているのだとわかった。それでも、返事が必要な語りかけなのかどうかはまだ判断出来ないけれど。
 手元で編まれていくマリーゴールドをじっと見つめて彼女の言葉を待った。どう見ても花冠にするような花じゃあないよなぁ、とぼんやり思いながら、少しの無言の時間を過ごす。彼女との無言の時間は、案外心地いい。


「……別の人を好きになるのかしら?」
「まぁ……そうなんだろうけどよ」


 人間というやつはそういうものだ。80億分の1で運命の人と出会うとかなんとか言うけども、実際は出会った人の中から運命の人を作るだけ。レイもきっとそうなんだろう。勿論、俺も。
 でもだからといってそれを面と向かって言われるのは、……彼氏としてはいい気がするものでもなくて、つい口を尖らせてしまった。すぐに気づかれたらしく、今度は俺を見ながら、レイはくすくすと苦笑いをこぼす。


「ごめんなさい、つい」
「ったく、お前は……」
「でも、想像出来ないの。私、名前以外の人と幸せになれるのかしら」


 ……こういう殺し文句をサラッと言えてしまうあたり、彼女は魔性の女だと思う。これを天然でやってるあたりタチが悪い。
 その殺し文句がスラスラ出てるうちは大丈夫なんじゃないか、なんて軽口を叩く間もなく、赤くなっただろう顔を隠すために俺は顔を伏せた。
 ああ、きっとこういう他愛もない会話ができることを幸せっていうんだろうな。





 そう、そういうのが幸せで。
 なら今あるこの状況は、幸せとは真逆の現実なのだろう。
 だって今の俺は、最愛の人と言葉を交わすことすらできないのだから。


「あっ、こんにちは名前さん! 遊矢ですか? 遊矢今日学校の掃除当番で。待ってたらすぐ帰ってくるとは思うんですけれど……」


 目の前にいるレイによく似た少女は、レイとは違う青い瞳を真っ直ぐとこちらへ向けている。そこに昔のような感情はこもっておらず、ただあるのは年上の人間に対して持つべき敬いのみ。
 見ていると気持ちが悪くなってくる。ああ違う、この少女が悪い訳では無い。きっと悪いのは「思い出してしまった」俺で。


「あー……うん、ありがと。いねーみたいだし帰るわ」


 曖昧に笑って濁して逃げた。これ以上あの少女──柚子を見て笑顔を保っていられる自信がなかったから。去り際に見えた、遊勝塾の窓口辺りに飾ってある、しおれたマリーゴールドが嫌に目について舌打ちをした。
 だって、その愛はもう俺には向けてくれないんだろう?


 レイはレイではなくなった。
 柊 柚子という別人になって、柚子は榊 遊矢という誰かとともに在る。そこに俺という端役が介入する間はなくて、使い捨てられたモブはそっと舞台から降りるしかないのだ。

 なぁ、レイ。こんな笑えないオチ、あの頃には予想しなかったよな?
 その答えが返ってくることはない。それを肯定してくれたら、あの頃は確かに愛されていたという安堵を得られるのだけれど、舞台から降りた端役に、その先の未来や過去などがもたらされるはずもない。



笑えないオチ
(そういえば、マリーゴールドの花言葉は絶望だった)



Title...反転コンタクト
2018.01.28 執筆





夢主=元の世界からスタンダードに記憶を引き継いで来てしまった人。
レイを変わらず愛しているけれど……というお話。
後味が悪い上にわかりにくかったので補足。

僕らが生きた世界。