Well, that's up to you


「あ〜、俺お前さんなら抱ける気がすんなぁ…」

酒で顔を赤くさせながら口にしたサファイアの言葉に、アッシュは隠すことなく顔を歪めた。
何を言ってるんだこの男は。そう言わんばかりの表情だ。
だが、そんなアッシュの様子など気にすることもなく、サファイアは自分の言葉を続ける。

「だってよぉ、お前さん顔綺麗だし……………」

そこまで言って、サファイアはじっとアッシュの顔を眺める。
アッシュはどこからどう見ても男だ。身長も190センチ近くあるし、体格もいい。
確かに顔立ちは整っているが、女に見えるかと言われれば答えは否だろう。

「……やっぱいける気がすんな」

「そんなわけ無いだろう、ふざけるな」

アッシュが呆れたように吐き捨てると、サファイアはその言葉を笑い飛ばした。
そして手に持っていたグラスをテーブルに置き、口を開く。

「ふざけてねぇよ〜」

「だったら尚更タチが悪い」

「いーじゃねーか別にぃ…減るもんじゃなし…」

言いながら、サファイアは再びアッシュの顔を見つめた。
そしてゆっくりと手を伸ばし、その頬に触れる。
そのまま撫でるように指先を動かせば、アッシュは小さく眉を寄せた。
しかし特に振り払うこともせず、ただ黙ってそれを見ているだけだ。

「……ほらやっぱりいけそうだわ……」

アッシュはため息をついて、サファイアの手を払い除け彼の前に水の入ったグラスを置いた。

「さすがに悪酔いし過ぎでは。もう帰りますよ」

「えぇ〜?まだいけるって〜」

「貴方が潰れたら誰が家まで運ぶんですか」

サファイアは不満げに声を上げたものの、すぐに大人しく水を飲んだ。
その後会計を済ませ店を出ると、ひやりと冷たい風が2人の間をすり抜ける。
それを感じてか、サファイアは大きく伸びをした。

「うし、俺の家で飲み直すかあ」

「…はぁ?」

思わずといった様子で零れ出たアッシュの声を聞き流し、サファイアは豪快に笑う。

「俺の家なら潰れても問題ないからなぁ」

「…行きませんよ」

「お前明日仕事入ってねぇんだろ?付き合ってくれや」

「…何故それを」

「そりゃお前、グラファイトに聞いたら一発よ」

サファイアはアッシュの肩に腕を回して歩き出した。
酔うと強引になる。それがこの男の厄介なところだと、アッシュは頭を抱えたくなった。

「私は帰ってシャワーを浴びたい」

「風呂なら俺の家にもある」

「そういうことではなく…」

「ああ、着替えとか?なら買っていくか」

「…はぁ……」

これ以上何を言っても無駄だろうと悟ったのか、アッシュは大きな溜息をつくと抵抗を諦めたようだ。
その様子を見て、満足そうに笑みを浮かべるサファイア。

「ちょっと寄ってっていいか?」

帰路の途中、サファイアはディスカウントストアの前で足を止めた。

「酒とつまみ買ってくる。お前さんなんかいる物あるか?」

「私は特に。外で待ってます」

アッシュの言葉を聞いて、サファイアは「あいよ〜」という呑気な返事をしながら手を振って店内へと入っていった。
アッシュはまたひとつため息をついて煙草に火をつける。

「(今日は帰れそうにないな…)」

煙を吐きながら腕時計を見れば午後の23時頃。
まだまだ夜はこれからだ。

「待たせたな〜」

しばらくして買い物を終えたらしいサファイアが店から出てきた。
片手には大きなビニール袋を下げている。
中には大量の缶ビールやらおつまみのスナック菓子やらが入っていた。

「随分買いましたね」

「どうせ飲むだろ?」

当たり前のように言われ、アッシュは何も言えずに苦笑いする。
確かに、そんなことになりそうな予感はしている。そんなことを考えながら歩いているうちに、あっと言う間にサファイアの自宅に到着した。

部屋に入ると、そこは思ったよりも綺麗な空間が広がっていた。
リビングも寝室もきちんと整理整頓されている。

「意外ですね」

「何がだ?」

「もっと汚いかと思っていました」

「失礼な奴だな…」

そう言いながらも、あまり気にしていないようでサファイアは楽しげに笑って見せた。
そして早速袋から取り出してテーブルの上に並べていく。

「そうだ、着替えもついでに買ってきたから風呂入りたくなったら言ってくれ」

「ああ…ありがとうございます」

「下着は新品だから安心しろ」

「……どうも」

至れり尽くせりとはこの事だろう。
ここまでされては断れないなと思いつつ、アッシュはソファに座って缶ビールを開けた。

それから数時間、2人は他愛もない話をしながら酒を飲んでいた。
日付はとっくに変わり、時刻は午前1時を回っている。
アッシュもすっかり酒が進み、顔色は普段より少し赤くなっている程度だ。
対してサファイアはというと、既に出来上がっており呂律すら怪しくなっていた。

「あ〜、もう飲めねえ……」

テーブルに突っ伏しながら、そんなことを呟く。
その言葉通り、彼は空になった缶を5本程テーブルに置いている。

「そろそろ寝た方がいいんじゃないですか」

「んん〜」

「聞いてるんですか」

「んー……」

これは駄目だと言わんばかりに、アッシュは小さくため息をついた。
このまま放っておいたら寝るだろうからもうお開きだ、そう思いながら残りのビールを飲み干す。
それからすぐにサファイアの寝息が聞こえてきた。
今の間にシャワーを浴びてしまおうかと、アッシュはテーブルの上の空き缶をビニール袋にまとめて立ち上がる。
先程サファイアが買ったという着替えを有難く拝借して、浴室へと向かった。



勝手にドライヤーも借りてささっと髪を乾かし終わったアッシュは、寝室からブランケットを手に取ってリビングに戻る。
相変わらずサファイアは気持ち良さそうに眠っていた。
起こさないよう静かに近づき、彼にブランケットをかけてやり、再び立ち上がろうとしたところで、突然手首を掴まれた。
驚いて視線を向けると、いつの間にか目を覚ましていたらしいサファイアがこちらを見上げていた。

「……起きてたんですか」

「…いや、今起きた」

「…まだ飲み足りないんですか」

「いんや、もう充分」

「だったらもう休んだ方が」

「わかってるってぇ…」

そう言うと、サファイアはゆっくりと体を起こして立ち上がった。

「水でも飲みますか?」

「うん」

キッチンでグラスに水を注ぎ、それを手渡す。サファイアは一気に飲み干し、大きく息を吐き出した。

「あ〜、飲んだなあ」

そう言いながらサファイアはグラスをシンクに置くと、そのままアッシュの腰に腕を回して抱き着いてきた。

「…ちょっと」

「なんだよぉ〜」

「重いです」

「冷たいこと言うなよ〜」

そう言って更に強く抱きしめられる。
正直かなり苦しいのだが、ここで引き剥がせば面倒なことになるのは目に見えている。
仕方なくアッシュは諦めて好きにさせることにした。

「アッシュ、いい匂いするなぁ…」

「貴方と同じシャンプーでしょう」

「違うよ、お前の匂いだよ」

首元に鼻を押し付けられ、スンと息をする音が聞こえる。
それがなんだかくすぐったくて、思わず身を捩る。

「いい加減離れて下さいよ」

「嫌だ」

即答。そうこうしているうちに、サファイアの手はアッシュの服の中へと侵入してきた。
脇腹や背中に触れ、撫で回すように手が這う。

「ちょっ…」

「アッシュ、お前ほんといい身体してんなぁ……」

熱を帯びた声色に、ぞくりと背筋に何かが走る。
アッシュが眉をひそめた時、サファイアの体がするりと離れていく。やっと解放されたかと安堵の息をつく間もなく、ぐっと腕を引かれた。
そのままずんずんと歩き出したサファイアに引きずられるようにして、アッシュも足を動かす。
サファイアが向かった先は寝室。
そこに辿り着くと、サファイアはその力で以てしてアッシュをベッドへ放り投げた。
突然の行動に受け身が取れなかったアッシュはそのままうつ伏せにベッドへ倒れ込む。

「なにす…」

振り向いて文句を言おうとした瞬間、アッシュは背後から強い衝撃を受けた。
サファイアが馬乗りになって乗っかってきたのだ。

「ちょっと、なんですか急に…」

「アッシュ、好きだ」

「は?」

「好きなんだ」

「……」

「だから抱かせてくれ」

「…………」

あまりにもストレートな物言いに、アッシュは何も言えなくなってしまう。
困惑したようなアッシュの表情に、サファイアは少し得をした気分になった。
呆れの表情はよく見るが、こういう顔はあまり見れない。
アッシュはぐるりと体を反転させられ、仰向けになる。そしてサファイアは覆い被さるようにアッシュの顔の横に手を置いた。

「……どいてください」

「嫌だ」

「まだ酔ってるんですか」

「ああ、そうだとも」

「…ふざけるな」

苛立った様子を見せるアッシュだが、サファイアはそれすらも愛おしく思えた。
この男は、他人の前ではいつも冷静沈着な態度を崩さない。
それなのに今はどうだ?自分に組み敷かれて、困り果てた顔をしているではないか。
そんな彼の姿を見ていると、どうしようもなく興奮してしまう。
サファイアは無意識のうちに舌舐めずりをしていた。
そしてそのままアッシュの首筋を舐め上げる。

「っ……」

びくりとアッシュが震えた。その反応に気を良くしながら、耳元まで舌を滑らせる。
アッシュの腕がサファイアを押しのけようと動いたのを感じ、その両手を掴んでシーツに押し付けた。
いくらアッシュが化け物のように強くても、単純な力比べならサファイアの方が上である。それに、酒が入っているせいかあまり力が入らないようだ。
そのまま耳に口づけると、今度はアッシュの口から小さく吐息が漏れる。

「ぅ…」

その声に、サファイアの理性は少しずつ削られていった。
もっと聞きたい。そう思って何度も同じ箇所を攻め立てる。
腕を封じられたアッシュが今度は足でサファイアを攻撃しようとするが、それも難なく抑え込まれてしまう。
サファイアの唇が徐々に下に降りていき、ついに鎖骨に到達したところで、アッシュは耐えきれずに声を上げた。

「…やめろ」

「どうして」

「こんなことされて、嬉しいわけないでしょう」

「そうかあ?」

俺はお前にこんなんされると嬉しいけど、と呟きながらサファイアは鎖骨を甘噛みする。
アッシュは一瞬だけ肩を震わせたが、それ以上何も言わなくなった。力が込められていた両手からも、ふっと抵抗が消える。
サファイアがそれに気を良くして口角をあげて腕を解放した時だった。
ぼふん!という音と共に顔面に枕が飛んできたのだ。

「ぶッ!?」

突然の攻撃にサファイアは驚きながらも咄嵯に身を起こす。すると、アッシュが素早く起き上がってサファイアと距離を取った。

「おいおい、やってくれんじゃねぇの」

「うるさい」

「俺に抱かれるのは嫌だってか」

「当たり前だろう」

「なんでだ」

「逆に何故貴方は私を抱きたがるんだ」

「好きだから」

「……意味がわからない」

アッシュの眉間に深い皺が刻まれる。
サファイアはため息をついた。
ベッドの上でサファイアを警戒するアッシュの姿は正直少し可愛かった。しかし、このまま引き下がるのもなんだか悔しい気がする。
そこでサファイアはあることを思いついた。

「よし」

「……?」

「酒を飲もう」

「まだ飲む気か」

馬鹿なのかこいつは、とでも言いたげにアッシュは目を細める。
サファイアは気にせずベッドから降りてキッチンへ向かった。
冷蔵庫から取り出した缶ビールを持って寝室へ戻ると、アッシュはベッドの端に座っていた。
サファイアはアッシュの隣に腰掛けると、自分の分のプルタブを開ける。

「ほら」

「……」

差し出された缶をじっと見つめ、それからゆっくりと受け取る。
アッシュが受け取ったのを見て、サファイアは自分の分を一気に煽った。

「ぷはーっ!」

美味い。
喉を通る冷たい感覚が心地よい。

「うまいなぁ〜」

そう言って隣を見ると、アッシュはまだ手をつけていなかった。
ただ、視線はこちらに向いているので一応話は聞いてくれているのだろう。

「リセットしようぜ」

「……」

「悪かったよ、さっきのはなしだ」

「……」

返事はない。
訝しげな表情でサファイアを見つめている。

「なんだよ、せっかく誘ってやってるのに」

「頼んでません」

「まあまあ、いいじゃねえか。今日は飲み明かそうぜぇ〜!」

「……」

アッシュは呆れたように息をつくと、渋々といった様子で缶を傾けた。
ごくり、と喉仏が上下に動く様を眺める。

「…あんまり見ないでください」

「なんでだよ」

「……気分が悪い」

「へえ?」

それは悪いことしたな、と言ってサファイアも自分の缶に口をつける。

「リビング戻るか」

「…ええ」

そうして2人は寝室を出た。
リビングのソファに並んで座り、テレビを見ながらダラダラと過ごす。
特に面白い番組でもないが、BGM代わりに流すにはちょうど良い。

「……」

アッシュは無言で酒を煽る。先程よりもペースが早い。
これが、サファイアの狙いだった。
アッシュには彼自身が気づいていない癖がある。苛立つと酒のペースが上がるのだ。これは何度か一緒に飲んでいるうちに気づいたものだ。
そして今、アッシュは苛立っている。
その原因はもちろん、自分にある。
サファイアはそのことに優越感を覚えていた。
自分がアッシュを苛立たせることができるなんて、こんな嬉しいことはない。
それに、苛立ちに任せて酒をどんどん消費してくれるのは都合が良い。酔い潰すつもりはないが、多少無茶をさせてしまっても大丈夫だろう。
そんなことを考えながら横目でアッシュの様子を窺う。
頬はほんのりと赤く染まっているが、呂律が回らないほどではないようだ。

「……」

ちらり、とアッシュの横顔を見る。
長いまつ毛、通った鼻筋、薄い唇。
男らしい精巧なパーツがバランスよく配置されたその顔は、同性から見ても魅力的だと感じる。

「……」

無意識のうちに顔に手が伸びたことに気づいて、慌ててその手を頭に移動させ、ぐしゃぐしゃと撫で回す。

「…なんですか」

「別にぃ?酒強いなお前さん、勝てねえ」

「……」

アッシュは答えず、ただ黙々と酒を飲み続ける。
サファイアはアッシュにバレないように小さくため息をついた。
先程よりも確実に酔ってはいる。根気強く待つしかない、とサファイアは覚悟を決めた。



「……」

それから30分ほどが経った。
ふと隣を見るとアッシュの手が止まっている。

「どうした?」

そう問いかけても反応がない。
不思議に思って顔を覗き込むと、アッシュの目は完全に閉じられていた。

「おい」

肩を揺するが起きる気配は全く無い。
完全に寝落ちしてしまったようだ。

「まじかよ」

サファイアは思わず苦笑する。
べろべろに酔わすつもりがまさか寝落ちするとは。

「………」

サファイアはじっとアッシュの顔を見つめた。
規則正しい呼吸音。
薄く開いた口。
いつもより幼さを感じさせる表情。
そして赤くなった顔。

「……」

これは、やばいかもしれない。
そう思った時にはもう遅かった。

「んぅ、」

気がつけば、サファイアはアッシュに口づけていた。
柔らかい。熱い。気持ちいい。
触れたところから溶けてしまいそうだ。
もっと欲しい。
欲望のままに口内に侵入する。歯列をなぞるとアッシュがぴくりと動いた。

「……っ、」

起きてしまっただろうか。しかしそれを確認する余裕など今のサファイアにはない。
そのまま奥へと進むと、逃げようとするアッシュの舌を捕まえた。絡め取るようにして吸い上げる。

「…ん、ふ……ッ」

アッシュの身体が小さく震えた。
​​──かわいい。
サファイアは夢中で貪った。
しばらくしてからようやく口を離すと、銀色の糸が名残惜しげに伸びる。
かなり酔っているせいで眠りが深いのか、アッシュは起きる様子はない。
ゆっくりとアッシュの体を横に倒すと、その上に覆い被さるようにして跨る。

「ごめんな」

聞こえていないのを承知の上で謝罪の言葉を口にし、シャツのボタンを外していく。
露わになった白い肌に指を這わせると、滑らかな感触が伝わってきた。

「綺麗だなぁ、お前さんの体」

そう呟いて首元に顔を埋める。
アッシュからは相変わらず穏やかな寝息が聞こえるだけだ。
するりとサファイアの手が胸に触れる。
女性のような膨らみはないものの、鍛えられた筋肉によって引き締まった体は、美しいと表現するに相応しいものだった。

「はぁ、」

興奮している。
自分の下半身の状態に気づくと、サファイアは自嘲気味に笑う。この歳になってまだこんな感情を抱くとは思わなかった。
アッシュの胸筋にそっと触れる。
少し汗ばんでしっとりとした感触が心地よい。

「っ、」

突起に触れた瞬間、アッシュの体が僅かに跳ねた。
構わずにくにゅくにゅと弄ぶと、次第に硬く尖っていく。

「…っ、…う……」

アッシュの眉間に皺が寄って苦しそうな声が漏れる。
それでもサファイアは手を止めなかった。むしろ、ますます激しくなる一方である。
片方を手で愛撫しながらもう片方には口をつけ、ちゅう、と強めに吸うとアッシュの腰が大きく揺れた。

「…ん…っ、…う……」

アッシュの吐息が熱を帯びていく。
その様子に、サファイアは目を細めた。

「……感じてんの?」

アッシュは何も答えない。
ただ、わずかに頬を染め、悩ましげな表情を浮かべているだけである。

「……」

サファイアはごくり、と喉を鳴らした。
そしてアッシュの下腹部に手を滑らせる。まだ反応を示していないそこを優しく握りこむと、上下に動かし始めた。

「…は、…あ、…っ」

やがてそこは質量を増していき、硬度を増すにつれてアッシュの声も艶めいたものに変わっていく。

「……は、ぁ…ぅ」

アッシュの頬はさらに赤く染まり、呼吸が荒くなっていく。
サファイアはアッシュのズボンを脱がせようと手をかけたところで、はたと動きを止める。

「……」

このまま続けてもいいのだろうか。
アッシュの意識がある状態では抵抗される可能性があるし、何より合意なしに行為に及ぶことは憚られる。
​​──でも。
ここまできて止めることなどできない。

「悪いな」

再び謝ると、サファイアはアッシュの下着に手をかけ、一気に脱がせた。

「……」

アッシュのものは先程の愛撫でしっかりと勃ち上がっていた。
それをじっと見つめてから、おもむろに手を伸ばす。

「……っ、…は、…ん…っ」

先端から溢れる透明な液を塗り広げるように擦ると、アッシュの口から甘い声が漏れた。

「……は、…っ」

「……」

サファイアはアッシュのものから手を離すと、今度は後孔に手を伸ばした。

「…ん、…ぅ……」

入り口をなぞると、ひくりと収縮するのがわかる。

「……」

サファイアは先程こっそり買っていたローションを手に取り、蓋を開ける。そして中身をたっぷりと手に出すと、指を擦り合わせて温めて、それからゆっくりと人差し指を差し入れた。

「……ん、」

眠っているとはいえ、異物感はあるのだろう。アッシュの口から小さく息が吐き出された。
そのままゆっくりと奥まで進めると、内壁を探るようにして動かす。

「は、……は、」

アッシュの呼吸が乱れ始める。
ある程度馴染んできた頃合いを見計らい、中指を追加する。

「ぅ……」

2本の指を動かす度にくちゅくちゅという水音が響いた。

「ん、ん…」

「……」

時折ぴくっと震えるアッシュの身体を見つめながら、サファイアはひたすらに慣らすことに集中する。

「は、……は、」

アッシュの呼吸がどんどん速くなり、顔が上気していく。

「……ぅ、」

しばらく続けていると、ある一点を掠めた時にアッシュの身体がびくんと大きく跳ねた。

「っ!」

「ここか」

サファイアは確認するように同じ箇所を何度も押す。

「…っ、ん、…ん…っ」

そのたびにアッシュの身体は跳ね、喘ぎ声が漏れた。

「…っ、…は、…ぁ、…はぁ、…」

ぐちぐちと音を立てながら抜き挿しを繰り返しながら、先程見つけた場所を刺激すると、アッシュの腰が浮いて足先がシーツの上を泳ぐ。

「…っ、……ぁ、…っ、…ん…っ、」

無意識のうちに快感から逃れようとする腰を押さえつけ、さらに刺激を与え続ける。そこだけを執拗なまでに責め立てると、アッシュの手足が痙攣し始めた。

「ぁ……、ぁ、…ぁ、」

「……」

どくんどくんと自身の心臓が大きく音を立てているのを、サファイアはどこか他人事のように聞いていた。
そろそろいいか。
そう思い、サファイアは指を引き抜くと、自分のベルトを外して前を寛げる。
すっかり張り詰めた自身を取り出すと、アッシュの後孔に宛てがい、ぐっと押し込んだ。

「…ぁ、…っ、…ん、……っ」

ずぶずぶと沈んでいく感覚に、アッシュは苦しそうに眉根を寄せた。
途中まで収めると、サファイアはアッシュの顔にかかった髪をそっと払う。

「大丈夫か?」

「……っ、…は、…は、」

アッシュは苦しげに肩で息をしているものの、起きる気配はない。それを確認すると、サファイアはゆっくりと律動を始めた。

「っ、…っ、……っ」

初めは苦しそうな表情を浮かべていたアッシュだったが、徐々に声に甘さが混ざり始め、やがて完全に快楽の色に染まった。

「…っ、…は、…ぁ、…ん……っ」

「……」

アッシュの艶のある声を聞きながら、サファイアは腰を振るスピードを上げていく。
結合部からはぬちゃぬちゃとした卑猥な音が響き渡り、サファイアの興奮を煽っていく。
抜き差しを繰り返していれば、徐々に根元まで飲み込むようになる。

「…まだ、起きねぇのか?」

「っ、…は、…は、…っ」

問いかけても返事はなく、アッシュはただ荒い呼吸を繰り返すだけだ。

「……」

サファイアは少し考え込んでから、ずるりと自身をギリギリまで引き抜いた。

「っ、……っ、……っ」

亀頭が抜ける寸前で、一気に最奥目掛けて突き入れた。主張するしこりをごりごりと掻き潰しながらごつんッと結腸口にぶつかると、アッシュの背中が大きく仰け反る。

「〜〜〜っ!!」

声にならない悲鳴を上げてアッシュの目が見開かれる。

「お、やっと起きたか?」

「…っ?…え……あ…?」

ようやく覚醒したアッシュは自分の置かれた状況を理解することができずにいるようだ。目を白黒させながら必死に状況を理解しようとしている。
混乱した様子が可愛くて、奥を何度もごつごつと突く。

「あッ、…な、に…して…うっ」

「悪いな、ちょっと付き合ってくれ」

「や、め……っ」

アッシュはどうにか逃げようと身を捩るが、その両腕を掴まれてしまい、身動きが取れなくなる。

「はな……せっ」

「暴れると危ないぞ」

「……っ」

アッシュは思わず息を飲む。
サファイアの瞳に情欲の炎が灯っていることに気が付いたからだ。

「ま、て……」

「待てねぇ」

サファイアはアッシュの制止の声を無視して、腰を打ち付ける。肌と肌が激しくぶつかり合う音が部屋に響く。

「っ、あっ、…っ、ぅっ、」

アッシュの口からは絶えず甘い声が漏れ、身体はびくんびくんと跳ね上がる。
奥を突かれるだけで気持ちいい。意思に反して声が勝手に出てしまう。
こんなの知らない。なんだこれ。怖い。
アッシュは初めての感覚についていけずに恐怖を覚える。

「ぅ、…ぁ、…んん…っ」

それでも身体は正直なもので、アッシュのものはだらしなく先走りを流しながら勃ち上がり、もっと欲しいと言わんばかりにひくついている。

「ぁ、…ん、…んん…っ」

「お前、素質あるよ」

「っ、うるさ…ぃ……っ」

アッシュは顔を真っ赤にして否定するが、「可愛い」と言われ、さらに激しく揺すられる。

「っ!…ぅ、…ぁ、…っ」

「ここ好きだろ?」

「っ、ぁ!…っ、ぁ、」

前立腺をぐりっと押しつぶされれば、アッシュは一際大きな声で喘いだ。

「ここも」

「ひっ、…ぁ、…っ、ぁ、」

そのまま結腸口を押し広げられるようにぐぽぐぽと出し入れされると、あまりの快感に目の前がチカチカする。

「っ、ぁ、…っ、ぁ、…っ」

「っ……」

サファイアが息を詰めるのがわかった。

「ぁ、…っ、う、…ぅあっ!」

どくんどくんと熱いものが注がれるのを感じながら、アッシュは意識を手放した。



「……本当に、ごめんなさい」

アッシュにぶん殴られた頬を赤く腫らしながら、サファイアはソファーの下で頭を下げた。

「……」

アッシュは無言のままソファーに座っている。その顔には怒りの色がありありと浮かんでいた。

「もう二度としない」

「当たり前だろうが」

「はい……」

サファイアはしょんぼりと項垂れた。
あれからすぐに正気に戻ったアッシュに思いっきり殴り飛ばされ、それからずっとこの調子である。

「あの、でも、俺ほんとにお前のこと好きなんだって」

「それがどうした」

「いや、その…つまり…ちゃんと責任取るっていうか」

「いらん」

「い、いらんか…」

「いらん」

「いや、でも…そういうわけにもいかないというか」

「しつこい」

「じゃあせめて一緒に住むとか?」

「断る」

サファイアはがくっと肩を落とした。
もう敬語すら使ってくれない。相当怒らせてしまったらしい。

「本当…悪かった…」

言い訳できないくらい自分が悪いのだ。
反省している。
だが、後悔はしていない。
そんなサファイアの様子を感じ取ったのか、益々アッシュの機嫌が悪くなる。

「……」

「ご、ごめん…」

何度も謝罪を繰り返すサファイアはいつもより随分と小さくなっていて、飼い主に散々怒られた犬を彷彿とさせた。

「……」

「ごめん……」

「……」

「……」

「…腰が痛い」

「っ、」

「喉はガラガラだ。足の付け根も筋肉痛だ」

「う……」

「おまけに腹の中に違和感がある」

「うぅ……」

「全て貴方のせいだが」

「はい…おっしゃる通りで…」

アッシュの言葉責めに耐えきれず、サファイアはどんどん小さくなる。いい年した男がしゅんとしている姿はかなり情けない。

「さっき責任は取ると言ったな」

「はい……」

「どう取るつもりで?」

「え?」

「まさか何も考えていないと?」

「えーと…えぇと…あ、とりあえず、毎日飯作ろうかな、とか」

「他には?」

「え?他か…?」

「他に何も考えがないなら結構だ」

「ちょ、ちょっと待ってくれよ。考えるから」

サファイアは腕をくんで懸命に思考を巡らせる。しかし、中々良い案が出てこない。
その間にもどんどんとアッシュの顔は鬼のように険しくなっていく。

「えー…待てよ、待ってくれよ…」

「……」

「えっと、俺に出来ることなら何でもしよう…」

「……」

「あ、あとは……そうだ、飯以外も家事全般引き受けよう」

「……」

「毎日屋敷通うぞ、俺は」

「……」

「それで、もしお前が許してくれるなら…」

「……」

「また、抱かせてほしい」

サファイアは真剣そのものといった表情でアッシュを見つめた。
しかしその瞳はどこか不安げに揺れている。
アッシュは少しの間黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
それは、とても小さな声だった。
聞き逃してしまいそうな程に。

「…………考えてやる」

「へ……?」

予想外の返答に思わず間の抜けた声が出る。今、何と…?
アッシュは不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。
嘘だろ。信じられない。夢じゃないだろうか。
嬉しさで頭がくらくらする。
これは現実なのか。
サファイアの胸は喜びでいっぱいになる。

「アッシュ!!」

「うるさい」

思わず抱きしめてキスしようとしたら、思い切り拒絶された。
でも構わない。今はそんなことは気にならなかった。

「愛してる!!本当に好きだ!大好き!」

「うるさい」

「絶対幸せにするから!」

「うるさい」

「もう1回だけ!大好きだ!」

「うるさい」

アッシュは面倒くさそうにため息をついて、サファイアの言葉を全て聞き流していく。
ぎゅう、とその体を強く抱き締める。
アッシュの体温を感じる。心臓の鼓動が聞こえる。
生きている。ここにいる。俺の腕の中。

「アッシュ、好きだ」

「……」

「本当に好きだ」

「……」

「もし、いつかお前も俺の事を好きになってくれたなら…」

「……」

「その時は、お前の本当の名前を教えてくれ」

組織での“アッシュ”という名前じゃない。
お前自身の名前を呼ばせて欲しい。
その言葉は口に出さずに、心の中で呟いた。
アッシュは何も言わなかった。
ただ、ゆっくりと目を閉じてサファイアに体を委ねた。
まるで、その言葉を肯定するかのように。
それを感じたサファイアは優しく微笑んで、もう一度強くその身体を抱き寄せた。