「ねぇクラウディオ、私…かいもの、行ってきてもいい…?」
もうすぐ風呂を上がろうかという頃合に、磨りガラス越しで恋人が声をかけてきた。明日は久々のデートの予定だったのだが、何か忘れ物でもあったのだろうかと首を傾げる。
そもそも、そんなに物は持たないアルカディアである。さすがに下着やら化粧品やらは持っているが、服はなければこちらの物を勝手に漁って纏っているのだ。もちろん一向に気にしないし構わないのだが、可愛すぎるからやめてほしくもある。
そう、何から何まで可愛い恋人だ。夏場とはいえ、もうすぐ日が完全に沈もうかという時間である。汗を流す為に早い時間帯から風呂を満喫していたのだが、さすがにアルカディアを一人で行かせるつもりはなかった。
「少し待て、私も行く」
「…でも、汗流したのに、」
「私も買いたいものがある」
ささっと体を拭いて、下着とスラックスを身につける。まだ上半身は暑くて纏えないな、とタオルで髪を拭きながらリビングへ向かった。もうすぐ夜の帳が下りる、斜陽がなくなってから出ようと提案しかけて、固まる。
「…ちょっとジュースとお菓子、買うだけだよ」
ソファーに腰かけて、アルカディアはこちらを見ながら口を開く。呟いたとおり「ちょっとだけ」のつもりなのだろう。たしかにそれでわざわざ一緒に行くと言われるのは、過保護とか過干渉とか思われるのも仕方がない。
しかし───しかしだ。
「……………アルカディア、そのまま行くつもりだったのか?」
「…?…うん、だって近くだし」
今の恋人の格好に、頭を抱えたくなる。
襟ぐりが広めのTシャツで、しかし体のラインにぴたりと沿うようなタイプらしく、まろやかな胸の形もわかる上に谷間までしっかりと見えていた。更にはとても丈の際どいショートパンツを履いており、そこからのびるのは白くて長い素足だ。角度によっては正直、お尻と太腿の境目、何なら下着まで見えてしまうのではという不安に駆られる。
恐ろしく整った顔立ちに美しい双眸を持つアルカディアだ、ほっそりとした首筋も晒されており、明らかに男物のジャケットを羽織っているとはいえ、こっちの気持ちにもなってほしいところだ。
「アルカディア」
「なぁに、くら…、ッ!」
顔を上げたタイミングで、柔い唇にキスを落とす。ちゅ、と触れただけのそれだが、いきなりの行動に「はわ……」と慌てるのがアルカディアである。
じわ、と眦が染まるのを見ながら、後頭部を支えるようにしてキスを続ける。そのままソファーへゆっくりと押し倒し、はふ、と可愛い息継ぎに目を細めつつ舌を差し入れた。
「ん………」
恥じらうような動きで、アルカディアの細腕が首へと回る。それに伴って落ちていったタオルを視界の端で見送りながら、口元を疎かにしないように片手を滑らせる。
頬、首、鎖骨と指先のみで辿り、魅力的な曲線を描く乳房は遠回りをするように外側をなぞって、下乳を擽る。多少なりと息遣いが乱れるのを聞きつつ更に下り、ショートパンツのゴムの部分へ引っかけ、悪戯をするようにパチンと弾かせた。
「…ね、くらでぃお……」
「ん?」
今、体勢としてはアルカディアの足の間にいる為わかりやすいのだが、両側の太腿が閉じてしまいたくてもじもじしているのだ。キスと微かな触れ方で、少しでも『その気』になってくれたがゆえだろう。だからこその、直接的な接触がない為の呼びかけだが、それは敢えて無視をする。
手は腹部から撫で下ろしていき、唇はキスをやめて谷間の近くに吸いついた。小さく身悶えて甘い吐息の声を零すアルカディアを一瞥し、太腿から膝まで下っていた手を戻す。
ショートパンツの短い裾から差し入れれば、すぐに下着のラインが指先に触れる。
「ひゃっ?!くらでぃおっ」
「何だ?」
「ッ───ぁ、んっ♡」
谷間を作る乳房にも吸いつき、甘く噛みつき、舌を這わせた。そうしながらも片手は意地悪がしたいようで、ショートパンツの中、下着の上から陰毛近くをゆるゆると撫でて、時折、親指で会陰部を撫でて気を逸らさせる。もう片方の手も同じく裾から入り込み、更に下着の中にまでもぐり込んでまろやかな尻を掌に収めた。
我ながら、何故に恋人のショートパンツの中という狭いところで可愛がっているのだろうと苦笑してしまう。
「は、ぁぅ……ッ、ん♡」
裂け目へ沿うように指を当てて殊更ゆっくりと撫で続ければ、下着がじわりと湿り気を帯び出す。ならばと布越しにぐいぐいと指先を押し込むような動きをすると、アルカディアは大仰に反応してみせた。
指に纏わりつく熱気と愛液に、思わずこくりと喉が鳴る。
「アルカディア、わかったか?」
「……んぇ………?くら………」
「こんなに短いパンツだと、こうも簡単に触られる。ほら、すぐに指が入る」
「ッ、あ!く、ら……ッ!あ、ッ、ふ…ぁ……!♡」
ショートパンツも下着も脱がさず、隙間から指先を忍び込ませてクリトリスを擦る。可愛がるように転がせば、ビクビクと震えながらしがみついてくるアルカディアにどうしようもないほどに劣情をそそられた。
だが、今は自分の愚息よりも、可愛い恋人の無邪気で際どい格好についてである。
「アルカディア、返事は?」
「………ふぁ……い」
「ん、いい子」
本当にわかったかどうか怪しいところだが、真っ赤な顔で瞳を潤ませながらも返事をしたアルカディアである。明日にでもちゃんと説明してやろうと考えながら、額に一つ、唇に一つとキスを落として褒めておく。
さて、もう一度だけシャワーを浴びるか───と身を起こそうとしたところへ、アルカディアの腕が首元に絡みついて離れないことを知る。
肩で息をしながらも、今にも双眸から宝石を零しそうになりながらも、真っ赤な頬を首筋まで色づかせながら「…ねぇ」と甘く、甘く囁いた。
「……………くらでぃお、しないの………?」
乱しはしたが、着衣はそのままのアルカディアである。悶々としたがゆえの珍しい誘い文句だったのだろう。
据え膳、食わぬは何とやら。
ここで買い出しを優先させる為の言葉など、思いつくはずもない。