「ひ、い゛…っ、あ、あ゛ッ…!♡♡ゆる…して…もう、ゆぅしてぇ…!♡♡」
躾けられたことも無いくせに、勝手に綻び、クラウディオの性器に吸い付いていく自分の腹奥の動きに、こんなの知らないとアルカディアが悲鳴を上げた。
薬で無理矢理に高められた性感が苦しい。
ふいごのように荒れる息の中で、いつものあの優しいやつがいい、とアルカディアは思った。
追い立てられるようなことなんてひとつもなく、ゆっくりと嵩増した水が、とぷりと優しく堤を超えるような、クラウディオとのあの絶頂がいい。
寄り添った体温に指先までぽかぽかと温められて、満たされた幸福感で胸から溢れたものが涙になるような、彼とのあの絶頂がいい。
なのに、
「ぁ、やだッ、や、また…♡い゛、いく…ぅう──ッ!!♡」
脳を焼くようなオーガズムに堪えかねて、ガクンと首が仰け反った。
相手はクラウディオで、彼はいつもと同じようにアルカディアを優しく揺すってくれているだけなのに、触れる粘膜が火傷したように過敏になっているせいで、少し動かれるだけですら腹奥に殴りつけるような快感が来る。
そんな容赦の無い感覚は、クラウディオに大切に開かれてきたアルカディアには知らないもので、もう止めてしまいたいのに、止めたら狂いそうな飢えが来るとも分かっているから止められない。
腹の辺りでビシャビシャとひどい水音がしたが、もう構っていられなかった。
晒された喉笛に宥めるように這わされた舌すら、いまは辛く感じるのが悲しい。
気持ちいいのが、悲しい。
「も…やだ……」
辛いことや痛いことには耐性があったはずなのに、アルカディアはみっともなくしゃくり上げていた。
「もう、やだぁ…ッ」
かすれた悲痛な泣き声に、クラウディオの方こそが痛むような顔をした。
アルカディアが混乱しているので冷静であろうとしてくれているが、いつもの綺麗で凛々しい眉毛が下がってしまっている。
それがまた、胸が潰れるほど苦しくて、アルカディアは本格的に泣き出してしまう。
「ふ、ぁふっ、うぅ……い、つもの…ッ、ぅっ、いつものが、いい…ッ、くらでぃおと、してる、のに…ッ、こ、な…の、やだぁ……ッ!」
「……ッ」
思ったままを吐露するアルカディアに、ぐっと何かを堪えるように、クラウディオの眉間に力が入った。
前腕の筋肉が盛り上がる。
アルカディアにその力を与える訳にはいかないので、ギチギチとシーツを握り締めて何とか衝動を逃がした。
せめてもと、そっと涙を拭う舌すら、肌にビリビリと性感が走るらしく、自分の体に嫌気がさしたようにアルカディアが首を打ち振った。
他者の遺伝子情報……つまりは精液を接種することでしか発情を解除できないセックスドラッグなんて、本当に悪辣の極みだ。
魔力まで盛り込んで、自分自身の快楽の為、他者を平気で食い物にする奴等が生み出したこんな薬のせいで、どれだけ多くの人々が、望まない快楽地獄から逃れようと尊厳を打ち捨てる羽目になったのか。
そうした行為の幸福を、彼との枕辺で最近知ったアルカディアだから、怒りを覚えた。
その怒りが、戦場における彼の眼を、僅かに曇らせたのかもしれない。
今回の仕事は違法薬物を扱う集団がターゲットだった。
不条理がまかり通っている裏の世界では、隙を見せたものから食われていくと、身に染みて知っていたはずなのに。
結果、敵集団から『その薬』のアンプルを撃ち込まれて、アルカディアはのたうち回るハメになったのだ。
ルカの力も借りながらなんとか敵集団を殲滅出来たことだけが幸いだ。
送迎を担当してくれていたセオドアが、アルカディアがうわ言のように呼び続けていたクラウディオに彼を託した後は、今も事後処理に駆け回ってくれているはずである。
クラウディオにしたって、幸い屋敷に居たから良かったものを、それでも組んでいた諸々の予定があっただろうに、アルカディアに付き切りになってくれている。
二人に迷惑をかけて、心配させて、挙句の果てに、子どもよりタチ悪く泣きじゃくって。
そうした過度のネガティブも、摂取した薬物に誘発されたものだったが、今のアルカディアにそれを冷静に判断する余裕などあろうはずもなかった。
「くあ、う、ぁ…ぐ、ぅッ…うぅ〜…っ」
「…ッアルカディア、そう、噛み締めるな。痛める」
「やら、へんぁ、へんあこと、いう…」
「何も変じゃない。苦しければ人は悲鳴を上げる。当たり前だ」
「や、やあしい、こと、いっちゃ……」
「それは私が嬉しい。聞かせてくれ、アルカディア」
「…………ッ、ぅ、」
「アルカディア」
「………ぉ、おく、」
「ああ」
「おく……、く、くらでぃお、の…せ、えき…が、きもちい、の……もっと…いっぱい、欲し、い……」
「ああ、そうしようか。よく言えたな」
薬のせいとは言え、信頼と憧れの心を抱く彼にあんまりにもあんまりな内容を告げることになって、アルカディアは再びひんひんと泣いた。
普段の褥とは違い塩辛いその涙を舐めてやりながら、包むようにアルカディアを覆ったクラウディオが、ぐうっと押し込むように、二、三度、腰を押し付ける。
「ひっ、ひ、ぅッ、あ゛ッ!♡」
抜き挿しの刺激を生まない優しい圧迫にすらアルカディアは悶えて、四肢をクラウディオにしがみつかせた。
クラウディオもその抱擁に応えると、ぶわりと彼から香る強力な発情香にクラクラしながらも、無針注射で叩き込んだ抑制剤と意志の力で本能を捻じ伏せ、最後までゆったりと腰を使った。
勝手に開くのが怖いと怯えていた先までは亀頭を届かせず、薬物に狂わされた胎が求めてくるままに、射精する。
「────っっ!!♡─────っっっ!!♡♡♡」
腹の中をびしょ濡れにされる感覚に、もはや声も出せずに、アルカディアが背を仰け反らせて達した。
気持ちが良い。
気持ちが良くて、果てがない。
「あ、ぅあ…また、…やぁ…」
「大丈夫だ。そばにいる」
汗みずくで手を繋ぎ合わせながら、そうしてもう一度、一緒に高みに昇っていく。
発情の解除条件である精液を摂取させたとしても、元より法の外にあった薬物だ。
医学的信頼性など無いに等しく、どれほどの量を注げば良いかも定かではない。
それに、発情が解除されたとしても、一度暴走した神経が鎮まるまでは、ひたすら対症療法で耐えるしか無い。
時折、補水液や栄養剤を口移しでアルカディアに与え、不安定に泣きじゃくる彼を鷹揚に宥めながらも、実際のクラウディオの憤怒は、凄まじいものがある。
当然だ。
大切な存在が卑劣な手段で踏み躙られ、二人で見つけて行くはずだった肉体の歓びまで、恐怖と共に植え付けられている。
「くら、でぃお……」
我知らず、恐ろしげな顔をしていたのかもしれない。
ふと見れば、正体なく乱れていたはずのアルカディアが、眉を下げた顔でクラウディオのことを見ていた。
「あの…ほんとう、に、ごめ…なさ…、くらでぃおに、迷惑、かけた……」
大事だって、言ってくれたのに、と。
自信なげに震えた声に、僅かに理性が戻って来ている事を喜びながら、クラウディオは、この行為を始めた際にアルカディアに言い聞かせたことを、もう一度、眼差しを合わせて繰り返した。
「アルカディア。私は迷惑を感じていないし、お前に失望もしていない。今のお前がどのように振る舞ったとしても、それはお前が被った悪意によるものだ。お前の尊厳も、私のお前に向ける何もかもも、ひとつも損なわれることはない」
分かるな、と確認され、うん……、と仕方なさげにだがアルカディアが頷く。
今はそれで充分と、鷹揚にクラウディオも頷いて、そして、アルカディアのことを促した。
「なら、お前が私に言うべきなのは、謝罪や私の心根を試す言葉より、もっと相応しいものがある。そうだろう?」
「ん……」
と、再び頷いたアルカディアは、今度はどこか、気恥ずかしげな色をしていた。
それはどこか普段の、もう少したくさん揺すって、とベッドにクラウディオをねだるような時のアルカディアで。
「…………たすけて、くらでぃお」
小さな、小さな声。
誰にも頼れず、兄弟と共に自分達の力だけで生きてきたアルカディアだからこそ、彼からは出ることのない言葉。
クラウディオが、アルカディアの体を抱きしめた。
後頭部の丸みから小さな背中までを、何度も何度も、大きな手が撫でさする。
「大丈夫だ」
今日、何度もかけてもらった、胸が震えるような優しい声だった。
この薬害に、特効薬などはないのだけれど、
「お前には、この私が付いている」
そう。そうだ。それだけでいいんだ。
最初から満点を引き当てていた男の回答に、アルカディアは安心して、弱りきった自分を全て預けた。
「………酷い目にあった」
翌朝、ベッドの上でアルカディアはケロッとしていた。
無論、フィジカルはズタボロだったが、メンタルはむしろスッキリしている。
元来、この男は打たれ強いのだ。
異常に我慢強くもある。
それがあれだけ弱り果てていたのだから、どれほど辛かったか察せられるというものだった。
他者への共感が出来ていないとサファイアに叱られがちなクラウディオでさえ、正直心配で胃が荒れた。
そんなクラウディオよりいっそ快活に、泣き跡で真っ赤な目元と枯れ切った声でアルカディアが言った。
「くらでぃお、俺が今それなりに元気なのは、くらうでぃおのおかげだよ」
だからくらうでぃおも元気になって、と続けたアルカディアをしばし見た後、クラウディオが深く嘆息した。
両手で顔を覆って俯く。
恥じ入っていた。
「……実は、お前の手前格好つけていたが、本当は『可哀想に』と憐れんで、私なしでは生きていけない生き物にしてしまいたかった」
「正直者だね」
生真面目に自分の浅ましさを告白する男に、アルカディアが貶しにもならない、ただの褒め言葉を吐いて笑った。
そんなことを言いながら、結局それを成さなかった男がひどく愛しかった。
自分をただただ憐れみと慈しみを注ぐ愛玩物にせず、並び立つ存在であることを守ってくれた男が。
「……あの、薬も抜けたし、今それ、言ってほしい。今はもう、ちゃんと普段の俺、だし。それに、ちょっと……」
うん、と僅かに頬を染めたアルカディアが、クラウディオの耳に、ほしょりと囁いた。
「まだくらでぃおに、甘えたい気分なの」