剣は樽に刺してね
今日は遊戯くんと日直だから、一緒に行動する機会が多くてハッピーだと思ったのに、全然彼とお話しできなかった。
というのも私が朝から生活指導の鶴岡先生に朝から濡れ衣から指導室に連行され、刈田先生には廊下を走ってるところを見られその場で捕まって長々とお説教をもらった。そして極めつけは退学魔女様から放課後に課題の収集を命じられたかと思えば、「抜き打ち検査よ〜!」と言われてポケットの中身をすべて出す羽目になった。課題を持って行くだけだったのに、職員室で30分以上も時間を取られてしまったから遊戯くんに申し訳なくて申し訳なくて仕方なかった。
速足で教室に戻ると、遊戯くんは日誌の上で組んだ腕を枕に居眠りしてしまっていた。彼のあどけない寝顔の下から覗くそれは、必要事項はほどんど埋まっているようで。
ただ、よくよく見ると一番厄介な"今日のひとこと"の欄だけ白いままだった。
「遊戯くん、遊戯くん」
体を軽く揺り動かしながら声をかけてみたものの、かなり熟睡しているようだ。むにゃむにゃだなんて可愛らしい返事をもらい、おもわず笑ってしまった。
けれども、日誌を書いて提出しないことには帰れないので、遊戯くんには大変申し訳ないのだけれども、枕にしてる腕の下から日誌をズリズリと引き抜かせてもらうことにした。気持ちよく寝てるのをまたも妨害された可愛い彼は、不機嫌そうに「う〜ん」なんて言ってるけど、夢から覚める気配は全くない。
そういえば今日の遊戯くんは授業中も、城之内くんとおしゃべりしてる時も大きなあくびをかみ殺していた。
お昼休みに眠いのか聞いてみたら「"もう一人のボク"と遅くまでデッキ調整してたから眠たいや〜」、なんて少しだけ恥ずかしそうにしてニッコリ笑っていた。
そんな遊戯くんはお日様みたいに眩しくて、染まった頬が桃の様にふっくりとしていて……と、いけないいけない。
じんわりと妄想にふけりそうになり慌てて帰還する。そんなことしてる場合じゃない! いつまでも遊戯くんをこのまま寝かせておくわけにもいかない。いくら眠くてもこんな場所で熟睡なんてしてしまったら、体中が悲鳴を上げてしまうし何より風邪をひいてしまう。
遊戯くんが寝てる隣の机でも使って、早いところ日誌を書き上げてしまおう。
「城之内くん、マシュマロンは食べれないよ〜」なんて不思議な夢を見ている遊戯くんが気になるけれども、とにかく日誌に集中しないと。
シャーペンを握りなおして日誌に書き込みをする。もういっそ、今日自分が受けた生活指導を誰かがされてたと言う事にして、みんなも気を付けよう!でいいかな。
担任にはお前の事だろとバレてしまうけれども、まぁそれはそれということで。
ああでも、遊戯くんって眠ってる時はこんな顔してるんだなぁ。
「(眠ってても可愛くて、かっこいいな……)」
普段はふんわりとして、けれど時に力強く輝く大きな丸い目は、ぴったりと閉じられている。
きゅっとした小さな口は僅かに開かれて、ささやかに漏れる寝息は子猫みたいで、夕日を浴びた前髪は綺麗なゴールドと朱色が混ざりあってキラキラとまぶしくてきれい。
一生見ていられるんじゃないかっていうほど、うつくしくて。
早く日誌を書かなくちゃいけないのに、その手は全然動かない。それどころか遊戯くんのふくふくとした、魅惑のほっぺたを突いて悪戯しようと手が伸びていた。
「むつみちゃん……」
「!?」
もう少しで遊戯くんのほっぺに手が届くという時、眠っている遊戯くんから突如自身の名前が呼ばれ、慌てて手を引っ込める。肝心の遊戯くんはもぞもぞと身じろぎすると、
腕枕に顔を伏せるように体制を変えまた夢の世界に行ってしまった。
未だ落ち着かない心臓に胸をさすって落ち着かせようとするが、それどころかどんどん速くなっていく。
遊戯くんに少し掠れた声でささやくように名前を呼ばれたせいで、顔が尋常じゃないくらい熱くなる。
だってあんな声はじめてきいた――――。
「ゆ、遊戯くん……」
「、それ以上はだめ……」
えっ!? ど、どういう夢を見ているの!? だめってなにが!?!?
妙につやのある声でわたしらしき人を夢の中で止めてるけど、夢では何が起きてるの!
「そんな、剣が余ったから黒ひげ本体にに刺すなんて……」
ときめいた感情と夢に登場している自分へのギャップで頭が変になりそうだった。
けれど、黒ひげ本体に剣を刺す自分を真剣に止めている遊戯くんを想像するともう耐えられなかった。
「っふふ、黒ひげに剣を刺したことはないよ」
声を押し殺して散々笑うとようやく落ち着くことができた。でもすごく面白いから今度やってみよう。遊戯くんどんな反応するかな。
適当に日誌をガリガリと書き込んで、教卓の上にそれを置く。遊戯くんを早く起こして帰ろう、うんそうしよう。
「遊戯くん、遊戯くん。 ここまだ学校だよ、起きて」
体をゆすって声をかけて彼を起こす。もぞもぞ、う〜んと漏れた声にさっきの掠れた声をまた思い返す。抵抗している遊戯くんがさっきみたいに腕枕からもぞり、と顔を出した。
まつげが震えて、ゆっくりと大きなすみれ色が露わになる。
夕日をたっぷりと浴びた私がおかしいくらいに顔を真っ赤にして、ぼんやりと映っていた。
2022/5/17
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