bathroom my fairy


「ふ、ぅ……ッ」

「っ……!」

軋むベッドの上で互いの指を絡ませて、アッシュは緩やかに挿入を繰り返す。彼の下で断続的に続く快楽に身を震わせながらも、ウィスタリアは声を漏らさぬように唇を噛み締めた。アッシュは良い顏をしないが、情事の際に口を噛むのは無意識による癖だった。案の定眉間に皺を寄せる彼の顏は怒っているようで、しかし本当は傷にならないかと案じてくれているのだと知っている。
嬉しさで頬を緩ませていると、顎を掬われて優しくそこを擦られる。心地よさに噛み締めていた力が抜けて、微かに開いた唇から小さな嬌声が上がった。

白い肌は赤く火照り、その表面を玉の汗がつるりと滑り落ちる。真っ赤な瞳に滲む色のついた熱に誘われて深く口付けると、たどたどしくも必死に答えようとする様がアッシュには大変可愛らしい。

「…ウィスタリア…」

「…あ、ぅ……あ、しゅ……♡」

ラストスパートとばかりに今までの緩やかさを一変させ激しく突き上げれば、ほどなくしてウィスタリアが絶頂に導かれる。それから僅かに遅れて、アッシュもゴムの中で達した。

「……あぇ」

「……どうかしたか?」

繋がった状態で二人ベッドに身を沈めていると、情事の余韻に浸りながら息を整わせていたウィスタリアが何かに気付いたように声をあげた。

「…な、んか、いつもと感覚…違う……」

困ったように呟くウィスタリアもよく解っていないのだろう。よほど違和感が気になるのか眉を顰めてもぞもぞと身動きを繰り返しているが、その度にアッシュのものが刺激されて慌てて止めさせる。
そわそわと落ち着かないウィスタリアに一旦抜くぞ、と声を掛けて中から抜くと、微かな振動を感じて吐息が漏れた。艶めかしいそれに視線を向けないように努めて意識を逸らす。囁くような鳴き声に簡単に理性をかき回されるけれど、ただでさえ受け身で負担の掛かる彼に無理はさせたくなかった。
平静を保ちつつ引き抜いたものからゴムを外そうとして、ウィスタリアの感じた違和感の正体に気付き、ああ、と声をあげた。

「ゴム、やぶれてるな」

「え、」

ほら、と外したばかりのそれを持ち上げてウィスタリアに見せる。よく見ると表面に小さな裂け目が出来ており、ゴムのなかに溜まるはずだった精液はその隙間から滑り落ちて、中はほとんど残っていなかった。
今日はいつものゴムが売り切れていたために仕方なく別のものを買って使ったのだが、それが良くなかったらしい。不良品だったか、と思わず舌打ちをしそうになっていると、おろおろとウィスタリアが慌て始める。

「…ど、どうしよう…」

「どうもこうも掻き出すしかないな」

今までウィスタリアの負担や後処理の面倒さを考慮して中に出したことはなかったが、それでも出てしまったものは仕方ない。放置すると腹を下してとても辛いとも聞いていたし、そのままにしておく訳にもいかなかった。
アッシュは手早く下着とスラックスを身につけて、先ほどまで使用していたシーツで未だ全裸でいるウィスタリアを包む。シーツの上から背中と膝裏に腕を回して乱暴にならないように身体を持ち上げ、勢いをつけて立ち上がった。力の抜けた身体は普段より重かったが、運べないほどではない。

当のウィスタリアは突然抱えられて目を白黒させていたが、ようやく思考が回ってきたのだろう。徐々に顏を赤らめながら降りようとじたばたと手足を動かすが、がっちりとホールドされていて身動きがとれない。

「…お…降ろして…っ」

「そんなこと言ったってお前動けないだろ。いいから大人しくしてろ」

後で辛くなるのはお前なんだぞと言えば、うぅ、と呻きながらも一応納得したらしい。遠慮がちにアッシュの首の後ろに手を回して体勢を整える。間近に感じる温もりに密かに悦になりながら、落とさないように慎重に浴室へ向かう。浴室のドアをウィスタリアに開けてもらい難なくたどり着いた。

包んでいたシーツを洗濯機に放り込んで、壁際にある風呂椅子にウィスタリアを座らせ自身は床にしゃがみこむ。
コックを捻りシャワーを出して、水が暖まったところで身体に優しく掛けてやった。べた付いた素肌に湯が落ちる感触に、ウィスタリアは気持ち良さそうに目を細めている。情事後も相まって眠いのだろう、うっとりとしながら微かにたゆたう様に、アッシュは理性を試されている気がした。

煩悩を殺せ、と自身に言い聞かせつつシャンプーを手にとり、目を瞑るよう促す。手の中で少し泡立てて髪に落とすと、髪質の良いおかげかすぐに頭部全体にふわふわの泡が広がった。指の腹で髪の根元までしっかり洗っていると「きもちいぃ…」なんて呑気な声が聞こえてくるので本当に堪らない。シャンプーを流して、ついでにコンディショナーもたっぷりつけてやった。
最後にもう一度お湯で軽く洗い流し、一度シャワーを止める。ボディソープを湿らせたタオルに含ませそれを手に持ち、眠気ですっかり船を漕いでいるウィスタリアに向き直った。
問題はここからだ。

「こら、寝るなウィスタリア。起きろ」

「…はぁい……」

顏を軽く叩いて目を覚まさせる。眠そうにしながらも一応起きてはいるらしいことに安堵する。今回ばかりは起きていてくれないと、さすがのアッシュも少し困る。

「お前、後ろの処理一人で出来るか?」

「後ろ……?」

ぴたり、と目を擦っていた手を止めて怪訝な顏をする。一回、二回と瞬きを繰り返し、数秒の後ボンッと音を立てて真っ赤に染まった。どうやら目は完全に醒めたらしい。

「…う、うしろって…」

「中に出してしまったからな。掻き出すにしても、お前は自分でやれるのと思って」

「…あ、そうか……えっと、…」

そう言うとウィスタリアはそろそろと指を自身の尻の下へ持っていく。恐るおそる指で引っ掻いてみてはいるが、どうにも手がまごついていてそれ以上進みそうにない。泣きそうな顏のまま固まってしまったウィスタリアに、これはやはり自分が覚悟を決めるしかないのかと息をつく。頭をぽん、と撫でて手を握ると、涙目で見つめられる。やはり可愛い。

「……わかった。私がやろう」

でも耐えられなくなって襲ったら悪い、と胸の内でこっそり謝っておいた。



大腿を持ち上げて足を軽く開かせて、出来た隙間に手を滑り込ませる。先に身体を洗おうかとも考えたがどうせ綺麗にするなら一緒のほうがいいだろうと後回しにした。奥の窄まりに手を伸ばしてふちにそっと指を掛ける。ひく、とウィスタリアの身体が跳ねる振動を腕越しに感じる。

手元が見えないと上手く作業できない事を理由に照明はつけたままにしていた。そのせいだろうか、アッシュが動くたびに身体を震わせていつになく初心な反応を見せる。情事の時とは違い狭い浴室には光が満ちており、いつもよりはっきりと見えるウィスタリアの顏は羞恥で瞳は潤み蕩けていて、とても淫情をそそられる。
張り付きそうになる視線を無理矢理戻して努めて事務的に、しかし決して乱暴にならないようにゆっくりと手を動かす。数十分前までアッシュを受け入れていたそこに指を這わせて中を探れば未だ柔らかく解れていて、少し力を込めれば難なく侵入を許す。指を差し込んだと同時にウィスタリアの身体が強ばるのが判ったので落ち着かせるように背中を撫で力が抜けるのを待った。
少しずつだが緊張が解けてきたのを確認して止めていた手を再開させる。動かすたびに跳ねて逃げようとする身体を押さえてゆっくりと押し進めていると、ウィスタリアが漏らす吐息に微かに混じる艶を耳聡く聞きつけて反応しそうになる自身のものにアッシュはげんなりとした。

「…っ、あ、ん……」

何も聞いてない、と無心になってひたすら中を掻く。暫くそうしていると、とろりとした白濁が溢れてきて尻の間を伝って風呂椅子に落ちた。ぽたりと流れて少しずつ水たまりを作っていくその光景でさえ今のアッシュにとっては目の毒だ。早く終わらせようと気を急かすが、中に出してしまった量のわりになかなか外に出てこない。
もっと奥まで入ってしまったのだろうかと訝しんで指を奥深くまで挿し進めようとした時。

「​​──ひゃあッ!!」

「…っ……、悪い」

上擦った嬌声に慌てて顏を上げると抑えるように自身の手で口を塞ぐウィスタリアと目があう。どうやら指を上げた際に彼の敏感な箇所を擦りあげてしまったらしい。
詫びを入れつつ殊更丁寧に中を探っていく。しこりに触れないように指を避けて、腰をしっかりと抱え動かないように身体を固定し、随分奥に注がれたらしい白濁を掻き出していく。むずがるように身体を動かすウィスタリアを時折窘めながら指を再開させた。

「ぅ、もっと、雑にして…、いい…から……っ」

「そんな事言って怪我したらどうする」

頭上から聞こえてくるウィスタリアの声を尻目に、指の腹を押し付けるように擦って粘液を外に落とす。万一にも傷つけないように時間をかけて、少しずつ中から取り除く。

​​──同じ事を繰り返し続けて暫く経った頃に、掠れた声で名を呼ばれた。

「あ、しゅ」

ふと聞こえてきた弱々しい声に、驚いて顏を上げる。

「…いじわる、しないで……」

ぽろり、と堪えきれなかった涙が頬を伝って零れ落ちた。全身を桃色に染めて懇願するその姿に目を見開く。

「も、くるし……」

はふはふと整わない呼吸を繰り返しすすり泣くウィスタリアを見て、中への刺激が思った以上に辛いのだと漸く気付いた。
アッシュとしては決して意地悪で事に当たっていたつもりは当然ない。ただ好きな人には優しく接したかったし、適当に扱って傷つけたくなかった。乱暴にするなんてもっての外の行為だ。あくまでアッシュの優しさからくるものだったが、しかしウィスタリアからしてみればとんでもなく焦れた行為だ。長い指が身体の奥の奥まで届いてばらばらと動きまわっている。だというのに、一番快感を得られる箇所には触ってもらえず周りばかりをかき乱されるのだから堪ったものではない。

アッシュの優しさにより焦らされたせいでいろいろと限界だった。全身を真っ赤に染めて、中を弄られ続けたことによりウィスタリアの自身のものは緩く勃ちあがっていた。その姿に。
今しがた理性を投げ捨てた自覚を持つとともに、アッシュは悟った。

「……私も男だな」

「…え……あ、ひッ!?」

探る動きを積極的なものへと変えて中を掻き回すと、その急激な変化に耐えきれず思わず後ろに逃げようとする。だがアッシュの腕により逆に腰を引き寄せられてしまい、さらに反動を利用して指が腹側にあるしこりを強く抉った。散々焦らされ続けて過敏になっていた箇所への突然の強い刺激に、目の前がちかちかと光る。
くちゅりと中から指を引き抜かれる感覚にぞわりと腰が震える。てらてらとぬめる指で胸の飾りを転がされ、ちゅ、と首筋に吸い付かれた。切なげに吐息をこぼすウィスタリアに、琥珀色の目を細めてにこりと笑った。

「なぁ、ウィスタリア」

「はっ、う…あ、しゅ……」

「もういっかい。いいか?」

​​──後にウィスタリアは、その時のアッシュといったらそれはそれは美しく微笑んだのだと語る。
ぶつんと理性の切れる音は、確かに耳に届いていたのだ。