no match for
「似合うんじゃね」
前触れも無く、唐突にそう言われてレックスから手渡された、手のひらに収まるくらいの小さな箱。
「……ん?」
常日頃から主語が足りないこの男。分かりやすく言え、等とは口にはしないが。
意図が分からず、目の前の男と自身の手を交互に見つめて暫し沈黙。
「やる」
それ、という言葉と共にすらりと長い指が手の中の箱に向けられる。
可愛らしくピンクのリボンが巻いてあるこれは、きっと俗に言うプレゼントというものに当てはまるのだと思う。
「………」
誕生日でも無いのに、一体何事だ。
嬉しさを感じる前に疑問を持ってしまうのは仕方が無いと言い訳をさせてもらいたい。
誕生日はおろか、大体のイベント事に興味が無いこの男が。
そんな男が、なんでもない日にプレゼントだなんて。明日槍が降るかもしれない。
そんな失礼極まりない事を思いながら、ちら、ともう一度視線を向けたが相手も視線で早く開けろと促していた。
二、三秒の間の後、リボンをほどいて蓋を開ければ薄い青色の石が一つ装飾された小さなピアスが箱の中央に鎮座していた。
派手過ぎず、シンプル過ぎず、いいデザインだと思った。思ったが。
「…これ、女物じゃね?」
確かにいいデザインなのだが、明らかに女性が着けそうなものだった。
自分が好む物や身に付ける物とは少し、だいぶかけ離れたそれに反応に戸惑う。
「そうだな」
買った店がそんな感じだったしな、と当人は至って普通に答えた。
女性が多い店で、この男がこのピアスを買っている画を想像したら少し薄ら寒くなった。と言うより妙な噂にならないだろうかと他人事ながら心配になる。
「…なんでまた、」
「似合うんじゃね」
レックスはまた冒頭の言葉を繰り返した。
「それ、お前に似合うんじゃね」
表情を変えずにいつも通りのトーンで、漸く望む言葉が全て聞けた。が、やはり疑問はまだ消えない。
「……そんな理由で?」
「あ?」
「そんな理由で買ったのか?」
「そうだけど」
そう平然と返された。
何か裏があるのかと疑ったが、声からも表情からも何も読み取れなかった。
「他に理由が必要かよ?」
逆にこちらが不思議そうに聞き返される始末。
よく分からないがその表情を見たらばつが悪くなり、目線を反らして歯切れ悪く返事をする。
「…いや、別に。いらないと、思う。多分」
「あ、そ」
「…ただ、なんか恋人みたいだな、って…思っただけ」
「そうだろうが?」
疑問符はついているが確定的な音色で言われた。
ああ、そうだな、とは流石に即答出来なかった。
「あー…そう、だなぁ。うん、恋人…」
「そう、恋人」
何か問題でも、と言いたげなレックスを見てまた視線を反らす。
言葉に出してまで確認をした事は無かった。今まで一度も。
ただ気付いたら長く一緒に居た。それだけ。
そう言ってしまえばとても希薄な曖昧なものだけれど、そういうものなんだと認識していたのに。
それがたった今崩壊した。
「なんか、」
「おう」
「嬉しい」
自分で思ってた以上に、自分は愛されているのかもしれない。とても分かりづらいが。
途端に色んな感情が押し寄せてきて、ひどく顔が熱くなる。
数分前に意味も分からずに渡された手の中の小さな箱と目の前の男が、今はとても愛しく大切に思えた。