Day4

暗い森の中を、アキは走っている。
遠くに祭り囃子の音色。カランコロンと下駄の音、調子っぱずれた笛が奏でるお囃子、太鼓の音。
楽しそうな笑い声と、浮かれた祭囃子から、アキは逃げている。走って、逃げている。
息が上がる。ぜえぜえと肩を震わせながら、アキはこれが幼い頃の記憶であることを漠然と悟っていた。
家族を殺され、養護施設に預けられたアキは、夏の夜の夢に腐っていく体を持て余し、時折こうして脱走を試みては連れ戻された。
すなわち、この脱走もまた結末は同じであることをアキは知っている。
知っているのだけど。
たとえ過去の夢の中でも、それでもアキは逃げずにはいられない。施設の子どもたちは短い自由時間を目一杯遊ぼうと、アキの不在になどこれっぽっちも気づかないだろう。
今のうちに、うんと遠くへ。
早く、遠くへ。早く、逃げなくては――。
「アキ君」
背後からの声に、アキは凍りついたように立ち竦んだ。

「一緒に行こうよ」







はっと眼を開けたアキの視界に、薄汚れたコンクリートの天井が飛び込んでくる。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなくなり、アキは混乱した気持ちで視線をさまよわせた。
ざら、とした布地の感触で、ここが自宅でも病院でもない、監禁され続けている地下室だということをアキは思い出す。
日付の感覚は曖昧で、体の浮遊感も常態化し、アキは自分の精神がどんどんすり減っているのを生々しく自覚した。
夢見が悪いのも、おそらくそのせいだ。
「はぁ………」
細い息を吐くと、喉がしみるように痛む。アキは鎖に繋がれた右腕をのばし、ベッドの柵をつかんだ。
ゆっくりと、上体を起こす。
油の切れた機械のように、ぎこちない動作だった。デビルハンターが聞いて呆れる。もはや、笑う気力もなかった。


目覚めの気配を察したのか、あるいはどこかで監視されているのか、ガチャガチャと鍵を開ける音がした。
薄暗い部屋に、すうっと光が差し込む。
「アキ君、おはよう。熱は下がったかな」
「………」
男の言葉に、アキはぼんやりと宙を見つめた。
発熱していたのか、と他人事のように思った。
体の倦怠感は、度重なる嘔吐と脱水症状の後遺症だろうと思っていた。もしくは、過剰な薬物の投与。
およそ人間扱いされているとは思えないのに、男は今、まるで献身的な看病人であるかのように振る舞っている。
盆の中の、水と粥の器。アキはえづきそうに喉を詰まらせた。
「お粥には卵をいれたよ。好きだったよね、アキ君。ふぅふぅして食べさせてあげる。火傷しないように……」
男はベッドサイドに椅子を寄せ、膝の上に盆を載せて腰を降ろした。
アキは膝を抱えて、黙り込む。
今更ここから逃げられないのは嫌というほど分かっている。わずかな自由のきく腕を振り上げてスプーンを払いのけたところで、次にアキが味わうのは、「お仕置き」という名の拷問だけだ。
だからといって、男の思い通りになるのも癪だった。
無になって、ただ「その時」をやり過ごす。
アキは自分が透明な器になっていくのを感じ始めていた。
「一口目は、少なめにしておこうね」
男は匙にすくった粥に、ふぅふぅと息を吹きかけて冷ました。アキは前を向いたまま、目の端でそれを捉えていた。
が、男がアキにと言いながら、匙を自分の口に含んだので、アキは呆気にとられた。
思わず、男の方を見た。
黒ぐろとした深淵と、目が合う。
クチュ、クチュと男は粥を咀嚼し、まるで見せつけるように頬を蠢かしながら、盆を除けて立ち上がった。アキのおとがいを、男の長い指が挟み込む。
「んっ……!?」
唇を覆うように接吻され、アキは目を見開いた。
粥を流し込まれ、口腔いっぱいにドロドロとした風味が広がる。反射的に吐き出そうとするが、男の舌に阻まれて叶わない。
上から下へ、舌から舌へ、臓物の柔らかさと、米の粒を一つ一つ確認するように歯列の裏まで舐め尽くされる。
「んんっ……! ふぅ……ぅぅ…っ!」
アキは男を跳ね除けようと腕に力を込めたが、それすらお見通しだとばかりに男はさらに深く舌を挿し入れてきた。粥が二人の舌の間でグチュリと潰れる。同時に男の唾液を注ぎ込まれ、吐き気が込み上げた。
「んんっ!! んくっ!……んぅ……!」
ごくり、と男の唾液ごと粥を飲み下してしまう。男は満足そうに唇を離すと、再びアキの顎をすくい上げた。
「いい子、いい子に出来たね♡ いっぱい、食べようね……♡」
「っ!? や、やめろっ……!」
今度は溢れるほど匙に粥を乗せ、大口を開けて含む。頬を膨らませて近づく男の顔に、アキは反射的にのけぞった。ベッドが軋み、背中が壁に当たる。
男がベッドの柵をこえて膝で乗り上げてくると、アキは上体を後ろに倒さざるを得なくなった。
「い、いやだっ……んぐっ!!」
男に後頭部を掴まれて逃げ場を失い、再び無理やり口付けられた。
「んぶぅ! ふぐっ……んんんー!」
ドロリとした食感と、舌触りの悪さに鳥肌が立つ。
しかし男は容赦無く舌でアキの喉奥を刺激した。苦しげに眉を寄せるアキの頭を、男は押さえつける。飲み込めない粥はダラダラと口の端から溢れ落ちていき、アキの顎から首筋へと伝い落ちた。
「んふっ……んっ……! ふ……ぅ」
鼻から息を吸い込むと、男の唾液が口内に染み入ってきて、アキの目が潤む。
粥の粒々した食感はいつの間にか溶けて、生温い粘液になって喉を伝った。
「あふっ……」
唇が離れ、アキは必死で酸素を吸った。飲み込みきれず溢れた粥で、喉が詰まりそうだった。
「ぅえ……っ、ゲホッ!! ひっ、ひぐっ……!!」
「ああ、こぼしてる。ほら、お口あけて……ごっくん、しようね」
「じ、自分でやる……!」
思わず拒絶の言葉を口にすると、男はアキの頰を両手で挟んで、無理矢理上を向かせた。
「アキ君は、自分で食べれないよね? だから、昨日もお薬ちゃんと飲めなかったんだよね?」
アキは定かでない記憶の断片を辿った。
発熱。そうだ、俺はたしかに熱を出した。意識朦朧としたまま、男に水を飲まされた。
熱に浮かされながら、喉の渇きを癒そうと必死で舌先で舐めたものの、上手く飲み込めずに何度も噎せ返り、男に口移しで飲まされた。
「あ……俺……」
それから……それから……? うまく思い出せない。
「忘れちゃったの?お薬ちゃんと飲めないから、仕方なく、お熱が下がる座薬をいれてあげたんじゃないか。治療だよって言ったのに、アキ君、お尻の穴をヒクヒクさせて、エッチな声だして、……可愛かったなぁ」
よしよし、と男はアキの髪に指を差し入れた。硬直しているアキの耳に、男の吐息が触れる。
「さぁ、お粥、まだたくさん残ってるよ。アキ君がちゃんと食べきったら、お薬の時間にしようね…♡」

アキは、自分の体がまた透明な器に、空っぽの存在になっていくのを感じていた。





結局、粥の半分を飲み込まされたところでアキの体は痙攣し、嘔吐した。
一からやり直しだと言われ、もはや冷たくなり始めていた粥の残骸を口移しで飲まされたアキは、もはや何を抵抗する気力も湧かないほどの脱力感に襲われていた。
大人しく給餌を待つ雛鳥のように口を開け、粥を流し込まれる。
「いい子だね……えらいえらい♡ 可愛いアキ君……ご褒美にあとで杏仁豆腐を食べさせてあげるね」
男はアキの髪を梳き、耳たぶをこすり、裸のアキの体をわざとらしく官能的な手付きで撫で回した。
思考のない時間が過ぎゆき、やがて食事という名の調教も終わる。
「は……はぁ……っ」
「ごちそうさまでした♡ アキ君、美味しかった?」
もはや怒りを感じる余裕すらなく、ただコクンと頷く。
男は大層満足した様子で、アキの体を抱きしめた。
「栄養をたくさん取って、早く元気にならないと、俺との赤ちゃんが産めなくなっちゃうからね……」
アキはぼんやりと宙を見つめながら、自分の腹に男の手が置かれているのを意識する。
男の言葉を理解することを脳が拒否した。
「アキ、愛してるよ……♡」
男は愛の言葉を囁きながら、アキの体を押し倒す。
吐瀉したシーツを剥ぎ取られ、むき出しのベッドのマットレスに背中がついた。ギッ、とスプリングが軋む。
音を捉えた瞬間、ふいに泣きそうになって、アキはきつく目を閉じた。
「ん?……眠たいの? 大丈夫だよ。アキ君が途中で寝ても、ちゃんと可愛がってあげるからね……♡」
男の湿った吐息が首筋に触れる。
ベロベロと鎖骨を舐められ、乳首を噛まれて、アキは目を閉じたままビクンッと体を震わせた。
「ああ……可愛いねアキ君……ぢゅ…ぅ、んちゅ……♡ ハァ…んむ…♡ まだ、お熱がある……♡」
ちゅっ、ちゅっと音を立てて肌を吸われるたびに、体が反応する。
発熱の余韻が残り、全身が火照るのが早い。倒錯的な食事で、種火はとっくに燃え上がっていた。
「……っ、はぁ……は……」
内腿に添えられた手が、鼠径部をなぞり、性器に触れる。アキはたまらず唇を強く噛んだ。
「おちんちん、まだ柔らかいねぇ♡ 舐めて元気にしてあげようか……♡」
左右に首を降って拒絶する。
「やめろ」と口にするのも汚らわしくて、アキはただ声を飲み込んだ。
ふに、ふにと、柔らかい性器を揉みながら、男は少し切なげな表情を浮かべた。
「仕方ないか、眠いし、喉が痛くて声が出ないんだね……」
演技じみた口調でそう言うと、男は何を思ったか膝を浮かせ、ベッドから降りた。アキがわずかに安堵する間もなく、男は部屋の隅に置かれていた棚から何かを取り出し、再びベッドへ戻ってきた。
「これで元気にしてあげるね……♡」
男が手にしているものを見て、アキは驚愕した。あの形状は、たとえ所持して無くても男なら想像のつく代物だ。
男性器を入れて、動かして、自慰をするための性玩具。
ペタペタと裸足のまま、男がベッドへ乗り上がってくる。
アキの目が苦しげに細められるのを満足そうに見下ろして、男は見せつけるようにスイッチを入れた。
「……っ!」
「ほら見て、このオナホ。中に、すごく沢山ヒダヒダがついてるでしょ?柔らかいシリコン、ぷにぷに。ね? これで、アキ君のおちんちんいっぱい撫でてあげようねぇ♡ そしたら、この元気ないおちんちんも、またいつもみたいに元気に跳ね回ってアキ君の精子たくさん出るようになるから」
男は興奮を抑えきれない様子でまくしたてると、玩具の中にローションを垂らし始めた。
ヴィィィ……と羽虫の鳴くような音をたてて、玩具が細かく振動を始める。
同時に、ニッチュ♡ニッチュ♡と水気を帯びた音がアキの鼓膜に響き始めた。
「ぁっ……!や、やめろ……やめ……」
封じていた言葉が無意識のうちに喉をついて、アキは苦しげに喘いだ。
「あれ、声が出たね? じゃあ気持ち良〜くなって、もっと可愛い声、聞かせて……♡」
男は嬉しそうに微笑むと、ローションのボトルを足元に放り投げて、アキの股の間に座り込んだ。
「やっ……!いやだ……やめろ! やめろっ、糞野郎!」
繋がれた足が、もがいてピンと鎖を引っ張る。
男によって容赦なく足を開かされたまま、アキは屈辱感と絶望感に打ちのめされた。
「やめて……くれ……っ、や、やだ、から……」
「大丈夫だよアキ君、怖くないよ……♡ 一度はアキ君だってオナホ買おうとしてたの、俺は見てたよ……後ろめたそうに赤くなってて、可愛かったな……♡」
カッと頰が熱くなる。覚えのある躊躇いがフラッシュバックする。
羞恥と、混乱。見られていた?一体、いつから。どこから。どこまで。
男の手が、アキのひきつった喉仏を、円を描くようにゆっくり撫でた。
「アキ君が可愛くおねだりしてくれたら、やめてあげてもいいよ……?」
男の手はやがて顎から首筋を伝い、鎖骨から胸元へ滑り落ちた。乳首をこね回され、アキの息が上がる。
「おもちゃじゃなくて、舐めて可愛がってください♡って」
うながす男の手に握られた、グロテスクな玩具。
人の手や口では得られない快感を、無理矢理に与えてくる道具だ。あれに辱められる空恐ろしさを想像して、アキの心臓は張り裂けそうに痛んだ。
ドクドクと鼓膜の中に、早鐘をうつような自分の心音が響きわたる。
それでも。
「いや……だ……」
男の望む言葉を吐くくらいなら死んだ方がマシだった。
アキは唇を噛んだまま、ふるふると首を横に振る。男はその仕草を見て小さくため息をついた。
「そう……わかった」
男はそう言うと、凶悪なオナニーホールを一気にアキの性器の根元まで突き入れた。
ムニィ♡とシリコン製のヒダがアキのペニスを包み込み、グニュグニュと蠢き始める。搾り上げるような吸引力。
想像の数千倍は強烈な快感に、アキは思わず背筋を仰け反らせた。
「ひぁぁっ♡♡!?♡♡♡ んあ"っ♡♡!、ぅう"ーっ♡!?♡♡♡」
抑えつけられて可動域の制限されたアキの体が、陸に打ち上げられた魚のように激しく跳ねる。
「はぁ……アキ君、気持ちいいんだね♡ 嬉しいよ……♡ おちんちん元気にしていこうね…♡」
上擦った声で男が言い、更に玩具を上下させる。
中のヒダに塗り込められたローションは、男が調合した特製のもので、催淫剤と掻痒感を催す薬剤が大量に含まれていた。
粘度の高いローションは、アキの陰茎に絡みついて扱き上げるたびにグチャ♡ヌヂュッ♡♡と卑猥な音を立てて泡立った。
女の膣というより、無数の触手に巻きつかれているような感触だ。
「あっ♡ あっ♡あ♡ ひっ♡あぅ……っ♡」
アキの喘ぎにあわせて男が玩具を揺らし、リズムを刻み始める。
とんとん、クチュクチュと小刻みに揉み込まれて、擬似的なセックスの挿入感に体が没頭していく。
「っ♡う、ぁっ♡ あっ♡あ……っ♡」
腰が抜けそうな程の快楽がアキを襲う。
出す、挿れる、出す、締め付けられる。
「んっ♡ あっ♡あ、っは……♡♡!ふ、うぅ……!」
アキの腰が前後、左右にゆらゆらと揺れる。ベッドに尻が擦れ、少し浮いて、また沈む。
催淫剤の効果が徐々に現れ始め、アキの体の内側からじぃんと疼き始めた。
腹の奥が熱くなるような焦燥感が強くなり、気づけば男が手を添えている玩具に自ら腰を押し付けていた。
「ハア…♡ハア…♡アキ君、セックスが上手だね……♡そうやっていつもいやらしく腰振ってるの? エッチなこと大好きなんだね……♡♡♡」
男は息を荒らげてアキの痴態に見入っている。
よだれが垂れそうなほどだらしなく口を開き、興奮しきった表情で見つめられる。なぜか、その視線にひどく興奮して、アキは無意識に男に向かって腰を突き出した。
「うぅっ♡あ、はァっ!ふっぁ……ッ!!♡」
自ら奥へと玩具へ擦り付けてしまい、堪えきれない喘ぎが漏れた。催淫剤で高められた性感と、男の視姦による羞恥心が混ざり合い、アキの思考回路はぐちゃぐちゃに溶けて快感だけを貪っている。
「ほら、アキ君……気持ちいいって言ってごらん? そしたらもっと気持ちいいよ……♡」
男の言葉に操られて、体の感覚まで操作される感覚に襲われる。自分の意思と裏腹に脳が動き出し、唇が勝手に動く。
馬鹿みたいな言葉を言おうとしている。脳が口を閉じろと命令しても体がいうことをきかない。
「はっ♡はぁっ♡きも、ち……っ♡ 気持ち、いぃ、ですっ」
アキは上擦った声で答えた。
「どこが気持ちいいの? 言ってみて?」
男は更に追い詰めるように問いかけてくる。性器の根本がちゅぽちゅぽと撫でられ、可愛がられる。先端に無数のヒダが絡みつく。
「ほら、ほらぁ! 気持ちいいのどこ!?」
「ちんぽがっ…♡♡ っ、ズポズポされんのがぁッ!!♡」
アキは絶叫するように叫ぶと、男は荒々しく息を吐いて、アキのペニスを包み込む玩具の動きを一気に激しくした。回転速度が一気に上がり、高速ピストンで責められる。
「ふぁぁ"ッ!、アっ!♡ いくッ♡♡ あっ!!イクっイク、イクッ♡♡♡」
白く焼き切れた視界の中で、火花が散る。
アキはビクビクと全身を震わせて射精した。しかし、絶頂の余韻に浸る暇もなく、男はアキの亀頭に密着させたオナホを激しく上下させる。
「い"っ!!イッた……ッ♡♡いまイったばっかだからぁあ"ッ♡やめっ♡ やだやだあぁぁアあッ♡♡」
絶叫するアキを無視して、男は更に責め苦を与える。
「アキ君のおちんちん、元気になったの?♡♡ ん?まだかな?♡ならもっと頑張らないとね♡♡♡」
「いや、やだッ! なった!なったぁ!!だからッ……あ"っ♡ あぁッ!!♡」
アキは涙目になりながらも、必死に主張した。それでも男の手は止まらない。オナホが上下するたびに、中のヒダが凄まじい勢いで吸引をかけながら竿に絡みついて精液を吸い尽くそうとするかのように密着してくる。
「なにがなったの?♡ ちゃあんと言葉にして言わないと…♡」
ぐぽォっ、奥まで突き入れられて、先端がむしゃぶりつかれる。
「あっ♡あぁっ!ちんぽッ♡♡ 勃ったからぁ! う〜〜っ、もうやめろぉっ…♡」
途切れ途切れに、あられもなく叫ぶ。だが玩具の責め苦は終わらない。男の手がいっそう意地悪く動いてアキを絶頂へと追い詰める。
絶頂したばかりの性器にぎゅんぎゅんと快感がせりあがってきて、鳥肌が立つ。
「アキ君、違うでしょ! おちんちん元気になりました♡ 言ってごらん!」
男の興奮しきった声。その目は爛々と光り、口元はだらしなく緩んでいた。
おぞましいケダモノに見つめられ、アキは仰け反って叫ぶ。
「ひっ、ひっ♡ おちんちん、げ…んきにぃッ♡ なりましたッ♡ イクっ、またイクッ、イグゥッ!!……アッ!ぁ"〜〜ッ!!♡♡♡」
アキは全身を痙攣させながら、勢いよく潮を吹き出した。
オナニーホールの中は、たちまちアキの吐き出したもので満たされる。狭い穴には収まりきらず、潮とローションが混ざり合って接合部からゴプッ♡ブピュッ♡♡と音を立てて溢れ出した。
壮絶な絶頂を迎え、アキは半ば放心状態のまま、虚ろな瞳で天井を見上げた。
「はぁっ♡はっ……♡はぁっ……♡」
浅く呼吸を繰り返しながら、ぐったりと体を投げ出す。
ヌロォ…♡と濡れた音を立てて、玩具がゆっくりと引き抜かれていく感触に、アキは弱々しく息をつきながらも、名残惜しげに腰を揺らした。
「んん……♡ いっぱい出したね♡」
男は興奮した面持ちでそう呟くと、うっとりとした動きでアキの唇を奪った。ぬるり、と男の舌が口内に侵入してくる。
「んっ……ふ……、ぅ……」
霞がかかったように思考が鈍っていく。ねろ、ねろ、と口元を舐められて、ぼんやりとした頭でアキは男の舌に自分のものを絡ませた。
男がビクッと体を強張らせ、唇を離す。
「あ、アキ君……っ、今……?」
男は信じられないというように目を見開いた。
「…………」
アキは、ぼうっとしたまま男を見つめている。熱に浮かされた瞳に、正気の色はとうに無い。
微熱と脱水、加えて激しい搾精を重ねた体は、とうに限界を迎えている。
アキには数える術もないが、すでに監禁されて一週間を数えている。殆どまともな固形物も与えられず、嘔吐を繰り返し、運動機能は一切封じられ、陽の光から遠ざけられている。
その中の、ほんの反射的な一瞬の動きだ。いわば飢餓の子猫が、差し出されたミルクを舐めたようなものだ。
それでも、男にとっては、アキとの初めての「まともな」口付けだった。
差し出し、答えられる。合意の上の行為のあかし。
「アキ君……もう一回、キスしようか…♡」
男はアキの頰に手を添えて、再び口付けた。舌先が、唇の隙間から差し込まれる。
アキは抵抗せず、それを受け入れた。何一つ分かっていなかった。
男は興奮に息を荒らげながら、夢中でアキの口内を貪りはじめた。
「んちゅ♡ んっ……アキ、アキっ♡ ハァ……ベロっ、べろ出して…♡」
男はアキの舌に吸い付き、自分のものと一緒に絡めて扱く。
「ふ……ぅ、んっ……ん、ふぅ…♡♡」
アキは言われるがまま舌を突き出し、男の舌と擦り合わせた。
唾液を交換しながら互いの粘膜を貪りあう行為に、頭の芯が蕩けるような快感を覚える。
(きもち、ぃ……)
アキは陶然とした脳みそのまま、脱力した。汗をかいた肌が密着し、互いの鼓動が伝わる。
男の心臓は、壊れそうなほどに速く脈打っている。興奮が伝染したのか、アキの鼓動もはやかった。
「っぷぁ♡ アキ……気持ちいいね、ちゃんと舌動かして……」
男は舌を中空に突き出し、アキの口内から誘い出したそれとヌルヌルと絡めて重ね合わせた。まるでペニスを扱くかのように淫靡に舌を動かされる。
「んっ……んちゅ♡ は、ぁ……っ」
ぴちゃぴちゃと音を立てながら互いの唾液を混ぜ合わせる。時折軽く歯を立てられるとゾクゾクとした感覚が背中を震わせた。
(なんか……へんなかんじ……する)
未知の快感が背筋を這い上がってくる。これがキモチイ、だっただろうか。
繰り返し囁かれるうわごとめいた男の言葉が、じわじわと脳を犯す。
「はぁっ、ん……ちゅ♡ いい子…おちんちん、また元気になってきたね……♡」
男がゴソゴソと手を動かして、自分のはち切れそうな陰茎をアキのものに擦り付けてきた。
アキの痴態に何度も射精したそれは、白濁にまみれ、ぬらぬらと光っている。
「ほら、アキと俺、キスしてるよ……♡ 上も下も、エッチなチューしながら……ンンッ♡ いっしょに、イこうね……♡」
なぜか感極まったようにそう呟くと、男はアキの唇を奪いながら、腰を動かし始めた。
体中からいやらしい音をたてて、汗と涙と淫液を吹き出して、重なり合う。
「あっ…あっ…♡ はあ♡ アキっ♡  んっ、んん〜〜っ♡」
ベッドの柵が、ギシ、ギシ、とリズミカルに揺すぶられて、鳴き始めた。

―――ギッ♡ ギッ♡ ギッ♡ ギッ♡

アキの中の何かも、同じリズムで泣いている。

――メェ メェ メェ メェ。

羊の声だ。
どしゃぶりの雨の中、アキは羊を抱えて逃げている。
逃がしてあげようと思っていた。
どこにもいけない自分の代わりに、幼いアキの心をあの丘の向こうへ連れて行ってほしかった。
儚い、小さな子供のねがいごと。おまじない。うまくいくはずなんかないと、分かっている。
小さい頃からそうだ。俺のすることは何一つうまくいかない。
立ち止まりそうになる足を、それでも動かして、抱き上げたぬくもりを頼りに、アキは走る。一人ぼっちで。
いや………一人だったか?

誰かと一緒に、走っていたような。
雨を蹴散らす足音が、アキのすぐ横で聞こえる。
アキは、その足音の主をもう知っている気がする。

『アキ君、アキ君……一緒に行こう。手を繫いであげようね』

一回り大きな手のひらが、幼いアキの前に差し出される。
優しい手だった。アキを撫で、庇い、励ましてくれた。

しかし、アキは気付いている。
その手を取ることは、腕に抱いたぬくもりを手放すことと同じだと。
抱いた黒い羊は雨の中に投げ捨てられ、奪われる。
あの手は、アキが自分以外のあらゆるものを手にすることを許さなかった。

『アキ君――俺の……』


ゾワァッと体の奥底から震えが走り、アキは目を見開いた。
男の荒い息が頬を掠めている。
「はぅ、ハッ♡ハッ♡ 我慢汁ッ、こんなにトロトロになっちゃうくらい、気持ちいい♡ うっ、はぁ♡ 尿道ッ…尿道から精子出たがってるっ♡アキちゃんのおなかにぃ、出したがってる♡♡ 」
男が下品な言葉で自らを高ぶらせ、快楽に陶酔しきった表情で腰を揺すっている。

一瞬のうちに強烈な快楽地獄に貶められて、アキは目の前に火花が散ったような錯覚を覚えた。
「んっ♡ んんーーっッ♡♡」
真っ赤になったアキの亀頭の先には男の指先がぐりぐりと押し当てられて、ねっとりとした軟膏を塗り込められている。
なにかを押し込まれれば、反発して押し出す力が強くなる。
ドロっと吐き出す先走りが、重く甘い快楽に変わってアキの全身を駆け巡った。
「ふぅッ……!ンッッ……♡♡ あっ、あっ、こす…らなひ、でぇ……♡♡」
堪らず懇願すると、男は興奮のせいか苦しげに胸を上下させながら無情な手付きでアキの亀頭を苛め抜いた。
「あっ♡アキ君ッ……エッチなお汁たくさん出てきたね……♡♡んっ♡いい子っ……いいこだね♡♡ これでもっと気持ちよくなれるよね?」
男の表情は興奮の極みに達していたが、その指先の動きは機械のように精密かつ正確だった。
「クリクリ気持ちいいねぇ♡ ハァ、ハァっ♡ おしっこの穴、また後でお薬入れてあげるからねっ♡♡」
「あ……っ♡ んぁっ♡ あっ、はァッ♡ だめ…っ」
「うん、俺も大好き、ここ可愛がるの、大好きだよぉ…♡♡」
「ひぃいぁ…っ、あくっ… イッ…♡ぁっ♡あっ♡♡ あんっ♡♡」
アキの口から甘い声が漏れる。
男はそれを聞くと、さらに興奮を強めたようだった。
「はぁーっ♡♡ハァッ♡はっ……♡♡かわいい声ぇ……♡」
獣のような呼吸と共に悦んで、男は腰を揺すり続ける。
アキの腰が揺れる。無意識に快楽に溺れようとする自分がいる。抗おうとしていた思考が白んでいく。気持ちいいことしか考えられなくなっていく。
「イくっ?♡イク? またいっぱい出しちゃうね?♡  ほら、あー♡のおくちでイって!」
男は人差し指をアキの鈴口に突き立ててぐりぐりと擦り上げた。もう片方の手で、唇をぐいっと開かれる。
「あーッ♡ あーっ♡」
まるで脳ミソを直接扱かれているような狂おしい快楽に全身が焼かれていく。
「んっ♡んん〜〜〜ッ!!♡  あぁ……っ♡♡♡」
(イク……またイクっ……!)
アキは無意識に腰を持ち上げ、カクカクと前後させた。本能的な動きだった。
「あッ……!アキ君……♡ もう限界だね……♡ はぁ、いいよ、一緒にイこうね…っ♡」
けだものの声が鼓膜を濡らす。
こめかみに伝っている涙に気付いた時、アキは己の理性が壊れていくのを感じた。
「フッ♡はあッ♡♡ アキ、アキっ♡♡ 出すッ♡♡全部出すっ♡♡  あしたはッ♡ 中に…おなかの中にいれてあげるからね……ッ♡♡ イグッ♡ イグッッ!♡♡♡」
死にたくなるような睦言を吼えて、男はアキの絶頂に合わせるようにして射精した。
「あ、あぁ…ぅ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!♡」
アキはひときわ大きく体をのけぞらせると、びゅるびゅると熱い精液をまき散らした。
アキの腹の上に白濁が降り注ぐ。男の出した精液とアキの吐き出した精液は混ざり合って、臍のくぼみや内股に流れていく。
血走った目をした男が、アキの股の間に顔を突っ込んだ。分厚い舌がぬるりとアキの尿道口を舐める。
「あぁっ! ……はぁ……んん…ぅっ♡」
敏感になったそこに熱い吐息が吹きかかり、アキは泣きじゃくった。汚した性器を穢れた舌先が舐め取っていく。
「ぁぅう……♡ やめ……やめへぇ……っ♡ もれひゃ……あッ、ぁ……♡」
舌足らずな泣き声が、大きな体を不自由に揺すぶって震えている。
体躯に似合わぬ遠き日の幼子のようなアンバランスさが、男の情欲を煽った。
「おしっこしたいねぇ♡ お潮かなぁ♡ ……んむぅ…♡♡」
鈴口をくすぐり、ちゅるちゅると尿道の奥に残ったものを吸い上げるような動きに、アキの口から切ない悲鳴が上がった。
「ぁう……っ♡♡ あひ、ぅうぅ♡♡♡」
腰をよじると、金属の鎖がいくども擦れて、ベッドの柵がたわむ。
痙攣の止まらないアキのおなかに、男の手のひらが押し付けられて、撫で回されていた。
アキはすでに、体の操作権を放棄していた。
今自分が何をされているのかも分かっていなかった。ただ、誰かに気持ちよくしてもらっているという感覚だけがあった。
「も…出ぅ…♡♡ 出ち……ゃっ♡♡ おひっこ……っ♡♡  おしっこでるぅう……♡♡♡」
その瞬間は、射精のような強烈な感覚ではなかった。
全身のこわばりが弛緩するような、じわじわと押し拡げるような快楽と解放感。
「ぁ〜〜〜〜〜………♡♡♡♡」
アキは恍惚とした表情を浮かべ、放尿した。
勢いのない黄金水が、しょろろ……♡と流れ出てくる。ベッドの中に温かい水たまりが広がって、アキの尻や太腿をむなしく濡らした。
「おしっこ気持ちよかったね、アキ君……♡いいこ♡ きもちいいね…♡♡」
男はよしよし、とアキの頭を撫でながら股の間をまさぐっている。
刺激に反応した膀胱が緩み、またちょろろ……と黄色い水が溢れた。
(きもちいい……?)
これが気持ち良いという感覚なのか、アキは崩れゆく思考の果てで考えた。

気持ちいいとは、
こんなにも、こんなにも、こんなにも!!
情けなくて、恥ずかしくて、虚しくて、悲しくて、さみしいものだっただろうか―――?

「ふっ……ぅ、ぐ……ぐす……っ」
アキの青い瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「アキ君……?」
男はぎょっとした表情で、慌ててアキの顔を覗き込んだ。あふれてあふれて止まらない透明な雫を、男の指がぬぐいおとしていく。
「よしよし……気持ち良すぎて、泣いちゃったんだねぇ……♡ いい子、いい子……♡」
気持ちよかったね、と耳たぶを甘噛みされて、アキの体はぶるりと震えた。
ひどく汗をかいていて熱いのに、凍てつく冬の川に落とされたかのように心が冷えている。

ぼたぼたと落ちる涙が、驟雨になって周りにあふれて、はやく溺れ殺してくれればいいのに、とアキは思った。


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