目覚めは最悪だった。
酷く息苦しい。
微睡んでいた意識が無理矢理に覚醒を促された。
酸素を求めて薄く口を開いたが、ぬるりと何かが侵入してきた。
口内を動き回るそれのせいで、先程よりも隙間が無くなり更に息苦しい。
「……………っ」
寝ている場合では無いと、そこで漸く魔力が身体中に信号を出して訴える。
早く起きなければ。ぱちりと開いた目にまず映ったのは黒だった。
ゆらゆらと歪む視界に苛立って、数回瞬きをして慣らす。
黒い目、だろうか。
寝起きのせいと、あまりにも近い距離のせいで輪郭がぼやけていたが、段々と意識がはっきりしてくるとそれが何なのか理解出来た。
「……………」
「おはよ、ルカさん」
寝起きの耳に響く声。
顔がぼやける程に近くに居た男は、覆い被さるような体勢からのそりと上体を起こして満足げに笑った。
「…………何、して」
寝起きな上に酸欠でぐらつく頭ではすぐに状況を理解出来ずに思考が停止していたが、徐々に働いてくると自然と低い声が出た。
爽やかな笑顔がまた腹立たしい。
目の前の男の体勢や、先程の息苦しさを思い出すと粗方何をされていたのかは検討がついた。
「ほら、お姫様は王子様のキスで目覚めるもんじゃないすか?」
「…寝てるお姫様にいきなりディープかます王子様なんていない」
「あ、お姫様は否定しないんだ」
「……………」
「そこはあれ、愛の大きさの違いすよ」
意味が分からない、馬鹿じゃないのか。
不愉快な目覚めをくれた男に思い付く限りの文句を言おうと意気込んで口を開くが、残念ながら言葉は出なかった。
ちゅ、と可愛らしい音をさせて唇が触れ、にこりと至近距離でゆるい笑顔で言われてしまえば、喉まで来ていた罵倒の数々は不本意ながらも逆戻りしていった。
「……頭の弱さの違いでしょ」
ぽつりと呟いてみたが、にこにこと笑う相手には何のダメージも与えられなかったようだった。
「ルカさん、おはよ」
「…うん」
挨拶を返したら調子に乗ったのか、もう一度顔を近づけて唇を重ねようとした男を今度こそベッドから躊躇無く蹴り落とした。