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 it in
 your brain






「はーっ、はー……っ」

社長室の扉をゆっくりと引き開ければ、湿度を孕んだ呼吸音が耳に届く。ソファーに凭れて蹲り、苦しげに肩を上下させている姿を目に留める。

「…はーっ…は……あ、くら、でぃお…おれ、なん、で…は、ぅ……たすけ、」

己に近付く足音に気付いたらしいアルカディアは、顔を上げてクラウディオの姿を捉え、目を潤ませて訴えた。自分を追い詰めたのが誰なのか忘れてしまったのか、分かっていて縋るしかないのか。痺れそうな興奮を押さえつけて傍に歩み寄り、同じように座り込んでアルカディアを腕の中に閉じ込めてやる。2週間ほど前の、あの日と同じように。そしてこれを言えばどうなるか、誰よりもクラウディオが、クラウディオだけが知っている。

「…はは、“いい子だな”、アルカディア」

「…っ!?ゃ、あ…〜〜〜ッ!!♡♡」

弾かれたように大きく跳ねる体をぎゅうと強く押さえ込み、漏れ出る声ごと全てを唇から貪る。ここが会社だという事実すらも背徳感を燃え上がらせた。舌を絡めたのはどちらからだったか、増した水音によってさらにいやらしくなった空気に溺れていく。

それにしてもこれは、想像以上になってしまったかもしれない。



「脳いき……って、なに?」

「…あぁ…まぁ、そうなるよな…お前は」

真顔で復唱し、こてんと首を傾げるアルカディアの姿にクラウディオは思わず苦笑するが、きっとアルカディアにとっては初めて聞いた単語だろうから恥じらう理由もないのだろう。

単なる好奇心、のようなものだった。
ネットの広告に出てきた“脳イキ”という単語が目に入り、つい興味を持ってしまった。検索してみれば想像力と相手への信頼が大事だとか、やり方によっては日常生活に支障が出るだとかなんだとか言われていて。それならやるべきじゃない、とは思いつつ、自らの好奇心は止められそうになかつた。
アルカディアがこちらに大きな信頼を寄せてくれていることは自負しているが、一回目で上手くいくとも思えない。だから上手くいかなければそれでもいい。ただ、やるからには妥協はしたくない。その思いで今日まで脳イキについてのあれこれを調べ、密かに準備を進めてきたのだ。

「簡単に言えば催眠みたいなもんだな。アルカディアは目隠しをして、私の声を聞いてるだけでいい。ただ、途中で本気で辛くなったら止めていいし、嫌ならしない」

棚から黒い布を取り出し、目の前に広げてみせながら「どうする」と目で伺う。アルカディアは首を傾げたまま少しの間黙り込んだ後、ふっとクラウディオを見つめた。

「クラウディオといっしょなら、大丈夫だから、やる」

「…お前は本当に…」

自信に満ちた顔で言い切られてしまえば、あのクラウディオですら何も言い返せない。さすが相棒と言うべきか恋人と言うべきか。どちらにせよこれ以上はきっと言わなくても伝わることだと、クラウディオは代わりにキスを落とした。



「ゆっくり、鼻から息を吸って口から吐く。そう…そのまま。ん、力抜けてきたな」

ベッドの上で足を伸ばした状態で座らせ、クラウディオが後ろからゆるく抱きしめながら、アルカディアと同じペースで深呼吸を繰り返す。こうすることで無意識から相手に安心感を与え、警戒心を解き、自分の話や提案を受け入れやすくさせられるという。

「……なんか、ねむくなりそう…」

「はは、まぁ寝てもいいけどな。とりあえず私の声だけ聞いておけ。できるか?」

「…ん」

「よし。じゃあ続けるぞ。私の手の感触を思い出せ。体を撫でられている所を想像して。肩…腕…背中……撫でられた所から、だんだん力が抜けていく」

「……あ、」

耳を傾けていると、次第にアルカディアの上半身は本当にだらんと垂れ下がり、体の自由をゆっくりと奪われていく。呼吸をする合間に聞こえるクラウディオの声が、心地良い。クラウディオの声だけを聞いていたくなる。ついに体を支えられなくなり、くたりと頭をクラウディオに凭れさせた。
小さな笑い声の後に「頭もたくさん撫でてやる」「気持ちいいな」と囁かれれば、とろりと蜜が溢れるような心地良さが生まれて、頷くことしかできなくなっていく。元よりクラウディオに頭を撫でられるのが好きなアルカディアにとって、その感覚を思い出すのは容易いことだった。

「…すっかり弛んだな。いい子。もっと、そのまま私の声を聞いていろ」

「…ん」

「深呼吸しながら、腹…へその下辺りに集中しろ。私が今から5つカウントしたら、そこが暖かくて気持ちよくなる。…5、4、3、2、1…0」

「……ん、ん」

「吸って、吐いて……ここ、気持ちいいな」

「…っは、ふ… う、ん…」

「あたたかい、気持ちいい」

「ん……」

「きもちいい、きもちいい…ほらここ、私の手で擦ったらもっと気持ちよくなるな」

「ん、あう……え、…ふぁ、あ」

「ナカもどんどん暖かくなってきて、きもちいいな、アルカディア」

クラウディオの手が服の上からゆったりと腹を撫で始めると、突然ずくんと体の奥が熱を持つ。声色は穏やかなのに、気を散らす余地も与えないほど容赦無く追い詰められていく。何も考えられない。まるでクラウディオの言葉通りに思考が動いているようだ。指で下腹部をとんとんとん、と一定のリズムで叩かれたかと思えば、ぐっと優しく押されて、ナカがきゅうきゅうと反応してしまう。その間もクラウディオは「きもちいいな」を刷り込んできて、その度に体がぴくんと震えた。

「ぁ、あ、…は、あぅ…」

「はは、顔、とろけてる。気持ちよくなれて偉いな。かわいい」

「ひ、ぅう…あ」

「じゃあ次だ。今から私が10回カウントをする。その間、アルカディアはどんどん気持ちいいのが溜まってイきたくて仕方なくなる。ゼロと言ったら、アルカディアは1番気持ちよくて深いイき方をする。なあ、前触らずに後ろだけでイった時のこと覚えてるか?じっくり慣らされて、色んなところ触られて、それから1番きもちいいところ突かれてイった時、どうだった?アルカディア」

「ふ、ぅ、っは……♡」

「じゃあ始めるぞ。ほら。10、9、8、7、6、」

「っぁ、くら、まって、…ゃ」

「大丈夫、怖くない。…お前は、耳も弱いよなあ。縁から耳たぶまでゆっくりなぞって、すりすりして、反対側は舌入れてぐちゅぐちゅ音鳴らして。きもちよくてすぐぐずぐずになるな?…5」

「ふっ、あ……ぁ♡みみ、ぃや、」

「乳首の周りをくるくるされるのも好きだよな。たっぷり焦らされて、先いじめてほしくてなってる。4…」

「ひ、…ふっ、…ぅうう」

「じゃあココ、根元からつまんで先は爪で掻いてやろうな。ん、気持ちいい気持ちいい。こら、体は動かすなよ。力抜け。…3」

必死に息を吸って吐く合間、意味を成さない母音が零れ落ちる。耳はまだ熱い吐息と柔らかい舌の感触が離れないし、服の下で乳首はとうに熟れ切って、びりびりと甘い痺れが止まらない。逃げたいのにクラウディオの言葉で全身がふらんと脱力してしまって、快感から逃れられない。
きもちいい、けど、触られていないのに?いや、きもちいいんだと、クラウディオが言うならそうなんだろう。

「ナカも、浅いとこ出し入れして、きもちいいとこぐりぐりしてやる。ぜんぶ分かってるからな、アルカディアが気持ちよすぎてダメになるところ。あぁ、お前のナカ締めつけてきて止まらないな♡…2」

「…は、っふ…うぅ〜♡」

「深いところまで入れられて、1番奥の奥を突かれるのも好きだろ?は…ナカ暖かいな、私のが奥まで入ってるからな。きもちいいな。…1」

「あッ、ぁ……はぁーっ…はっ、は、ぅ…♡」

なぜか本当に温かさと圧迫感と、腰を掴まれてゆるく体を揺さぶられているような感覚を覚えてしまって、知らず呼吸が上がる。まだ下は脱がされていないし、入るわけもないのに。イく寸前のグラグラするようなもどかしさが腹の奥を中心に暴れ回っている。イきたくてイきたくて気がおかしくなりそうだ。それなら勝手にイってしまえばいいのに、体はもう自分の言うことなんて聞かない。ああ、そうだ、クラウディオに引き金を引かれないとイけない。だから。

その時、くしゃりと頭を撫でられて、吐息混じりの笑い声が耳に触れた。

「…ゼロ」

「ひ…あ゛ッッッ……!?♡♡ぁ…?♡」

「…はは、ちゃんときもちよくなれて良い子だな。かわいいな、アルカディア。良い子。じゃあもう1回、ほら、さーん、にー、いち」

「ぁっ、は、ぇ……や、まって…まだ、いって、いって…る、から」

「ぜーろ、ほら、もっと気持ちよくなろうな♡」

「あ゛ッ、あ、ぁ〜〜〜ッ♡♡!ぁ、ふぁあ゙っ、ぅ〜っ、なか、…も、やぁっ」

「ふふ、ぜーろ」

「ッあ、ひ…ぐ、んぅ゛〜〜〜〜っ♡♡♡」



全身をガクガクと震わせるアルカディアを眺める。想像以上の反応に充てられてつい虐めすぎてしまった。性器からは何も出ていない、所謂メスイキというやつだった。
何度かナカでイかせたことはあるが、快感が長引きすぎて怖いからやめて、と言われたのを思い出す。それが何回も無理やり繰り返されているとなれば相当辛いだろう、なんて他人事のように考える。クラウディオだって辛い目に遭わせたいわけではない、ないはずだが。
この綺麗な恋人が自分の一言一言に素直に支配されて善がり狂っているという現実に脳が茹だる。もっと狂わせて壊してみたいという欲望が心臓の奥底で涎を垂らす。興奮で目の前が赤く染まっていく。ハア、と熱い呼吸を吐きながら首元に顔を埋めた。

「…くら、ぃお…くらでぃおぉ…」

「……ん?」

「かお、見た、い…っふ…ぅ…ぎゅって、したいぃ…」

しゃくりあげながら涙声で必死に訴える姿に思わず顔を上げ、クラウディオは珍しくぽかんと驚きの表情を浮かべる。遅れて、嗜虐心を上回る愛しさに満たされてはもうどうしようもない。
額に手を当て、白旗を上げた。乱暴な感情は今はお呼びではないので暫く眠っておいてもらうことにして、目を覆っていた布を外してやり、体を回して自分の方へ向ける。
真っ赤に腫らした目が白い肌に映えて、まるで兎のようだ。ふわふわと焦点の合わない瞳は視線を彷徨わせ、やがてクラウディオの姿を捉える。ぐずぐずに濡れた赤色は今にも溶けてしまいそうで、瞼に唇を落とした。

「…悪い、無理をさせた。ありがとうな」

「くらぃお、……からだ、うごかせ、ない、」

「……あぁ、もう動いていいぞ。よく頑張ったな、アルカディア」

終わっても尚、体の支配権をクラウディオに委ねる様に再び情欲の火が灯りかけ、すぐさま消し止める。己の欲深さに我ながら少し引いてしまう。催眠を解くように、肌の上をゆっくりと撫でてやると、やがてアルカディアはのろりと体を動かしてクラウディオの足に跨るように座り、腕を首に回して肩に顔を埋めた。

「くらぃお……んぅ…」

「どうした、甘えたい?」

「…ごめ…大丈夫、って…言った、のに」

「謝らなくていい、十分だ。…やっぱり、怖かったか?」

「ううん……気持ちよかった…けど…」

「…ああ」

「くらでぃおに、さわられないの…さびしい、から、やだ…」

「…お前なあ…」

溢れた愛しさのままにぎゅうと強く抱き締めてやると、くふんと笑う声が首元を擽った。可愛い。クラウディオの中で獰猛に暴れていた欲がぬるまって溶けてしまう。やり場をなくした熱を誤魔化すようにわしゃわしゃと頭を雑に撫でた。

「…くらでぃお、きす、してもいい?」

しばらくされるがままにしていたアルカディアはそろりと顔を上げ、そう聞きつつもクラウディオの返答を聞く前にほぼ唇がくっついてしまいそうな距離に顔を近付けてくる。いいよ、と動かした口は即座に塞がれた。唇を吸うというよりはくっつける程度の軽い戯れ。
ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てて繰り返されるそれに身を任せる。貪るようなものも好きだが、こういうのも悪くない。それにアルカディアは本来これくらいの触れ方がきっと好きなのだろう。今日の目的に関しては想定以上に頑張ってくれたことだし、あとの時間はとことん甘やかしてやろう。

しかしクラウディオのその考えは、アルカディアが唇の境目をちろりと舐めたことで揺らぐことになった。少し驚きつつも求められるままに薄く開いてやれば、柔らかい舌が差し込まれ、ぴちゃぴちゃと音を立てて絡められる。いつの間にか下ろされていた片手はそろりと下へ伸びて、

「……こら、アルカディア、何してるんだ」

「…くらでぃおのこれ、まだ硬い」

あろうことかクラウディオの自身をズボンの上からゆるゆると撫で始める。ずくりと質量を増したソレに気付いているのかいないのか、とろけた目でクラウディオをじいと見つめる。

「くらでぃお…これ、いれて」

「………お前もう疲れてるだろ。後で自分で処理するから無理するな」

あまりにも魅力的な誘いにクラウディオは一瞬ぴくりと反応しかけ、しかしすぐに理性を取り戻す。この健気な男のことだから、クラウディオにも気持ちよくなってほしいなどと考えているんだろう。それは当然嬉しいが、もう3回はイかせたはずだし、これ以上はアルカディアの体力も持たないだろう。眉を下げて俯くアルカディアを宥めるように頬を撫でてやる。
しかし、アルカディアはおもむろに自らの口に人差し指と中指を差し込むと、とろりと唾液を纏わせてみせた。は、と思わず間抜けな声を出して硬直したクラウディオにも構わず、その手を後ろに回し、ぐちゅんとわざとらしく音を立ててナカを広げ、熱を孕んだ瞳をクラウディオに向けた。

「さっき、から…ここ…すごく、切なくて…くらでぃおのが…欲しくて、きゅうって、なってて…」

一瞬、呼吸を忘れていた。異様な興奮に茹だる意識の中でローションとゴムを手繰り寄せる。袋を破いて自身に着けようとしたところで手を阻まれ、「なまがいい」と囁きながら抱き締められた瞬間、本気で血管か何かがブチリと切れたような気がした。



どろどろとした甘ったるい空気に呑まれた部屋で、素肌がぶつかる音とあられもない嬌声が響く。先程のプレイで何度もイかされた挙句、クラウディオのものによって再び絶頂に引きずり上げられたアルカディアの身体はもうほとんど限界だった。がくんと後ろに反った首はすぐに引き寄せられ、口内をぐちゃぐちゃに掻き乱される。そのまま背中からベッドに押し付けられ、クラウディオのものがどちゅんと生々しい音を立てて最奥に当たった。

「は、ぁ゛、んううッ♡」

「ッは、煽ったのはお前なんだから、もうちょっと、ハァ、付き合え…」

「も、…ぁ…っ♡むり、いくの、つらっ、い…♡ゃあ゛、あ♡」

「つらい?…ああ、アルカディアは、なんて言われると、はぁ…気持ちよくなれるんだったか?」

突然投げられた問いにアルカディアは荒い息を吐きながらぐるぐると思考を回す。なんていわれると。そもそもそれは問いというより、まるで何かを思い出させようとしているような言い方だ。視線を上げた先でクラウディオは、悪い顔で。

「アルカディア、“良い子だな”♡」

表情とは不釣り合いなほど甘い声で囁かれた途端、ばちんと頭の中で何かが弾けた。

「へ、ぁ゛…〜〜〜〜〜ッ!!?♡♡♡」

「はは、褒められるのきもちいい?またイくの止まらなくなるなぁ、はっ、かわいいな♡」

「ふぁ゛ああ゛♡♡♡う゛〜〜〜ッ♡♡も、やら、ぁ゛♡あ、あ、いっしょ、らめ、あたま、へんに、なるっ、うううぅ゛♡♡」

休ませる間もなくクラウディオは「かわいい」「いいこ」と至近距離で褒め言葉を吹き込み、その度にアルカディアのナカが勝手にきゅんきゅんと蠢き、クラウディオのものに絡み付く。それが恥ずかしいと思う気持ちすら、顔にたくさんキスを落とされるだけでふわふわと溶けてしまう。頭がうれしさでいっぱいになって、ハートがたくさん飛び出しているんじゃないだろうかなんて馬鹿なことを考える。ご褒美とでもいうように前立腺をぐりぐりとアルカディアの1番好きな擦り方で嬲られれば、堪らないといったように背中が反った。

「っはぁ…こんなイき方覚えたら、もうきもちいことしか考えられなくなるな。は…、気持ちいいの、嬉しい?好き?」

「ゃ゛♡あ、ぁーっ♡♡、も、くるひ、ぃや…」

「ん〜?よく聞こえないな。ちゃんと、言え、ほら。さーん、にー、いち」

「ぅあ゛♡まって、りょうほう、やら、や♡♡すぐ、いく…いくからぁ、あっ、あ゛♡♡」

「…いち、いち、いち」

「は……ひっ、ぁ!!?や゛♡♡あぁ゛あ゛♡♡あ、やだっやだ、ぁ゛♡あぁ゛ッ♡♡♡」

クラウディオのゴツゴツと角張った手が下へ伸び、アルカディアの性器の先端をぐりぐりと嬲る。カウントに促されて強制的な絶頂に身構えていた身体が予期せぬ焦らしにキャパオーバーを起こして、ガクガクと痙攣する。頭が真っ白に霞みだして何も考えられない。自分が何を言っているのかすらわからない。

「なんっ、れぇ゛、はっう♡♡もぅや、やあ゛、くらでぃお、くら、ぁう゛うぅ♡♡♡」

「は、イきたい?…なら何て言えばいいか、わかるだろ?ほら、上手にオネダリしろ、アルカディア♡」

追い討ちをかけるように乳首の先端を爪でぴしぴしと弾かれ、自身を素早く擦り上げられると、アルカディアの涙腺はついに決壊した。限界だった。同時に、ほんの僅か残っていた羞恥心や理性も、跡形もなくボロボロと崩れ落ちる。

「はっ、はーっ♡くらでぃお、きもちいいの、うれひ、すき、ぁ゛、らいすき…ら、からぁ…ひう゛♡♡ ぁ、♡♡もう、ゆぅ、しでッ♡♡おねが、いきたい、…いきた…ぃ♡♡♡」

アルカディアはままならない頭をクラウディオのことでいっぱいにして、泣きながら強請った。クラウディオにしか与えられない快楽が欲しくてどうしようもなくなって、ゆらゆらと腰をくねらせて目の前の雄を誘った。上手く飲み込むことができないのか口の端から零れた涎がてらてらと光っている。
堪らないと思った。小さな口をはくはくと動かし、今にも溺れてしまいそうな可哀想な姿を見ながら、さらに溺れさせるように自分の唾液を送り込む。1ミリたりとも逃げられぬように頭を両腕で抱きすくめて閉じ込めて、何度も何度も。もうくたくたなはずなのに、喉奥からキュウと鳴き声のような音を上げて必死に嚥下しようとする姿が愛おしくて、それでいてどうしようもなく煽られる。離れ際に唇をがぶりと噛み、ぼろぼろと止めどなく溢れる涙を舐め、期待に揺れる瞳をじっとりと見つめて、そのまま。

「ぜろ、アルカディア、愛してる」

「や゛、ぁああ゛〜〜〜〜ッッ♡♡♡!うぁあ♡ひっ、んん、♡はっ…ぅ゛うう〜♡♡」

最後の弾丸と共に最奥に屹立を打ち付けられ、視界が真っ白に染まった。腹の奥にごぷん♡と熱いものを注がれる感覚に膝を震わせる。バクバクと己の魔力が耳奥で激しく脈打って、何も聞こえない。ぐずぐずに蕩けたナカが何度も勝手にクラウディオのものを締め付けて、その度にぷしゅぷしゅと透明な液体を自身から吐き出してしまう。
くらうでぃおので、おなかがあったかい。あったかいのは、きもちいい。きもちいい、すき、うれしい。
多幸感の海に堕ちた頭でそんな言葉がぐるぐると回った。

「は……〜〜〜、………は、」

「……は、は…ぁ♡ふ……ぁ…ひゅ…♡♡」

「ッ…悪い、やりすぎた」

長い射精の後、クラウディオはハッと我に返って自身を引き抜く。日焼けを知らない白い肌は真っ赤に火照り、ところどころ噛み跡だらけでいくつかは血が出ている。ゴムをしていないことを覚えていながらたっぷりと最奥に注いだ後孔からは白濁がとぷとぷと溢れ、未だ物欲しそうに蠢いている。…これ以上見てはいけない、と気付いたのはごくりと唾を飲んだ後だった。

「…中、ちゃんと掻き出しておくから、もう寝ていいぞ。頑張ってくれてありがとうな」

ゆっくりと背中から抱き起こし、額に唇を落としてやると、虚ろな目がクラウディオを捉えて、安心したようにゆっくりと瞼を降ろしていく。アルカディアはくたりとクラウディオの肩に頭を預けた。

「くぁ…ぃお、は……」

「ん?」

「きもち…よかった、…?」

「……ああ。気がおかしくなりそうだった」

「ん、ふ…よかった…」

それを最後に、満足したような顔で眠りに落ちたアルカディアに、胸がギュンと捻られるような心地がした。ここまでされてもまだ自分のことを気にかけてくるなんて、この子は本当に。どうにかしてやろうか。いや、まさしく今どうにかしたばかりなのだが。
クラウディオも長い行為の後で頭が上手く回っていないようで、考えるのをやめた。
明日はきっと腰も声も大変なことになっているだろうから、一日中傍にいてやらなければいけない。そんなことを思い頬を緩めながらアルカディアの体を抱き上げ、風呂場へと向かった。



翌日、目を覚ますなり顔を真っ赤に染め上げて布団の中に籠城した恋人を宥めるのに長期戦を強いられるのは、また別の話である。



​​──クラウディオは外出中だ。
社長室でぼんやりとテレビを見ながら彼の帰りを待っていると、窓の外が薄らと暗くなっていることに気がついた。
日が暮れるにはまだ早い。そう思って窓に近づこうと腰を上げた時、ポケットの奥でヴヴと振動するものに気付き、取り出した端末の液晶に目を滑らせる。
着信はクラウディオからだった。

『もうすぐ戻るが、まだ会社か?』

「うん、待ってる」

『そうか』


『…アルカディア』


なに、と疑問を返そうとしたアルカディアが止まる。
アルカディア、と甘さを孕んだ声色で自分を呼ぶ時の、あの声が瞬時に脳裏に蘇る。そしてその声で呼ばれたら、その次は。

ぞわりと全身に痺れが走って、足からかくんと力が抜けた。その感覚にまた記憶を呼び起こされて、ずるずると落ちた体をソファーに預け、熱い息を吐く。思考が一切着いていかないまま体だけが昂っていくのが恐ろしい、と思うのに。

『思い出したか?偉いな』

続けて来た言葉に、「あ」と思わず声が漏れる。うれしい、と感じてしまった途端、じわじわと腹の奥が熱くなる。自分の体の支配者が自分では無くなっていく感覚、それをアルカディアはよく知ってしまっている。なぜ思い出してしまったのか、むしろなぜ忘れていたのかとさえ思うほど抗いようのない快感。

クラウディオと体を重ねた翌日に共に会社へ行く日は多々あるが、クラウディオに意図的にそういう触れ方をされなければ、外で思い出すことも無かった。だから、完全に油断していた。
あの時は、クラウディオの声に導かれて、クラウディオの声しか聞こえなくなって、クラウディオの事しか考えられなくなって、触られないままどうしようもなく体が熱くなって、それから。

「っふ………ぅあ♡…ぁ…や、なん、で♡」

呼吸が荒くなっていく。どうにか落ち着くために目を閉じて深呼吸をしようとして、あの日クラウディオに同じことを指示されたことを思い出してしまって、余計に体の奥がきゅうと切なくなる。こんな所で、と思いながら膝を擦り合わせてしまう。満足するわけもない僅かな刺激にじわりと涙が浮かぶ。どうしよう。止め方が分からない。苦しい、熱い、誰か。くらうでぃお。

『まだ我慢な』

あまりに濃い情事の香りを纏っているその声色に、またふるりと身を震わせる。視界は蛍光灯で照らされて明るいはずなのに、ぼんやりと狭く、暗くなっていく。脳裏でクラウディオの声があのカウントを囁いていた。