I need a reply



今、アッシュの脳内には人間の解剖図が浮かんでいる。主に腹部の腸内が透けているあれだ。人間の内臓の構造は国籍によって変わることはほとんど無い。魔人族は知らないが、人間も精霊も胃の次は十二指腸だし、胆嚢やら膵臓があって…。いや、まれに心臓が右にあるような人がいるらしいが、本当にごく稀だろう。

「…アッシュ、随分と上の空じゃねえか」

「………」

そうだ、気を逸らしていないとやっていられないからだ。大人しく組み敷かれているだけありがたく思ってほしい。

現状を説明しろというのであれば、アッシュは今うつ伏せにベッドに寝かされていて、背後にいるサファイアに下敷きにされている。というか、押し潰されていると言ったほうがいい。とにかく、背面にべったり覆い被さられていて、さらに言えば体内にサファイアの男根を押し入れられた状態で、要するにセックスの真っ最中だ。

なんで自分とサファイアでこんな事をする関係になって要るかというのはあまり重要ではないので割愛しよう。サファイアという男は見かけや日頃の振る舞いによらず、スローな行為を好んでいるようだった。いや、この男以外のセックスがどんなものかはよく知らないが。とにかく、アッシュが想像していた性行為というもののおよそ半分かそれ以下のノロノロな肉体関係が惰性のように繰り返されていた。

「ぅ……くっ…ぅ」

アッシュの肩がふるりと揺れ、額を枕に擦り付けた。先ほどから、ゆるゆると浅いところを擦られながら、徐々に奥に入りこまれている。脳内の解剖図と照らし合わせる。自分の内臓の長さなど知る由もないが、そろそろ腸壁に当たって止まるだろう。一般的に男性の性器は手首の付け根から中指の先まで、サファイアのは、正確にまじまじ見たことはないが。
一方、アッシュの腸長はというと、サファイアの中指の長さくらいが、入口(本来は出口だが)から腸壁までの長さにあたるくらいだろうか。何が言いたいかというと、到底全部押し入れられるはずがないので油断しているということ。ニュルニュルと飲み込んでいってしまう腹の感覚もそこまで、神経を直接撫であげて痺れさせるような快楽も、あと少しと思えば耐えられそうだ。

と、思ったんだが、なんか、違う気がする。

「っ…、ちょっと、……待って、ください…」

「なんだ?」

身じろぐつもりが、サファイアの左腕に抱き抱えられるように固定されていて、首から上しか動かなかった。

「い、いつもと…違うんですが…」

「何がだ?」

何がだ?

白々しい、馬鹿なこと言ってないで止まれ。どう考えてもおかしいだろう。
腹の中で、くぽり、となんだか嫌な感触。今どうなってる?

じっとしていられなくて、顔を枕に押し付ける。息が苦しくて顎が跳ねた。やっぱり酸素が足りてない。深呼吸したいのに息が乱れてうまく呼吸を整えられない。後ろにいる男は相変わらず黙って押し付けてくる。

「ん…ふっ……う…っ…」

押し付けられた身体がビクンと跳ねた。一瞬硬直して力が抜ける。明らかにイッた。軽く。
サファイアの右手が悪戯にアッシュの腹部を撫でている。全身で押し付けられているので撫でるというよりはマッサージのような指圧。にゅうるとまた腸が何かを引き入れる感覚。ギクリと腹に力が入る。変なところが刺激される。
これ、やばいのでは…?とじわりと自覚してしまった。

「はっ、あっ…、サファ、イアさ…い、ま…うごくな…」

「もとより動いていないぞ」

「う、そ…つくな…ぅ…っ」

変な汗が出る。動いてないならなんでこんな気持ちがいい。腸内が変な動き方をしている。感覚として、想定している位置より奥に入られている気がする。
背後で溜息のようなものが聞こえる。なんだかやけに近い、そりゃそうだ、押し潰されているから。

「アッシュ…全部入ったぞ」

耳元で、ほとんど息のような小さな声で囁かれる。
入るわけない。自分のサイズと内臓の比率をもう一度よく考えろ。

「いや、入るよ。解剖図を持ってきて説明しようか?」

本当に何言ってるんだ。
文句を言いたいが、口から出てくるのはやけに高い詰まったような呻き声と下手な呼吸音。

「…ここの、腹のこの辺り」

言いながら中のブツをニュルッと少しだけ引き抜かれる。頼んでないのに説明を始めるな。

「…ッ!…ぅ、うごくな、って…言っ…」

「ここに腸壁がある、ここ、感覚として当たってるのがわかるだろ?」

くぽり、さっきの変な感触の後、こつこつと腹の奥を押されるような圧迫感。正直吐き気を催すのでやめてほしい。

「ここから先に入るには、本来腸壁に沿って曲がるような軟性の高いもんである必要があるが、ほら、こうやって外から押してやると…」

「あ“っ!ぅ…んっ〜〜〜!?」

くぽり、にゅるぅ…

「こうやって、内臓を外から圧迫すると本来横向きに捻れている口が真っ直ぐになるんだよ」

どうだ、凄い発見だろう。と言いたげな男をよそに、アッシュの脳みそはビリビリと与えられる刺激に痺れていた。背骨からゾクゾクと上がってくる快楽に、勝手に身体が跳ねようとする。動けない分、中の締め付けが増す。また刺激される。完全に悪循環だ。

「は、ッ!…んっ…こ、れ、駄目…だ…」

「ん?何がダメなんだ?」

「あッ!…っ!だ…め、っ」

「だから、何がだ」

絶頂で息が詰まってしゃべれないアッシュを尻目に、サファイアは悠々と締め付けを楽しんで居るようだ。何がも何も、全部ダメだった。無駄に太い幹とベッドに押し付けられて前立腺が潰されているし、神経なんてないはずの腹の奥が、入り込んでいる先端をきゅうきゅうと締め付けてしまって、その度に我慢できないくらい快楽が生まれてくる。クソ野郎、見てわかるだろう、こっちは死にかけだ。

「死、ぬ…これ…そこ、入ったら…無理…です」

「死なないよ、はぁ…凄いな…ん、飲み込まれそうだ」

「あっ、あ…ッ、……っぅ!」

ガクガクと震える身体、口内に溜まる唾液を気にすることもできずに喘ぐ。目の前がチカチカと瞬いて、何を口走っているかもわからない。完全に理性が飛ぶ。

「アッシュ、きもちいい?」

「っ、ぅ、あ……ぅ……♡サファ…イア…さ…」

「ふっ、かわいいなあ」

こめかみにキスをされる。ゆるゆると動かされて、また絶頂。呼吸と一緒に「あ」だの「う」だの、母音しか出てこない。ふわふわと、何も考えられなくなって、覚えていられたのはそこまでだった。



引き上げられるように意識が浮上して自分が寝ていたことを自覚する。正直、どうやって寝るまでに至ったのかまるで記憶がない。汗だくになっていたはずだが、不快感はなくつま先から頭の先までさっぱりしている。時計を探そうと身体を捻ろうとして、鈍い違和感に横向きのまま丸くなる。あの野郎、やっぱり入ったらダメなところだった。ふつふつと送信していた恨みの念が届いたのか、部屋の扉が静かに開けられた。

「おはよう、まだ起きるには早いんじゃないか?」

「………」

丸まったまま睨まれてもなんの威厳も感じられないだろうが、睨まずにはいられなかった。

「なんだ、寝違えたか?」

「よくそんな白々しい事が言えますね。…9割以上貴方が原因だ」

「おっとそれは失礼、お前も内臓は人並みだったってことかぁ」

全く悪びれる様子が伺えない。何でこんなにふてぶてしいんだ。言い返すのも馬鹿馬鹿しくなって、アッシュは頭から毛布をかぶった。

「寝るのか?」

「……」

「アッシュ」

無反応の毛布団子を眺めても何の面白味もない。

「……アッシュ、どこが痛い?」

サファイアがベッドに腰掛けて、毛布の上からさすってやっても、ピクリとも動かない。サファイアは、お前だって楽しんでただろうという言葉を飲み込んで、気づかれないように小さくため息をついた。

「悪かったよ、もうしない」

「……」

ただの毛布だったかたまりが、ようやくもぞりと動いた。

「…お前がそんなに嫌がるなら」

毛布の端が持ち上がったので、遠慮なく潜り込んで丸まった身体を抱き込んだ。
サファイアの胸元にアッシュの後頭部が押し付けられて、居心地のいいスペースを探している。収まりの良くなった所で、大人しくなった。

「何時に起こそうか」

「いや、勝手に起きて出て行くから気にしなくていいです」

「お前もう少し情緒ってもんを学んだらどうだ?」

「どの口が言ってるんですか?」

呆れたような言種だが、声色は穏やかだ。他愛のない会話の応酬で、アッシュがもう怒ってないことを悟る。サファイアは内心、そんなに容易く俺を許してしまうから調子にのるんだぞと思いつつ、まぁ、半分くらいは反省しつつ、少しだけ力をこめて自分より少しだけ小さな身体を抱きしめた。