通じ合う右手



慌ただしい戦いの日々が終わってからはや1ヶ月。
アルカディアの甘えん坊は加速していた。
クラウディオの記憶では、アルカディアは“好き”という2文字の言葉を発することすら恥ずかしがっていたし、いつも控えめに甘えてきていたはず、なのだが。
平和ボケというやつだろうか。
アルカディアは常にクラウディオにまとわりついていた。
長い間ずっと1人で居た反動が爆発したかのように、それはもうべったりとくっついて離れないのだ。
クラウディオにとってアルカディアは目に入れても痛くないほど愛しい存在なので、一向に構わないと言えば構わないのだが…。



「…アルカディア、そろそろ出ないといけない」

現在時刻は朝の8時過ぎ。
キッチンに立っていたクラウディオは、背後から自身にへばりついているアルカディアに声をかけた。
首に腕を回し、腰あたりに両足を巻き付けてまるでおんぶをしているかのような体勢で抱き着いているアルカディアは、不満げな声を上げる。
少し眠そうなその声音には拗ねたような色が滲んでいた。
いくらなんでもこのままの状態で出社するのは不味いだろう。
社員達もアルカディアを知っているとはいえ、さすがにこの姿を見たら驚くに違いない。

「…アルカディア」

「んー……」

「お留守番できるか?」

「…んん」

まだ納得していないのか、それとも単純に眠くて機嫌が悪いだけなのか、どちらにせよあまり聞き分けが良くなかった。
だが、こうやって駄々をこねるところが可愛らしいと思ってしまう辺り、相当惚れ込んでいる自覚はある。
苦笑したクラウディオは、アルカディアの髪を優しく撫でながら提案した。

「明日は休みだからたくさん構ってやる。今日一日我慢できたら、そうだな…我儘聞いてやろう」

「ほんと?」

先程までの態度とは一変して嬉しそうに顔を輝かせるアルカディアを見て、思わず微笑む。
やはり子供のような無邪気さだと思った。

「ああ本当だ。だからいい子にして待っていてくれ」

「分かった」

「良い子だ」

素直に言うことを聞いたアルカディアにご褒美として額にキスをしてやった。
すると彼は満足気に笑い、ぎゅうと強く抱きしめてきた後ようやく離れて行った。
名残惜しい気持ちはあるが、いつまでもここに居るわけにもいかない。

「じゃあ行ってくる」

「行ってらっしゃい」

手を振るアルカディアに手を振り返し、自宅を出た。



帰宅したのは夜の7時だった。
玄関を開けると案の定、リビングの方からバタバタとした足音が聞こえてくる。
そして勢いよく扉が開かれた。
そこには満面の笑顔を浮かべるアルカディアの姿があった。

「おかえり!」

「ただいま」

飛びつくように出迎えてくれた彼に微笑みかける。
そのまま抱き上げて頬擦りしてやると、アルカディアはくすぐったそうに身を捩らせた。

「ごはん、つくった」

「作ってくれたのか?ありがとう」

「うん!あと、洗濯物、畳んだ」

褒めてほしいと言わんばかりに胸を張るその姿に、またもや愛しさが込み上げてきて困ってしまう。
こんなに可愛い生き物が他に存在するだろうか。

「偉いな。頑張ってくれて嬉しいよ」

頭を撫でてやりつつ、2人並んでリビングへ向かう。
食事の準備は既に済んでいたらしく、並べられた皿からは美味しそうな匂いが漂っていた。
席に着くと、向かい側に座っているアルカディアが期待するような眼差しを送ってくる。
彼の料理を褒めてやりながら一緒に食事を済ませ、食器の後片付けをした後は風呂に入ることにした。

同じ匂いのするアルカディアの髪を乾かし、寝巻きに着替えさせてベッドに入ったのが午前0時頃。
普段ならそろそろ寝る時間である。
しかし、アルカディアはまだ眠るつもりはないようで、クラウディオにぴったりとくっついて離れようとしなかった。
どうやら、朝に約束したことを覚えていたようだ。
枕にもたれるクラウディオの腕に巻きついて、じっと見つめてくる彼。

「(これは、何をしてほしいのか聞かないと駄目か)」

普段は言葉数が少ない分、アルカディアは目で訴えかけてくることが多いのだ。
今回もそのパターンだろうと察したクラウディオは、なるべく優しく聞こえるよう意識しながら問いかけた。

「何かして欲しいことがあるのか?」

「…あのね、膝の上、座りたい」

「膝の上?」

「だめ?」

首を傾げる仕草はあざといくらいに可愛かった。
そんな風に言われて断れるはずがない。

「いいよ」

許可を出すと、アルカディアは嬉しそうに笑っていそいそとクラウディオの太腿の上に座り、対面する形で向き合った。
安心した様子のアルカディアはクラウディオの首に腕を回し、肩口に顔を埋める。
すり寄ってくる姿が猫みたいだなと思いながら、髪を優しく撫でてやる。
しばらくその状態のまま過ごしていたのだが、不意にアルカディアは上体を起こした。
そしてクラウディオのシャツのボタンに手をかけ、一つ一つ丁寧に外していく。

「…何してるんだ」

「脱がしてる」

そして現れた鎖骨付近に口づけた。
ちろりと赤い舌先が肌を舐める感覚がくすぐったくて身を震わせる。
アルカディアはクラウディオの反応を窺いながら、ちゅっ、ちゅうっと何度も吸い付いてきた。
その度にピリッとした痛みを感じる。恐らく痕をつけているのだろう。
アルカディアの唇は段々と上へ登っていき、やがて耳元に辿り着いた。
そしてクラウディオの耳たぶに甘く噛み付く。子猫のようにちうちうと吸い付いてきて、そのくすぐったさに思わず笑ってしまった。

「こら、くすぐったいぞ」

「んー……」

咎めれば、アルカディアは少し拗ねてしまったようで、今度は耳介にカプリと歯を立ててきた。痛くはないが、やはりくすぐったい。
だが、あまりしつこく言って機嫌を損ねてもいけないと思い、好きにさせることにした。
それからしばらくの間、アルカディアはクラウディオの身体を弄り続けていた。
首筋から胸板にかけて指先でなぞったり、腕の内側を甘噛みしたり、背中や脇腹も同じように。
そして不意にアルカディアの手が胸筋に触れた。
ふにゅり、むに、もに。
まるで感触を楽しむかのように揉まれて、少し居心地が悪い。

「…アルカディア」

「んー……?」

「楽しいのか?」

「ん」

短く返事をしたアルカディアはそのまま胸をむにむにと揉み続け、時折乳輪の周りを撫でたり、突起部分を軽く摘んだりしてきた。
特に性感帯というわけではないが、胸をいじられるというのは不思議な気分だ。

「……おれの」

「うん?」

「ここ、さわっていいの、俺だけ」

「……そうだな」

「他の人にさせちゃ、ダメ」

「ああ、分かった」

「絶対」

念押しするように言ったアルカディアは、胸に顔を近づけて乳首を口に含んだ。
小さな口で必死に吸う姿は赤ん坊のようだ。

「おい、アルカディア」

「……」

「聞いてるか?ちょっと離せ」

「いや」

「嫌じゃない。噛むな」

「……やだ」

「っ、」

アルカディアは強く歯を立てた。
突然与えられた刺激に、思わず息を飲む。

「やめろ」

「やめない」

「やめなさい」

「やぁ」

「……」

聞き分けのない子供のような態度に溜め息をつく。
こうなったアルカディアはなかなか言うことを聞かないのだ。
アルカディアはちゅうちゅうと音を立てて夢中で胸をしゃぶり続けている。
やがてもう片方の手で反対側も弄り始めた。

「……アルカディア」

「や、」

「もう終わり」

「まだ、する」

どうあっても止める気はないらしい。
なんとかして引き剥がそうとした時、アルカディアが唐突に顔を上げた。
ようやく諦めてくれたかと思ったが、そうではなかった。
アルカディアはベッドサイドに置いてあった端末を手に取り、カメラアプリを立ち上げたのだ。
そして、そのままパシャリと写真を撮った。

「おい」

「おれの。誰にも見せない」

「当たり前だ。さすがに消してくれ」

「だめ」

クラウディオがアルカディアの端末を奪おうとするが、ひらりと避けられてしまう。
それどころかアルカディアは逃げようとするので、逃がさないよう抱き締めて拘束してやった。
するとぱたぱたと暴れ出したので、その隙に素早く手を伸ばして端末を奪い取る。
フォルダを確認すると、そこには大量の写真があったし、その全てにクラウディオが写っていた。

「……いつの間にこんなものを撮っていたんだ?」

「お風呂入ってるときとか」

「全部消しなさい」

「だめ」

「お前は……」

「だめ。消すのやめて」

端末を取り返そうとしてくるアルカディアを抱きしめて動きを封じる。

「だめ」

「お前これ落としたりしたら大変だろう」

「落としません」

「すぐ端末を忘れてくる奴が何を言う」

言い合っているうちにアルカディアは腕の中から抜け出そうとしたので、すかさず腰を掴んで引き寄せた。
そして体勢を変え、アルカディアの上に覆い被さる形になる。
これでアルカディアは身動きが取れなくなった。
しかし、それでもなお彼はじたばたともがいた。
まるで駄々っ子のようだ。

「やだ」

「いい加減にしろ」

「やだ!」

「アルカディア」

「いや!絶対に消してなんかあげない」

「……どうしてそんなに嫌なんだ」

「だって、それおれの宝物だもん」

そう言ってアルカディアはクラウディオの腕にぎゅっとしがみついてきた。
まるでお気に入りのぬいぐるみを取られまいとする子供のようで、その様子に苦笑しつつ、優しく頭を撫でてやる。

「……わかった。せめてロックをかけろ」

「…ロックってどうやるの」

「やり方教えてやるから」

「……うん」

渋々と承諾したアルカディアは素直に従った。
こうなると本当に可愛いものだ。
それからしばらく、アルカディアは熱心に画面を見つめていた。
恐らく設定をしているのだろう。
その間、手持ち無沙汰になったクラウディオはアルカディアの髪を指先にくるくると巻き付けて遊んでいた。

「できた」

「ちゃんと出来たか?」

「うん」

「なら良い」

よしよしと褒めるように頭を撫でると、アルカディアは嬉しそうな表情を浮かべ端末をクラウディオに向けた。
ぱしゃり。
またひとつ、シャッター音が響く。

「こら」

「かっこいい」

「やめなさい」

「やだ」

アルカディアは懲りずに何度も撮影を繰り返した。
クラウディオは呆れつつも好きにさせることにした。
アルカディアが満足するまで付き合ってやろうと思ったからだ。

「こっち見て」

「はいはい」

言われるがままに視線を向けると、アルカディアは端末を構えて何枚も撮影した。

「おれのくらでぃお」

楽しそうに笑って端末を放り投げると、アルカディアはクラウディオの腕を引っ張り、そのまま自分の方へと倒れ込ませた。
そして今度は自分がクラウディオの身体に跨り、再び胸元に吸い付いた。
先程よりも強く吸われ、ちくりとした痛みが走る。

「……っ、アルカディア」

「ん…んぅ…ん……ん、」

アルカディアは夢中になって胸に食らいついている。
ちゅく、ちゅう、ぢゅうう。
音を立てながら吸ったり、舌で舐めたり、甘噛みしたり。
その姿はやはり赤ん坊のようで、可愛らしいと思うと同時に愛しさが込み上げてくる。

「ん…はぁ……」

「アルカディア……」

再び声を掛けるが、アルカディアは夢中で胸にむしゃぶりついたままだ。
仕方ないので少し悪戯することにした。
アルカディアの脇腹に手を伸ばし、するりと撫で上げる。

「ひゃっ!?」

驚いたアルカディアは思わず口を離して、すぐに抗議の声を上げた。

「なにするの」

「それはこちらの台詞だ」

「触っちゃだめ」

「どうして」

「えろいことしようとする」

「……」

どの口が言うのかと内心突っ込む。
無視してもう一度脇腹に触れてみるとアルカディアは身を捩った。
どうやらここが弱いらしい。
試しに軽く爪を立てて引っ掻いてみた。
「あっ、」という声と共にぴくりと肩が跳ね上がる。
そのままぐりぐりと弄っていると、アルカディアは小さく喘いだ。

「んん、ぅ」

その反応が面白くて、つい執拗に弄ってしまう。
アルカディアはぎゅ、と涙目でクラウディオを睨むと、反撃と言わんばかりにクラウディオの耳を噛んだ。

「こら」

「いじわるしたお返し」

「そうか」

ならばこちらも容赦しない。
ぐっとアルカディアの腕を引くと、ぼすん、と彼の背中がベッドに沈んだ。
そしてすかさず覆い被さり、アルカディアの両手を片手で拘束して服を捲りあげる。

「ぅ」

アルカディアが散々してきたように、彼の胸元に手を這わす。指先でそっと触れて、ゆっくりと円を描くようにしてなぞる。

「…ん…ふ……ん…、」

アルカディアは必死に耐えているようだったが、それでも漏れる吐息は隠しきれていなかった。

「は、ぁ…う…」

時折掠めるように突起に触れると、アルカディアはびくんっと身体を大きく震わせた。
しかし、まだ決定的な刺激には至らない。焦らすような動きで責め立てる。
ぴく、と掴んでいる手首が小さく震えた。

「あ、ぁ、やだ、やだ」

アルカディアはふるりと首を振って懇願するが、もちろん聞いてやる気はない。
しばらく同じ動作を繰り返してから、ようやく乳首に触れた。

「ひっ!」

人差し指の爪の先がほんの僅かに先端を引っ掻き、カリ、と擦れただけでアルカディアは大きく仰け反った。

「ぁっ!」

しかし、それで終わりではない。
今度は親指の腹で、くに、と押し潰す。

「あ、ぅ♥」

そのままくりゅ、くりゅ、と捏ねると、堪らずアルカディアの口から甘い悲鳴が上がった。

「あ、あ、やだ、それ、ぇ♥」

ぞく、ぞく、ぞわ。
快楽の波が押し寄せて止まない。
身体の奥底から何かがせり上がってくる感覚に、アルカディアは身悶えた。

「い、く…♥いっちゃ、…う」

「ああ」

「い、く、い……く……〜〜〜ッ!!♥♥♥」

きゅううう!と強く摘まれると、アルカディアは全身を引き攣らせて絶頂を迎えた。どうやら射精せずに達したようだ。
はー、はー、と大きく呼吸を繰り返すその瞳からはぽろぽろと生理的な涙が零れ落ちていく。

「は、ぁ…う…う……♥」

「可愛い」

「ば、かぁ」

アルカディアは恨めしげにクラウディオを睨みつける。
そんな様子を愛おしそうに見つめ、クラウディオは唇を重ねた。
舌を差し入れ、口内を犯していく。

「ん、んぅ……」

舌を絡め取りながら、空いた手で腰を撫でてやる。ゆらり、と誘うように揺らめくそれに笑みを漏らすと、ズボンの中に手を入れて下着越しに尻を揉んでやった。

「んっ、ん、んっ♥」

アルカディアは鼻にかかるような声を漏らしながら、もっと、と言うかのように自ら舌を絡ませてきた。その要望に応えるべく更に激しく貪ると、アルカディアは夢中になって応え始める。

「ん、んっ、んぅ♥、…んっ♥」

アルカディアは無意識のうちに足をもじもじと動かしていた。
それを察したクラウディオは一旦キスを止めて腕を解放し、アルカディアの頬を優しく撫でて囁いく。

「アルカディア、どうして欲しい?」

「う…」

「ちゃんと言えたらしてあげる」

「……いじわる…」

「嫌なら止めても構わない」

「んぅう…」

アルカディアは顔を真っ赤にして俯いたが、やがて観念したのか消え入りそうな声で言った。

「……し、たい…です…」

「何を」

「きもち、い、こと…」

「どうやって」

「…んう」

「言ってくれなければ分からない」

「うぅう…」

羞恥で泣き出しそうになるアルカディアに、追い討ちをかけるように耳元で「言ってごらん」と甘く吹き込む。

「…う、…うしろ、の…」

「後ろの?何だ」

「う…うしろ、さわっ、て……」

「触るだけか」

既に下着の中へと侵入している手に、ぐに、と後孔を押し上げられる。
そのままぐりぐりと弄られ、びくびくと身体が震えた。
もう限界だった。
アルカディアは潤んだ目で懇願する。

「なか、いれ、て…」

「入れて、どうする」

「おく、ついて、ほし…」

「奥を突かれたらどうなるんだ」

「い、いっちゃ、」

「イキ狂うか」

耳を食まれ、熱い吐息と共にそう囁かれると、背筋にぞくりと快感が走った。
身体が勝手に期待してしまう。
アルカディアはぎゅっと目を瞑り、こくこくと小さく首肯した。
それを見たクラウディオは満足げに微笑むと、アルカディアの額にちゅ、と軽く口付けを落とした。

「いいよ」

「…っあ」

ぞくぞくぞくッと甘い痺れが駆け巡る。
クラウディオに許可を貰えただけで、こんなにも嬉しくなってしまう。
アルカディアは歓喜に打ち震える。
それと同時に、早く欲しくて堪らないという衝動に襲われた。
アルカディアはぎゅっとクラウディオに抱きつき、自分から唇を重ね合わせる。
何度も角度を変えて貪り合う。

「くら、でぃお…」

「うん」

「すき」

「知ってる」

「おれ、の、くらでぃお」

「そうだ」

アルカディアはうっとりとした表情で、自分の腹をそろりと撫でた。
そしてゆっくりと口を開く。
それはまるで、子供が親にねだるような甘えを含んだ口調だった。

「おれ、だけの、もの」

「ああ。私はお前のものだ」

だから安心して乱れろ。
クラウディオの甘い声を聴きながら、アルカディアは快楽の海に身を投げ出した。