Problem plays
邪魔だから、という理由でローテーブルに放置してあったクラウディオの携帯端末がけたたましいバイブレーションを響かせた時、アルカディアは目の前の現実が信じられなかった。
帰宅した途端に人をソファーに押し倒した行儀の悪い男を抱きしめたのは今から三十分以上前のことだ。
時間を惜しむ必要もないのにただ早く繋がりたいと、はやる心のままに互いの衣服を雑に乱し求めていた肌に触れる。
一ヶ月以上も離れていたクラウディオの肌に匂いに指先に閉じ込められて。アルカディアが熱に浮かされるのはあっという間だった。
気づけばコートと下だけ脱がされて、同じくジャケットを脱ぎ捨て前立てだけを寛げた男の性器を咥えこむ。
目も唇も、今ではクラウディオのためだけの性器に仕立て上げられた後孔もすべてがすすり泣いて喜んでいる。
取り繕うだけの余裕すら放り投げて与えられる快感を受け止めて同じくらいの快楽を差し出したい。
それだけを思って粘膜に包まれたクラウディオの肉竿を締めつけた、ちょうどそのタイミングだった。
「ぃっ、ぁ……」
すっかり茹だった頭に冷や水をかけられた衝撃が全身を駆け巡る。
嘘だろ、とか何でこんなタイミングで、とか。言葉にもならない思考がぐるぐると回り巡るがその間も端末は鳴り続ける。
間違いなく仕事の連絡だろう。しかもきっと至急の案件だ。すぐにでも出なければならないと分かっているはずなのにシクラウディオは動くことを忘れたかのように黒いローテーブルの上でうなるそれを見つめている。
その横顔に普段のような怜悧さはなくわずかばかりの苦痛を湛えたこめかみに汗がしたたり落ちる。
「っ……」
「で、て、はやく」
俺は大丈夫だからとちっとも大丈夫そうじゃない声と顔で急かす。
こちらに流し目を向けたクラウディオは一拍置いて、悪いと短く詫びて端末に手を伸ばした。
「あ、」
まさか抜かないで電話に出るとは思っていなかったアルカディアの指摘が口をつくより先にクラウディオの指先が荒っぽく端末の画面を叩いた。
「手短に話せ」
先程まで興奮で掠れていた声が一瞬で零下へと変わる。通話をかけてきた相手もさぞ驚いたことだろう。
修羅場と勘違いしないだろうか、だがこちらも大変驚かされたのでこれでお相子になるのではと、まだ輪郭もぼけた思考でアルカディアは思った。
「……そのルートは既に潰したはずだ。残党か?」
「ぅっ……」
声を出さないように、気づかれないように。そう思ってことさらに息をひそめようとしてもクラウディオが話す度に中の陰茎がびくびくと小刻みに動く。
緊張状態にある身体にはそんなささやかな動きですら甘い毒でしかない。思考とは裏腹の身体は、やわく溶けた肉の輪を押し広げるだけで動きを止めた熱の塊を勝手に締めつけてしまう。
浮き出た血管のおうとつが弱いところを撫でるようにやわく引っ搔くのがたまらない。
アルカディアはどうにか快感を落ち着かせようとゆっくりと息を吐き力を抜こうとした。
だがこんなささやかな刺激では足りない、とくちゅんと濡れた音を立てる肉のふちからぬるつく粘液が溢れて肌を伝う。
尻の合間をたどり尾てい骨へと滴るその感触がぞわぞわと肌をくすぐりやがて全身へと広がっていく。
もう何をしても気持ちが良くなってしまう事実はアルカディアの身体と思考を甘やかに苛んだ。
昂って敏感になった身体にとってこれは焦らされているのに過ぎないが、動いてとおねだりをすることすらできない現状を理性が理解しているだけに余計に苦しさが募る。
そしてそれはクラウディオも同じことで、通話に集中しようとしながらも繋がった場所から伝う快感が容易に許してくれない。
すぐに終わらせるつもりで挿入したまま通話に出てしまったが今にして思えば焦り過ぎたあまりに取った悪手だった。しかも伝えられた用件は後で処理すると言いつけるには殊の外厄介な内容だった。
『社長?』
「何でもない。報告を続けろ」
不機嫌さを理性で抑え込んだ声が小さな振動となって身の奥をふるわせる。
これは長くなる、とクラウディオの眉間の皺が深くなったことで気づいてしまう自分の洞察力の鋭さが今は嫌だった。
だが、それならば仕方がない。アルカディアの身体はもう限界だった。
通話の相手は真面目に仕事をしているだけなのに、責務を果たしているだけなのに。
怜悧な社長の声できな臭い話をする男の前で、だらしなく足を開いて熱を奥まで受け入れて息をひそめてただ耐える。
彼の仕事を邪魔しないように、他の誰にも気づかれないように。
その背徳感はびっくりするほどアルカディアの身体を気持ち良くさせた。
ソファーにぴたりと張り付いたままになっていた足裏に力を込める。もぞもぞと緩く腰を動かすと中に入っているクラウディオの陰茎の位置が変わり、カリ首が粘膜をごりゅっと引っ掻いた。
「……ふっ……」
これには堪らずとっさに喉を絞り手のひらで口を押えたがそれでもわずかに甘い吐息がこぼれた。
クラウディオの瞳が大きく見開かれるが片手で口を覆いながら首を振る。
こんな状況下で腰を振るようなリスクの高い真似をするはずがないだろう。片方の手で下腹部を押さえ抜いてほしい、とジェスチャーで伝える。
これ以上クラウディオの性器を受け入れたまま耐え続けるのはもう限界だ。
お互いのために良くないという意図を込めて半ば涙目で訴える。眉間の皺はいっそう深く刻まれたもののクラウディオもまた限界を感じていたのだろう。結局は承諾してくれた。
「少し待て」
それはどちらに向けて言った言葉か今のアルカディアには分からなかった。
ゆっくりと引き抜かれていく熱の塊に耐えるのに必死でそれどころではいられない。出ていかないでと引き止めるように肉のふちが最後にきゅうっとクラウディオの陰茎を絞ったのは自分の意志じゃない。
「ふ、ぅうっ、っうっ……」
惜しむように陰茎が引き抜かれ、開いたままの後孔からは先走りと混じりあったローションがとろりとこぼれる。
満たされないままにいなくなってしまった熱を求めてはくはくと嬬動するそこに注がれるクラウディオの視線が恥ずかしくて、アルカディアはふるえる両脚を慌てて閉じた。
残念そうに目が細められるがそれも一瞬のことで、男はすぐさま意識を会話に引き戻した。
快楽を与えてくる熱の塊を身体から抜き去ったことでようやく一息つけたアルカディアは手のひらの奥で荒い呼吸を繰り返す。
上体を起こして伸ばしきったままになっていた足を引き戻すと、ソファーの肘掛けに背中を預けて足を立てる。
うずく後孔もその奥も今はどうしようもないのだから、素直に言うことを聞いて欲しいと心の中で𠮟りつけるがどうせ大した効果はないだろう。
それよりも引き抜いたばかりでいまだに腹に反り返るほど大きく育ったクラウディオの陰茎に視線が勝手に向けられるのをどうにかしなければ。
じっと見つめるのはマナーに反するだろうし自分が欲しがっているようで恥ずかしい。いや、身体は確かに欲しがっているのだが。
熱に浮かされた思考はそう簡単に鎮まってくれない。あとどれくらい我慢すれば良いだろうかと考えながら必死に息を整えていたが、耳に入ってくる会話は一向に決着する様子を感じさせない。
そればかりかこれは聞いてはまずいのではないかというような単語や話題まで飛び出してくる。聞きたいような聞きたくないような。普段のクラウディオならば席を外し聞かせないようにするような話をしているのに、急ぐ男にそれを気にする余裕はないのかもしれない。
そう思うと少しだけ心の奥が軽くなる。
「……」
アルカディアは意を決してソファーから立ち上がった。
とっさに伸ばされたクラウディオの手が手首を掴む。差し向けられる鋭い視線が離れるなと言っていることは理解できたが、首をゆるく横に振って腕を引く。
安易に立ち入らないと決めた領域を守ることはお互いの関係を守るためでもある。
ぐぅっと眉根が寄せられ名残惜しむように一度強く握られた手首が解放された。
余裕がないのも苦しいのもお互い様だったが、アルカディアは自由になった手で手触りの良い赤みがかった灰色の髪を撫でる。彼ほどではないが、物分かりの良いふりは得意なのだ。
小さく笑ってクラウディオに背を向けて向かった先にあるのは冷蔵庫。そこから飲料水のペットボトルを二本取り出したあと、椅子にかけていたブランケットを一枚手に取るともう一度ソファーに戻り男の膝にかけてあげた。男として立派過ぎても困ることはあるのだということを同性ながらアルカディアは初めて知った。
顔を覗き込むような真似はせず水の入ったペットボトルを一本押し付けて、コートを羽織るとすぐさま背を向け、ドアまで歩を進める。
温度の無い無機質なドアに触れた時ほんの少しだけ期待と不安に胸の内がさざめいた。だが耳に入ってくるクラウディオの声は通話相手に向けられている。
「俺のことは気にしないで大丈夫」
小さくひそめた声でそっと呟いたが聴覚の優れた男の耳にはきっと届いただろう。
アルカディアは躊躇うことなくドアを開け廊下へと出ていく。
遠ざかるその背中を食い入るように見つめる琥珀色の双眸が獰猛な光彩を帯びていることに気づかぬまま、ドアは無情な音を立てて閉じられた。
「っ、はぁー……」
廊下を進み、たどり着いた先はバスルーム。ドアが閉まるなりアルカディアはその場にへたり込んだ。
真っ赤なコートの裾が広がりまだ熱を帯びる肌が冷たい床とぴたりと触れ合う。その感触にすら肌が粟立った。
堪えて我慢して惜しみつつも何でもないことのように振る舞った。さっきまでの自分はとびきりいい男だったはずだ。きっとクラウディオも惚れ直してくれたに違いない。そこまで考えて口の端から小さい笑い声が漏れた。
つい先程まで熱の塊を受け入れていたところはいまだにじくじくとした快楽を生みだし続けている。身体の奥から焦れて欲しがっている男は今もドアの向こうにいるというのに手出しできないなんて、まるで質の悪い拷問みたいだ。
「んぅっ……」
バスルームに籠ってやり過ごそうと考えていたのに通話相手やクラウディオの体面を考えなくて良いという開放感から箍が緩んでしまったらしい。
アルカディアの視線は自然と、コートの中にまとった黒のカットソーの裾を押し上げている性器、ではなくその更に奥の方へと注がれる。
ゆっくりと両脚が開かれ指先が肌を伝うようにそろそろと後孔へと向かっていくのを止める術がない
「…ん」
ナカにたっぷり注がれたローションがとろとろとこぼれ落ちるのを指先ですくい上げる。自分の身体とは思えないくらい柔らかくなったそこを、ぬるつく人差し指でおそるおそる撫でれば、もう耐えられなかった。
「ぁっ」
指よりももっと大きいものを受け入れていた肉のふちにアルカディアの指は細すぎる。人差し指一つを難なく飲み込んで奥へと誘いこむ。
あつい、やわらかい、きもちがいい。
喪失感に飢えていナカはそれだけでも上手に快感を拾い脳に伝える。吐息は熱を取り戻し、控えめに開かれていた足はどんどんだらしなく広がっていく。一度引き抜いた指は今度はまとめて三本いっぺんに。
「ん、ぅっ、はぁっ……」
飲み込みきれない嬌声が唾液と一緒に口の端からこぼれ落ちる。ぐちゅっと根本まで押し込んで絡みついてくる粘膜を指の関節で引っ搔くようにして引き抜けばそれまでより少し強い快楽が湧き上がった。
それでもまだ物足りないと思うくらい太くておおきな陰茎をいつも受け入れているのだという実感が脳を焼く。自然と左手が持ち上がりやわらかい唇の皮膚に触れる。
口寂しい、という言葉を知ってしまった口内はためらいなく自らの指を受け入れた。
熱くてぬるぬるした口の中を二つの指が唾液を絡ませながら行き来する。時折爪で上顎の粘膜や、やわい舌先をつつくと頭の後ろにじぃんとした痺れにも似た感覚が走った。それはクラウディオに口づけられている時に感じる性感を何倍にも薄めたような感覚だった。
「ふ、ぅ、んぅ……っ」
口内を遊ぶ左指の動きに合わせてナカに押し込んだもう片方の指の動きも早くなる。ぐずついた粘膜を指先でくすぐって引っ搔いて押し広げる。
自分の頭が少しだけおかしくなっている自覚がアルカディアにはあった。普段自慰をする時よりもずっと気持ち良くてそして物足りない。触れ合っていたはずの熱が今はない。
クラウディオの指と性器はもっと太くて肉のふちを搔き分けて前立腺を押し上げてくれる。唇も舌ももっと熱くてしつこくて、キスだけで射精してしまうくらい情熱的だ。
「……くら、でぃお……」
その名を呟いても応えが返ってこないなんて分かり切っていることだ。クラウディオは今自分の果たすべき責務と向き合っている最中で、そこに立ち入らないと決めて離れたのは自らの判断だとアルカディアは自分に言い聞かせた。
「……ふ、ぅ……」
快楽と未練にまみれた吐息を一つ吐き出した後、アルカディアは後孔を慰めていた指を引き抜いた。収まりつかないような状況で放り出されたのはクラウディオも同じだ。それなのに彼は仕事をして自分は一人で勝手に快楽を追ってはあまりにも情がないではないか。
身体の奥がじくじくと疼いて続きを強請るのを無視して、ふるえる足を𠮟咤しながら立ち上がった。自分自身の肌が擦り合う動きにさえ快感を覚えるような不自由な身体を無理に動かしてコートを脱ぎ捨てる。汗ばんだ服は肌に張り付いて脱ぎにくいがどうにか袖を引き抜く。
脱いだ服を脱衣かごに放り込んだ自分を雑に褒め称えて、アルカディアはふらつく足取りでバスタブへと向かった。これで転んだら洒落にならないと慎重にバスタブの中へと移動して水温などお構いなくレバーを上げた。
ザァーザァーと降り注ぐシャワーの冷たさが火照った肌を洗い流していく。普段なら心地好いと感じるはずのそれも今はこの身に残った男の匂いと熱を薄めてしまうだけだ。
だがそれで良いのだと急激に冷静さを取り戻していく思考が迷いなく告げてくる。
通話を終えたクラウディオがその気を失くしていたら?急ぎで片付けなければならないと、すぐにでもここを離れる可能性すら考えられる。
もしクラウディオがまた出掛けるとなった場合、できるだけ平常時の自分でいた方が心の負担も軽くなるだろう。惜しむ心も叫ぶ声もすべてを水に流すことはできないがそれでも被害は最小限度で済むはずだ。
そんなことをアルカディアは本気で考えていた。
肌を撫でる水流はやがて温かな湯へと変わっていく。それを少しずつ心地好いと感じられるようになってきたアルカディアが折角ならお湯でも貯めてしまおうかと思いかけたその時だった。
トントン、とドアを叩く音がバスルームに響き渡った。
「……クラウディオ?」
それ以外に選択肢はないのに思わずその名を呟くと、聞こえた訳でもないだろうがもう一度ドアを叩く音がした。先程よりも強く。
何か言っているような気がするがシャワーを流したままでは声が聞き取りづらい。アルカディアはレバーを戻して水の流れを止めてバスタブを出る。
「……通話は終わった。ここを開けてくれ」
ドア一枚隔てた声は普段より一段階低く、何かを堪えるような響きを湛えているように聞こえる。これは今日はこのまま流れるのかと思いかけたアルカディアは続く言葉に我が耳を疑った。
「開けないなら仕方ない。ドアはまた修理する」
「!?すっ、すぐ開けるから待って──」
そんなに至急の案件だったのかと慌ててドアに駆け寄る。濡れた足がつるりと滑ったが目前に迫っていたドアに手を付いたおかげで転倒だけは免れた。
だがそれに安堵している暇はなく慌ててロックを解除すれば間髪入れずに勢いよくドアが開かれる。再び支えを失いかけた手は扉のふちを掴む。前のめりになった身体は壁のような硬い肉体にぶつかった。
視線を合わせようと顔を見上げればクラウディオの美しい顔は顰め面に歪んでいた。
「会社、行くの?」
「行かせるのか?」
質問に質問で返され困惑しながら首をかしげる。濡れた前髪から雫が落ちてぴちゃりと床の上を跳ねる。
「…行かないの」
「行ってほしいのか」
不機嫌が極まったような男の様子にこれは何かとんでもなく嫌なことが起こったのだと察した。
クラウディオの取り扱いが正直難しいのはいつものことだがこうなってくるとかなり厄介だ。
ううん、と唸り声を漏らすアルカディアの濡れた髪をクラウディオが無造作に一房を摘まむ。眉をひそめたままの秀麗な顔は苦痛を堪えているようにも見えた。
「急ぎの案件…とかで、今すぐ会社、行かなきゃならない?」
「通話は終わったがすぐに出る状況じゃない。離れて欲しかったのか?」
「…ううん。優先しなきゃだめな仕事かと思っただけ…」
「指示は送った。私の判断は必要ではあったが直接出向くほどの用向きじゃない」
「…ほんとに?無理してない?……いま冷静?」
「私の判断が不満か?」
「そうじゃ、ないけど…」
アルカディアはそう言って視線をさ迷わせる。髪に含んだ水滴がつぅっと顔に滴ってくすぐったさを呼び起こす。
いつまでも濡れたままでいるのも良くないかと思い、タオルを取りにバスルームの中に戻ろうとしたところで大きな手に手首が掴まれた。
見下ろす視線は力強く、言い様のない吹雪が吹きすさんでいる。アルカディアは少しだけ不思議な気持ちで瞳を瞬かせた。
「…クラウディオが、こんなに不機嫌になるの、珍しいね」
「そうだな。相当厄介な話だったよ」
「そんなに…」
「ああ、だがもう良い。最初から話など聞かずに扉を抉じ開けてお前を食らえば良かった。つまりは私の落ち度だ」
あっという間に絡みついた指先と腰に回された手が濡れた身体を引く。吐息が聞こえるほどに間近に迫った顔を見上げれば、瞳孔が開ききった琥珀色の瞳に吸い込まれる。
「んっ…」
声を上げかけた唇がもっと大きな口に食まれて舐められた。ぞわりとした感覚が首筋に走り反射的に開いた口内に長い舌が差し込まれる。
敏感な上顎の粘膜を舌で撫でられたアルカディアの脳裏に少し前の記憶が呼び起こされる。自分の指を口に含んで弄った。あの時の口寂しさを思い出せなくなるほどに熱を帯びた口づけが呼吸と理性を奪う。
自由になる左腕が自然とクラウディオの背中に回り落ちないようにシャツを掴む。
「ぅっぁ…ふっぅ」
ようやく唇が解放されたら息を吐く暇すらなく、腕を引かれてバスルームから引きずり出される。廊下の壁に背中を押し付けられたアルカディアは悲鳴を上げた。
「ぁっ、くらでぃお、ここ、っや…」
声は再び押し付けられた唇に再び吐息ごと大きな口に飲み込まれた。
水に濡れた太ももに腕が回され抱き上げられる。自然と背が反り返り胸を突き出すような姿勢になり男のシャツに固くなった胸の突起が擦れてささやかな快感に腰が跳ねる。
足を抱えたのとは別の手が尾てい骨をなぞり後孔をへとたどり着く。まだやわらかく濡れたそこに二本の指がまとめて埋め込まれアルカディアが喉の奥でひと際高く鳴く。
「んぁっ、ぁッ…ぅんっ、ぅ……♡」
合わせた唇の合間から抑えきれない嬌声が漏れる。ばらばらに動く指が粘膜の具合を確かめているのだと気づいて、そんなことする必要なんてないのにと頭の片隅で思う。
収まりかけていたアルカディアの陰茎は二人分のお腹に挟まって擦られてふたたび緩く立ち上がってとろとろと先走りをこぼしている。
後孔だってそうだ。クラウディオの指を受け入れて嬉しそうに粘膜を絡みつかせ、もっと大きいものが欲しいとナカに含んだローションをこぼしながら締めつけている。
「ぁっ、ぁ、んぁっ♡はっ……も、くら、でぃお♡」
「ああ、分かっている」
唇を解放しようやく輪郭が分かるくらいまで顔を離した男は指を引き抜いた。代わりに熱の塊が尻の合間をぬるりと這う。触れるだけで溶けてしまいそうなほど熱くなったそれが窄まりに向かって伸び、抱え上げられたアルカディアの右足がひくりと痙攣した。
苦しい姿勢だと言うのに背中を壁に押し付けて身体は少しでも受け入れやすい態勢を取ろうとする。だがそんな正直な身体を笑う気は起きない。
先端が後孔に擦りつけられる。押し広げるようにぐずついた粘膜を巻き込んでナカへと入り込んでいく陰茎に腰がバネのように跳ねた。
「ぁ、あッ♡ぁ…ぅ…ぃっ、くっ……♡」
快感が脊髄を駆けのぼり脳まで到達したそれは強い快楽となって一瞬で思考を埋め尽くした。
目の前の男に向かって迷わず腕が伸び首筋を回って頭を抱く。手触りの良い髪の毛と耳をまとめて指先で搔きむしって顔を押し付ければ耳元に熱い吐息が触れた。
「ぐっ……」
「はぁっ、ぁんっ♡んやっ♡あ、ぁっ♡ッあ゛♡」
頭の後ろに焼けるような快楽がわだかまっている。薄い水の膜が張った瞳は焦点が合っていない。
クラウディオの硬い腹筋に擦り上げられたアルカディアの性器は先端からとろとろと白濁した精液がこぼれているが射精までは至らなかった。
精液を溢れさせるよりも先に奥でイってしまった自分に驚く程度の理性は残っていたが、じんじんと痺れるような絶頂の余韻は去っていかない。
きもちがいい、きもちよくなっていい。
先程は罪悪感に押し負けた快楽への欲求は倍になって戻ってきて、アルカディアの精神と肉体を甘く苛んだ。すんすんと鼻を鳴らして瞳をすがめる。
抱きしめたクラウディオの頭に頬を擦り付け、今は汗でしっとりしたやわらかな髪に顔を埋めれば男の喉からぐるぐると物騒でかわいい音が漏れる。
「く、くら、でぃお…♡きもちい、もっと、♡」
「最初から、そうやって望んでくれ」
興奮に掠れた声が鼓膜を直に揺さぶる。どこか苦笑が交じっているようにも聞こえるのは気のせいだろうか。
「んぅっ、ぁ♡は…ぁっ、ぅあっ、ぁ…っ♡」
陰茎がお腹の中でまた大きくなって弱いところをぐぅっと押し上げる。腰を揺さぶられ奥へ奥へと入り込んでいく熱に蕩けた粘膜が吸いついて舐めしゃぶる。
次第に大きくなる腰の動きに、かろうじて床についていた足先ががくがくと痙攣したことに気づいたクラウディオが両脚を抱え上げた。
「はっ、ひっん、ぅあっ♡っあ…っやぁっ♡」
支配権を奪われたアルカディアの薄い身体が奥深くまで太い肉竿に貫かれる。肩にしがみついた両腕は不安定な態勢への恐怖感ではなく一分の隙もなく抱きしめてくれたことへの歓喜にふるえていた。
男の激しい動きに合わせて喉からひっきりなしに嬌声がこぼれ落ちる。亀頭が奥を叩きつけ押し上げる度に粘膜は爛れ落ち強い快楽が全身に満ちていく。
焦れて蕩けた肉体に二度目の絶頂はあっという間に訪れた。
「ぁっ、あっぅ♡うっ…んぅっ♡ぃ、うっ…!!♡」
「っは……」
意識が遠のくほどの甘い快楽が身体の奥、脳髄の奥で一斉に飛び散った。
強すぎる快感から逃げるために反射的に抱きしめていたクラウディオの身体にぎゅうと強くしがみつく。身体の奥が熱い精液で濡らされる感覚がわだかまった快感を助長する。
ふるえの収まらない全身を労わるように、首筋に口付けられ、その感覚にすら追い打ちをかけられアルカディアは軽く甘イキした。ナカでイくのと同時に射精した陰茎はお腹の間に挟まれたまま精液の残滓をこぼし続けている。
二度もお預けされた身体が生み出した快感は重く、いまだ振り払いようがないほど全身にまとわりついている。射精の余韻に浸りきりどこへも行かせないというほどに強くこの身を抱きしめている男の頬に、アルカディアはそっと唇を寄せた。
「は、ぁっ、ぅ…くら…でぃお…」
「……どうした?」
「つぎは…ベッド、がいい……」
ほとんど水没したような声のまま泣きつけば、クラウディオは低く笑ってわかったと耳元で囁いた。
その後二人は今度こそ何に邪魔されることもなく、クラウディオの気が済むまでアルカディアの意識が二度三度と飛ぶまで、抱き合い睦み合った。