駅前に数件並んでいる服屋で夏物をちょっと物色したり、本屋でアキの欲しがってた新刊を探ったり、ドラッグストアで切れてた洗剤の詰替えを買ったり、ついでに新商品の温感コンドームを籠に入れてアキにめちゃくちゃ睨まれたりしながら、二人して帰路についた。
アパートが近付いてくると、気持ちが急くのと同時に、緊張感も高まってくる。もういい加減、アキとは何年もハダカの付き合いをしてきたわけで、今更「初めて」の気分なんかとっくの昔に味わいきったのに、まるで童貞みたいにデンジはそわそわと落ち着きなくなってきた。
だって今日は週末だ。発狂しそうなタスクをお互いこなしながら平日の嵐を乗り越えて、やっと辿り着いたスペシャルな夜が足早に空の向こうからやってくる。
紺色の天鵞絨にきらきら光る一番星がひとつ。大して星になんか興味もないのに、「あれ、何つー星だ?」なんて尋ねたりして。
「金星」
「え……?」
「アレだろ、金星」
「あ〜……ああ、へェ……ほ〜ん……」
どうしようもない相槌を打ちながら、横を歩くアキの横顔を盗み見る。いつも通り無表情なその顔は、けれど少しだけ、自惚れてもいいならほんの少しだけ、緊張しているように見えて、ぎゅんっと胸の中が痛くなった。
アキもきっと、同じようなことを考えているに違いない。そういうことにしてしまいたい。
だって今日は週末の夜だ。
淡い期待を込めて、アキの手を握る。青い目が驚いたようにまばたいてから、ふいっと空に逸らされた。
「……着くまでだからな」
「――おー……」
加速付けて走っていく心と、暴走機関車にならぬよう抑えつける体のコントロールに四苦八苦しながら、一歩一歩。坂を下って、角を曲がって。
アパートの階段を一段上るごとに、心臓がドクンドクンと煩く脈打つ。指先がじんわり汗ばんでいるのが分かる。玄関の鍵を開けて、中に入った途端に足が止まった。狭い玄関で靴を脱ごうとしゃがみこんだアキを抱き寄せて、噛み付くみたいに口付ける。
頑張って我慢した分、タガが外れるのも早かった。
「んっ、んんっ……は、ぁ……」
舌を差し入れて上顎をくすぐると、アキが鼻にかかった声をもらした。持っている荷物が邪魔で、うまくキスができない。もどかしく腰を揺すると、アキは困ったように眉間に皺を寄せた。
「待て、靴くらい脱がせろ」
「むり……も〜〜何かすげえスイッチ入っちゃったしぃ……」
「なに高校生みたいなこと言ってんだ」
むにっと頬を引っ張られ、デンジは唇を尖らせる。ここで畳み掛けるのが重要なのだ。基本は押しとデンジに弱いアキが、色々考え込む前に主導権を握ってしまうに限る。
「夕飯食う前にさぁ、一回だけェ」
「一回だけって……お前、いつもそんなこと言って二回はするだろ。そもそもここ玄関……」
「なぁ〜〜お願いだってぇ〜」
アキの首筋を唇でなぞりながら、耳元で囁く。
「な?一回だけ、シよ〜ぜ」と甘えるようにねだると、アキは根負けした合図の大きめなため息を漏らした。
風呂入ってからな、と約束して、アキはようやく靴を脱いで部屋に入った。
んで。
「デンジ……っも、……そこ、しつこい、」
結局、風呂に先にアキを入れてやって、途中から乱入して、まんまとお風呂場セックスになだれ込んだ。
風呂場は音が反響するから、控えめなアキの喘ぎ声がいつもよりはっきり聞こえてゾクゾクする。男二人じゃ狭い密室だから、必然的に距離は近いし、濡れた髪を肌に張り付かせて喘ぐアキの痴態を存分に堪能できる。鏡のくもりをシャワーで流して、アキの感じてる顔がよく見えるようにしてやった。
「ちゃんと目ぇ、開けろ、って」
鏡に映った、溶けそうなアキの顔をじっと見つめる。目の縁が赤らんで、うるうる潤んでて、半開きの唇の奥からのぞく舌が唾液で濡れて光っているのが丸見えだ。恥ずかしそうに目を伏せているけれど、デンジの言葉で少しずつちゃんと瞼が持ち上がる。湿度100%の飽和状態に、蒸発していくまともな理性と体の芯が心地良い。
「ふ……あ……」
「乳首、プックプクに勃ってんぜ」
「んっ、く、そ……」
アキが鏡を見てるのをしっかり確認してから、胸の突起を後ろから爪でかりかり引っ掻いてやる。前傾姿勢のアキは、鏡の横に備え付けられたシャワーフックをぎゅっと握りしめて、デンジが与える刺激にヒクヒクと背中をしならせた。
「はぁ、は……っ、ぁ、あぅ……」
「気持ちィ〜? ちょっと抓っていい?」
「ひ、ぃ、ぅ……っ!」
きゅっと指先で強めに摘むと、引きつった声がこぼれて風呂場の壁に反響した。引っ張る、押し潰す、撫でる、こする。小さな芽を感度の凝縮した性感帯になるよう、じわじわと指先だけで時間をかけて育てていく。
「ん、んっ、ぁ……デンジ、ッ…あ…あッ、い、たい……っ」
「あ、こら。目ぇ瞑んなって」
がっくりと頭を下げるアキの顎を掴んで前を向かせる。鏡に映る自分の痴態が切ないのか、アキは益々嫌がって身体をよじった。
こういうところがSっ気をくすぐられるというか、エッチの最中に意地悪のスパイスを効かせることの醍醐味というか。焦れったい力加減でわざと同じ動作を繰り返してやると、最初は我慢していたアキの声が徐々に抑えきれなくなってきてデンジはほくそ笑んだ。
「ふ……ぁ、あぅうッ」
「すげぇコリコリしてきたぜ〜ほら」
「ひっ! ぃ、ああッ……ンっ……!」
ぎゅぅぅっと指の腹で強めに抓むと、アキの腰が思わずといった具合に左右に一度揺れて、ばかみたいに興奮する。肩に顎を乗せて覗き込んだ鏡越しのアキは、デンジに弄ばれてすっかり蕩けた顔をしていた。
「乳首いじられんの、好き?」
「……っ」
苦しい時とは違う、切羽詰まった甘い吐息。
曇り気味の鏡にまだらに映るアキの輪郭は、モザイクのかかった妄想越しのそれみたいにどこか現実味がなくて、その分、近しい息遣いが生々しくデンジの感覚を刺激する。十代だったら間違いなく暴発しそうなシチュエーション。どころか、前段階でもう挫けている。何ならハダカで抱き合ってるだけで息も絶え絶えだった時代が懐かしい。
でも、だけど、しかし。俺ぁ成長したんだ。目先のエッチさに負けてすぐがっついてた頃の俺とは違えんだよ……。
――とか、言いたい気持ちだけは
ある、が。
「っ、……す、き、……だ……」
急に素直にささやかれたら、落ちるものは落ちるし、勃つものは勃つ。
「あ、アキ……ッ……」
泡で包まれたばかりのすべらかな腿に、屹立を押し付けて腰を揺する。逃げださないよう、片手はきちんと臍の下を抑え込んで。ぷっくらした乳輪ごと揉み込んで、勃起して敏感になった乳首の根元をすりすりと撫でてやる。
アキの下肢からも、どくどくと泣き出した性器の先から先走りがとろりと溢れて竿を伝い、浴室の床に落ちているのが堪らなく気分を煽った。愛しい相手が感じてるのは幸福の極みだ。
「はぁ……、ぁっ……あ、アッ……」
「ちくび、いっぱい感じてンの…かわいい…」
「いッ!……ぅん……」
後ろから耳をしゃぶって、おなかと臍の真ん中を撫でて、アキが好きな場所を順番に刺激してやる。一番過敏な下腹部の茂みをかき分け、先端から粘液を溢す性器に指を這わせる間際、期待に満ちた目が鏡越しにデンジを見た。
「ッ、んっ、んんッ! ん゛ーーっ!!」
仰け反ったアキの背中に、浮き出た背骨が影を作る。デンジはその陰影に舌を這わせながら、アキの性器を遠慮なくしごいた。拳を当ててアキが必死に声を抑えても、はぁ、ふぅ、荒い呼吸音が漏れてくるたび、感じまくってるいやらしさが滲み出てきて、胸が苦しくなる。思わず愛撫する指先に力がこもり、デンジはアキのグズグズの性器を根元から先端へと絞り上げるように強くシゴき上げた。
「あー…アキのチンチン、ぬるぬるしてあっつぅ」
「ひ、ぁっ……! あッ……ん゛ぅう……!」
ポタポタ垂れた先走りが手の内で粘り気のある水音に変化して、露骨に淫らな和音になると、一層感じ入った声を上げてアキは顎を上げた。
「ぁっ……デンジっ、も、出るっ……!」
「もうイキそう? 早くねぇ?」
「う゛、ぅ……っ……!」
茶化すデンジをねめつけるアキの両目には薄っすら涙の膜が張っている。案外、辱められるのもそれなりに愉しむ性質なのは知っているから、今更手を止めたりはしない。
アキ、ムッツリスケベだよなって素面で言った時はビールの缶が凹むほど殴られたけどな。
「は……っ、ぁ、あっ、いく、デンジ……ッ」
「ん、イっても良いけどオ…、ちゃんと鏡ん中見ろよ」
「んん゛っ……!!」
びく、と明らかに腰が跳ねて、デンジの手にアキの性器がぐっと押し付けられる。首を下げたアキのうなじを歯を立てないよう甘噛みして、デンジはもう一度前方を注視するよう甘く促した。
「ハァ……っ…アキっ、…俺がぁ…いつもどんな顔に欲情してんのか、ベンキョーして」
「あ、ぁ……デンジっ、ひッ……!」
アキの喘ぎ声がどんどん切羽詰まったものに変わっていく。腰を揺らしながら絶頂へ駆け上がっていく姿を堪能しながら、アキの腿の間に自分の暴発しそうな性器を擦りつけると、うっかり先にイきそうでデンジは奥歯をきつく噛み締めた。
「ぁ……っう、ァッ……い、く……ッ……!」
「は、ぁっ…アキっ……すっげえエッチな顔…」
「んっ、んあ……あっ、ふ……」
重たい幹を扱いていた手の動きは緩めて、最後は亀頭を手のひらで包み込んでくるくると撫でる。ぬちゅぬちゅと音を立ててカウパー液が滴り落ちる。
「あ、ぁ……ッ!出るっ…!ぃっ……うう!」
健気にも薄目をあけたまま、アキが身体を強張らせて前屈みになった。その瞬間、限界までふくらんだ性器を握り込んでぐしゅぐしゅっと搾ると、勢いよく弾け飛んだ精液が鏡に飛び散った。
「あっ!あ゛っ!ん、ふあぁ……あーーーッ!」
風呂場に木霊するアキの声に、切ないほどそそられる。びゅるっ、びゅくっと断続的に射精して鏡を白く汚すその姿に、デンジはずくりと重くなった下半身を強く押し付けた。
「う……すげェ、気持ち良さそ……ずる、ゥ」
「はぁっ……はぁ、あ゛っ!? あッ、待て! まだ、イって……!」
イッたばかりで敏感な体を撫でながら、デンジはアキの太腿を間に寄せて、限界値の近い性器をアキの尻に擦りつけた。ぬるついた精液が糸を引いて粘り気をのばす。
「あ゛っ! あッ……ん、ンぅっ……!」
「はー……やべ、きもちぃ……」
腰骨を掴んで固定してからアキの股の間に何度も性器を出し入れする。
「あ、アキの太腿、すべすべで……ちんちんにすっげーキく……も〜待たね……」
「ぅ、あっ!あッ……!」
疑似とはいえセックスに溺れるアキの顔も声も、白熱球の明るみでいつもより刺激的に脳みそを茹だらせて、デンジは前のめりの姿勢で加速度的に腰を揺すった。
一緒くたに擦られるのが気持ちいいのか、密やかな奥が疼くのか、泣きそうなアキの顔が鏡に映っているから、余計に興奮する。
濃密な汗と精のにおいと、風呂に満ちる石鹸のかおり。下半身が溶けてしまいそうなくらい気持ちが良くて、終わりが見えてからはあっという間だった。息が止まる。身震いする。
「……ん゛、ぅ…〜〜〜ッ」
出すも出るも言えないまま、勢いに任せて射精する。
「ハァ…っ…ま、だ出、んの止まんねっ……」
「っ……! んッ ーー……ッ!」
溢れる音がしそうなほどたっぷりと精子を吐き出す間、アキは打ち上げられた魚になって息を詰まらせながら、デンジの射精を従順に受け止めた。
その目が、とろんと惚けたようにデンジの顔を鏡越しに見つめている。
一気に駆け上がって出し切った後、息の上がったデンジはアキの肩に顎を乗せて、殊更ゆっくりとまばたいた。
酸欠と暑さで目の前が煙って見える。ぼやけた視界を狭めて見つめた鏡の中で、アキはまだ蕩けた目つきで、デンジを映していた。
「……俺ん顔見て、コーフンしてんの?」
揶揄うつもりで言ったのに、アキはゆるゆると頷いた。
「ん……おまえ、イくとき、ちょっと……かわいぃ顔、するから……」
アキの指が濡れた鏡の中のデンジの頰を撫でる。ふやけた指先があんまり愛おしげに曇りを拭うので、デンジはたまらず眉根を寄せた。
「ンなでかくなったのに、まだカワイイって思われてんのオ、俺……」
「……かわいいよ」
ちゅ、と音を立てて、アキが振り向きざまに唇を吸ってくる。そういえば最中に一度もキスをしていなかったなと思い返すと同時に、急に愛しさが募った。
「……じゃ、入れてもイイ?」
アキの体を反転させて正面から抱き締める。最上級にカワイク甘えて鼻先をアキの首筋に埋めて囁いても、アキは「だめだ」と首を振った。
「……夕飯、ちゃんと作るから」
「ええ〜……」
アキの腰に回した手に力を込める。今度はうんと丁寧に隅々まで可愛がってやれる気がするのに、アキは「待て」の二文字で押しとどめて、額をこつんと合わせてきた。
こんなに綺麗な顔で迫られたら、言葉の全部が吹っ飛んでしまう。
「いい子で待ってたら、後でもっとすごいことしてやるから……」
「う゛っ……!」
アキのずるい唇が、デンジの鼻先をかすめて離れる。少し熱めの唇が心地良い。これ以上駄々をこねるのはガキっぽい気がして、デンジは渋々、の外面で、「しょーがねえなぁ」と、アキの鎖骨に頬を擦りつけた。