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It's only you



アルカディアは生まれてこの方、性的興奮を覚えた事がない。他人に欲情した事もなければ自慰すらまともにした事がなかった。そもそも性行為に興味がないし、他人としたいとも思わない。そしてそれが、自分という人間の欠陥なのだと、アルカディアは自覚していた。
過去に居た施設で気色の悪い職員に何度か犯されたこともあったが、驚くほど何も感じなかった。無駄に丁寧に解されたからか痛みは無かったが、気持ち良さなんてなかった。むしろ汗が気持ち悪いと感じた。やっぱり自分はどこか壊れているらしい。
結局アルカディアは興味をもてずに飽きてしまった。溺れるほど気持ち良ければ、我を忘れるほど心地良ければ、どれだけ良かっただろう。何も得られなかった。そうしてアルカディアの中で、性に関わる事柄は不必要なものとしてカテゴライズされ、無造作に頭の片隅に放り投げられる事となり、アルカディアにとってセックスは不要なものであった。



「不感症?」

「ん…まぁ、たぶん」

なんとなく居心地が悪くなって、アルカディアはクラウディオから目を逸らした。彼は自分にとって憧れで、今までの人生で唯一心を許した人間だ。だからこそ恋人になれたことも、そういう雰囲気になることも嬉しい。けれど、きっと何も感じることは出来ないだろうと諦めていた。

「どうしてそう思う?」

「昔いた施設で…したことある…けど、何もおもわなかった」

「……それは無理矢理?」

「半分…同意?…抵抗しなかったら、ルカのご飯、くれるから…」

「……なるほどな」

眉間に皺を寄せて小さく息をついたクラウディオは、縮こまって俯くアルカディアに手を伸ばした。びくりと驚いたように震えたアルカディアを気にすることなく、優しくその頭を撫でる。
彼は妙に触れられることに過剰な反応を示す。
それを取り立てて問いただすことはしなかったけれど、先程の話から彼の昔の経験も関係しているのかもしれない。

「お前がしたくないなら何もしないよ」

真っ赤な長い髪を梳きながら優しく声をかけてやれば、うろうろとさ迷った瞳がクラウディオを見上げた。

「…くらでぃおとなら…してみたい、とはおもう」

「…ああ」

「でも…おれのせいで、くらでぃおが、嫌な思いとかするの、やだし…」

語尾がどんどん小さくなって、アルカディアは再び俯いてしまった。髪を滑らせていた掌を丸い後頭部まで下ろして、ぐいっとその小さな頭を引き寄せる。
驚いて目を瞬かせるアルカディアの白い頬に口付けると、途端にあわあわと慌て出したその姿に思わず喉の奥で笑った。

「嫌な思いは全部、忘れさせてやる」



「───あ゛っ♡♡♡ぁっあ!?っ♡♡ひっ♡ぅぁ、あっ♡♡」

ぐぽ、と聞いた事もない音で奥を暴かれ、視界で火花が散る。ぎゅぅう、と中が性器を締め付けて震えた。逃げたいのに、肩に膝を抱えられ、まるで閉じ込めるように体の脇に手を置かれて上から突き込まれている状態では、どこにも逃げようがない。必死に中の性器を締め付けても、ずろろ、と強引に引き抜かれてはゾクゾクと感じ入ってしまう。中ほどまで抜けた性器がまた奥に戻ってくると、視界が白く弾けた。口からひっきりなしに嬌声が零れ落ちてしまう。最早アルカディアの腹部は、すっかり自身で吐き出した精液で薄い水たまりが出来るほどで、与えられる暴力的な快楽に、泣きながら首を振るしか出来なくなっていた。──そう、快楽に。

「は、ぁっ♡♡ぁぐっ♡ん、んっぁ、あっ♡♡ッ〜〜〜!」

「誰が不感症なんだ?」

「ひ…っ!」

ぬちゅぅ、とすっかり躾けられてしまった奥に、先端で口づけられる。少し前に吐き出された精液と、今溢れているだろう先走りをねっとりと塗り付けるような腰の動きに、肩に抱えられている足がぴぃんと伸びた。

「ぇ、あっ♡♡や、ちが♡ち、がぁっ♡♡こんな、っ…♡こんなのっ♡♡」

アルカディアは必死に首を振る。なんで、どうして、こんなのはおかしい。だって自分は不感症で、何度セックスしたってちっとも気持ち良くなかった。汗が気持ち悪くて、触れてくる手の熱さや体を這う舌の生々しさが好きになれなかった。駄目だった。

「あ、ぅっ♡♡」

それなのにどうだ。最初、クラウディオが触れても驚くだけで何も思わなかった。相変わらずそこにあったのは手の感触だけで、それだけだった。クラウディオは時間をかけたわけでもない。薬を使ったわけでもない。ただその手で、唇で、アルカディアの体を暴いただけだ。

「はっ……これの、…どこが」

笑いながら、奥を押される。そのままカリ首で腸壁をこそぐようにしながら引き抜かれると堪らなかった。前立腺を引っ掻きながら抜けていく性器に腸壁が追い縋る。きゅぅうと窄まる中を今度はゆっくりと押し広げられて、喉を晒すようにのけ反った。
内壁はもちろん、体のどこを触れられても駄目だった。太い武骨な手が胸を這い、少し前に舌や手で嬲られてピンと尖ってしまった乳首をかりかりと引っ掻かれる。それだけで腰が跳ねてしまうのに、ぎゅぅ、と強くつねられると視界が白く明滅した。舌を突き出して、蕩けきったメスの声をあげて泣いてしまう。

「ふ、ぅう♡♡や、ぅっ…やぇ、て…っひ、ん…っ♡♡」

違う。違うのに。どうして。アルカディアの思考がぐしゃぐしゃに搔き乱される。だって、本当に違うのだ。こんなのは違う。

「舌」

たった一言告げられて、アルカディアは反射的に口を開けた。そうして舌を伸ばす。クラウディオは満足げに目を細めて、アルカディアの口を塞いだ。舌を絡められ、吸われて、唾液をかき混ぜられる。気持ち悪いはずなのに、脳が溶けてしまいそうなほど気持ち良い。

「んむ、ぅっ♡ふ……っ♡ぅうっ」

体が熱い。噴きあがる汗の感触も、匂いも、嫌いだった。何も感じないセックスの合間に感じるそれらは苦痛でしかなく、人間の生々しさだけを感じて気持ち悪さすらあった。気持ち良さなんてない。触れ合っても、ただ接触しているのだという感覚しか、そこにはなかったはずなのに。
ぬるりと、汗の伝うこめかみを、頬からゆっくり舐めあげられる。舌の感触を心地好く思う事なんて無かった。触れた瞬間の濡れる感覚や生温さを、アルカディアはどうしたって好きになれなかった。

「ぁ゛ぁ、あっぃ、やっ…やだ♡ゆぅし、てっ♡ やだぁっ♡♡おれ、っちがぅ、うっ」

力の入らない手で肩を押し返して首を振る。かしかしと肌に爪を立てようとした所で、肌を滑るだけだ。泣きながら夢中で首を振るのに、クラウディオの性器が腸壁を撫で上げ、躾けるように、とん、とたった一度前立腺を押すだけで、びくん、とアルカディアの体は達してしまう。拒絶の言葉を失って、どうしようもなく蕩けた声をあげてしまった。

「ひぅうっ♡♡ぁ、っく、…♡♡は、あッ♡♡」

「何がやだ?」

「ぅ゛うー…っ!ちがぅ、ちがう!おれっ、ぁっ♡♡あうぅっ♡」

「…また潮吹いておいて、違うのか?」

ただ必死だった。がむしゃらに、過去の、かつてそうだった自分を主張する。だって、そうだった。何も感じなかった。あんなにも、ただの虚無だったのに。それがどうして。

「ぁ゛、あっ!♡やだっ…やめ、てっ♡おくっ…おくは、やだっ…こわ、い…こわぃっ♡♡」

「はは、説得力のない声で何を言ってるんだ」

「はぅっ…、んあっ、あ♡」

腰を掴んだ手で、ぐぅ、と腹を押される。おそらく臍の下あたりなのだろう。指でそこを押しながら、クラウディオは綻びかけた奥を小刻みに突いた。あくまで優しく、何度も甘く繰り返されるノックに腸壁が震えてしまう。同じようなリズムで下腹部を押され、頭が真っ白になった。
駄目だと、判っているのに。アルカディアの体の制御はもう、アルカディアの意識下にない。すっかりクラウディオに明け渡してしまった。自分の体なのに、何一つ言う事を聞かなくなってしまっている。駄目、だめ、と無意識に何度も口にしているのに、奥を突く先端に腸壁が吸い付いて、飲み込もうとしていた。

「大丈夫だよ。入れるぞ」

「ぁ、あっ!?♡やだやだ、やめ…っ、ぁ゛ッ〜〜〜〜!!」

「ふ、………っ」

狭い箇所をこじ開けて亀頭が潜っていく。痛みなのか暴力的な快楽なのか、アルカディアには判らなかった。上から押さえつけられ、大きな体に閉じ込められた状態では体を跳ねさせる事も出来ない。その腕はまるで檻のようにアルカディアを囲っていた。アルカディアの体は、もはやすっぽりと隠されてしまっているだろう。クラウディオの肩に抱えられた、白すぎる不健康な色をした足だけがアルカディアの存在を示していた。
重さと、熱さと、汗の匂いに包まれて、自分を押さえつける腕に爪を立てて悶えた。声も上げられない。クラウディオの少し苦しげな、けれど色香を孕んだ熱っぽい吐息が肌を掠めて、それだけで眩暈を起こしそうだった。

「ひっぅ゛♡♡ぁ゛っ、あぁ、あ♡♡ま゛っ…て、ぇ♡♡おねが、っ♡ぁッ」

「は、…っ…気持ちいい?アルカディア」

「…ぎ、ぅっ♡く…くら…ぃお♡」

結腸の弁を、何度も何度も捲られる。そのまま奥にハメ込んで揺さぶられ、アルカディアは泣きじゃくった。彼の問いかけに答える気力もない。
これ以上ないという奥を突かれ、抉られて、腰からぞわぞわとした感覚が這いあがってくる。これは嫌いだ。嫌いなのに抗えない。止まって欲しいのに、懇願の言葉さえ紡げなかった。
奥を穿つ速度が上がっていく。ふ、ふ、と荒い呼吸が落ちてくるのが判って、アルカディアの心臓がぎゅうぅと痛んだ。中に出される。射精が近いのだと、判ってしまった。助けて、そう言いたい。それなのに口から零れ落ちるのは嬌声や唾液だけで、クラウディオはそんなアルカディアを見て目を細め、ゆるりと口角を持ち上げるだけだった。

「ぁ、あ、あっ───♡♡♡」

「…、っ…ぐ、」

噴きあがった潮がアルカディアの顎まで濡らす。その瞬間、ぴったりと腰を押し付けたままクラウディオが奥で射精した。腸壁がぐねぐねとうねって飲み込もうとする。搾り取ろうと絡みつく腸壁を甘やかしながら、小さく腰を揺すって奥に最後まで注がれて、アルカディアは舌を震わせた。
薄く開いている唇を、クラウディオの口で塞がれる。舌が絡み、唾液を流し込まれて、アルカディアはそれを嚥下するしかなかった。ゆるりと目を細めてアルカディアを見下ろしているクラウディオの喉が、ぐる、と鳴る。

───なんという悪夢だ。

もう、アルカディアは与えられた快楽を否定出来ない。出来るはずもなかった。つまりそれは、自身の思い込みが否定された瞬間でもあった。
不感症であった方がまだマシだった。欠陥品という事実が思い込みであった事よりも、男に抱かれて乱れ、快楽を享受して足を開く真似をする方が死にたくなる。でも死にたくはないから、誰かにこの死神の頭から記憶を消して欲しかった。

「ふ、ぁっ……♡」

長大な性器がぬぽん、と抜けていく。ようやく解放された後孔はぽっかりと開いたまま、まだはくはくと開閉しているのが判った。体のどこにも力は入らなかったが、逃げようと身を捩る。これ以上クラウディオに無防備な姿をさらすのが怖かった。そうして背を向けようとする事が余計に無防備なのだという事にも気づかない。
横向きになった体に、クラウディオの体がのしかかる。思いきり肩をビクつかせたアルカディアを気にも留めず、クラウディオは、すん、と息を吸った。汗の匂いを嗅がれているようで戸惑ってしまう。首筋に舌が這うのを感じて、ひぃ、と情けない声をあげた。まだヤリ足りないとでも言うつもりか。
あの快楽を思い出して恐ろしくなって強張っているアルカディアの手の上に、クラウディオの手が重なる。指を絡められ、ぎゅぅ、と握られた。何だか落ち着かない。

「お前の手は冷たい」

「へぁ?」

「機械みたいだと、昔思った」

「ん、ぇ、……」

突然のクラウディオの言葉に訳が分からなくなって、アルカディアは目を白黒させた。意味のない単語ばかりが口から零れ落ちる。その間抜けさに、クラウディオが喉の奥でくつりと笑った。

「あぁ、でも、そうでもないな」

クラウディオはアルカディアの手をもう一度、少し強く握って続けた。今は汗が引いているとはいえ、先ほどまであんなセックスをしていたのだし、お互い汗をびっしょりかくほどだったのだから、体温が上がっていて当たり前だと思う。つまりは、過去のアルカディアはやはり、興奮もしていなかったのだろう。
繋がれた手を見つめながらぽつぽつとアルカディアは呟き始めた。

「…手が…あったかい…っておもったの、はじめて」

「…うん?」

「…今まで、きもちわるいの、だけだった」

「……今は?」

至近距離で琥珀色の瞳に見つめられ、少しだけたじろいだ。やっぱり彼は自分の憧れで、いつだってかっこよくて、今でも緊張する。

「…きもち、いい…?」

「そうか」

疑問形ではあったが、クラウディオは満足そうに笑って額に優しく口付けてくれた。その感触は、やっぱり心地が良かった。