DROWN




明日が休みだから、思いっきり犯された。
アルカディアはベッドに四肢を投げ出す。もう腹の中には何もないのに、まだ下腹部が小さく痙攣して、じわじわした快感が止まらない。

「はー……は……っ♡…ぁ、あ……♡」

「はっ……、やりすぎたか。悪い」

水分取ろうか、とクラウディオがアルカディアを抱き起こして後ろから抱えた。ヘッドボードに置いていたミネラルウォーターのペットボトルを開けて、口元に運んだ。快感が後を引いて、口で呼吸するのも気持ちいい。気持ちいいから、飲みたくない。アルカディアは力の入らない首をわずかに振った。

「こら。たくさん汗かいただろ」

クラウディオはペットボトルをアルカディアの唇につけて傾けた。一口分の水が口内に流れ込む。ヘッドボードに長い間放置していたが、まだ少し冷たさが残っていた。
アルカディアは口内の水を嚥下し、んぐ、と息を詰まらせた。下腹部が一瞬、がくんと痙攣を強める。クラウディオはアルカディアの喉が動いたのを見て、目を細め、さらにペットボトルを傾けた。

​​──待って、今そんなに飲んだらやばい
アルカディアはクラウディオの手を押しのけようとしたが、力が抜けきった手はすがるように添えられるだけだった。口内に再び水が流れ込む。吐き出そうにもクラウディオは手を退けてくれなくて、結局ごくん、ごくんと飲み込み続ける。

「ん、ん゛、ぅ……、ぅ……っ!」

腰がぞくぞくする。やっぱりきた。飲み込む喉の動きに合わせてがくがくっと下腹部が痙攣を強め、また小さくなり、次の一口で再び痙攣するのを繰り返した。
ペットボトルを3分の1ほど空けて、クラウディオがペットボトルをアルカディアの口から離した。ふー、ふー、と獣のような息が漏れる。クラウディオはペットボトルをヘッドボードに置いて、未だに小さく震えている下腹部に手を当てた。ひんやりした手が、なだめるようにアルカディアの下腹部をゆっくり撫でる。小さく続いていた痙攣が、少しずつ治っていった。

「んぅ…くら、でぃお」

「大丈夫か。このまま風呂入ろうか」

「…ん」

クラウディオは力の抜けたアルカディアを抱えて、風呂場に向かった。



最近、水を飲むとおかしくなる。セックスの余韻が後を引いているせいかと思っていたが、以前買った水を飲んだ時に違うとわかった。
アルカディアは会社の近くで何気なく買ったペットボトルが、いつもクラウディオに飲まされるミネラルウォーターと同じ銘柄で、頭の端でクラウディオとのセックスを思い出した。
末期だ、と頭を振って、口に含む。冷蔵コーナーから出したばかりの水は少し冷え過ぎていて、眉を顰めた。水を口内で少しだけ転がして、口内の熱で少し温められたら、嚥下する。ごくん、と喉が動いて、水が喉の奥を穏やかに冷やしながら食道を進んでいく。
ぞくり。

「(……?)」

一瞬、下腹部に震えが走った。真昼間に感じるには、あまりに淫靡な感覚。気のせいだと思いたくて、もう一度同じ量の水を口に含み、嚥下した。ぞくん、と、微かに、しかし確かに快感が走って、びく、とほんの少しだけ下腹部が痙攣した。

「(嘘、おかしい、こんなのひどい)」

自分の身体が、変えられている。
今までだって、性器で感じる快感しか知らなかったアルカディアに、クラウディオは後ろで感じる快感を刻みつけた。アルカディアは自分が後孔を広げられたり、内部のしこりを潰されたり、奥の奥に射精されて絶頂するような身体になるなんて、想像もしていなかった。昔は、セックスのたびに変えられる身体を、こわいと思っていた。しかし後孔の性感帯を開発されれば気持ちよくなるのは構造上仕方ないことだ。再会してからは、空白の時間を埋めるように再び開発され、今ではもう開発され切った身体を受け入れているし、クラウディオとセックスするのは素直に好きだと思える。
それでも、こんなのはおかしい。自分はここまでひどい身体ではなかった。こんな、水を飲んだだけで気持ちよくなるような身体じゃなかった。混乱と、羞恥と、恐怖で手が震えた。
ミネラルウォーターはまだ二口分しか減っていない。買ってしまったものを捨ててしまうのは抵抗があって、結局ちびちびと口の中を湿らすように、ゆっくりと飲みきった。

アルカディアはなぜ自分が水を飲むとこんな状態になるのか考えた。
自分は、銘柄からクラウディオのセックスを連想した。口内に水をためた時に、冷えすぎた水が温められ、その温度を喉で意識しながら飲み込んだ。セックスの後に飲む水と同じ銘柄、同じ量、同じ温度。絶頂した余韻を感じながら特定の銘柄の水を飲んでいたのが、いつの間にか特定の銘柄の水を飲んだら絶頂した時を思い出すように条件付けられていたということだろうと、アルカディアは結論づけた。

「(もう、人前であの水飲めないな)」

もうずっとクラウディオと付き合っていて、クラウディオに条件付けする意図があろうがなかろうが、事後にあの水を飲まされ続けている。アルカディアは無意識に、水を飲むとクラウディオとのセックスを思い出すようになってしまった。
アルカディアは、人前でミネラルウォーターを飲むのをやめて、なるべくホットコーヒーのような温かい飲み物を、口内を湿らせるようにして少しずつ飲むようになった。
クラウディオによって身体を無遠慮に変えられる。クラウディオの存在が、今までより日常に侵食してくる。そのことにぞわりと背筋を震わせた。
 


ある日、アルカディアはクラウディオの仕事の手伝いでレイスと外を周っていた。今日はやけに気温が高い。
休憩がてら買い出しに行ったレイスは10分程度で戻ってきた。手にペットボトルを2本下げている。

「ルカさん、スポドリどーぞ」

「……ん、ありがと」

レイスの好意に、ありがたくペットボトルを受け取った。隣でレイスが喉を晒して、スポーツドリンクを一気に半分ほど減らした。自分も飲もうとキャップを開ける。

「(…水じゃなくてよかった)」

アルカディアはいつもの癖で、口内を湿らすように少量ずつ飲んだ。隣のレイスが、不思議そうにアルカディアを見た。

「ルカさんあんまりスポドリ好きじゃない?他のがよかったすか」

「ん…別に嫌いじゃない、大丈夫」

「そう?ちびちび飲んでるから苦手なんかと思った。あーでも一気飲みってあんま良くないって言いますよね〜」

レイスに言われて、アルカディアは自分の飲み方に気づいた。
確かにこれは水じゃないし、普通に飲んでも大丈夫か、とアルカディアはペットボトルに口を付け、ぐっと傾けた。口内にスポーツドリンクの甘い味と、冷気が広がる。いつもなら顔をしかめてしまいそうな冷たさも、今は少し心地よい。ごくん、ごくん。冷たいスポーツドリンクが、嚥下のたびに喉を冷やして、滑り降りていく。
がくん。

「……っ!?ん、げほっ!!」

「わ、大丈夫っすか?」

アルカディアは思わずペットボトルを口から離して、派手に咳き込んだ。はぁはぁと荒い息をつく。レイスが隣から様子を気にしていたが、アルカディアはそちらを気にする余裕はなかった。

「(…いま、イきそうに、なった)」

自分の身体に愕然とした。背筋がぞくぞくする。一度大きく痙攣して、ひくひく震え続ける下腹部を、なんとか押さえつけた。なんで、水ではないのに。銘柄も、量も、温度も違うのに。
もしかして。
飲み物を飲むときの、喉の動き。冷たい液体を嚥下するときの、喉が冷やされる心地よい感覚。今までは原因が水だと勘違いしていて、一気に飲み物を飲むことを控えていたから、気づかなかった。スポーツドリンクを勢いよく嚥下したことで、きんと冷えた液体が、思いっきり喉を刺激しながら一気に滑り落ちた。その刺激で絶頂しそうになったのだと、アルカディアははっきり自覚した。

「(なに、ひどい、クラウディオのせいだ、)」

口元を手のひらで覆い、息を整える。「ごめん、噎せた」と平静を装ってレイスに言ったが、自分が今どんな顔をしているのかわからなかった。



夜、クラウディオが家に帰ってきた。キッチンの冷蔵庫を開けたクラウディオが、自分の分のついでにアルカディアの分のペットボトルをテーブルに置いた。いつもの銘柄。冷蔵庫から出したばかりで、きんきんに冷えていることが一目でわかった。

「……水、いらない」

「お前は水分を取らなさすぎだ。私の見ている前ではちゃんと飲め」

クラウディオはわざわざペットボトルのキャップを開けてアルカディアに渡してきた。アルカディアは渋々ペットボトルを受け取り、水を口に含んで少量ずつ飲んで行く。隣に座ったクラウディオが、自分をじっと見ているのを感じる。
一口飲み終え、もう一口飲もうとペットボトルを傾けたとき、クラウディオの手が横から伸びてきてペットボトルを掴んだ。ぴしゃ、と水が少量飛び出して、口元と服を濡らした。

「え、──ん、ん!?」

クラウディオは後ろから片腕を回して身体を固定し、もう一方の手でペットボトルをアルカディアの口に傾けた。

「ん、ぐ…う゛、んー!」

口の端から水が溢れ、幾筋も伝っていく。噎せないように気を遣いながら、しかし容赦無く水が口内に流し込まれ続ける。このままでは窒息してしまいそうで、どうしようもなくなって、とうとうアルカディアは水を嚥下した。

「ん゛、う、うぅ、ふぅ、っ……」

びくり、と腰が揺れた。ごくん、ごくんと喉が動くたびに腰が痙攣する。眉を顰めながら、それでも流し込まれ続ける水を飲み下す。次第に痙攣が大きくなって、飲み込むたびに腰ががくり、と大きく痙攣した。
クラウディオが目を細めてアルカディアの目を覗き込んだ。目を合わせて、小さく首を横に降ると、やっと口元からペットボトルが外された。クラウディオの目尻が少し赤くなっていて、口元にうっすらと笑みまで浮かんでいる。興奮を隠そうともしていない。

​​──わかっててやってる
クラウディオの視線から、嗜虐心と独占欲と欲情と、どろどろの愛情が一緒くたに注がれる。ぞくぞくが止まらない。ソファから半分滑り落ちるように足を投げ出した身体を、背中に回されたクラウディオの手が支えていた。
テーブルに置かれたペットボトルの中の水は半分近くになっていた。

「けふ、ん゛っ、ふ…は、はぁ……」

「ちょっと苦しかったか」

気持ちよかったな、とクラウディオはいつものように優しい声音で笑いかけながら、背中から回した手で下腹部を撫でた。なだめるように手のひら全体ですりすり撫でたかと思えば、腰のラインを辿られたり、時折腹の中を意識させるようにぐっと力を入れられる。小刻みな痙攣が止まらない。落ち着かせるための動きではない。

「ひ…ぁ、くらでぃお、手、…手、やめ…」

「まだ」

クラウディオは楽しそうに笑いながら、またペットボトルをアルカディアの口に近づける。目を見開いた。待って、本当に今は駄目だ。必死に首を振る。

「待って…くらでぃお、ぁの、ほんとに…駄目」

「うん?どうして?」

「いく、の…、これ、いく…から、のど……やだ…」

「ああ、今もこんなになってるからな」

また下腹部をぐっと押されて、がくんと痙攣する。はー、はー、と発情しきった息を漏らした。じわりと視界が歪む。

「でも私は、お前が水飲んでいくの見てみたい。ほんとに一口でも駄目?」

「だめ、…ほんと…に、だめ…」

そうか、とクラウディオは下腹部を名残惜しげにひと撫でして、下腹部に当てていた手を外した。アルカディアはぼんやりした頭で、ああわかってくれたと勝手に思って、息をついた。
クラウディオはペットボトルを傾け、自分の口に水を含む。それをぼんやり見ていると、アルカディアの後頭部に手が回された。あ、と思う間も無く、唇を塞がれる。自分の水で濡れた唇が、少し乾燥しているクラウディオの唇とぴったり重なる。

「ん、…ん!?う゛、ぅ…っ!」

アルカディアの口内に、水が流し込まれた。クラウディオの口内の熱で温められ、唾液と混ざって生ぬるい。顔を背けようとしても、がっちりと後頭部を固定されている。アルカディアは水を押し返そうと、必死に舌を突き出す。クラウディオが口を大きく開けて、アルカディアの舌を口内に導いた。舌が絡められる。ぐじゅ、と水と唾液の混ざった液体がかき混ぜられて、口の端から溢れていく。
クラウディオは後頭部を固定していた手を開き指先に力を込め、がしっとアルカディアの頭を鷲掴むと首をわずかに反らさせた。重力にしたがって、どろどろになった水がゆっくりと喉の奥に流れ込む。その感覚を、アルカディアははっきりと感じることができた。

​​──むり、いく、いく

ごくん。

「ん゛ぅ、っ──ッッ!♡♡」

がくん、がくんとアルカディアの下腹部が激しく痙攣した。クラウディオは後頭部に回していた手を離し、ペットボトルをテーブルに置いて、両腕でアルカディアを抱きしめる。

「う、っけほっ…ぅ、ふ、う゛、ふ、は…ぁっ…」

「ああ、気持ちよかったな」

とん、とん、と一定のリズムで背中を優しく叩かれる。クラウディオの腕の中で身体を丸めて、しつこく続く痙攣が収まるのを待った。口元に手を当てると、溢れた水や唾液でぐしゃぐしゃになっていた。

「(また、変えられた)」

アルカディアの日常はまた少し、クラウディオに侵食された。その絶望感と、仄暗い悦びで涙が溢れる。

「アルカディア」

クラウディオの声に顔を上げると、頰に、眦に、クラウディオの唇が触れた。絶頂した身体をなだめられているようで心地よくて、でも唇がさみしい。クラウディオの唇を無意識に目で追い、ちろりと自分の唇を舐めた。その仕草にクラウディオが吐息で笑って、穏やかにアルカディアの唇に自分の唇を押し当てる。その境目をアルカディアが舌でたどると、薄くクラウディオの唇が開かれた。
自分の舌を侵入させて、クラウディオと舌を穏やかに絡める。くちゅり、くちゅりと音が立って、また背筋がぞくぞくする。
クラウディオがキスを深める。どちらのものかわからない唾液がアルカディアの口内に流れ込んだ。抗う気もなく、こくり、こくりと嚥下した。脳がじん、と痺れて、下腹部がまたひくりと動いた。アルカディアはゆっくり目を閉じて、どんどん深くなっていくキスを受け止めた。

ああ、このままキスで溺れて死にたい