Eat a lot







最近新しく出来たカフェは持ち帰りも出来るらしい。長らく気になっていたアルカディアは、思い切ってその行列に並んでみた。
クラウディオは今日早く帰って来れるみたいだから、たくさん買って帰って晩御飯にしよう。そんなことを考えながら渡されたメニュー表を見つめる。
サンドイッチだったりハンバーガーだったり、デザートまでたくさん種類が豊富でどれにするか迷ってしまう。
結局アルカディアは気になったもの全てを注文した。店員から受け取った大きな紙袋を抱えて家に帰ると、まだクラウディオは帰ってきてはいなかった。
とりあえず買ってきたものをテーブルに並べていると、玄関の方からガチャリという音が聞こえてきた。帰ってきたようだ。
パタパタと足音を立てて出迎えに行く。

「おかえり!」

「ああ、ただいま」

「今日のご飯はね、選びたい放題」

アルカディアの言葉に不思議そうな顔をするクラウディオの手を引いて、二人でリビングに向かう。テーブルの上の大量の食べ物を見て驚いたのか目を丸くしていた。

「随分沢山買ったな」

「気になったやつ全部買っちゃった。まだあったかいよ」

クラウディオはジャケットを脱いで椅子にかけると、ネクタイを緩めながらソファーに腰掛けた。アルカディアは隣に座って早速トーストサンドを手に取る。
一口齧ると、サクッとした食感と共にバターの香りが鼻腔いっぱいに広がる。パン生地の中にはチーズが入っているようで濃厚だ。
ハムスターのように頬張っていると、その様子を見ていたクラウディオがくすりと笑みを浮かべた。

「美味しい?」

「ん!」

きらきらと輝く瞳に見上げられて、クラウディオは再びくすくすと笑う。
まるで小動物のようなその姿はとても愛らしく、思わず頭を撫でてしまう。嬉しそうにはにかむアルカディアだったが、ふと思い出したようにハッとして、持っていた食べかけのトーストサンドを差し出してきた。

「あげる、半分こ」

「いいのか?ありがとう」

差し出されたそれを受け取ろうとすると、アルカディアはそのままぐいっと押し付けてくる。どうしたものかと考えていると、彼は更にずいと顔を寄せてきた。

「あーんして」

「…はいはい」

仕方なく口を開ければ、そこにトーストサンドを押し込まれる。咀しゃくしている間もじっと見つめられて少し居心地が悪かったが。
飲み込むとすぐに次のひとくちを与えられる。それを何度か繰り返したところで満足したのか、アルカディアは自分の食事に戻った。
今度は自分が食べる番だと言わんばかりにもくもくと口に運んでいく。

「これもおいひい」

相変わらずハムスター状態のアルカディアを眺めながら、クラウディオもまたサンドイッチに手を伸ばす。
ふと視線を感じて横を見ると、アルカディアがこちらをじぃっと見つめていた。

「…何だ?」

「これも、あげる」

アルカディアは食べていたハンバーガーの一切れを差し出す。それを受け取ろうとすると、「あーん」と言って無理矢理押し込んできた。

「もっとたべて」

ぐいぐい詰め込んでくるアルカディアに観念して大人しくされるがままになっていると、しばらくしてようやく満足したのか手を引っ込めてくれた。

「んふ、デザートもいっぱい買ったよ」

アルカディアはまた別の紙袋を取り出すと、中から小さな箱を取り出した。蓋を開けるとそこには色とりどりのケーキが並んでいる。
ショートケーキにモンブラン、タルトにシュークリーム。どれも可愛らしい見た目をしている。
アルカディアは箱からシュークリームを取り出し、半分に割って片方をクラウディオに差し出してくる。

「はい、あーん」

「自分で食べられるから大丈夫だよ」

「だめ、おれがしたいの」

そう言われてしまうと何も言い返せない。仕方ないので黙って口を開く。
今日のアルカディアはやけに食べさせてくるなと思っていると、不意にアルカディアの顔が近づいてきた。
ちゅう、と唇に触れる柔らかい感触。驚いているうちにアルカディアは舌を使って口の中に割り入ってくる。
歯列をなぞり、上顎を刺激していく。最後にちゅるりと音を立てて離れていったアルカディアは、ぺろりと自身の薄い唇を一舐めした。

「おいしいね」

妖艶に微笑んだアルカディアは、手に持ったままだったシュークリームを再び口元に近づける。

「はい、もうひとつ。あーん」

しかしクラウディオは口を開かなかった。アルカディアはむ、と眉根を寄せる。

「くちあけて」

「嫌だ」

「なんでぇ」

ここで口を開けるときっと調子に乗るだろうと思ったのだ。案の定アルカディアは不満げに頬を膨らませる。その様子はまるで​​──

「リスみたいだな」

「りすじゃない」

「悪い悪い、お前は猫だったな」

拗ねる姿さえ可愛いと思ってしまうのだから重症かもしれない。そんなことを思いながら苦笑していると、アルカディアは不機嫌そうな表情のまま再びシュークリームを差し出してきた。

「ほら、あーんして」

「はいはい」

言われるままにぱくりと齧り付く。途端にアルカディアは笑顔になった。

「おいしい?」

「ああ、美味しいよ」

嬉しそうに笑うアルカディアを見て、クラウディオは自然と笑みを浮かべる。
この時間がずっと続けばいい。そんなことを考えながら、二人はゆっくりと夕食を楽しんだ。



「ねえ、あーんして?」

アルカディアは目の前のフォークに刺さった苺を差し出して、上目遣いに見上げてくる。クラウディオは一瞬だけ躊躇ったが、小さく息をつくと諦めて素直に口を開いた。
あれからアルカディアはやたらと食べさせようとしてくる。
最初は良かったのだが、段々とエスカレートしてきて今では殆ど餌付け状態になっていた。

「はい、あーん」

アルカディアは満面の笑みでそれを口に運ぶ。甘い香りが鼻腔を満たし、程よい酸味が広がった。

「どう?美味しい?」

「ああ、とても」

「ふへ、よかったぁ」

心底嬉しそうなアルカディアを見て、クラウディオは思わず頭を撫でる。アルカディアは気持ち良さそうに目を細めた。

「ねぇ、もっと食べて」

「まだあるのか……」

「まだまだいっぱいあるよ」

アルカディアの言う通りテーブルの上には沢山のお菓子やフルーツが並べられている。

「全部食べさせてあげる」

「勘弁してくれ…お前は私を太らせたいのか?」

「うん?ちがうよ〜。くらでぃおが食べてるのみてると幸せになれる」

「…そうか」

「それで、おれもたくさんたべれる」

「……」

「ふふ、だいすき」

アルカディアはにっこりと笑うと、そのまま腕を伸ばしてぎゅうと抱きついてきた。

「…………」

「ふふふ」

アルカディアは満足気に笑いながら胸に顔を埋めて擦り寄ってくる。

「くすぐったい」

「ん〜」

甘えるような声を出しながらもぞもぞと動くアルカディアだったが、やがてぴたりと動きを止めると顔を上げた。
紅い瞳が真っ直ぐこちらを見つめている。吸い込まれてしまいそうだ。
にんまりと笑ったアルカディアが、クラウディオの首筋に顔を埋めた。そしてちろりと赤い舌を出して舐めあげる。
ぞくりと肌が粟立った。

「……アルカディア」

「ん、なに?」

「あまり悪戯をするな」

「いたずらじゃないよ」

そう言いながらクラウディオの体をゆっくりとソファーに押し倒していく。
そのまま覆い被さると今度はクラウディオの耳を舐め始めた。
熱い吐息が耳に吹きかかる。濡れた音が鼓膜を刺激する。
耳元に感じる熱っぽい体温。
これはまずい。非常に良くない。

「…っん、」

耳たぶを食まれ、軽く歯を立てられる。舌先で穴の中まで舐められて、クラウディオの口から小さな喘ぎが漏れた。
それに気を良くしたのか、アルカディアは執拗に責め立ててくる。

「アルカ​​──」

制止の声を上げようとすると、アルカディアはそれを遮るように唇を重ねてきた。
深く口付けられて舌が絡み合う。唾液が混ざり合い、どちらともわからないそれが口の端から溢れていく。

「んぅ、ん、」

「は、」

呼吸すらままならないほど激しい口づけに思考がぼうっとしてくる。
このままではいけないと思うのに、体が動かない。

「んん、」

アルカディアは貪るようなキスをしながら、片手で器用にシャツのボタンを外していった。
露わになった胸元に手が置かれる。

「ッ、」

びくりと反応するクラウディオに構わず、アルカディアは首筋から鎖骨にかけて舌を這わせていく。

「…アルカディア」

「なぁに」

唇を離したアルカディアは楽しげな笑みを浮かべていた。
その手はクラウディオの下半身にかけられていて、ズボンの上から形を確かめるように指を滑らせていく。

「やめろ」

「なんでぇ?」

首を傾げるアルカディアの手を掴んで引き剥がすと、不満げに見上げられた。

「なんでもだ」

クラウディオの答えにアルカディアは口を尖らせながら彼の胸元に頬を寄せる。
少ない頬の肉を押し付けているからか、むに、と形が変わっているのが正直とても可愛い。思わず頬を緩ませそうになるのを堪えて、アルカディアの髪を優しく撫でる。
するとアルカディアは気持ち良さそうに目を細めて、ごろごろと喉を鳴らしそうな勢いで擦り寄ってくる。
不意にアルカディアが腕を動かしたかと思うと、テーブルの上の苺を手に取った。
それをクラウディオの口の前に差し出す。

「はい、あーん」

「……」

もう何度目だろうか。
諦めて口を開けば、アルカディアは嬉しそうに笑ってそこに苺を押し込んだ。
直後、アルカディアの柔らかい舌が入ってくる。
先程よりも更に深い口付けに、甘い香りと酸味が広がる。
クラウディオは無意識に、アルカディアの丸い後頭部を撫でていた。

「ん、ふふ…」

ちゅ、と音を立てて離れたアルカディアは満足そうに微笑むと再び顔を近づける。
しかし、それは途中で止まった。
アルカディアはクラウディオに覆いかぶさっていた体をゆっくりと起こしていく。

「手かして」

言われるままに右手を差し出せば、アルカディアはぐっとクラウディオの腕を引いて起き上がらせた。
そのまま引っ張られて寝室へと連れて行かれる。

「ねえねえ」

「ん?」

「こっちきて」

アルカディアはベッドの上でちょこんと座って両手を広げている。
その姿が可愛くて、自然と笑みが零れた。

「はいはい」

ゆっくりと近づき、抱きしめる。
そのまま倒れ込むと、アルカディアは嬉しそうに抱きついてきた。
クラウディオの首元に顔を埋めて、ぐりぐりと額を擦り付ける。
好き好き、と全身を使って表現しているようで、クラウディオは堪らずにぎゅうと強く抱き締めた。

「んん〜」

アルカディアは幸せそうに声を上げると、少しだけ顔を上げてこちらを見つめてくる。
その瞳に眠気の色が見えて、クラウディオは小さく苦笑を漏らした。

「寝るか?」

「ねない…」

そう言いながらも瞼は今にも閉じそうだ。
くっついているせいで暖かくて、心地良い微睡みに身を任せたくなる。
それでもアルカディアは必死に目を開こうとしていた。

「まだおきてる……」

「無理しなくていい」

「んん……」

アルカディアは暫く抵抗していたが、やがて観念したのか大人しくなって静かになった。
数分も経たないうちに規則正しい呼吸音が聞こえてくる。
どうやら眠りについたようだ。
ちゃんとベッドに寝かせてやろうと体を起こそうとするも、アルカディアはしっかりと服を握っていて離れようとしない。

「困ったな…」

この様子だと力ずくで引き剥がすのも可哀想だ。
クラウディオは苦笑しながらアルカディアの隣に横になる。

「お休み」

そう言って頭を撫でると、アルカディアは僅かに表情を和らげた気がした。