はじまり


雪国グレイヴェーラには有名な貴族があった。
その名も『アイグレイズ家』。
広大な土地を所有し、商才に長けた名家である。そしてその屋敷は雪国の中にありながら、暖かな日差しと緑に囲まれた美しい庭園を持つことで有名だ。
現当主のクラウディオ・アイグレイズはその歴史の中でも類を見ないほど有能な人物であると評判で、彼の代になってからというもの、アイグレイズ家の領地経営は右肩上がりだと噂されている。
そんな彼は外見も素晴らしく整っており、女性だけでなく男性からも好かれるような美丈夫であった。
しかし彼は誰にも心を開かず、家族や使用人たちにすら一線を引いて接していた。まるで他人と接するように、無関心な態度なのだ。
それは彼が生来持っている冷徹さ故か、あるいは他に理由があるのか。それを知る者は誰一人として居なかった。



そんなある日のこと。
クラウディオはグレイヴェーラで最も危険な場所と言われる深い森、ストレンヴルムにやって来ていた。ここは魔獣が多く生息する場所で、一歩間違えれば命を落としかねない場所である。
そんな危険地帯に、彼は護衛も連れずたった一人でやって来たのだ。

その理由はただ一つ。
​​──彼が誰よりも強いから。
それだけだ。

そしてそんな彼の目的は、この地にしか生息しないと言われる植物だ。
その植物を採取、解析することが出来れば大きなビジネスに繋がる。そう考えた彼はこの森へと足を踏み入れたのだった。
しかしやはりそう簡単には見つからない。森の中に入って数時間が経過しても成果は無かった。
クラウディオはため息をひとつ吐いて、煙草を取り出し火を付ける。深く吸い込んで紫煙を吐き出した。
その時。

こつん、と足元に木の実が落ちてきたのだ。
見上げてみるが、頭上の木には木の実など見当たらない。
がさりと葉が揺れる。どうやら何か居るらしい。
動物か、魔獣か。どちらにせよ、クラウディオにとっては敵ではない。
そう判断して煙草を揉み消し、懐から銃を取り出すと木に向かって撃ち抜いた。
大きな音に驚いたらしい、がさがさと音がしたと同時になんと人間らしき何かが落ちてきた。
クラウディオの目が細められる。

赤い髪、頭から生えた獣の耳、下半身から伸びる尻尾。そしてルビーのような真っ赤な瞳。
その姿は世にも珍しいディスクーシャの魔人族だった。

「……魔人族か」

ぼそりと呟いた言葉に反応するように、赤毛の魔人族はばたばたと慌てて逃げ出そうとする。しかしクラウディオは逃がすまいとその尻尾を鷲掴んだ。
ぐんっと尻尾を引き寄せられたことでバランスを崩し尻もちをついた魔人族は、涙目になりながらクラウディオを振り返った。

「………」

クラウディオは目を丸くした。
泥や血で汚れてはいるが、目を見張るほど美しい顔立ちをしていたからだ。
しかしその瞳からは怯えの色が見える。

「…お前​​──」

クラウディオが口を開いたと同時に、ぐぅ、と腹が鳴る音が聞こえた。
今この場には自分と彼しかいないので、鳴っているのは目の前にいる少年のものだろう。
そしてふと、彼がその手に先程の木の実をいくつか抱えていることに気がついた。
クラウディオは彼の前にしゃがみ込むと、地面に落ちた木の実を摘んで差し出す。
彼はびく、と身体を震わせ後退りしようとするも、クラウディオに尻尾を強く握られて動けないようだ。
やがて彼はおずおずとクラウディオの手に顔を寄せた。
クラウディオは再び目を丸くする。
てっきり、その手で受け取るものだとばかり思っていた。まさかクラウディオの手から食べるなんて夢にも思わなかったのだ。

しゃく、とその小さい口で木の実を食べる様子はまるで小動物のようだ。果汁が手を伝い袖が汚れるが、気にならなかった。一生懸命食べている姿から何故だか目が離せなかったのだ。
ようやく食べ終えた彼は、果汁で濡れたクラウディオの指をぺろぺろと舐め始める。
​​──心臓に矢が刺さったような気がした。
今まで感じたことの無い感情が湧き上がってくる。それはまるで胸の奥底にある氷のような塊が溶けていく感覚。
まさか自分は今彼のことを「可愛い」と思ったのか?そんな馬鹿な。有り得ない。こんな汚い子供に何を考えているのか。
だが一度自覚してしまうともう駄目だった。
​​──持って帰って飼ってしまおうか。
それがクラウディオ・アイグレイズの心からの本音であった。



ぐいっと彼の首根っこを掴み肩に担ぐと、そのまま来た道を戻ることにした。
ぱたぱたと暴れ始めたが無視をする。
森の入口に止めていた車に放り込むと、目を白黒させていたが慌てて逃げ出そうとしたのでその前にドアを閉めてやった。
運転席に乗り込み車を発進させる。
道中は意外と静かだった。バックミラー越しに後部座席を確認すると、窓に張り付いて流れる景色を眺めているようだ。
初めてで少し楽しいのか、尻尾もゆらゆらと揺れている。
それすらも、可愛いと思ってしまった。

屋敷に到着し、彼を担ぎあげると門番をしている使用人にぎょっとした顔をされた。それもそうだ。自分の主人である当主様が見知らぬ子供を担ぎながら帰ってきたのだから。

「く、クラウディオ様…おかえりなさいませ…そ、その方は……?」

「拾ってきた」

「えっ」

「二人分の着替えを頼む。この猫のは適当なサイズでいい。それと、これの解析を」

そう言ってクラウディオは先程の木の実を使用人に手渡した。

「それが終わったら軽い食事を。片方の皿にはその木の実をつけておいてくれ」

「か、かしこまりました…」

戸惑いながらも了承する使用人を横目に、クラウディオは浴室へ向かった。
ぱたんとドアが閉められると、呆然としていた使用人たちが慌てて動き出す。
誰しもあの子供のことが気になるが、今は主人の命令が優先なのだ。



浴室に入るとクラウディオはようやく彼を下ろした。きょろきょろと脱衣所を見回す魔人族の少年を見下ろし、そういえば、と口を開く。

「ディスクーシャなら私の言葉はわかるか」

「…ちょっと、だけ」

初めて聞いた彼の声は鈴の音のように澄んでいた。
クラウディオはその返事を聞くと満足そうに笑みを浮かべる。

「ならば話が早い。まずは風呂だ。それから食事」

「……」

きょとんとクラウディオを見上げてくる少年に、わかりやすく言い直す。

「水浴びだ。泥だらけのまま歩かれると適わん」

ディスクーシャは水浴びが好きな魔獣だ。だからきっと彼も好きだろう、そう思って口にした。予想通り、少年はぱっと表情を明るくしてこくりと大きく首を縦に振った。
着ていたぼろぼろの布切れを脱ぎ、浴室に入っていく彼を見届けてから、クラウディオも彼を担いだことで汚れてしまったジャケットを脱衣籠にいれて浴室へ入る。
服はあとで着替えるとして、先にこの子の頭を洗ってやろう。
椅子に座らせ、シャワーで温かい湯をかけてやるとびくんっと体を跳ねさせ、びゃっと壁際に飛んで行った。

「…なんだ」

彼は壁に張り付いてこちらを信じられないと言うような目で見ている。クラウディオはつい眉間に皺を寄せた。

「なにかおかしいか」

すると彼はふるりと震えながら小さな声で答えた。

「……み、みず、ちがう」

彼の言葉にクラウディオはああ、と納得した。恐らく湯に触れたことがないのだろう。

「これはお湯というものだ。要するに熱い水だ。害はない」

「……」

「ほら、来い」

恐る恐る近寄ってくる彼に先程よりだいぶぬるめにしたシャワーをかけてやる。
目を瞑りじっとしている様子はやはり小動物を連想させた。
髪に付いた泥を流し終え、シャンプーを手に取り泡立てていく。長い髪は絡まってしまっていて、指通りが悪い。慎重に髪を洗いながら、時折頭皮をマッサージするように揉んでやると、気持ち良いのか尻尾がゆらゆらと揺れていた。
やがて全ての汚れを落とし、最後にトリートメントをたっぷりと塗り込んでから、お湯で流していく。
綺麗になった髪を見て、思わず感嘆の声が漏れそうになった。
艶のある赤い髪は背中まで伸びていて、まるで絹糸のようだ。

「体は自分で洗え」

泡立てたスポンジを渡してやると、不思議そうな顔で泡で遊び始める。その隙にクラウディオは浴槽に湯をためることにした。今度はシャワーよりも少し高めの温度にしてみる。
彼を振り返ると一応体を動かしながら全身をごしごしと擦っているようだ。
頃合を見計らって体の泡を洗い流してやり、彼の両脇に手を差し込むとひょいと持ち上げてゆっくり浴槽に浸からせていく。
しかしつま先が湯に触れた瞬間、あわあわと慌てだし目の前のクラウディオにしがみついた。

「大丈夫だ、怖くない」

そう言って落ち着かせようと背中を撫でてやったが、彼の手は一向に離れなかった。

「ただのお湯だ」

だがそれでも離そうとしない。
クラウディオは困ったように息をつくと、浴槽に浸からせるのを諦めることにした。
抱き上げたまま浴室を出ると、指示通り脱衣所に着替えが用意されている。バスタオルを彼の頭に被せてわしわしと拭いてやった。

「こっちがお前の服だ」

大きめのワイシャツを手渡してやると、素直に袖を通していく。
その間にクラウディオも濡れてしまった服を脱いで新しいものに着替えた。

「…それで終わりか?」

振り返ると彼はシャツしか身につけていなかった。どうやら尻尾があるせいか普通のものでは窮屈らしい。
これはオーダーメイドで作らせる必要があるかもしれない。

「仕方ないか…おいで」

靴の代わりにスリッパを履かせてやり、クラウディオは自分の部屋へ向かった。
そろそろ食事が運ばれてくるだろう。
ソファーに腰掛け、彼に手招きをする。彼は少し警戒しながらもちょこちょこと歩いてきた。

「ここに座れ」

クラウディオは自身の隣をぽんと叩くと、彼は大人しくそこに座る。

「名前はあるのか?」

「…ある、かでぃあ」

「アルカディア?」

「ん…。弟は、あるかんしあっていう」

「弟がいるのか。何故一緒に居ない?」

「おれだけ、はぐれた」

なんとなく予想はしていたがやはり群れからはぐれた個体だったらしい。ディスクーシャの幼体はとくに好奇心旺盛ですぐにいろんなところへ行ってしまうという。おそらくこの子もそうやって一人森の奥深くへ入ってしまったのだろう。
そして​​──。

「人間を喰って変異…か」

恐らくアルカディアは人間、若しくは精霊を喰ったことで多種の魔力が混ざり合い人型に変異してしまった魔人族だろう。
成熟した魔人族は耳や尻尾を隠すことができると言うが、この子にはまだ早そうだ。

「…私はクラウディオだ」

「…くら、でぃお?」

「クラウディオ」

「くらでぃお」

「……クラ​​──」

「くーらーでぃーお」

何故だか楽しそうに呼んでくるので、もうそれでいいことにする。
クラウディオは諦めのため息を吐いた。
しばらくして、扉がノックされ使用人が食事を持って入ってくる。
トレーの上にはパンとサラダ、そしてスープが乗せられていた。
アルカディアの皿には先程の木の実も添えられている。

「今は好きに食べろ。いずれマナーを教えてやる」

そう言うとアルカディアは早速パンにかぶりついた。一口齧ると驚いたような顔をする。

「……おいしい」

その一言に、クラウディオは満足げに笑みを浮かべた。

「当然だ。私が選んだシェフだからな」

アルカディアはパンを片手に、今度はサラダを鷲掴んだ。ぴくりとクラウディオの眉が動く。フォークを使えと言いたいが、使い方がわからないのだろう。好きに食べろとは言ったが我慢できない。
仕方なくクラウディオはアルカディアの皿を奪って、フォークで食べさせてやることにした。

「口開けろ」

「くち?……ぁむ」

言われた通りに開けた口に、サラダを入れてやるともぐもぐと咀噛し始めた。

「美味いか」

「ん!」

もっと、とでも言いたげに口をぱかりと開ける。
まるで雛鳥に餌付けをしている気分だ。

「熱いぞ」

スープを掬ってふぅ、と息を吹きかけて冷ましてからアルカディアの口に入れてやる。

「んぅ」

熱かったのかぎゅっと目を瞑り、それからゆっくりと飲み込んでいく。

「……あったかい」

嬉しそうな声色にクラウディオは表情を和らげる。
そうしてゆっくりと時間をかけて食事を済ませた。
デザートまでぺろりと平らげたあと、食後の紅茶を飲みながら、クラウディオは尋ねる。

「お前はこれから私のものだ」

「……わたしのもの」

「そうだ。だが今はお前の意思も尊重しよう。嫌なら断ればいい」

アルカディアはぱちぱちと瞬きを繰り返す。
しばらく考えてから、ふるふると首を振った。
その様子にクラウディオは目を細める。

──ああ、きっと。
あの時、森で出会わなければ。
私が、見つけていなければ。
こんなにも、何かを愛しいと感じることもなかっただろうに。

「くらでぃお、いっしょ」

「……そうか」

「うん」

にこ、と微笑まれて、胸の奥が温かくなる。
クラウディオは自然と頬が緩んでいることに気がついていなかった。
アルカディアは、自分のものになった。
無意識にその小さな頭に手を伸ばしていた。
シャンプーをしてふわふわになった真っ赤な髪が指の間から零れ落ちる。
頭を撫でられるのが気持ち良いのか、アルカディアはうっとりとした顔で擦り寄ってきた。

「…………」

──この感情は、なんだ。
胸に渦巻くこの想いは。
庇護欲だろうか。
愛玩動物を可愛がるような。
この子を手放したくないと思うのはどうしてなのか。
わからない。
ただ、この子が側にいるだけで満たされている自分がいることだけは確かだった。



アルカディアが来てから一週間が経った。
ゆらんゆらんと揺れる尻尾を眺めながら、クラウディオはぼんやりと考える。
──今日は何をしようか。
アルカディアはまだ言葉が拙いため意思疎通が難しい。
とはいえ特に不便はしていない。むしろ可愛いくらいだ。
今も膝の上ですやすや眠っている。
赤い髪を撫でると、ぴくりと耳が動いた。
そのまま耳の付け根辺りの毛並みに沿って優しく掻いてやると、ごろごろと喉が鳴る音が聞こえてきた。
アルカディアはどうもここを触られるのが好きらしい。
そろそろ起きてしまうだろうと思いながらも、クラウディオは手を離せなかった。

まだ一週間しか経っていないが、アルカディアはすっかりクラウディオに懐いていた。
それはもうべったりと。離れようとしないのだ。
しかし使用人達には怯えたように部屋の隅に隠れたり、クラウディオの陰に隠れたりとあまり近づこうとしなかった。
使用人達もなんとかアルカディアと打ち解けようと話しかけたりするのだが、やはり怯えられてしまうらしい。
クラウディオが一緒に居れば安心するらしく、ずっと側を離れない。

「……んゅ」

やがてもぞもぞと動き出したアルカディアが、むくっと身体を起こした。

「おはよう」

「おあよ…」

「朝ごはん食べようか」

「ん…。くらでぃお、だっこして」

「はいはい」

これもいつものやりとりだ。
甘えたなこの子は抱っこされないとなかなか動かない。
ひょいと抱き上げて食堂へ向かう。
アルカディアはぎゅーっと首に腕を回してきた。
この子なりに必死にしがみついているのだと思うと微笑ましい。

「おはようございます、旦那様」

「おはよう」

「おはようございます、アルカディア様」

使用人がにこやかにアルカディアに挨拶をする。しかしアルカディアはこそりとクラウディオの肩口に顔を埋めてしまう。

「……お、はよ」

「あら!今日はお返事してくれましたね。嬉しいです。ありがとうございますアルカディア様」

「偉いな、アルカディア」

「…えらい?」

「ああ、ちゃんとご挨拶できたな」

「……うん」

褒められて嬉しかったのか、アルカディアは耳をぴるぴると動かした。
使用人はくすくすと笑いながら、朝食を運んでくる。
今日のメニューは、パンにサラダ、ベーコンエッグにフルーツだ。
あれ以来パンが好きになったらしいアルカディアは目を輝かせてパンを手に取った。
フォークの使い方も教えたので、サラダも自分で食べることはできる。
ただし、食べこぼしが多い。
今も服を汚さないようにするのに苦労しているようだ。

「ほら、こっち向け」

「んむ」

パンくずのついた口元を拭ってやる。
もぐもぐと咀噛するアルカディアを見て、クラウディオは小さく笑みを浮かべた。
──幸せ、とはこういうことなのかもしれない。
そんなことを思いながら、アルカディアが食べ終わるまでを眺めていた。



「くらでぃお、あそぼ」

「何がしたい?」

「にわ、いきたい」

「庭か」

「ん!」

にぱっと笑って、早く行こうという風に袖を引っ張ってくる。
クラウディオは苦笑して、椅子から立ち上がった。

「わかったから引っ張るな」

「いく、はやく」

アルカディアは嬉しそうに飛び跳ねながら、庭園へ向かう。
今日はいい天気だからか、アルカディアは庭を散歩したかったらしい。
ぎゅう、とクラウディオの手を握りしめてくる小さな手に、自然と頬が緩んだ。

「くらでぃお、みて」

アルカディアが指さす先に、塀の上で微睡む野良猫がいた。

「ねこ!」

「ああ、そうだな」

クラウディオが肯定すると、アルカディアはぱあっと顔を明るくさせて、猫に向かって走り出す。
その拍子に手が離れて、一瞬、胸の奥がつきりとしたが気づかなかったフリをした。
塀の上の野良猫に駆け寄るが、身長が足りないせいで届かない。
ぴょんぴょんとジャンプするが、やはり届いていない。
その様子に、クラウディオは思わず笑ってしまった。
しばらく眺めていると、アルカディアはぴたりと動きを止めて、こちらに戻ってくる。

「さわれなかった」

「そうだな。またいつか機会があれば触らせて貰おう」

「ん……」

しょんぼりとするアルカディアの頭を撫でる。
ふわふわの髪が心地良い。
──触れたい。
ふと、そう思った。
どうしてかはわからない。
ただ、無性に触れたくなった。
そっとその頬に手を伸ばす。

「っ!?」

驚いたようにアルカディアがびくりと震える。
しかし逃げようとはしなかった。
──もっと、知りたい。
お前のことを。
どんな声で鳴くのか。
何を思って笑うのか。
どうしてこんなにも、興味が尽きないのだろうか。

「……」

「くすぐったい」

くすくすと楽しげに笑い声をあげるアルカディアの髪を撫でる。
さらりと赤い髪が揺れる。
赤毛のポニーテール。
この髪型がお気に入りらしい。

「くらでぃお」

「なんだ」

「うしろ、むいて、しゃがんで」

「こうか?」

言われるがままに後ろを向いて、膝をつく。
アルカディアはクラウディオの両肩に手を付き、背中にぴょんと飛び乗った。

「おんぶ」

「はいはい」

そのまま立ち上がると、アルカディアは満足げに鼻を鳴らした。
クラウディオの背中にへばりついて、嬉しそうに尻尾を揺らす。

​​──このひとがすき。
ずっと一緒に居たいと、思うくらいには。

アルカディアはぎゅっと抱きつく力を強めた。
そのまま、屋敷の中に戻るまでずっと離れることはなかった。