Impure kiss
いつの間にか、クーラーの切れた部屋は冷え切って、風呂上がりの肌には寒すぎる。まるで冷蔵庫の中にでもいるようだ。
冷えすぎた部屋の真ん中で、ソファに横たわったまま眠り込んでいる客人。
リモコンの電源ボタンを押すと、ピッと軽快な音がしてエアコンの主電源が落ちた。
「アルさん」
呼びかけてみたものの、相手が目を覚ます気配はない。
彼が着ているシャツとベストは、体を冷やさないように守ってくれていたようだ。それでも部屋の中は肌寒いほどで、こんなところで寝ていては風邪を引いてしまいそうだ。
「アルさん」
そっと肩を揺すると小さく首を振って唸る。子供がむずかるような幼い仕草に思わず笑ってしまった。
「風邪ひくよー?」
「……んー」
「アールさーん」
「ん…」
しばらくうんうんと唸っていたアルさんが、何度目かに肩を揺すったところでようやく目を開いた。
「……れゔぃあ?」
呼ばれた声がひらがなで聞こえた。緩慢な仕草で上半身を起こして、のろのろと目を擦る。
「うん、ここ俺んちだよ」
苦笑しながら答えてみたものの、伝わっている気配はない。とろりと眠そうな目が、ゆっくりと瞬きを繰り返す。傾げた首からまたソファに落ちていきそうだ。
「アルさん、立てる?」
先に立ち上がることで、相手にも同じ動作を求めてみたものの、全く効果はなかった。ただ、顔だけが上向いて、かろうじてこちらの動きを追っているのが分かる。半分閉じかけた目は、一体何を見ているのやら。
仰け反っているせいで無防備に晒された喉元が白い。触れると驚くほど冷たかった。
「アルさん」
「……おー」
「俺の言ってることわかる?」
「……んー」
酔っ払いか、小さな子供か、どちらかを相手にしているようだ。余程疲れているのだろうか。
首に触れていた手を頬に移動させる。相変わらず目は開いていないものの、こちらの動きを追って無心に見上げてくる顔に、自分の顔を近づける。
薄く開いた唇も冷えていたけれど、舌を差し入れてみると口内はあたたかい。そのことに少し安堵した。頬に触れた手から温度が伝わっていって、体温がまじる。
出来るだけそっとソファの背もたれにアルさんの体を押しつけると、腕が背中に回される感触があった。ぎゅっとしがみついてくる。
ちょっとその気になってしまって、アルさんの頬に触れていた手を首の後ろに回して、もう片方の手で腰を抱いた。
「……アルさん」
唇を離して名前を呼ぶと、目を開くのが見えた。長い睫毛が瞬きを繰り返して震える。
「……レヴィア?」
「おはよう」
ぱちぱち、と何度か瞬きをしてから、アルさんはきょとんと首を傾げた。
「……近いな」
「アルさんが離してくれないから」
「んぁ」
言った途端に背中に回っていた手が離れてしまって、ちょっと寂しく思う。
「……俺、寝てたのか」
「うん。寝るならベッド行こうか?」
ソファから降りて促すと、アルさんは髪をがしがしとかき混ぜて頷いた。
すっかりいつものアルさんに戻ってしまってさっきまでのぐずぐずなアルさんも可愛かったなと思った。いつもあれだと困ってしまうけれど、たまになら可愛いものだ。
「なに笑ってんだ」
「べつに」
言っても言わなくてもむくれそうな気がするので笑ったままで黙っておくことにした。案の定、アルさんは眉を顰めているけれど、それ以上は追及してこないようだった。