「……はい、三食出したものは全てそのまま。水にも手をつけられていないようでした」
床といわず天井といわず、アルコールの薬品臭が染みついた隔離空間とこちらとを隔てる硝子窓には、烏色のスーツを纏った男の顔が反射している。
そのやや小柄な体躯からこぼれ落ちた溜息は、二度目には少し苛立たしげな色を帯びていた。
「それで、具合はどないな感じなん?」
「このままでは数日と持ちませんね。こちらとしては今後の処置についての御意向を伺いたく……」
つまり、このまま放っておいて良いものか、積極的に助けてやるべきか、と問われているのだ。
公安の京都班と東京班は、伝統的に犬猿の仲にある。マキマの子飼いである早川アキの、ずぬけて端正な顔立ちと清廉な立ち居振る舞いにふれた京都の連中が、「お稚児さん」と揶揄して陰口をたたいているのは、黒瀬も当然のこと知っている。
だからといって、拾った以上は放置して死なせるわけにもいかない。仮想敵に温情をかける都合よい生贄として、黒瀬はこの場に選ばれたのだった。
「ふん……死ぬまで顔、見せへんのやなかったのか……」
台詞とは裏腹に、黒瀬の薄い唇はかすかに笑ったような気配を漂わせた。
しばしの沈黙。壮年の医療チーフは息を潜めて、年下の上司が下す判断を待っている。
「なら、死なしてあげよか、」
「――承知しました」
「……いや、ハハ、冗談、冗談」
白衣の男は、再び口を噤んだ。次に彼が立つ廊下の薄寒い空中におとされたのは、正確には沈黙ではなかった。
トン、トンと一定速度で硝子窓をたたく音が響いてくる。まるで透明なガラス板越しに中の湿度を確かめるように、黒瀬の人差し指が眼前の窓をなぞっていた。
指の腹で、無機質なリズムをとって叩いている。
音はかすかに、だが確実に濃密に辺りを満たした。
水中で鯨が特有の音波でさえずり会話するように、男にはその音がいつしか意味あるものとして聞こえる気がした。
誰にも知られぬ秘め言を告げるような、指先の打音。
「……古田」
囁きに近い声で呼びかけられて、男は長く閉ざしていた口を開いた。まばたいて白昼夢から我に返る。
黒瀬の眼差しは、相変わらず硝子窓の向こう一点にのみ注がれていた。
「はい、」
「大事に扱うて。あのマキマのお気に入りや。……死なさんといて、な」
◆ ◆ ◆
足元の覚束ない夢を見ていた。どこまでも穴の中へ落ちていく悪夢。胃がひっくり返り、中身が全部出尽くしても、着地点がみえない。永遠に落ち続けている。世界にひどく弾かれている。
アキ、と繰り返されて、あぁ自分はそういう名前だったのだと思い出す。
アキ――早川アキ。
かつては平凡な田舎の子ども、強大な敵に復讐を誓った青年、今はただの死にぞこないの男の名前。
「こないになるまで……何しとったんや……」
額に触れた指先が、一、二度と髪を梳きとおす。その柔らかい仕草と温もりが、アキにゆるやかな覚醒を促した。
冷たい電子音に、つんと鼻をつく医薬品の匂い。
瞼一つ動かすのに難儀しながら、アキは虚ろな視界をひろげて天井の白を捉え、そうして次に見つけた色を凝視した。
奥深くまで黒を飲み込んだ双眸が、わずかな驚きに見開いて、そうして僅かに細まった。アキはそこでようやく、完全に覚醒した。
――くろせさん?
なぞろうとした声は、カラカラに渇ききった喉の中ほどで張り付いた。
急激に酸素を吸い込んだ肺が、四肢を震わせ、盛大に咳こませる。くの字に折れた背中を小刻みに震わせて嘔吐くアキを、大きいとはお世辞にも言い難い男の手のひらが支えた。
「あぁ、ほら、急に起きるから」
穏やかな声と同じリズムでさすられる。
「水、飲めるか?」
耳を掠める問いかけに夢見心地を引きずったまま、アキはようよう頷いた。
明るい白色電灯に照らされ、お仕着せられたペールブルーの夜着の袖口を濡れぬように捲られる。
水差しからとられた水分は、渇ききったくちびるに久方ぶりの感触を与え、アキは瞬間本能的にそれを吸い上げた。
体はとうに限界を超えていた。渇きによる飢えは激しく、口内を潤すぬるま湯が蜜より甘く舌に染みこんだ。あっという間に飲み干してしまう。
「……らしくないで、そないにがっついて」
夢か現かは正確には既にどうでもよくなっていた。
カップを手渡す黒瀬の指がアキの甲に触れる。その瞬間の紛れもない存在感に、アキは無意識に身震いしていた。
「す、みま、せ……ん」
絞り出したアキの声が虚しく揺れ、口端からこぼれた水滴がつぅと顎先に垂れた。
羞恥心を感じる間もなく、アキの濡れたそこを黒瀬のしなやかな指先がなぞって拭い落とした。そのまま頤を掴まれ、押し上げられる。
うつろな視線を導かれ、アキはわずかに上向いた。
「取り逃がしたらしいなぁ、悪魔……」
黒瀬の声は訛りを含み、わずかに母音が伸びる。
剣呑な台詞も鷹揚な空気にまやかしながら、人のやわらかい部分を追い詰める物言いをするのは、黒瀬の悪癖であった。
水差しの雫にぬれた示指の第二関節が、すべりを塗り付けるようにアキの下唇をゆるく圧し潰す。
偶発をよそおえる力加減でくちびるに食い込んでくる他人の温もりを、アキは辛うじて首を傾ける仕草で退けた。
「……失態でした」
含み笑いが落ちてくる。
黒瀬はすいと身を引き、既にベッドサイドに佇んで見舞い人の顔つきでアキを見つめていた。
「そう気ぃ落とさへんでもええよ。あれに手こずってるんは今に始まったことじゃないしな」
アキは押し黙った。
取り逃がした悪魔の正体を、思い出そうとしていた。だが、どうしてもうまく形を結ばない。
何とどうやって戦い、どうして負傷し、失態を晒す結果になったのか。
アキの脳内にあるはずの記憶はばらばらで、穴が開いていた。
「……―――アキ君?」
訝しげに名前を呼ばれ、アキは胸中をむしばむ恐怖を押し隠して返事をした。
黒瀬の眼差しは、アキの下手くそな取り繕いをすでに見抜いているようだった。
「ここは京都支部の医療センターや。一応、きみの入院手続きもとってある」
けどなぁ、と、黒瀬は大仰な溜息をついた。曰く、すでにアキは三日もここに世話になっているらしかった。
アキの任務は無論、こんなところで日がな一日点滴パックをぶら下げていることではない。
悪魔を討伐しなければいけなかった。『なにか』の悪魔を。
アキは既にその壊れた思考が示す通り、実情かなり深くまで悪魔との戦闘を機に、錯乱状態に陥っていた。
見目に現れない歯車のちぐはぐに、一体アキ自身がどうやって気付けたというのだ。或いは、彼が唯一心身の奥深くまでを許した少年が傍にいれば、狂気の片鱗をかぎ取って、救い上げたかもしれなかった。だが、彼は遠く離れた地でアキの残り香を抱いている。
――― 早パイ、キョート土産いっぱい買ってきてくれよなぁ。
こだまする耳の奥の声に、アキは微笑んだ。そうだ。悪魔を殺して、早くデンジのもとへ帰らなければ。
「……黒瀬さん、おれ、早く行かないといけません」
陰鬱な未来を呼び込む揺れる青い瞳に、黒瀬の目が繊月のように細く光って差し込んだ。
「分かってる。リベンジやな。 アキ君、しばらく京都におるんやろ? うちに来たらええよ」
「良いんですか」
「上からそう言われてるしな」
「ありがとうございます……」
波打った薄い掛布をさりげなく引き寄せ、アキは身体を小さく倒して謝意を示した。
ゆるやかな白布の下にある肢体の動きが、黒瀬に曖昧な返事をさせる。
舐めるような視線を挟んで、数秒の沈黙が横たわった。
もしも控えめなブザー音が次の来室者を告げなければ、二人の間にたゆたう湿度は変わっていたかもしれなかった。
「明日、迎えに来るから――」
アキは無言で頷いた。
入れ替わりに入ってきた看護師が、アキの袖を捲り上げる。黒瀬の背を目で追う暇はなかった。
浸食されていく体は少しずつ彼を啄み、疲弊と睡魔に抗えぬまま、アキは眠りを享受した。
◆ ◆ ◆
香には十の徳がある。感格鬼神、清浄心身、能除汚穢。
わらべに歌を聞かせるように、かつて香道を究めた曾祖父はやわらかい音調で繰り返し、「香十徳」を黒瀬に教え込んだ。
北の詩人曰く、香には様々な効能があるという。
五感がまるで鬼神のように研ぎ澄まされ、あらゆる穢れをとりのぞき、孤独感を拭い去り、多くあっても邪魔にならない。
何より常に用いて障り無し。―――加減を違えても死にはしない、と。
こん、と香炉のふちに火道具が当たり、かすかな音が鳴った。
黒瀬が手にした火筋は炉灰の中央にあけた穴に当たり、所作の狂いを窘めるように硬質な響きが静寂を打ち破る。
とはいえ、かつて黒瀬をはげしく打ち叩き、厳しく躾けた曾祖父はもう世におらず、幻影さえもう思い出せないほどの時がすでに経っていた。
悪魔にことごとく殺された黒瀬の本家は途絶え、呪いのように残った香木は我流をつらぬく一人の生き残りによって、気まぐれに消費されている。
火が燃え上がる。
やがて発散し始めた香気のすぐれた甘みとやわい苦みは、暗い閨を満たし、悄然と眠る青年の四肢に酔いをもたらすだけなら十分な量と質を広げた。
「……こないなもんか」
立ち昇る香炉を奥へやり、代わりに膏壺を引き寄せてから、黒瀬は改めてしげしげと客人の寝顔を見下ろした。
日中はおよそ常人の範疇を超えた膂力と気力で悪魔を滅ぼし、かと思えば静謐な物腰で机に向かい、模範的なデビルハンターとしての責務を体現している男――早川アキは、日の沈みとともに豹変を始める。
夜半にはついに鎌首をもたげた本性に飲み込まれ、一度目の眠りにつくのだ。
そして二度目の目覚めは、狂気の沙汰ではない。
―――アキには、厄介な悪魔が「取り憑いて」いる。
契約したわけではない。「好かれて」いるのだ、異常なほどに。
京都という土地との相性が悪かったのか、狐の悪魔の怨嗟を浴びたせいなのか、アキは悪魔の討伐にかり出された先で、何かに浸食されている。
黒瀬がその匂いに気付いたのは、彼の血に濃く刻まれた香師としての呪いじみた才のせいであり、バディを組む天童以下、だれもアキの異常には気付いていないようだった。
『負傷により一時的錯乱に陥ったものの、無事復帰。京都にて任務続行中。』
東京本庁へ提出された早川アキの報告書は、おおかたそのように記載されているはずだ。
だが―――。
「―――ん……、ぅ……」
鼻先から香りが吸い込まれていくせいで、わずかに唇をひらいて喘ぐアキの声は、早くも熱を帯びはじめていた。
引っぱたいて叩き起こし、滝行に打たせ、祓い落としてやる術を知らないわけではない。
だが黒瀬はそういう暴挙を選ばなかった。つまらない理由だ。疲れる。面倒くさい。面白くない。
何より、黒瀬とアキは同じ境遇なのだ。
生まれも育ちも違うけれど、味わうべきものはきっと等しく分け合ったって、良い。
銃の悪魔が惨殺した家族。
黒瀬にとっての誇りであり、トラウマであり、ねじれた愛情の権化であるかつての作法を真似たのは、つまり完全に黒瀬の歪んだ酔狂でしかなかった。
祓い清める香の巡りを促すため、あえて毒素をめぐらせる必要があった。
仰向けにさせた体の横に座し、天井を向いた腹部に手のひらを置く。黒瀬はそこから少し下がった位置にある腰紐を一瞥すると、そこを避けながらくるくると真円をえがいてアキの腹部を撫で回した。
「……ん、はァ、…ぁう……」
結んでいた唇がほどけ始め、荒い息が絶え間なくこぼれおちる。小首をふって苦悶するさまを余所に、黒瀬の手のひらは十も二十も円を重ねて、腹をさすり続けた。しゅる、と衣擦れで音が立ち、熱がこもり、執拗な慰撫に感応して、次第にアキの腰は揺れ始めた。
悩ましい官能に火照った頬が、何かを訴えるように歪む。
黒瀬はそれらの変化をつぶさに見下ろしながら、終いにアキの腰を締め付ける紐をほどいて、臍の上へと示指を突き立てて押し潰した。
「ぁ……―――ッ!!」
びくんっ、と背が仰け反り、小さな母音がほとばしった。
こわばった下腹部が突き上がり、褥との間に拳一つ程度の隙間ができる。アキは反り腰のまま大きく一つしゃくりあげて、脱力した。
アキの額には、ふつふつと玉の汗がにじんでいた。襟元からのぞく鎖骨まで、薄っすら赤みがさしている。
「まだ、この程度か……厄介やな」
ぐったりとしたアキの両脚を割った間に膝立ちで覆い被さると、上から改めて、黒瀬は矯めつ眇めつ熱に浮かされたアキの表情を覗き込んだ。
ひどく、造形美に溢れた顔立ちだった。
男にも女にも好かれそうだと思った。人にも悪魔にも穢されそうなにおいがしている、とも。
黒瀬の目は、アキの苦悶の顔を通りすぎ、白い布地の下でも紋様の形が分かるほどくっきりと燐光を放つ腹部に留められた。
先になぞった通りに、丸く刻まれている。
強毒の秘香を吸い込み、アキの腹の中で育ち切った浅ましい悪魔の胤が、悦びねだって燃え上がっている。
―――読み通り、それは淫邪な憑き物のしるしだった。
香の種類を変えなければいけなかった。
つぅ、とやや白みがかった薬膏を掬い取ると、黒瀬はそれをよく指先にのばした。粘ついたそれをアキの柔らかな耳裏から首筋、ゆるめた襟元からもぐりこませた胸の素肌、ゆるやかに勃ち上がっている乳首に擦り込んでいく。
最初は右、それから左。ぽってりと刺激をうけて赤らんだ性感を、指と指の腹で紙縒りのようにつまみながら、捩じる。
その時点で既に、優等生面を引っ提げて暗い復讐以外に何も知らぬ顔をしている早川アキが、だれかに飼いならされている体であることは明白だった。
「は、ぁ……んぅぅ……う、ん……」
コリコリとゆるく弄られ、鼻にかかった呻きが不安定にこぼれている。その色に歓喜が混じっていることを、黒瀬が読み取れないはずがなかった。慣れ親しんだ刺激に、アキの無意識が悦んでいるのが手に取るように分かる。
(相手は……フン、心当たりが多すぎて分からへんな)
股の間に居座った黒瀬の下肢に、やや勃起したそれを控えめながら絶えぬ動作で擦りつけてくるアキの淫蕩さは、中々に強烈であった。塗りこめた香が感度を高める作用をもつとはいえ、快楽を拾うのが早すぎる気もする。無論、悪いことではない。
理性が一かけらでもあれば、長いその足で黒瀬の横っ腹を蹴り飛ばしてこようとするだろうアキの常の態度に比べれば、ただただ可愛らしいものでしかなかった。
「ん、ハァ…ッ! ンン―――……!」
汗ばむ胸元をさらに寛げ、もう殆ど上半身の素肌をさらけてやりながら、黒瀬はけなげに布地を押し上げているアキの陰茎を、己の鎌首をもたげはじめていたそれで擦り上げてやった。
ずりり、と敏感な所を刺激され、嬌声が響く。
「ぅんンン…っ!!」
顎があがり、散らばった髪が褥にわずかな擦過音をたてる。黒瀬はもう悠長に待ってやることなく、右手で二本の陰茎を布地ごと握りすめると、今度は強い力で上下に扱き始めた。
しゅる、しゅ、と衣擦れの音が速度をあげて耳を犯す。続けて、ぐちゅぐちゅと粘ついた水音に変わり始めた。
放り出されていたアキの足がビクビクとうごめき、褥を蹴り、逃れるように尻が浮いた。
「……ン、ン! ふ、ぅう〜〜〜……!!」
息が上がっていた。いつの間にか、目の前がちかちかするほど黒瀬の視界は淫蕩に溶け、硬く張り詰めた竿全体を、まだ乾いた布地と湿り気を纏わせた指、互いの熱を分け合いながら揉みくちゃにすることにだけ没頭した。
怒涛の悦に、突如かっと目を見開いたアキが、喉を反らして叫びをあげた。
「あぁ!!? あ、んッ、…?!」
当然、アキの頭は支離滅裂な体の反応に全く追いついていない。溺れるように喘ぎ、激しく身をくねらせる。
黒瀬は鬱陶しげに眼を細めると、蛇の抜け殻のように放置されていた腰紐をつかみ、あえぐアキの口内に突っ込んだ。
乱暴に中途まで押しこめると、何事もなかったかのように手淫を再開する。
「ッ、ん、んぐ、ン―――!」
くぐもった声が褥にこだまする。
アキの身体は、黒瀬がわざわざ技巧を凝らしてやらなくとも、すぐに昇りつめそうであった。
湿った布地の隙間から零れる喘ぎが、荒い息と混じり合って、不規則なリズムを刻んでいる。
逃げ惑うように目を眇めたアキが腰を振ってもがく仕草は、傍目にはまるで快感に耐え切れず、性行為をねだるようにも映る。
暴かれる淫らさに煽られるがまま、黒瀬は熱っぽい息を軽く漏らすと、歯と舌を使ってひらかせた両胸に追い打ちをかけた。
「んぅッ!! ふっ、んうっ! うっ、ふぅうぅ……!」
淫膏を塗りこまれ鋭敏に仕立てられていた乳首は、与えられる痛みも素直に快楽へと変換する。尖った舌先でくりくりと転がされ、軽く吸いつかれるだけで甘い刺激が脳を溶かす。アキは大きくイヤイヤと首を振りながら、内腿を震わせた。
せり上がってきた射精欲に支配されて、まともに口もきけぬまま、ぎゅうと裏手で褥を引き絞る。今更になって己の手が縛り上げられていることにアキは薄っすら気が付いたようだった。
「んッ、んむ、ンッ!ふぅ、んん…〜〜〜ッ!!」
褥をける踵は何度もすべり、がくがくと膝が内へ内へ寄せられていく。男が極める時には大抵筋肉が縮みこむもので、上背のあるアキがまるで胎児のように丸まりたがる反応は、ごく自然なものだった。
が、あえて絶頂の直前、黒瀬はアキの膝を押しやって股を開かせた。腹に浮かぶしるしの具合を目視するのが第一の理由であったが、何より声が聴きたかった。加虐の趣味はなかったと思ったが……自問するより早く、体が動いていた。
咥えさせていた腰紐を引き抜き、濡れた舌を外界にさらさせる。
ドロドロにとろけたアキの目が黒瀬を通り越し、遠く彼方へ助けを求めるように彷徨った。
「っ、あ、あ……っ、ンジ、―――!、っ……て」
(ああ、そういう……)
ぞわぞわと、黒瀬の耳の奥で悪魔の声が囁いた。断ずるような厳しいものではない。とろけるような甘言だった。
許しをこう痴態を見下ろしながら、息を吐く。アキにも黒瀬にも、もう逃げ場はなかった。
「んん゛、あ、ん゛――――ッ! ふ、うぅぅぅ…ーーーッ!!」
びくん、びくん、と、大きく痙攣する全身と共に、反り返っていたアキの陰茎からは白濁とした熱い体液が大量に迸った。
同時に、どぷどぷと吐き出した男の精がアキの臍の上を濡らし、そこに光るしるしをも刺激して、閉じ込めた。
一夜目の話である。