love is blind
「ぁっ、ぅ……んっ、」
空気を含んだ水音が響く部屋の中、それに混じって掠れた男の声がする。
そこはアルカディアの船の個室であった。比較的風通しの良い部屋ではあったが、室内にはかなりの熱が篭っていた。その証拠に、声の主──アルカディアの全身からは玉のような汗が零れている。
「ん、っふ……ぁっ…」
暑さゆえか、だらしなく開いた唇からはとめどなく嬌声が漏れる。
その声は低く掠れどこまでも男の声であったが、しかし何よりも甘く、イグナシオの性欲を駆り立てるには十分過ぎる声音だった。
事実、アルカディアの肉襞に包まれたイグナシオの怒張は先程よりも質量を増してどくどくと脈を打っていた。
急に拡張された胎内に驚いたらしいアルカディアは、目を丸くする。
「ぁ?!──っ…ぁ、うっ」
薄らと盛り上がる下腹部に混乱する様の、なんと愛らしい。イグナシオは口端を吊り上げると、アルカディアの手に自らの掌を重ねて、ぐ、と腹部を押し込んでやった。
「俺のものでココを突かれるのは好きだろう」
「っ…あ、……──っ!」
もっと気持ち良くさせたくて、柔らかな襞を堪能するようにゆっくりと最奥へと捩じ込む。そうすれば、律動に合わせて響く嬌声はイグナシオの鼓膜を震わせた。
まるで楽器のようだとぼんやり考えながら引き抜くと、上反りの陰茎がイイところに当たったのだろう。一層甘さと熱を孕んだ声が響く。
「う、ぁ!…っや!んっ…っぁ、待っ…」
弱点を責められた為か、反射的に襞はきゅうきゅうとイグナシオの性器を締め付けた。待てと口では喚くのに、体では快楽を貪欲に欲している。
その証拠に、無意識だろうが引き締まった両脚はイグナシオの腰にしっかりと絡みついていた。
アルカディアは口数の少ない男であるから、彼が口にせずともなるべく意志を汲み取り、優しく愛してやろうと考えていた自分が馬鹿らしくなって、イグナシオは擦り寄ってくるアルカディアの腰を殊更に強く掴んで引き寄せる。
ぐぽ、ぐぽ、と下品な音を立てながら揺さぶってやれば、虚ろだった瞳から涙が落ちる。
「ひ、っ──…っあ、う、…んぅ」
嬌声を交えながらだめ、いやだと首を振るくせに、奥を突き上げるたびに性器を離すまいと蠕動する内側の、なんて心地良い。
ここまで体に求められて、甘やかな声を浴びせられて、我慢できる男はいまい。
イグナシオは自分の下腹部がぐつぐつと煮え立つような錯覚に陥りながら、腰をグラインドさせ奥深くを何度も突き上げた。
途中、引き抜く際にわざと前立腺の柔らかな凝りを押し潰してやると、軽く達したのか腰に絡む内腿が幾度も痙攣し、連動するように胎はきつくうねる。
一度ナカで達してしまえば、もう戻れない。
貫かれる快感に全身を戦慄かせながら、アルカディアは首を何度も横に振り、イグナシオから逃れるようにシーツを蹴って腰を浮かせた。
だがそのたびにイグナシオが抱き寄せて奥深くを抉られるものだから、絶頂が止まらない。
「ぁ、っ!あぅ…、ぐ…っぁ!」
「……はは、随分と気持ち良さそうにイってるな?」
「──っあ、ぁっ!とま、れ…!…や、っ!」
「ふ、っ…ぁ、悪いが、そいつは叶えてやれそうにない。俺がイくまで我慢してくれるか」
何度も達し、快楽から降りてくることができないのが辛いのだろう。アルカディアは涙でぐちゃぐちゃになった顔で訴える。その普段の姿から想像も出来ない声が、所作が、イグナシオという男の嗜虐心を煽ることをアルカディアは知らない。
──かわいい、いとしい、孕ませたい。
芽生えてしまった感情はむくむくと首を擡げ、僅かに残っていた理性すら飲み込んでしまう。今はただ、このいとしい男の一番奥を子種で汚したくて堪らない。
昂る感情に任せて荒くなった呼吸を繰り返しながら、イグナシオはふとアルカディアの顔を見た。力を失い、涙で視界がぼやけているはずの彼の目は、それでもイグナシオを捉えて離そうとはしなかった。イグナシオの視線に応えるように、アルカディアの腕がぐい、と雑に彼の首に絡む。
ああ、もう耐えられない。
跳ねる脚の付け根を押さえ込みながら、イグナシオはピストンを深くする。快楽に震える腸壁を刮いで突き上げるたびに、熱と気持ち良さで脳みそがどろどろと蕩けて何も考えられなくなる。今はただ、本能に従い肥大した亀頭でアルカディアの結腸を幾度も穿つだけだ。
「──っふ、ぁっ、ル、カ…っ!」
「ひ、ぐっ!…ぃっ!…う、ぁっ!〜〜っ!──っ!!」
胎の行き止まりまでしっかりと性器を嵌め込んだまま、イグナシオは先端からどくどくと子種を吐き出す。大量の精液が最奥を満たせば、イグナシオはそれを襞のひとつひとつに擦り付けるように緩慢に腰を揺すりながらペニスを胎内から引き抜いた。瞬間、どろりとアナルから残滓が零れ落ちる。その光景の淫猥さに思わず口内に溢れる唾を嚥下すれば、その音に気付いたのかこれ以上の行為を拒むようにアルカディアの腕がイグナシオの胸を押した。
「……っ……ぁっ、もう…いい」
「ああ。分かってる、流石にこれ以上はしない」
精液を流し込まれた際の快感が引かないのだろう、自身の精液で濡れる下腹部や力の入らぬ指先をひくひくと痙攣させるアルカディアを、イグナシオはそっと抱き寄せる。そうすれば、甘えるかのように首筋に額を埋めてくるものだから、目の前がくらりと揺れた。
──まったく、この男はどこまで自分を翻弄すれば気が済むんだ。
アルカディアに抱く愛おしさに振り回されてばかりのようで悔しくなって、イグナシオはわざと加虐的に笑う。
「ルカ、お前本当はかなりお喋りだったりしないか?」
「……?」
「ああ、いや。ベッドの上では、嫌だとか待てとか、随分と多弁だと思ってな」
「………」
笑って揶揄えば、不機嫌そうに歪んだ顔がこちらを睨む。
彼の反応にまたくすりと笑えば飛んできた脚に蹴飛ばされイグナシオはベッドから転がり落ちた。