20190602 先輩とキスばかりしてる2 ※現パロ
お昼休み。後輩であるゴン君とキルア君の二人と一緒にお弁当を食べていると、携帯電話のバイブが鳴った。携帯電話を開くと、画面には先輩からのお誘いが映し出されていて、思わず崩れそうになる表情を正しながら返信を打つ。
「ナマエ先輩、どうしたの?」
しかし、必死な努力もむなしく、表情は完全に崩れてしまっていたようで、不思議そうな顔をしたゴン君がこちらをまじまじと見つめている。
「どうせ、あのいけ好かない蜘蛛の奴からデートの誘いでも来たんだろ」
フォークをウインナーに刺しながら呆れた顔をするキルア君に、その通りだと苦笑する。風の噂によると、私のクラスメイトであるクラピカ君が蜘蛛の人たちと揉めていて、どうやらクラピカ君と親交がある二人も揉め事の渦中にいるらしい。先日起きた一悶着の中で蜘蛛の人たちから痛い目に遭わされた二人は、私が先輩と付き合っていることを心配してくれている。その気持ちはとても嬉しいし、二人は私にとって大切な友達だけれど、だからと言ってフェイタン先輩との関係を断つことは難しい。どちらの味方もできないのならせめてもと、彼らの前では先輩の話題を出さないようにしていたのに、どうやら私の表情筋は誤魔化すということができないようだった。
あいつ……とキルア君が何かを言いかけて、口を噤む。その言葉の続きが気になったけど、どちらの味方にもなれない自分が彼らの諍いについて詮索することを憚られ、言葉の続きは促さずに、表情の暗いキルア君をただただ見つめる。
「とにかく、気をつけろよ」
いつになく真剣な声音のキルア君に同調し、ゴン君も頷く。あの純真無垢なゴン君にまで警戒されるなんて、先輩たちは二人に一体何をしたのだろうと興味が湧く。しかし、先輩が彼ら二人に何をしていようとも私の恋心に何ら変わりはなく、放課後になる頃には彼らと蜘蛛の諍いに対する興味は薄れ、先輩と会える楽しみに思考が埋め尽くされていた。
待ちに待った放課後。先生の終礼が終わると同時に席を立ち上がる。あまりにも勢いよく立ち上がったために、隣の席に座っていたクラピカ君が怪訝な表情でこちらを振り返る。その表情を見て、そんなに急いでどこに行くのだと、この後の予定を彼が尋ねようとしていることを察する。まるで他人の心が読めるかのように嘘に敏いクラピカ君に詮索をされたら誤魔化せる自信はとてもないため、彼が口を開く前に鞄を持ち上げて走り出す。
走り出した直後、背後からクラピカ君が私の名前を呼んだ。ただ単に蜘蛛のメンバーを警戒している様子のゴン君やキルア君とは違い、蜘蛛に対して過激なといえるほどの怒りと憎しみを抱いているクラピカ君は、私と先輩の交際に対して断固反対というスタンスを取っている。今から先輩と会うなんてバレれば、確実に良い顔はされないだろう。それどころか、先輩と会えないように力づくで家に送り届けられそうだ。彼とは良い友人関係を築いていきたいし、余計な心配をかけたくない。しかし、彼に対して嘘はつけない。それならば逃げるしかないと咄嗟の判断を下し、「クラピカ君、またね」と、背後に向かって立ち止まらずに叫ぶ。
その勢いのまま廊下を駆けていると、「あまり廊下を走らんようにな。またゴトー先生のポーカーフェイスが崩れてしまうからの」と、蓄えた髭を撫でながら笑うネテロ校長が前方に見えた後、後方に消えた。後ろを振り向いて校長先生に向かって手を振りつつも、先輩と一分一秒でも長く一緒にいたいと願う恋心は、先生の注意では止めることができなかった。
まだ終礼が終わっていないクラスがあるのか、もしくはまだ部活が始まるよりも早い時間のためかグラウンドを利用する生徒の姿は疎らだった。何人かの先輩と思われる男子生徒達がサッカーに興じていて、時々相手を煽るような言葉や、楽しげな笑い声が聞こえる。その中に周囲より一回りは小さいけれど、身軽にゴールへ向かって突き進んでいく影を目に留めた瞬間、思わずグラウンドの外周に設置されたフェンスに張り付いた。
「か、かっこいい…」
校庭にたどり着いて発した第一声は、自分でも驚くほどに恍惚とした声音だった。ああ、もう。蕩けてしまいそうなほどに格好良い。そう感じているのは私だけではないようで、コート中を駆け回る先輩たちを遠巻きに女の子たちが見つめている。悪名高い蜘蛛のメンバーに女の子たちが寄り付くことは少ないけど、実はフェイタン先輩がモテることを私は知っていた。先輩を見てそわそわと声をかけるか悩んでいる女の子を見れば嫉妬だってしてしまうし、それがとびきり可愛い女の子だったりしたら不安になることもある。それでも、走るたびにさらさらと風に靡く黒い髪が少し固くて、眠ると可愛らしい寝癖がピョコンとできることを知っているのが自分だけであれば満足だった。
ゴールを決めたフェイタン先輩の周りに、先輩と同じ蜘蛛のメンバーであるシャルナーク先輩やフィンクス先輩がいる。二人はこちらに向かって指をさしていて、なにやら私のことを話しているようだ。シャルナーク先輩とフィンクス先輩に囃されながら、背中を押された先輩がこちらへと歩いてくる。途中、着ていたシャツで首元の汗を拭ったことで先輩のお腹が露わとなり、あまりの眩さに頭がクラクラする。あまりにも刺激が強い光景にドキドキしている私に目もくれず、先輩は自分の荷物を抱えて歩き出す。そこでふと、久しぶりに先輩の半袖姿を見たことに気がついて、先輩の滑らかで弾力のある腕に熱視線を向ける。出来ることなら手を繋ぎたいと思いながらアピールをするも、先輩がこちらを振り向く様子はない。学校内で先輩がつれないのはいつものことだったけど、今日は校外に出て二人きりになっても先輩の様子は変わらない。
日が沈んで行く。燃えるような赤紅色が地平線に向かって消えて行く姿は、先輩と一緒に居られる時間があと少しで終わることをまざまざと私に知らせている。もう少し一緒に居たいという気持ちを込めて、斜め前を進む後ろ姿を見つめるも、普段よりもやや足取りの早い先輩が私の視線に気がつくことはない。普段ならばまるで別れを惜しむようにゆったりとした足取りで歩いてくれる先輩が、今日はすぐにでもこの場から去りたいとでも言いたげな足取りだった。
「先輩」
公園の前を通りかかったと同時に、勇気を出して先輩に声をかける。
「喉、乾きませんか」
公園内に設置された自販機を指差しながら首をかしげる。ようやくこちらを振り向いた先輩はやはり不機嫌そうな表情をしていたけれど、小さく溜息を吐きながらも公園内へ足を踏み入れてくれる。
日が落ちてきたからか、公園に人の気配はない。ジャリジャリと砂を踏む二つの足音だけが無言の空間に響いている。今日は私が勝手に押しかけたのではなく、先輩の方から誘ってくれたのにどうして機嫌が悪いのだろう。理由はすごく気になるけど、それを窺い知る勇気はない。悲しみで俯きがちになり、足取りが重くなる。
「お前、さきシャルナークのこと見てただろ」
えっ?と言葉が詰まって、何も言えなくなる。何せ、全く身に覚えのない嫌疑だったからだ。俯いていた視界に立ち止まった先輩の足が映ったと思えば、それは回れ右をして、つま先がこちらに向いた。恐る恐る顔を上げると、やはり不機嫌な様子の先輩がいた。予想していなかった言葉に驚きながら否定をするけれど、先輩の不機嫌は消えない。
半刻ほど前のことを思い出す。コート中を駆け巡り、ゴールを決める先輩。フィンクス先輩からボールを奪い、得意げに笑う先輩。そして、先輩の綺麗な足、腕、首、お腹……エトセトラ。何を思い出しても先輩のことばかりだ。記憶をありのまま伝えても、疑惑の目は晴れない。
「その、私は先輩だけしか見てないです。これは本当です。心から誓えます。でも、先輩を不安にさせてしまったことは申し訳ないと思います………。ごめんなさい、どうやったら先輩の気が晴れますか?」
「それなら相応の態度をしろ」
少し思案した後、先輩は悪戯に笑う。先輩の表情から先程までの不機嫌さが消えていて、ようやく胸につっかえていた息苦しさが解消される。けれど、相応の態度という言葉の意図がわからず、首を傾げながら助けを求めて先輩を見つめる。
「………わからないか」
伸ばされた指先は、一切の迷いなく私の唇に触れた。先輩の骨ばった指先が唇をなぞり、艶めかしく蠢く。ぞく、ぞく、と子供の遊び場には似つかわしくない感覚に体を震わせる。悪戯な笑みとその指先の動作で、先輩が言わんとすることを理解した私の頬は瞬時に赤くなる。
「あの、頬でいいですか……?」
私の問いに不満気な表情をしながらも、先輩は静かに目を瞑る。きっと、譲歩してやるということだろう。周囲に人の気配がないことを確認した後、羞恥に駆られながらも先輩の顔に顔を近づけ、至近距離にある先輩の顔をまじまじと見つめる。目を伏せたことによって露わになった長い睫毛と、きめ細かい肌。見慣れぬそれらを見て、いつも先輩からしてもらうばかりで、私からキスをすることはなかったことに気がつく。
頬に向かっていた軌道を修正し、形の良い唇に自分のそれをそっと合わせると、驚いたように見開いた先輩の瞳と視線がかち合う。自分からキスをしてしまった恥ずかしさで先輩から距離を取ろうとしたけれど、腰を掴まれて阻止される。そのまま腰を引かれ、ちゅ、ちゅ、と唇を啄ばまれたことによって、身動きを取ろうとした身体が制止される。腰に当てられた先輩の掌に力が込められて、その力強さにドキドキと鼓動が脈打つ。開けと言いたげにペロリと唇を舐められ、ゆっくりと唇を開くと、舌がするりと侵入してきてゾクリと背筋が粟立つ。口内をねっとりと舌先で舐め合せられると思考が蕩けて、ぼんやりとする。
いつのまにか離れていた先輩の唇から「舌」という言葉が発せられた。先輩は本当にこれが好きだなぁと内心思いながらも、命令されるがまま舌をおずおずと出せば、舌先を指で強く掴まれる。伏せていた瞼を薄っすらと開けば、そこには嗜虐的に笑う先輩がいた。
「お前はワタシのものだろ。違うか?」
先輩の指先に力が込められ、舌に鈍い痛みが走る。痛みで涙目になりながら先輩の言葉に小さく何度も頷くと、捻り掴まれていた舌が解放される。そして今度は舌の代わりに頬を掴まれ、再び唇と唇が触れ合う。 夢中になって捻じ込まれた舌先に舌を絡めれば、艶めかしい吐息がどちらからともなく漏れる。先程与えられた痛みがまだ引いていない舌を優しくなぞられると、痛みの中に微かな心地良さを見つける。硬い何かが舌に触れ、ビクリと飛び跳ねそうになった体を先輩に抱き締められる。
「っ、は……」
先輩の額には汗が滲んでいて、この行為に夢中になっているのは私だけではないことに嬉しくなる。ゆっくりと離れていった先輩の口元に透明な水が滴っていて、咄嗟に先輩の顎から唇にかけて口付ける。少し驚いた表情をした先輩に「垂れそうでした」と言えば、「犬みたいね」と笑われてしまった。