awful man
レオンハルトは酷い男である、とディアフリートは思う。
「ひ、ぁっ…」
体内を長い指でかき混ぜられながら、ディアフリートはその張本人を内心で責めた。
酷い。酷い。酷い!
だって、本当に酷いのだ。酷くて酷くて、泣きそうになる。けれどもきっと、泣いたところでレオンハルトは止めてはくれないだろう。それが判っているから余計に泣きそうになるのだ。
「んぁ、あっ♡ぁ、あ、…ひ、っ♡」
ぐちゅ、と音がして、中をゆっくりと撫で上げられる。太く長い指が奥までしっかりと、中を暴かれる感触を馴染ませて、とんとんと内壁を叩いた。散々ぬめりを足されて濡れそぼった中を、丹念に、何度も何度も擦られ、広げられる。ディアフリートが感じすぎる箇所は時折触れるだけで、意図して避けているのが判った。びく、と腰が跳ねる度に、宥めるような口づけが落ちてきて、目尻に溜った涙を吸い上げていく。そうやって与えられる快楽に、ディアフリートの思考は、もうどろどろだった。だからこそ、酷い、酷いと責め立てる。
彼のセックスは丁寧だった。それはもう、ディアフリートの意識がふわふわのマシュマロみたいになってしまうくらいに丁寧なのである。キスから始まり、腰砕けになるまで口内を愛撫されたと思うと、体中にキスをする。痕を残すような強い吸い上げはあまりなく、時折、やんわりと肌に歯を立てられる事はあっても、その刺激にディアフリートが体をびくつかせると、笑って、あっさりと離れていった。別に、怖くて震えているわけではないのに、いつもそうだった。
「は、…ぁふっ…♡…も、…ぁ、ぅう…っ♡」
少し強めに、内壁を押し上げられる。ぐぅ、と腰が持ち上がって、ベッドから浮いた。はひはひと苦しそうな呼吸を繰り返すディアフリートの口の端に口づけて、今度は優しく奥を撫でる。そこから、ぬるるぅ、と抜けていった指が、浅い箇所でくちくちと音を立てながら出し入れされて、ディアフリートはあぅあぅと鳴くしかなかった。
「や、や、ぁ…っ…れおさ、…やだ、も、…やだ、…」
溜めていた涙が大粒になって、ぽろりと零れ落ちる。途端、どこか痛そうに、苦しそうに顔を歪められた。そんな彼を涙目で睨みあげて、ディアフリートは、彼の肌に爪を立てる。かしかしと、力なんてまるで入っていないその指先は肌の上を滑るばかりだったけれど、己を責められているのは理解したようで、レオンハルトは眉を寄せた。
「やだ、やだって、ば、…れお…さん…」
くすん、と鼻を鳴らす。それでも、レオンハルトの動きは緩まるだけで、止まる事はなかった。ぬちゅぅ、と音を立てながら、今度はゆっくりと指の付け根まで捻じ込まれる。けれどそれが痛みを伴う事はなく、ディアフリートの中がきゅぅ、と疼いて彼の指を締め付けるだけだった。
「駄目、まだだ」
「ぅ、うー…っ」
真っ暗な瞳が優しく細められて、ディアフリートを見下ろす。眉を寄せた不機嫌そうな表情のわりに、その声色は蕩けそうな程甘く、穏やかで、ディアフリートの体が弱々しく震えた。くしゃりと顔を歪めて精一杯睨みつけても、レオンハルトは緩く片眉を上げるだけで、意に介す様子もない。口の端を緩く持ち上げて意地悪く笑った表情すら色っぽく、ディアフリートの胸が疼いた。
「おね、が、…ぁ♡も、もうやだ、ぁ♡」
自身の後孔をほぐすレオンハルトの、手首に爪を立てる。腰を上げて逃げようとすると、指が更に奥に入り込んできて、ディアフリートはびくりと顎を持ち上げて、枕に後頭部を押し付けた。そんなディアフリートを見て、レオンハルトは、ふん、と鼻を鳴らす。
「何回やっても慣れない癖に、これくらいで入ると思ってるのか」
「ひぁ…っ♡」
指が、的確に前立腺を押し上げる。その刺激だけで、ディアフリートの体はびくびくと跳ねた。視界がチカチカと明滅する。ぁ、あ、と短い嬌声を上げながら目を白黒させるディアフリートに、レオンハルトは優しく笑った。
「もう少し、な」
指を三本に増やして、中をかき回し、うねる内壁を優しく撫で上げられる。もうイってない事が不思議なくらいにヒクついて、痙攣したように震えている中を、丹念に擦られた。中で確かめるように指を広げられると堪らなくて、ディアフリートはびくびくと腹筋を震わせる。爪を立てる手が両手になっても、レオンハルトは止めてはくれなかった。
「ぁ、は、…っんぁ……っ♡」
刺激されていない自身のモノから、とろぉ、と白濁が零れ落ちる。それが射精なのか先走りなのかも判らないほど、ディアフリートは感じていた。強すぎる快楽に思考がどろどろに溶けて、何も考えられない。はくはくと唇を開閉させ、苦しそうに呼吸をするディアフリートに笑い、レオンハルトが口づけてくる。頬や口の端に口づけたと思うと、するすると落ちて、首筋や鎖骨に口づけられた。ディアフリートは、爪を立てていた手を離し、近づいて彼の首に両腕でしがみつく。
「ふ、ぅ、♡…れおさ、…れお、さん…♡」
耳朶に注がれた切ない泣き声に、レオンハルトは目を細めた。小さく笑って頬をすり寄せると、ディアフリートの喉がくるると鳴る。レオンハルトが涙に濡れた頬にぬるりと舌を這わせると、ディアフリートの体がふるりと震えた。しがみつく指先に、きゅぅ、と力がこもる。
「も、おなか、さみし…、…ゆびやだ…」
おねがい、と泣いて、ディアフリートは何度もレオンハルトの頬に口づけた。眉間の皺にも、目尻にも。無意識に何度でも、許しを請うように、戯れのようなキスを繰り返す。
「……煽るのが上手いな、お前は」
苦笑を浮かべたレオンハルトは、降参だと小さく告げた。それをディアフリートが正しく拾い上げる事はなく、涙に濡れた瞳でとろんと彼を見上げるばかりだ。散々焦らされ、思考が蕩けきったディアフリートには、レオンハルトの苦笑の意味すら判らない。
ディアフリートがしがみついたまま離れようとしないので、レオンハルトはそのまま指を引き抜いて、ディアフリートの臀部を両手で掴んだ。大きな手はディアフリートの臀部をすっぽりと包み込むほどで、長い指がぐにぃと尻肉を割り開く。すっかり綻んだ後孔が震え、ヒクついて空気を食んだ。そこに、しっかりと熱を押し当てる。そうして、ようやく与えられた熱の存在に気づいて、ディアフリートはぞくぞくと背筋を甘く痺れさせた。
「は、ぁ♡ぁ、ぅぁ、あ────…っ!♡♡」
じれったいほどゆっくりと、ディアフリートの中を押し広げ、余す事なく内壁を擦りあげながら、熱が入り込んでくる。その刺激だけで頭が真っ白になって、ディアフリートは、掴まれて固定されている腰をビクつかせた。尻の肉が震えてしまう。まだ辿り着いていない奥がきゅーっと疼いて、腹の奥が熱くなった。
「ぁ、ぁ、ぅあ…♡は…っ…ぁ……?♡」
ちか、ちか、と目の前が白く光る。暫く呆けていると、すぐ傍にようやく自分を抱く彼の姿を見つけて、目を瞬かせた。何が起きたのか判らず、ただ唖然として彼を見つめていると、レオンハルトは低く喉の奥で笑った。
「入れただけでメスイキするように躾けた記憶はないが…痛いと泣かれるよりはマシか」
「ぅ…?」
「こっちの話だ」
まったく、と低く呟かれた声をディアフリートが正しく拾う事はなく、目をぱちぱちと瞬かせる。そんなディアフリートの鼻先に優しく噛みついて、レオンハルトは片手でディアフリートの頭部を優しく撫でた。片手はまだ尻の肉を掴んだままで、むに、と小さく揉む。ひくりと縁をヒクつかせたディアフリートに、レオンハルトは小さく笑って、後頭部に手を添えたままゆっくりと腰を進めた。
「ぁ、ひぅ♡…、あ、っ…ぁー…っ…♡」
啄むような口づけを落としながら、ぐぷぷ、と中を広げられていく。その熱が奥で止まって、とちゅ、と壁を叩いてまた、ディアフリートは達してしまう。ぎゅ、ぎゅ、と中の肉で熱を締め上げながら、体を震わせ、うっとりと目を細めた。首にしがみつく腕の力はとうに無くなっていて、ただ絡まっているだけだ。それでも、レオンハルトが体を離そうとはしないおかげで体をくっつける事が出来た。
はぁ、と色っぽい吐息が彼の唇から零れ落ちる。それが肌を撫でて、ディアフリートはくすぐったさや、たったそれだけの事で生まれる小さな快楽から逃げるように身を捩った。
「こら。逃げるな」
「んぅっ…♡」
責めるような声は、それでも優しい。彼の手も、腕も、強引にディアフリートを引き止める事はなく、身を捩るディアフリートの好きにさせていた。しっかり奥まで入り込んだ熱が抜けないようにだけ、そっと体勢を整える程度だ。そのおかげで、中を抉る角度だけが変わって、ディアフリートはまた甘く鳴いてしまう。
「腹、寂しくなくなったか?」
くん、と僅かに腰を揺らしたレオンハルトの問いに、ディアフリートは小さく頷いた。のろのろと足を動かして、しどけなく、彼の鍛え上げられた腰に絡ませる。上手く力の入らない足では、レオンハルトを引き寄せる事は出来なかったけれど、触れる箇所が僅かでも増えて嬉しくなった。
「動くぞ」
「…ん……」
ゆっくりとした律動で、中を擦り上げられる。甘やかすようなその動きは決して激しくなく、執拗に奥を突くわけでも、前立腺を抉るわけでもなかった。内壁をなじませるような動きだ。むしろディアフリートの体の方が乱暴にレオンハルトのモノを扱きあげているくらい、きっと、中は忙しなくヒクついている。それなのに、とちゅとちゅと、優しく、中を揺すられるばかりだった。
「ぁふ、ふ、ぅう…っ♡……れお、さ、…れお、…ひ、んんっ…♡」
ずるぅ、と中ほどまで抜けていった熱が、ゆっくりと戻ってくる。奥を数度叩いたと思うとまたゆっくり抜けていって、浅い箇所を熱が行き来するようになった。
腹の奥が切なくなって、きゅぅう、と疼く。首を弱々しく振りながら、ディアフリートは必死に快楽について行こうとした。力の入らない指が、レオンハルトのうなじや背中を掻く。その時、ふ、と頭上から肌に吐息が零れ落ちて、ディアフリートはたったそれだけで、電流でも流されたように体をビクつかせた。
「ひぅう…っ♡♡」
ぐぅ、と背がしなる。せっかく彼の首にまわしていた腕が落ちて、代わりにディアフリートはシーツや枕に爪を立てた。体が勝手に震えて、熱を奥へ奥へと誘い込むように中がうねる。浮いた腰を掴んで、レオンハルトは小さく呟いた。
「持っていこうとするな」
嗜めるような声に目を瞬かせ、ディアフリートは首を傾げる。自分の体がどう反応しているのかもよく判らず、ただ快楽に思考が塗りつぶされていた。きょとりとしたディアフリートを見下ろしたレオンハルトが、長い前髪に隠して眉間に皺を寄せると、ほんの僅か、腰を掴む手に力がこもる。
とん、と奥を叩かれて、頭が真っ白になる。腰に絡ませた足の先をぎゅぅうと強く丸めて、脳が痺れるような刺激に震えた。その間も、ぬぽぬぽと行き来する熱は止まらない。決して強すぎる刺激ではないし、乱暴でもない。それでも信じられないくらいに気持ち良くて、イっている最中なのに、またイったように頭の奥が白く光った。ひぐ、と泣くディアフリートの頬に口づけを落として、レオンハルトは奥を優しく叩いてくるようになって、その刺激に、余計酷い声が零れ落ちてしまう。
「ぁ…っ…ぁ、ぁー…っ!♡♡…や、…も、…い、く…っ♡」
優しくて、丁寧で、甘やかすセックス。本人がそれを意識しているのかどうかは判らない。ただ、ディアフリートにとってそれは、拷問じみた優しさだった。優しすぎて辛い。苦しい。熱がいつまでも引いて行かなくて、ずーっと、苦しいくらいに感じてしまう。ディアフリートが苦しそうにすると口づけが落ちてきて、それもまた感じてしまって、悪循環だった。
すっかり奥までレオンハルトの形を覚え込まされたようになってしまって、届かないと奥が疼いてしまうし、ようやく触れてもらえれば中は歓喜したように熱を締め付けた。そうやって体が作り替えられているのは判るのに、思考が追いつかない。
「はぁ、……熱いな…」
涙に溺れている視界で見上げた先で、レオンハルトが顔を歪める。眉を寄せたその表情は色っぽく、鼻先を汗が伝うのを見て、興奮しているんだと判った。黒い瞳が、煌々と輝いているように見えて、奥に欲望の炎を灯らせる。はく、と震わせたディアフリートの唇を覆うような口づけをして、レオンハルトは僅かに律動を速めた。
「ん、んく…♡っふ、ぁ、あ…っ……♡は、っ…んんっ♡」
荒々しく口内を貪り、ディアフリートの呼吸を奪うようなキスをしながら、それでもレオンハルトの動きは決して自分本位ではなかった。ディアフリートが泣きたくなるくらい、優しい。いっそそれは執拗で、やらしくて、ねっとりとした愛撫にも思えるほどだった。
奥に熱が当たる度、少しだけそこを撫でてから離れていく。その刺激に、ディアフリートの喉からは甘い声しか零れ落ちなかった。体の奥でまでキスを繰り返すような刺激にくらくらと眩暈を起こしそうになる。それがレオンハルトにとっての優しさだというのも、そして、自分のせいだというのも、ディアフリートは理解していた。だから余計に辛い。
一番奥に、初めてぶつかった時、ディアフリートは痛いと泣いた。やだ、いたい、やめて、と。その痛みは、溺れてしまうような快楽の中でほんの小さなものだったけれど、それ以上与えられるのが恐ろしくてディアフリートはそう告げたのだ。それがいけなかった。「痛い」と、そう言ってしまったから、レオンハルトは無理にそこを暴く事はなくなった。代わりに、優しく、甘やかすように、奥を先端で撫でられ、擦られる。長く刺激を与える事はなく、すぐにそこを離れて行って、内壁をゆっくり、浅い箇所から奥まで馴染ませるようなストロークを繰り返すのだ。ディアフリートの体はすっかり、その刺激に慣らされてしまった。今ではもう、とんとんと奥を叩かれたところで痛みなどなく、ただ、淫らに腰を跳ねさせるほどの快楽があるだけだった。
「んぁ、ぁ、…っ♡やだぁ、……ぁっ♡…く、ぅ…っ♡も、…っひど、ぃ、…ひどぃい…っ♡」
ぬちゅぅ、と優しくぶつかって、また離れていく。その繰り返し。優しく、優しく、奥に与えられる刺激を慣らされる。それが気持ち良い事なのだと覚え込まされる。体が、覚えていってしまう。きっとそれは、彼にとってはそんなつもりのない事で、ただ、ディアフリートが痛いと言わなくて良いようにしてくれているだけなのだ。それが判っているから、酷い。そんなの、まるで自分一人が勝手に発情して、淫らになっているみたいじゃないか。彼がそうしたのに。
「ぅあ、あ……っ!♡♡」
ぱちん、と視界が弾ける。その瞬間また、射精を伴わない絶頂を味わった。中が、レオンハルトのモノを引き絞るようにうねり、絡みつく。それを、自分の体でまざまざと理解した。浅ましく彼の熱を求めて、自分から腰を押しつけてしまう。そうしてようやく、彼がくれる一番奥が暖かくなるのを感じた。
最後に注ぐ時だけ、レオンハルトは強く腰を押し付けてくる。雄の本能だとでもいうように、ぐ、ぐ、と中に擦りつけて注がれるその刺激に、ディアフリートは舌を震わせて感じ入る。
「はー……、」
深く息を吐きだすレオンハルトを見上げ、顔を近づけてきた彼の鼻先に噛みついて、ディアフリートはそっと意識を手放す。ゆっくりと瞳を閉じるその瞬間、レオンハルトが低く笑った音だけを聞いた。
体を丸めて子供のように眠るディアフリートを、ベッドの端に腰掛けて見下ろす。目にかかる前髪を指で退かしてやると、深い眠りに落ちたままのディアフリートが口をもごもごと動かして、何かふにゃふにゃと呟いた。それが何なのか、傍にいるはずの自分の耳にも正しく届く事はなく、レオンハルトは苦笑を浮かべた。
幸せそうな寝顔だけれど、最中に散々泣いたディアフリートの目尻は赤くなっていたし、まだ少しだけ、水分が残っているように見える。睫毛が濡れているのが見えて、ディアフリートは居心地が悪くなった。自身のうなじを掻いて、ぐ、と眉間に皺を寄せる。
酷い、やだ、と泣く、情事の真っただ中のディアフリートを思い出して、心臓の奥が疼く。それは決して加虐心だとかそういったものではなく、純粋に罪悪感からであった。
もっと乱暴にされると思ったから、とどこか安堵したように告げられた最初、これ以上ないほど目の前の子どもを、甘やかしてやろうと決めた。それから、出来る限り優しくしている、つもりだ。どうも加減が上手くいかないようで、ディアフリートはよく泣くし、やだ、と繰り返す。もちろんそれが本心ばかりではない事はレオンハルトとて判っているし、睦言と同じ声色で紡がれる瞬間は腹の奥がぞわぞわして、噛みついてやりたくなるほどだ。それでも我慢するのは、「酷い」と、その声色だ。泣き顔だ。本当に顔をくしゃくしゃにしてレオンハルトを責めるディアフリートに、嘘は感じられない。ならばこそ、もっと大事にしてやろうと、そう、体を重ねる度に心に誓っては────毎回、失敗している。
「…………加減がわからんな…」
夢の世界に落ちたディアフリートは知らない。ディアフリートが責めるから、あの手この手で優しくしようとする酷い男の事を。