Watch your step



微かな室内灯のみが揺れる部屋の中に、じゅぷじゅぷと水音が響き渡る。もうどれほどの時間こうされているのだろう。既に身体は痛いほどに熱を篭らせていて、張り詰めた自身からはとめどなく先走りが溢れ、床に染みを広げている。

「あっ♡ふっ♡や、だ、やだぁっ…くら、くらでぃお、たすけ、て…っ」
 
もう十分に高められているというのに、全身を這い回る触手は決定的な刺激を与えてはくれず、生殺しの状態のままアルカディアは宙吊りになっていた。ぬるぬると粘液をまとったそれらがアルカディアの尻たぶをぬるりと舐め、慎ましく閉じられた蕾に触れる。それだけで達してしまいそうなほどに気持ち良いのに、それだけでは足りない。

「んっ♡ぅ、そ、こ、やぁ……っ!」

皺の一本一本まで押し広げるように丁寧に粘液を塗りたくる触手は入り口付近を丁寧に嬲りながらアルカディアの尻をどろどろに汚していく。きゅんっ、と肉壺が雄を求めて疼いて仕方がない。いつの間にこんなに快楽に弱くなってしまったのだろう。
けれど、ここに招き入れて良いのはクラウディオだけであって、生命ですらない触手なんて論外だ。でも、ここにクラウディオはいない。熱は燻っていくのに、自身を埋めるものはなく、両腕も触手に拘束されていて使えない。つんつんと入り口をつついてくる触手に奥まで犯されたのならどれほど気持ち良いのだろう、なんて浅ましい考えが頭を過っては、まだ自分はそこまで堕ちていないと頭を振る。

「ひぅ♡あっ!」

胸の飾りをやわやわと刺激されて、びくびくと背中を快楽が駆け上っていった。しかし、その刺激は達するには程遠く、また一つ熱を篭らせるだけだった。
クラウディオによって快楽を教え込まれたこの身体は、もはや前の刺激だけで達することはできないほどに色を刻まれている。いつだったか、どうしても抑えが効かなくて一人で慰めようとした時に、前の刺激で達することができず、プライドをかなぐり捨てて初めて自身で後孔をいじめたのも記憶に新しい。
じわりじわりと真綿で首を絞めるように与えられる快楽に長時間浸らされて、気が狂ってしまいそうだ。

「んうぅ……くらでぃお、たすけて……」



どうしてこんなことになっているのだろう。
仕事でクラウディオが後処理を請け負っていた、危険魔獣に指定されている魔獣の身体の一部が入った瓶をクラウディオの元まで持っていくはずだった。
封じ込められているとはいえ危険魔獣だ。身体の一部となっても死んでいるわけではない。彼らの生命力は並大抵ではなく、完全に処理が終わるまでは油断してはならない。そう、油断してはならないのだ。そんなこと重々承知している。本当だ。
昨日の夜はなんだかあまり眠れなくて、だから普段よりも少し頭が回っていなかった。
​​──足を引っ掛けて瓶の中身をぶちまけるだなんてそんなことは、常の自分であれば絶対に犯さない。断じて。
そもそも寝不足に陥ったのは、久方ぶりに出張から帰ってきたクラウディオがアルカディアを離さなかったからだし、瓶の中身を処理することになったのも彼が家に持ち込んだからに他ならない。つまるところ、アルカディアのこの状況は全てクラウディオのせいなのだ。自分が悪いわけではない、断じて。いや、でも少しは悪いかもしれない。
油断してしまったのは自分の怠慢だし、後で取りに行くと言ってきたクラウディオに対して、自分が持って行くと言って譲らなかったアルカディアだ。
だって、長い時を経てまた会えたのだ。いつまでもクラウディオに手を差し伸べてもらうばかりの子供のアルカディアではない。会えない間に一人でいろんなことが出来るようになったのだと証明して、クラウディオにまた認めてもらいたかったのだ。

「んうぅ……」

瓶から飛び出した触手によって自由は奪われ、アルカディアはリビングに宙吊りにされている。魔力で封印を施していた瓶は粉々に砕けてしまい、天井に届くかと思うほどに巨大化した触手はその本数を増やしてうぞうぞと身体中を這いまわっていた。
主人から切り離されているというのに、まるで個々に意思でも持っているかのように動き回る触手がアルカディアの不快感を増していく。一体これは何の目的をもってこんなことをしているのだろうか。殺すのであれば既にやっているだろう。いや、別に自分は死にはしないが、殺されたいわけではない。けれど、宙吊りにされて身体を弄られるというのは意図がわからずただただ恐ろしかった。

「ひっ!」

アルカディアを捉えている触手のうちの一本がぬるりと服のあわいに侵入する。それまでは服の上からやわやわと身体の曲線を確かめるように動いていただけだったのに、侵入を果たした一本に続いて他の触手たちも一本、また一本とアルカディアの衣服の下にその身体を差し込み始めたのだからアルカディアとしてはたまったものではない。
拘束から逃れるべくもがいてみても、より一層束縛が強まるだけでまるで逆効果だった。
衣服の中に侵入していたそれらは着込んでいたこともあってか素肌に到着することはなく、それだけがまだ救いだ。けれどそれも時間の問題だろう。
触手の動きがぴたりと止まり、ホッとしたのも束の間、どろりとした粘液がアルカディアの衣服に染み込んだかと思えば、じゅっと音を立てて形を崩した。

「えっ、や…なに…っ」

じゅうじゅうと音を立ててアルカディアの服が溶けていく。服を溶かしてしまうほどの液体が皮膚についたら一体どうなってしまうのだろう。想像するだけでぞっとする。あっという間にアルカディアを守ってくれるものは消え去って、どろどろとした粘液がアルカディアのまろい肌をねっとりと汚していく。
幸いにして、触手から分泌された液体は衣服だけを溶かすものだったようで、肌が爛れることはなかった。けれど、粘液が触れた部分から広がるようにじわりじわりと熱が灯されていく。火照った身体は更なる熱を期待してずくりと疼き、呼吸が浅く、思考がどろどろと灼かれていくようだった。

「んっ、ふ、ぁっ♡」

呼吸を整えるために吐いた息が甘く震えたことに気付いて、自身が興奮していることを自覚する。どう考えてもそんな場面ではないというのに、一体、どうして。

「なん、でぇ……ひっ!」

問いに答える者はなく、アルカディアの言葉は闇に溶けていく。
言葉を理解しているのか、いないのか。ゆるりと兆した自身ににゅるっと纏わりついた触手がきゅうとアルカディアのペニスを締め付けて上下に擦り上げた。じゅぷじゅぷと繰り返される直接的な刺激に腰が跳ねる。逃げようとしたアルカディアの尻を捕まえるように、両足を持ち上げていた触手の下に太いそれが差し込まれ、尻を高く掲げるように体勢を変えられる。両足を限界まで開かされ、アルカディアの恥ずかしい部分が丸見えになっている。この家に誰かやってくることはほとんどないと分かっていても、誰かに見られたらと思うと羞恥で死んでしまいたい。

「ぅ……ふっ、あっ、やぁっ!んんっ!」

どろりとした粘液がペニスに降りかかり、尻たぶまで垂れて下腹部を汚していく。仄かに熱を持つソレが性感を刺激して、達してしまいそうだ。ちかちかと目の前に星が飛ぶ。ぞくぞくとした快楽を逃すように爪先を逸らしたその瞬間、ぴたりと触手の動きが止まった。

「えっ……な、で……?」

達することを許されず、行き場のない熱が腰に溜まっていく。あと少しで解き放つことができたのに、どうして。無意識に揺れる腰が悦楽を期待して浅ましく疼く。そんなアルカディアのことなどお構いなしに触手は雄をゆるりと撫でたかと思うと、離れていった。



「アルカディア、随分楽しんでたみたいだな?」

「くら、でぃ、お……?」

これは夢なのだろうか。嬲られ続けた自分が現実逃避に見ている、甘い幻想。だって、クラウディオがここにやってくるはずがない。常であれば仕事中だ。自分の様子を見にくるわけがない。
夢と現実の区別が曖昧になるほどくたくたになるまで高められ、そして熱を燻らせ続けた身体は、一度も達していないというのに既に限界だった。それなのに自身は萎えることなくその硬度を保ち続けているし、興奮が収まる気配はない。
ふわり、と気がつけば自身を拘束していた触手が消え失せ、クラウディオの腕の中に抱き留められていた。やはりこれは都合のよい夢なのだ。現実の自分は変わらずに触手に嬲られているのだろう。
熱に浮かされた頭はまともに働かなくて、ようやく訪れた胎を埋めてくれる存在に歓喜していた。身体に異常がないか確かめてくれているクラウディオの上にまたがり、強引に唇を重ねる。どうせ現実でないのならば、好きにしたって構わないだろう。

「…こら、アルカディア」

「身体……熱いの…くらでぃお、たすけて…」

ぎゅうと服の裾を掴めば、感情の薄い琥珀色に欲望の色が灯った気がした。



「あっ♡んっ…ん…!」

ぐぷぷ、と音を立てながらクラウディオの剛直を受け入れる。触手によって散々蕩けさせられた肉壺はあっさりと口を開いて雄を迎え入れ、ぎゅうと抱きしめた。待ち望んだ快感に視界の中でぱちぱちと泡が弾ける。気持ちいい、気持ちいい。あっさりと高みに導かれ、待ち望んだ悦楽にびちゃりと溢れた白濁がアルカディアの下腹部を汚していく。
燻り続けた熱は一度の射精ではうまく発散できず、けれどもくたくたになるまで蕩かされた身体はこれ以上の快感を受けるのは苦しいと悲鳴を上げている。

「うっ……んぅ…ぁ…たりない、くらでぃお……」

この程度では全然足りない。もっと、もっと痺れるような悦楽に身を灼いてどろどろに溶かしてもらいたい。自然と滲んだ視界をそのままに、胎の中に埋まった熱を揺さぶる。
散々に嬲られた身体はうまく力が入らず、クラウディオの肩に手を置いてゆるゆると腰を上下させることしかできなかった。それでもその小さな刺激だけでまた達してしまいそうだ。

「…………」

徐に両足を抱え上げられ、べちゃりと背中が床につく。クラウディオの肩に載せられた両足が意味するのは、自身が雌であるという示唆に他ならず。つまり、そう。待ち望んだ暴力的なまでの快楽を与えてもらえるということだ。きゅん♡と肉筒が期待に脈動した。クラウディオに教え込まれた悦びは細胞の隅々まで刻まれている。
 
「あ゛っ、あ゛…う、うっ、ひッ♡んっ、あ゛、あ、あ゛♡♡」
 
クラウディオの剛直がアルカディアの胎の奥の奥まで割り開いていく。あまりにも暴力的なまでの快感が全身を駆け巡って、びりびりとアルカディアの脳を溶かしていく。気持ちよくて、幸せだ。
ふわふわの腸壁は優しくクラウディオを受けいれてぎゅうと抱きしめる。剛直が押し進むたびに喉奥から漏れる声は完全に雌のソレだ。普段であれば絶対にこんな風に屈服することなんてないのに。でも、これは夢だから大丈夫。夢の中でくらい、素直になったとしてもバチはあたらないんだ。だから、気持ちいいことを追求しても誰も怒らない。

「アルカディア、ここに触手入れたのか?」 

トントンとノックするようにクラウディオの熱がアルカディアの結腸の入り口を叩く。既に緩みきってとろとろのナカは喜んでクラウディオを受け入れようとほぐれ、アルカディアの脳に快楽を叩き込んでいく。目の前に星が散って、キラキラしていて綺麗だ。気持ちよくて、ふわふわして。クラウディオも気持ちよくなってくれていたらいいのだけど。そう思って見上げたのに、かち合った琥珀色はひどく不機嫌な色を孕んでいた。

「ぁ、い…いれて、ない…♡おれの…なかぁ、くらでぃお…の、だから、ぁっ!んっ♡」

「そうか、よかった」

えらいな、とクラウディオがキスをしてくれる。子供をあやすような態度が今はいつもより嬉しくて多幸感に包まれていく。ああ、こんなに幸せを感じたのはいつ以来だろうか。ねだるように唇を寄せれば、ちゅ、ちゅ、と触れるだけのキスを繰り返される。深い口づけも好きだけれど、アルカディアはこうやって触れ合うだけのキスを繰り返すのがいっとう好きだった。
キスを繰り返していると、存在を忘れないでとばかりにクラウディオの剛直が最奥を叩いてびくんと身体が跳ねる。彼の雌なのだと教え込まれるように結腸の入り口をぐぽ、ぐぽとクラウディオの先端がつついて、もうそれだけで堪らなくて。ああ、そこに入り込まれたらダメになってしまう。ダメになってしまうのに。

「いっ!あっ!いった♡イった、からぁあ♡らめ、らめ、や、やだ、ぅぁ…あ♡」

「ほら、奥まで入った。ちゃんと咥え込んで、いい子だな」

ぎゅう、とクラウディオの手が自身の手を握る。指先が絡み合って、体温が移っていく。触れ合ったところから混ざった温度が、熱い身体を落ち着かせようとしてくれるようだった。快楽の波にさらわれて、意識はもうほとんど保つことができない。温かくて、気持ちいい指先のこの温度が、アルカディアを宥めて現実に引っ張り上げていく。ばちゅばちゅと速度を上げていく律動にクラウディオの限界が近いことを悟る。

「もう、そろそろイく」

「あ゛っ♡う゛ッ、ぁあっ♡ひっ……あ゛っ、​​──​​─ッッ♡♡」

ごりゅ、と結腸に突き入れられた熱を感じて、突き抜けるような快楽が全身を引き裂いていく。ともすれば痛みにもほど近いそれが本当に快感なのかも怪しい。けれど、これはキモチイイことなのだとクラウディオはアルカディアに教え込んでいる。教わった通りの感覚を細胞が拾い上げて、脳が許容を超えた悦楽に灼き切れてしまいそうだ。 
ぷしゅ、ぷしゅ、と雄の役目を放棄したアルカディアのペニスから透明な汁が噴き出して、びちゃびちゃと下腹部を汚していく。ああ、もう本当に馬鹿になってしまったのかもしれない。胎で膨れたクラウディオの熱を感じて、アルカディアの意識はぶつりと途切れた。



「……なんで、こんなのもってかえってくるの…」

「だから、こっちで取りに行くって言っただろう」

澄まし顔で触手を瓶に詰め直したクラウディオは、ごとん、と机の上にそれを置いた。今度はちゃんと処理が終わっているものだ。もしも瓶が割れたとしても勝手に動き出すことはない。
何やら特級危険魔獣だったそうで、クラウディオとしてもアルカディア一人に任して良いか心配だったのだという。結果的にはクラウディオの予想は的中し、触手に捕らえられたアルカディアを解放して今に至る。
触手の責め苦とクラウディオとの行為によってくたくたになった身体は力を入れることができず、アルカディアはまだ日も高いのにベッドの住人と化してしまった。元凶も少しは悪いと思っているのか、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。それに不満があるわけではない。ないのだが、アルカディアとしては夢うつつの間の出来事さえも現実だったのだと伝えられてはいささか居心地が悪かった。夢の中だからと好き勝手したツケが回ってきている。これは完全にアルカディアの自業自得なのだけれども。
思い出しても恥ずかしい行動の数々。理性があったのならばあんなことはしなかっただろう。クラウディオのことは好きだけれども、それとこれとは別だ。

「くれぐれも今後は気をつけろよ。お前は油断するとすぐに足元が疎かになる」

「……別に、油断したわけじゃない…もん」

「転んで瓶の中身をぶちまけるなんて論外だぞ」

「うぐ……」

「ああ、でも。お前の可愛い姿が見られたからよしとするか」

「ぁ、わ、忘れて…!」

にんまりと細められた琥珀色が勝ち誇ったように見えて面白くない。惚れた腫れたは絆された方が負けなのだ。
今のところアルカディアは一度もクラウディオに勝てた試しがない。いつだって、ギリギリまで追い詰められて音を上げるのはアルカディアの方だ。恋人と呼べるような関係になってからも、アルカディアばかりがクラウディオを追いかけている。
仕事柄クラウディオは世界中を飛び回ることもあるし、時には血塗れで帰ってくることもある。アルカディアはいつも待つだけだ。だから少しでも役に立てるのだと証明したかった。
昔の何も知らなかった子供ではなく、もう一人前の力があると認められれば、彼の仕事に同行することを許してもらえると信じて。

「……悪い、少し意地悪をしすぎたな。お前に大きな怪我がなくて、本当によかった。……頼むから、すぐに私を頼れ」

そっとクラウディオの手のひらがアルカディアの髪を撫でられ、ぎゅうと抱きしめられて、少し苦しい。

「くらでぃおの、役に立ちたかった」

「今でも十分だよ」

「でも……待ってるだけは、いやで…」

「お前がいるから帰ってくるのに」

驚いて見つめた琥珀色は、優しく細められていた。お前がいるから、私は頑張れてる。と囁くように鼓膜を揺らした音が、アルカディアの脳に届く。ああ、なんだ。クラウディオもアルカディアのことを考えてくれているんだ。でも、やっぱり待っているだけは嫌だ。

「一緒に出かけて、一緒に帰りたい…」

「そういうセリフは、魔獣の瓶をぶちまけなくなってからだな」

「……意地悪」