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良い酒が手に入ったのだとサファイアから誘いを受けて、飲む事になった。生憎とウィスタリアは彼と初めて飲んだ時、酒の楽しみ方はおろか、酒の味すらまともに判らない様な有り様であったので、彼の酒に付き合う際、ウィスタリアが飲むのは基本的にはジュースだ。水でもいいが、色をつけて気分くらいは味わおうというウィスタリアの幼稚な魂胆を理解して、彼は苦笑していた。元はと言えばサファイアがオレンジジュースと言い出したのに。しかしそのまま言い返すのは、あまりにも子供染みている気がして言わなかった。
サファイアはウィスタリアと違い、酒をどれだけ飲んでもほとんど顔色が変わらない。滅多に酔う事はないようだった。少なくともウィスタリアは見た事がない。別に羨ましいなんて思っていない。ただ少し、悔しいだけだ。やっぱり自分が子供みたいで。自分と違いすぎる。

サファイアは自分で自分の限界を理解しているようだから、飲みすぎるような真似はしないらしい。時折、本当にほんの少しだけ、気分が浮ついているのかウィスタリアへの接触が増える事はあった。ただそれは多い事例ではないし、そういう時は彼が───ウィスタリアを抱きたい時、である、らしい。自惚れだとかではなく。
指が、分かりやすく性的な意図を持って肌を滑った事もあるくらいで、初めての時は動揺したものだった。それから数度そういう事があって、きっとそうなのだろうな、と理解した。理解したからこそ、少し、困るのだけど。
彼の手が伸びてくるのを、ほんの小さな空気の揺れと微かな音で理解して、ぎくりと体が強張る。そんなウィスタリアを置き去りにして、太い指の背が、髪の垂れた首筋に触れた。その手は、戯れに肌を滑って、うなじまで届く前にすぐに離れる。まるで何もなかったかのように。まるで当然のように。意地の悪い男だ。そうやって彼は、ウィスタリアの体に少しずつ火を灯していくのだから、タチが悪いと思う。酷いやつだ。

それから、肩や、腕。元よりこんなに接触の多い人ではなかろうに、無防備なまでに触れてくるのが続いた。酔っているというわけではないだろうが、アルコールによって僅かに体温が上がっているのか、触れられた箇所がほんのりと熱を持つ。それが彼との行為をまざまざと思い出させて、ウィスタリアを居た堪れなくさせた。そわりと、撫でられてもいない下腹部がざわつく。
そうやって戯れに繰り返される接触に対してウィスタリアが気もそぞろになる頃、サファイアは今度こそ明確な意図を持って、ウィスタリアの足の上に大きな手を置いた。太ももの上を滑り内腿に指先が潜る。びく、と肩が跳ねた。
名前を呼ぼうとした瞬間、すい、と顎を掬い上げられる。見開いた視界一杯に、サファイアの顔が映り込んだ。ぁ、と音もなく呟いた唇を塞がれる。唇が薄く開いていたせいか、すぐに舌が入り込んできて、口内を探った。

「えぅ、ぅ」

口の大きさが根本的に違うからか、顔を食べられているみたいだ。入り込んだ舌も、ウィスタリアのものよりずっと大きく太い。こんな所でまで、色んなものの規格の違いを思い知らされた。苦しくて口を大きく開けて、隙間から空気を取り込もうとしても、ぐぅ、と舌が奥まで入り込んでくるだけだ。
不意に、大きな手がウィスタリアの頭を掴む。掴むというか、耳を塞ぐように手で頭を包まれた。そうして顔を固定されたまま、口内をじゅるりと舐めあげられる。耳を塞がれているせいで脳に直接届く水音に、眩暈を起こしそうだった。ぐちゅぐちゅと響く音が、脳を犯していく。

「ふぅ…っぅ♡は、っ…んぅっ…ぅ、うー…っ♡」

上顎を撫で上げ、歯列を探る舌に、肩が何度も小さく跳ねた。蕩けきった状態で、薄らと開いた潤む視界に、サファイアの顔が映り込む。きっとだらしない顔をしているのだろうウィスタリアを、目を細めて見つめていた。恥ずかしさで顔と体が熱くなる。逃げようとして、結局出来なくて、舌を絡め取られた。舌をくすぐる様に舌先で撫でられ、頭がぼうっとする。頭に響く水音は大きなままで、ずっとウィスタリアを苛み続けた。

「…は…っ…」

暫くして解放される頃には、舌はほとんど痺れたみたいになってしまっていた。くたりと脱力したウィスタリアを見て、サファイアは喉の奥で低く笑う。ウィスタリアはこのまま食べられてしまうんだなぁ、なんて思った。
ひょいと体を抱き上げられ、ベッドへと移動する。確かにウィスタリアは細身だし、サファイアから見れば小柄な部類だろうが、少し傷ついた。
びっくりするぐらいあっさりと裸に剥かれたウィスタリアの体を抱えて、サファイアは枕を背中で潰すようにしながらベッドヘッドに背を預け、ウィスタリアを膝に乗せた。ウィスタリアは背中を彼の胸板に預けるような状態だ。体格差と身長差のせいで、膝の上にいるのにすっぽりと彼の腕の中におさまってしまう。振り返ってもまだサファイアの顔は少し上にある為、僅かではあるものの見上げなくてはいけなくて、少しムッとした。そうやってウィスタリアが唇を尖らせたのを見て、サファイアは小さく笑う。馬鹿にされた気がして睨むのに、サファイアはまるで気にしない様子でウィスタリアの頬に口づけた。

「膝をついて、腰少し上げてくれ」

「ん、…っぁ、っ」

耳元で囁かれて、自分が考えるより先に、体が従順に言う事を聞いてしまう。寄り掛かって構わないと言うので、少し背を反るようにして、後ろのサファイアの首に手をまわした。そうやって浮いた尻の下に、彼の手が潜る。どこから取り出したのか、いつ取り出したのか判らないローションに濡れたサファイアの指が、すりすりとウィスタリアの後孔を撫でた。片手でウィスタリアの胸の突起を弄りながら、そのまま、ぐぷ、と指を入れてしまう。
酒を飲んで、「したい」と思っているらしい時のサファイアは、少し性急だ。まともな前戯なしでは彼の大きなモノは入らない為、そこを怠った事こそないが、そこに至るまでが早い。酒が入っていない時は長く、しつこい前戯でくらくらになってしまうまで挿入を待たされるのに。どちらが良いとか悪いとか、そういう事はないけれど、何となくそうだなと思う。
一本でも充分太い指が、中をゆっくりと進む。こういう時の彼は、すぐにウィスタリアの前立腺を見つけて苛めるのだ。奥までじっくり解すというより、ウィスタリアを追い詰める。まるで獣みたいに。ぎゅぅ、と少し強めに胸の突起を引っ張られ、痛みに近い刺激に体がびくついた瞬間、中で指が折り曲げられる。ぱちん、と光が弾けた。ぁ、と零れた小さな嬌声を聞き逃さず、そのまま、サファイアの指はずりずりと中を擦りあげるように動き出す。多めに使っているのだろうローションのせいか引っかかりは特になく、乱暴にも思える指の動きを中は喜んで受け入れた。

「は、っ…ぁ、あっ……ぁぅうっ…♡や、ぁっ……むね、っ…むね、ゃ…っ♡」

尖り始めた突起の先を、指が撫でる。押しつぶされ、転がされて、刺激を与えられたせいで押し返すように尖るソレを、時折引っ張られた。ひぅ、とみっともない声を漏らしながら、中を穿つ指の動きに合わせるように腰を揺らしてしまう。少し圧迫感が増したと思えば、二本の指で中の肉を押し広げられた。すっかり主張を始めた前立腺をとんとんと叩かれ、潰されて、奥まで指で穿たれる。手のひらをぴったりと臀部に押し付けたまま、指だけがぐぽぐぽと音を立てて出し入れされた。内壁が痙攣したように震え、指に絡みつく。

「顔、こっち向けろ」

「ぁぇ、ぅっ…?」

「キスだ」

言うが早いか、ウィスタリアが頷くでも、口を開くでもないうちに、サファイアはウィスタリアの口をぱくりと自身の口で覆ってしまった。そのまま、長い舌で口内を蹂躙されながら、後孔も指で犯される。いっぺんに何か所も気持ちよくさせられて、頭がパンクしそうだ。

「んむ、っぁ♡……はふ、っ…ん、ぅ、…っぅう〜〜っ♡」

中の指が奥を突いた瞬間、舌が喉奥まで捻じ込まれて、視界が明滅する。逃げるように胸を反った時、いつのまにか胸から離れていた手がウィスタリアの性器に触れていて、優しく下から撫で上げた。他の場所への刺激で既に破裂寸前だったそこは、たったそれだけであっさり弾けて、射精する。
射精して脱力する暇もなく、中を穿つ指の速度が上がった。性器を撫でていた指はウィスタリアを追い込む為ではなく性感を高める為か、やわやわと袋を揉んでいる。時折、悪戯っぽく蟻の門渡りへと指が滑って、ぐに、と押されると堪らなかった。

「ぁあっ…ぁ、っ…♡…ひ、っ…ぁ…♡んぁ、ぁあっ…ぁ、だ、めっ………んぅっ♡」

もう嫌だ、とキスから逃げて首を振っていると、唐突に指が引き抜かれる。その衝撃に目を丸くしていると、体を持ち上げられた。そのまま体を反転され、サファイアと向かい合うように体勢を変えられる。大きな手に尻の肉を掴まれ、それで支えられているような状態で、後孔にひたりと熱を押し付けられた。それに気づいて、媚びたような吐息が漏れる。きっとサファイアは、耳聡くそれに気づいたのだろう。

「ひぐ、ぅ、っぁ、…んぁあ……っ!♡♡」

彼の性器には見合わない小さな穴をこじ開けるように、先端が中に沈む。ウィスタリアの体を落とし、サファイア自身も腰を持ち上げているのだろう。ずぶずぶとソレは入り込んで、太い部分なんてあっという間に通り過ぎた。ぬめりの力を借りてそのまま熱は奥まで進んでいく。圧倒的な太さに侵略されて、はくはくと口を空しく開閉させた。目の前の分厚い胸板に爪を立て、太い首に縋るように額を押し付ける。大きな熱はすぐにウィスタリアの奥まで届いて、サファイアはそこで一旦動きを止めた。
また、キスをされる。うっとりとそれを受け入れて目を細めると、大きな手が尻の肉を揉んだ。大した肉もついていない尻だったはずだが、彼に抱かれるようになってから少し肉付きが良くなってしまった気がする。ぐにぐにと揉まれて、その動きで中を犯すモノの形を意識させられた。内壁がきゅぅと窄まり、ヒクついて、熱を食む。

「はっ…ぁ、ぅ♡…ひぅ…っ…さふぁ、…ぃあ、さ…♡」

キスの合間に名前を呼ぶ。そうすると、少し体を浮かされて、彼の性器が中の肉を目一杯擦りながら抜けていった。けれど半分も抜けないうちにまた戻されて、奥を押される。緩やかな動きだった。ウィスタリアはサファイアと比べれば子供のように小さく細いから、彼はどれだけだって乱暴に出来る。けれどそれをしなかった。酷いくらい、ずるいくらいにゆっくりと、けれどいやらしく、中をぐずぐずに溶かしていく。
もう何度もサファイアに抱かれた。抱かれて、その度、奥を意識させられた。それは単純に彼のモノが規格外すぎて、全部入りきらなくても奥まで届く、というだけの事だったし、彼はそれ以上奥を暴こうとする事はなかったけれど、それでも、躾けられたようなものだ。あんな、何度も念入りにその奥を教えられて、覚えこまされたら、どうしようもないじゃないか。

「ぁ、くっ……ひ、ん…っ♡」

ぬちゅ、ぬちゅ、と奥をノックされる。応じろ、と促される。そんな感覚だった。だってこういう時、彼は意地悪だから。きっとあながち、間違ってもいないと思う。だからこそ余計に性質が悪いが。
小さな動きだったのが大きくなっていく。奥を叩く力も強くなっていった。ウィスタリアの体なのに、主導権を握っているのはサファイアだった。広げられた後孔を、強く穿たれる。ぱちぱちと白い光が弾けて、頭まで白くなった。口を開けて舌を突き出し、夢中で喘ぐ。強すぎるくらいに、どつどつと奥を抉られても、心地良いだけだった。快楽が腹の奥からうなじまで突き抜けていく。
飲み込めなかった唾液が口の端から零れ落ちて、サファイアの胸元に落ちた。そんな事も気にしていられない。だって気持ちが良かった。きっと今の自分の声は酷いものだ。それなのに、口を閉じる事も出来ない。

「ぁっ!♡ぁ、ん…んんっ…ぁ゛っ…♡ぅっぁ、あっ♡」

不意に、奥を狙うように犯していたモノが抜けていく。逞しい体に寄り掛かるようにして支えられている体はただされるがままで、ただ中の肉だけが、抜けていく性器に追いすがっていた。きゅぅ、と窄まろうとする中を、ごちゅ、と叩かれる。奥ではなくて、前立腺を狙うような動きだった。力強く、何度も、潰すように前立腺を押し上げられる。サファイアがそこを狙って動いているというより、ウィスタリアの体を、そこに当たるように落としているというのが正しいのかもしれなかった。ぐぽ、ぐぽ、と音を立てながら、中を犯される。
彼の腹と自身の間で揺れていたウィスタリアのモノは可哀想なくらいに張りつめて、涙を零していた。次から次へと零れていくそれが、サファイアを汚していく。判っているのに、止まらなかった。好きなように中を犯され、穿たれ、絶頂はすぐそこにある。だからこそ、このまま出してしまいたかった。

「ぁう、…ひ、っ……っ!♡さ、ふぁ、ぅ、っ…んん、ッ♡」

「はぁ、…っ…ウィスタリア、」

熱っぽい吐息交じりに呼ばれる。それが鼓膜から脳を犯した。びりびりと電流に似た感覚が背筋を這い、体が小さく跳ねた。どうしようもない。思いきり彼のモノを締め付けながら射精してしまう。けれどサファイアは止まらなかった。白濁を吐き出しながら揺さぶられて、夢中で彼の体に縋る。爪先でシーツを蹴っても、快楽は逃げていかなかった。
思考が、溶けてしまう。何もまともに考えられない。ただ気持ち良かった。この暴力的な快楽に溺れて、塗りつぶされて、頭を真っ白にするのが気持ち良い。
胎の中のサファイアの性器はまだ硬いままだ。まだ射精には至っていないらしい。彼を気持ちよくさせてあげられる方法が、ウィスタリアにはいまいち判らなかった。ぼんやりとそんな事を考えていたら、また彼のモノが奥まで入り込んでくる。おそらくそこは、多分もう、開きかかっていた。しつこいくらいのノックに応じたがって、綻んできてしまっている。
怖かった。それを受け入れたらどうなってしまうのだろう、と不安だった。無理に決まってるとも思っていた。それなのに、サファイアがウィスタリアの体を変えてしまった。受け入れられるのだと教えて、判らせて、覚えこませた。体はウィスタリアの心よりも従順で、受け入れたがっている。怖かったはずなのに。不安だったはずなのに。いつの間にかウィスタリアは、心のどこかで期待していた。浅ましくも、その快楽を知りたがっていた。

「…、っ……──さふぁいあ…さっ」

「なんだ?」

「さふぁ、い……さっ……、…ぃ、…ぇ…て」

「…ん?」

律動が止まる。自重と彼の大きさが相まって、彼のモノが奥に留まったままで。だからこそ余計に思考がぐずぐずだった。舌が震えて、言葉がまともに紡げない。欲しいのに。彼の全部が欲しくて、腹の奥が疼くのに。言わなきゃ、と焦ってしまう。そんなウィスタリアに気づいたのか、落ち着かせるようなキスが落ちてくる。それを受け入れて、ん、と鳴いた。

「さふぁいあ、さ…の、ぜん、ぶ、…いれ、て…」

ようやくちゃんと言えた。正しく伝わったはずだ。言えた事に安心して、ふにゃりと完全に力が抜ける。その視界に映ったサファイアがどんな表情をしていたのか、見るまでの余裕がなかった。いや、見えていたのに、気づかなかった。

「全部?…俺を?」

「う、ん…っんっ…ぁ、っ♡…待っ、ぇ…ぐりぐりっしな、…ぁっ♡」

「ここを越えていい、って?」

「ひぃ…ぁ、っ♡…う、っ…いい、っ…から、…♡」

はひ、はひ、と息も絶え絶えの状態で答える。良いと言ってるのに確かめる為に押し上げられて、中がぎゅうぅ、と締まった。拒むためじゃないその肉の動きに、サファイアの喉が小さく鳴るのが聞こえる。その時になってようやく、彼の顔を見た。見れた、ような気がした。
ウィスタリアが視界に映したのは、サファイアの犬歯だ。口角を歪に吊り上げたサファイアの、鋭い牙が見えた。あれ、と思う間もなかった。自分を食い殺す事も容易いだろうその牙に釘付けになっているうちに、凶器だ規格外だと散々泣いた彼のモノが、最奥だと思っていた箇所を食い破るのを感じた。所謂結腸と呼ばれる箇所の、弁を押し開かれる。

「っぁ゛───…っ!?」

息が出来なかった。とてつもない衝撃に、頭が真っ白になる。逃げるように背をしならせてサファイアの体から離れようとしても、何の意味もない。がっちりと尻肉を掴まれたまま、強烈で暴力的な感覚を受け入れるしかなかった。食い破られたそこは、先端にじゅぱじゅぱと吸い付くように動く。サファイアの性器は、弁に引っかけながら出ていき、すぐに押し戻された。ぎゅぽぎゅぽと結腸の弁を嬲られ、喉からは勝手に、悲鳴じみた声しか出てこない。それほど強烈だった。

「ひ、…ぐっ…ぁ、あ゛っ…!♡♡あ゛っ…ぁ、ッ…♡ぃ゛っ…ひ、ぁ゛っ♡♡」

「ふー…っ…ふー…っ…はっ……ぁ゛…っ」

がくがくと体が跳ねる。壊れた涙腺からぼろぼろと涙が零れ落ちた。サファイアの口から零れる熱い吐息が肌を掠め、それだけで体がびくついてしまう。体が言う事を聞かなかった。
そこが弱いのだと、駄目になる所なのだと、念入りに教えられる。度を過ぎた快楽は最早暴力で、痛みで、辛かった。なのに、内壁は喜んで中の熱を食んだ。しゃぶりつき、受け入れて、うねる。目の前の大きな体に縋らなければ、バラバラになってしまいそうで怖かった。
咥えこまされた奥で、サファイアが射精するのが判る。熱が跳ねて、奥が濡れた。どぷりと、結腸を開いたまま吐き出された白濁が、中に流し込まれるのを感じる。けれどそれは終わりではなく、射精してなお、サファイアはそこを犯し続けた。
ひたすらに与えられる快楽に泣きながらしがみついた時、何度目かの突き入れに、ぴぃん、と背筋が伸びる。サファイアの体に爪を立てながら受け入れたその感覚は、間違いなく絶頂だった。それなのに、ウィスタリアの性器からは精液が零れていなかった。ただだらしなく、たらたらと先走りを零すばかりだ。何で、どうして、と戸惑うものの、その思考も長くは続かなかった。彼の性器が中を嬲るからだ。

「ぁ゛ぅっ…ひ、ぃ、っ…っぁ♡♡…こわれ、ぅっ…ぅ゛っ…♡」

「…は……大丈夫、…だ…っ…」

「やぁあっ…うそ、っ…うそつきぃ…っ♡♡しゃせ、っ…ぇっ…しなく、なっ…♡」

「あぁ、…なるほどな」

ドライオーガズム自体は、何度かした事がある事を、ウィスタリアは知らなかった。その度に夢中で、何も判らなかったからだろう。今は、達したはずなのに射精はしなかった、という事実がウィスタリアの前にあった。だから余計に混乱していた。
勝手知ったる様子のサファイアを、憎らしげに睨みつける。といっても、涙目のウィスタリアの睨みなど、何の恐ろしさもなかっただろう。彼はくつりと喉を鳴らして、それからウィスタリアの背に腕をまわした。片手ではウィスタリアの尻の肉を掴んだまま、片腕で抱き寄せたのだ。元々縋るようにしがみついていた体が、より密着する。

「メスイキって言うやつだウィスタリア。下品な言い回しをするならな」

「め、す…?」

「射精せずにイクことだよ。おかしな事じゃない。壊れてねぇよお前さんは」

淡々と述べられた事実は、更にウィスタリアを混乱させるだけだった。そんな事って、と思う。
驚愕に見開いた視界に映るサファイアは、ゆるりと笑った。それは決して穏やかではなく、優しさでもなく、言うなれば捕食者のソレであり、ウィスタリアが全部と強請った時に見た笑みと、おそらく種類は一緒だった。あれほど凶悪ではないだけで。

「あ゛っ…!?」

ぐぽっ、と音を立てて、律動が再開される。まだ思考が追い付けていないのに、置き去りにしたまま始まった行為に、ウィスタリアは夢中で首を振った。掴まれた尻を落とされ、何度も、何度も自分で受け入れさせられる。ぐっぽぐっぽと音を立てて何度も結腸の行き来を繰り返され、体は絶え間なく達していた。これがそうなのだと、覚えてしまう。わざとらしく下品な言い方を選んだサファイアの言葉を。

「ぁ゛ぅっ…い、っ…ぅ……!♡…ぁっ…ぁ、また、っ…めす、いきっ…、す、ぅ…っ♡」

覚えたての言葉を、上手く動かせない舌に乗せて呟くと、サファイアは嬉しそうに目を細めた。やっぱり酒を飲んだ後の彼は意地悪だ。こういう下品な言葉をウィスタリアに言わせるのが、意外と好きに違いない、おそらく。

「…ふ、ぅ…っ…、…出すぞ…っ」

「ひぅっ…ァ、っ…あっ、…♡」

だして、と唇だけで囁いた。きっと、おそらく、これも好き。といっても、実際それほど計算して囁いたわけではないのだが、サファイアが小さく呻いたので、間違いではなかったのだろう。
ぐん、と強く奥まで捻じ込まれる。結腸に亀頭をハメ込まれ、体ががくがくと跳ねた。思わず鎖骨に歯を立てた瞬間、奥で熱が弾けて中に欲を注がれる。長い、長い射精だった。
ひくひくと断続的に、痙攣したように震えてしまうウィスタリアの体を、サファイアの大きな手が撫でる。くたりと彼の体に寄り掛かるウィスタリアの頭を引き寄せて、髪を撫でられた。れる、と唇を舐められて、キスをされる。貪るようなものではなく、優しいキスだった。まだ彼のモノを引き抜かれてもいない今のウィスタリアの体にはちょっと毒な気がするが、幸い、結腸からは抜けているようだった。萎えたのだろうか。判らない。萎えてても彼のモノは大きいし、そこからは抜いてくれただけかもしれない。ちょっと不明だ。とにかく、キスは優しかった。

「ん、…」

数度唇が触れるだけのキスを繰り返してから、少しだけ体を離す。それから、まだ中にサファイアのモノが埋まったままの腹を、そっと撫でた。ここまで入ってしまったんだなぁ、とか。この中に注がれたんだなぁ、とか。そういった感慨があって、数度手を往復させる。
ふと視線を感じて顔を上げると、サファイアがなんとも言えない表情でこちらを見ていた。怒りとも呆れとも驚愕とも取れるような、不思議な表情だ。何だろう、と目を瞬かせるウィスタリアに、サファイアは小さく息を吐き出した。

「お前さんはよぉ…」

「…え?」

「…や、なんでもねぇ」

「…?」

よく判らなくて首を傾げたウィスタリアの頬を、サファイアの手が撫でる。大きな手に頬を包まれて、うっとりと目を閉じた。最後に一つ、そっと口づけてから、サファイアはウィスタリアの体を引き寄せる。片手がウィスタリアの臀部を支えるように下から持つのを感じて、おそらく、彼がそのまま中から自身のモノを引き抜こうとしていたのだろうと察した。だから、待って、と止める。

「あの、もう、少し…だけ…入れて、てもいい?」

ぎゅぅ、とサファイアが眉を寄せる。その表情から読み取れる感情は、不快とも取れるが、違う気がする。どちらかと言えば怒りに近いような気がする。何でだろう。怒らなくてもいいじゃないか。
だって、ようやくお腹一杯に受け入れたのだ。いや、元々ウィスタリアの容量としては一杯ではあったのだけど、彼のモノを全部受け入れたという意味でいえば、ようやくだ。だから、せっかくだからもう少しだけ、と思ったのだ。結腸からは抜けてしまっているけれど、入ったんだなぁ、という記念というか。

「忍耐の訓練でもしてんのか?」

「…?…してないよ」

「ただの拷問だって?」

「…?、言ってないよ…?」

もしかしてこの状況の話だろうか。拷問?酷くないか?酷いのはこっちなのか?

「だって、でも、ほら…あの…慣れる為…に、もう少し、入れておいた方が…良いって、思う、し…あの…次の事…考えて…」

サファイアにもメリットはあるだろう、という体で口にすると、サファイアはゆるりと目を細めた。この表情がよくない事を、ウィスタリアは何となく知っている。具体的にどうというわけではなくて、本能が警告してくる類で。えぅ、と情けない声が口から零れ落ちてしまう。その音を聞いてか、サファイアは指で自身の眉間を揉んだ。


『んじゃ、もう1回やろうか』───そんな言葉を飲み込んで、それからほどなくして動けないウィスタリアを風呂に入れて、何もかもの後処理をしてくれたサファイアの心労を、ウィスタリアは知らない。