1 day


「…アルカディア!」

「ん、くらでぃお〜」

アルカディアは呑気に手を振った。その頬は泥やらなんやらで汚れている。
座り込んでいる彼の足元には小さな魔獣がアルカディアの手に頭を擦り付けていた。
クラウディオはため息を一つ吐いてアルカディアの元に駆け寄る。すると魔獣は驚いたのか、ぴょんと跳ねて何処かへ行ってしまった。
クラウディオはそれを横目に見ながらしゃがみ込む。
そして、汚れたアルカディアの顔を見てまたため息をついた。
いつもの綺麗な顔は土埃で薄汚れていて、長い髪の毛もぐちゃぐちゃだ。

「また持ち歩くの忘れたな」

ぽん、とアルカディアの頭を端末で優しく叩く。朝からアルカディアはストレンヴルムに行くと言っていたからここまで迎えに来れたものの、端末も持ち歩かずにいつまでも帰ってこないとなると心配するだろう。
アルカディアは端末を受け取ってその真っ暗な画面を見つめている。

「もう首にかけるか?」

「ん〜」

曖昧な返事をしながら立ち上がり、服についた砂を払うアルカディアの頬を、ハンカチで拭ってやる。
されるがままになっているアルカディアは嬉しそうだった。

「…ん?」

「ぅ?」

がさりと草むらから、何かが出てくる音がした。
そちらを見ると、ドーム状の半透明の頭に触手のような足が生えた魔獣が現れた。
二人は目を瞬かせる。
見たことがないのだ。この辺りでは見かけないし、そもそもこんな魔獣は初めて見る。
クラウディオは咄嗟にアルカディアの腕を引き背中の後ろに隠すように庇う。
それと同時に、魔獣の頭が光りクラウディオに向かって煙を放った。

「くらでぃおっ!?」

目の前が真っ白に染まる。クラウディオは咳き込みながら煙を払う。徐々に煙が晴れて視界がはっきりしてくる。

「くらでぃお、だいじょう​​──」

「はぁ…なんなんだ…」

アルカディアは思わず声を失った。
目の前にいる人物、それは紛れもなくクラウディオなのだが、その見た目は先程までとは異なっていたからだ。

「………」

何も言えずにクラウディオの姿を見つめる。
そんなアルカディアの様子に気がついたクラウディオもまた、目を瞬かせた。

「……アルカディア?」

目線が低い。アルカディアが自分より大きい?
それに​​──。
ふと見下ろせば胸が邪魔で地面が見えない。
何故?
しかもスーツもぶかぶかだ。

「………なんだこれは」

慌てて自分の手を見る。小さい。腕も細い。それに、声の高さが違う気がする。

「く、く、くらでぃお…」

混乱している様子のアルカディアをよそに、クラウディオは自分の姿を確認する。
十中八九、あの煙を浴びたせいだろう。
女性の体になってしまった、ということだろうか。

「あわ、大丈夫…?あ、いや、大丈夫じゃないよね…えっと、その、どうしよう…」

アルカディアはあたふたしながらなんとか言葉を紡ごうとしているようだが、うまく言葉にならないらしい。

「…とりあえず家に帰ろうか」

落ち着かせるためにぽんぽんと背中を叩いて促してやる。ひとまず家に帰って考えよう。



帰宅後、リビングに向かおうとするクラウディオの手をアルカディアがおずおずと掴んだ。

「……ごめん、おれが、端末わすれたから…」

車の中でも無言だったし、すっかりしょぼくれてしまったらしい。クラウディオは小さく息をついて、腕をのばしアルカディアの頭を撫でてやる。

「…お前の方が大きいのは新鮮だな」

アルカディアはぱちぱちと目を瞬かせて眉を下げたままクラウディオの袖を引っ張った。

「気にするな。なんとかなる」

そう言って微笑んでやると、ようやく安心したのか笑顔を見せる。
クラウディオもまた小さく笑って、アルカディアの手を引いてリビングに向かう。

「ああ、そうだ。しばらくお前の服貸してくれ。私の服は大きすぎる」

「ん、わかった」

「先風呂に入れ。汚れてるだろ」

アルカディアはこくんと頷いてぱたぱたと浴室へ向かう。
その姿を見送ったあと、クラウディオはソファーに座って端末を操作し始める。
まずは先程の魔獣について調べないと。

「………」

しかし、いくら調べても中々出てこない。珍しい種類の魔獣なのか、それとも新種か。
クラウディオの眉間に皺が寄る。
もし新種なら、かなり厄介な相手になるかもしれない。
もし戻れなくなっても、元々人間の皮を被っているようなものだ。魔法を使って力ずくで戻せるだろうが…。

「…やれやれ」

面倒なことになってしまった。
この姿でさすがに仕事に行くことはできない。
幸いなことに明日は休みだが、明日中に戻らなければセオドアに連絡しなければ。

「くらでぃお〜!おふろあがった!」

「ああ、おかえり」

「服、脱衣所置いといたよ」

「ありがとう。私も風呂に入ってくる」

とりあえず今は風呂に入ろう。
アルカディアにそう告げてクラウディオも浴室に向かった。



かちゃん、とドアが開く音。

「くらでぃお!ご飯できたよ!」

クラウディオが風呂に入っている間、アルカディアは簡単な料理を作っていた。
といっても、卵焼きとかスープとか、パンを焼いたりだとかそんな程度だが。
言いながら笑顔で振り返ったアルカディアは、次の瞬間凍りついた。
​​──そこに居るのはクラウディオだ。
姿は違えど、アルカディアの大好きなクラウディオ。

「ん、あぁ、ありがとう」

にこりと笑うその顔は、いつもとほとんど変わらない。
それなのに。
なんだろう。
アルカディアはクラウディオしか知らない。アルカディアの人生で、女性に触れたことなんてほとんどない。
だから女性がどんなものか、よくわからない。
でも、なんだろう。

「……ん?」

首を傾げるクラウディオの仕草はいつもと同じはず。
それなのに、何故か胸が高鳴ってしまう。
風呂上がりの少し上気した頬。
まだ少し濡れた髪。
男物のTシャツから覗く鎖骨。
その全てがアルカディアの心をざわつかせた。

「アルカディア?」

「ぁ、う、うんっ」

アルカディアはぶんぶんと頭を振って、慌ててテーブルに皿を並べる。

「ありがとう、食べようか」

「ぅ、ん」

魔力が波打ってる。なんだこれ。
食事を終えて、二人並んで食器を洗う。
その間もずっと動揺していた。
なんだこの気持ちは。
いつも通りだ。
いつも通りのはずだ。
それなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。

「アルカディア?」

「ぅわ!?」

すぐそばで聞こえた声にびくりと肩が跳ねる。

「どうかしたか?」

「う、ううん、なんでも、ない」

そう答えたものの、魔力はどくどくと脈打っているし、頭は混乱している。
おかしい。こんなのはおかしい。

「……大丈夫か?もうベッド行く?」

「あ、えっと、その…」

「ん?」

優しく覗き込んでくるその瞳。綺麗な琥珀色。
じっと見つめていると吸い込まれそうになる。
胸の奥がきゅっとなる。
どうしよう。
頭がおかしくなりそうだ。
胸が苦しい。
これはなんなんだ。
いつもの、クラウディオなのに。

「……あのね、くらでぃお」

「なんだ?」

「……ぎゅー、していい?」

気がついたら口に出ていた。
何を言っているのか自分でもよくわからなかったけど、気づいた時には言葉が出てしまっていたのだ。

「…ああ、いいよ」

そう言って腕を広げてくれたので、そのまま勢いに任せて抱き締める。
柔らかい。いつもより、甘い匂いがする気がする。

「…どうした?甘えん坊だな」

優しい声で言われ、髪を撫でられると胸が苦しくなる。
好き。大好き。愛してる。
心の中で何度も繰り返す。

「くらでぃお…おれ、へんかも…」

「…変?」

「くらでぃおが、おんなのひと、になって…なんか、どきどきする……」

「……」

抱き締めた腕に力を込める。
随分細くなってしまったクラウディオの体。それでも、やっぱり安心感がある。
大好きな人。

「ど、しよ…おれ、変になるぅ…」

自分でも混乱していた。
まるで初恋をした少女のように、自分の感情が制御できない。
この感覚は初めてだった。
どきどきする。もっと触れたい。

「…お前も、しっかり男だな」

「…んぇ?」

「いや、何でもないよ」

くすくすと笑いながら頭を撫でられる。
クラウディオは少し、驚いていた。
アルカディアの雄の部分を、初めて目の当たりにしたからだ。
今まで本来のクラウディオの体…硬い男の体しか知らなかったものだから、女体に戸惑っているのだろう。

「可愛いなぁ、お前は」

「んん〜…なに…」

わしゃわしゃと髪を掻き回してみると、アルカディアはむず痒そうな顔をしながらもされるがままになっている。

「ふふ、お前ほんとに猫みたいだな」

「ねこじゃないよぉ」

「はいはい」

「にゃあ」

猫じゃないと言いながらもふざけて鳴いてみせるアルカディアを、思わずまじまじと眺める。
もしかしてこれが母性本能というやつか。
いつもと違う可愛さを感じる。とにかく可愛い。

「…よしよし」

だからだろうか。つい手が伸びてしまう。
小さな子供にするように頭を撫でると、アルカディアは嬉しそうに目を細めた。
あぁ〜、可愛い。母猫の気分だ。
可愛くてしばらくわしゃわしゃと撫でていれば、不意に腕を掴まれる。

「くらでぃお、ごめ」

「…ん?」

そのまま腕を引かれ、ほぼ引きずるように寝室に連れて行かれた。
まさかアルカディアに引きずられることになるとは、なんて呑気なことを思っていたら、思い切りベッドに押し倒される。
ぼふん、とマットレスが音を立てた。

「……アルカディア?」

見上げた先にある表情を見て、クラウディオは息を飲んだ。
獲物を狙う獣のような目。
それは紛れもなく、一人の男の顔をしていた。
これは、もしかしたら、まずいかもしれない。
さすがのクラウディオも自身でも気づかないうちに、酷く疲弊していたのだ。己の体の変化に。それにどうも魔力が乱れて、思考速度も鈍っていた。
そして何よりも、目の前にいる男が愛おしすぎて、正常な判断ができなくなっていたのだろう。
だから油断した。
いつの間にか組み敷かれていたことにも気づけなかった。
普段ならこんな失態は犯さないのに。
慌てて身を起こそうとしたが、しっかり両手首を押さえつけられていて動けない。今のこの体ではパワーが違いすぎる。クラウディオの並外れた力で霞んでしまっているが、本来アルカディアもかなりの怪力なのだ。

「くらでぃお」

「っ、」

熱っぽい声にぞくりとする。
これは本当に、まずい。

「アルカディア、ちょっと待て」

「ん、待つ」

少し真剣な声音で言えば、アルカディアはいつも通りきちんと言うことを聞いた。

「待つよ。なぁに、くらでぃお」

嬉しそうに、にこにこ笑っているアルカディア。その姿をじっと見つめる。

「……お前、今自分がどんな顔してるかわかるか?」

「んー?」

きょとんとした様子で首を傾げるアルカディア。
興奮で顔を赤くさせて、その真っ赤な瞳をぎらぎらさせている。
それなのに口元は緩みっぱなしだ。

「えへ、わかんない」

「……少し、落ち着け」

「おちついてる」

「落ち着いてない。とりあえず、手を離​​──」

「やだ」

「……っ!」

突然ぐっと近付いてきたかと思えば、そのまま唇を奪われる。
キスされた、と気づいた時にはもう舌が侵入していて、ぬるりと歯列をなぞられた。
びくりと体が跳ねたが、両手が塞がれている状態で抵抗できるはずもない。
必死に耐えているうちに、口内が荒々しく蹂躙されていく。
上顎を舐められ、舌を吸われ、唾液を流し込まれる。
手が動かせないなら足しかない。少し申し訳ないが、思い切り蹴り上げようとした。しかしあっさり足を絡められ、そのまま押さえつけられる。
まったく力で適わない。なんだこの差は。

「っ、んぅ…!んん、ふ、ぁ……っ」

呼吸ができない。苦しい。
酸素を求めて口を開けば、アルカディアはさらに深く口付けてくる。
逃げ場がない。

「は、ぁ…くらでぃお、くらでぃお…」

「んん…ッ、は…んむ……」

名前を呼ばれても返事はできない。それどころか、どんどん力が抜けていく。
このままじゃ、溺れてしまう。
意識が飛びそうになった瞬間、ようやくアルカディアが離れた。

「…は、は…はぁ……」

「くらでぃお、かわいい…」

「っ、」

耳元で囁かれただけで背筋が震えた。
おかしい。何故こんなに敏感になっているのか。女の体はこんなに感じやすかったのか。
そんなことを考えながら、ぼんやりとアルカディアを見上げる。

「…くらでぃお、いい匂いする……」

首元に顔を埋められ、すん、と嗅がれる。
ぞわりと全身に鳥肌が立った。

「…やめろ、少し離せ」

「やだ」

「……手首が痛い」

そう言えばぴくっとアルカディアの肩が揺れた。そしてがばりと体を起こし、拘束していた腕を解放する。

「ごめんねくらでぃお、手いたい?だいじょうぶ?」

あわあわおろおろと慌てるアルカディアを見て、思わずため息が出た。
さっきまでの態度はどこに行ったんだ。まるで飼い主に叱られてしょんぼりする犬みたいだ。

「大丈夫だよ」

そう返してわしゃわしゃ頭を撫でてやれば、嬉しそうな笑顔が戻ってくる。
やっぱり可愛いな、なんて思いつつ体を起こす。

「(……妙な汗かいた…)」

Tシャツの襟元を掴んでパタパタと風を送る。
アルカディアの“雄”の部分を真正面からぶつけられて、さすがのクラウディオも正直驚いたし戸惑った。

「(まさか私がなぁ…)」

こんなに緊張するとは思いもしなかった​​──。



「………」

じ、とクラウディオの後ろ姿を眺める。
いつもより少しだけ伸びた髪、華奢になった背中、丸みを帯びた腰回り。
そのどれもがアルカディアを興奮させた。
それに、ハーフパンツから覗いている白い脚。
本来クラウディオの方が身長も高いし体格もいいから、自分の服を着た恋人というシチュエーションを体感したことがなかった。
だから余計に、今のこの状況にどきどきしているのかもしれない。

「……っえ」

ぐいっとその細い肩を引き寄せて、背後からぎゅうっと抱き締めた。腕の中に収まるいつもより小さな体。柔らかい感触。
あぁ、やっぱり、すごくドキドキする。

「…こら、アルカディア」

「ん〜?」

咎めるような声にすら、きゅーんとしてしまう。
これは重症だ。

「……やっぱり、いい匂いする」

首元に顔を埋めて、大きく深呼吸をした。
シャンプーやボディソープは同じものを使っているはずなのに。いつものクラウディオより、甘い香りがするような気がした。
どこもかしこも柔らかくて甘い匂い。

「………」

ふとアルカディアの目に映る、柔らかそうな胸。Tシャツを押し上げる大きな膨らみ。

「……っ!?」

気づけば両手で鷲掴んでいた。
ぐにぐに、ぐにぐに。
驚いたのか、クラウディオは腕の中で飛び上がった。珍しい。

「なんっ…何してるんだお前はっ…」

「やわらかい。可愛いねくらでぃお」

「はあ?…っやめろ」

振り返ったクラウディオに睨まれる。でも全然怖くない。むしろ可愛くて仕方がない。
手が沈み込むくらいふっくらとしていて、それでいて指の間からはみ出すほどの大きさもある。
引き剥がそうとする手を片手でまとめて押さえつけて、もう片方の手でひたすら揉み続けた。
ふわふわで気持ち良い。ずっと触れていたくなる。
不意にかり、と爪先で先端を引っ掻けば、びくんと大袈裟に反応した。

「…ぅ」

小さく漏れた吐息が艶っぽくてゾクッとする。
そのままぐりぐり押し潰したり摘まんだり引っ張ったり、好きなように弄っていれば、徐々に固くなってきた。
布越しにもわかる、ぷくりとした突起。

「……っん、ん…」

鼻にかかる甘えた声が耳に届く度、どんどん理性が溶けていく感覚がする。
あのクラウディオが。自分の手に翻弄されている。
その事実がどうしようもなく愛しく思えて、もっと鳴かせたくなった。

「…っあ?」

クラウディオの体をそのままベッドに押し倒し、腕枕をするように頭の下に滑り込ませてその手で肩を抱く。ぎゅうっと逃げられないように抱き寄せ、クラウディオの右足を自身の足で押さえつけた。

「…おい、アルカディア……」

「んー?」

可愛い、可愛い。抵抗しようと身を捩らせる姿さえ可愛らしい。
空いた手で服の上から胸に触れる。そのまま優しく撫でたり、下乳を持ち上げて揺らしてみたりする。
その度にぴくぴく反応するのがまた堪らない。

「もう、お前…っ…いい加減に…っ」

クラウディオが顔を真っ赤にしているところなんて初めて見た。
可愛い。めちゃくちゃ可愛い。

「くらでぃお可愛い、すき」

アルカディアの手がするり、とTシャツの中へ侵入してきた。
直接肌に触れられると、反射的に体が強ばる。

「っ……!」

「…くらでぃお、ここ、かわいい……」

アルカディアの指先が、つんと尖った先端に軽く触れる。それだけで背筋がぞくりと震えた。
すり、と撫でられたかと思えば、今度はきゅうっとつままれてしまう。
くにくにと捏ねるようにして刺激を与えられれば、自然と口から熱い吐息が零れた。
慌てて口元を手で押さえるが、アルカディアにはバレているようで、嬉しそうに微笑まれた。

「可愛い」

そのままTシャツの裾を捲りあげる。露わになった胸に、アルカディアは頬を擦り寄せる。
ふかふか、ふにふに。
そんな擬音が聞こえてきそうなくらい柔らかい感触に、思わずため息が出そうになる。
その間もずっと胸を揉んだまま、時々思い出したかのように突起を撫でてやる。

「はぁ…ん…ん…っ、ん…」

​​──何故こんなに的確に感じるところを責めてくるんだこいつは。
そう思って、クラウディオはハッとした。
まさかいつも自分が彼にしていることを、上手に真似しているのか​​──!
クラウディオは思わず頭を抱えたくなった。確かに昔から学習能力は高い方だったが、まさかこんなところで発揮されるとは。
そんなことを考えていたせいで、意識が明後日の方へ向いてしまっていた。

「っ!?」

突然、下半身に走った衝撃。
アルカディアの手がぐり、とそこに触れたのだ。

「ばっ、か…っやめ……っ」

やめろと言いたいのに言葉にならない。口を開けば変な声が漏れてしまいそうだから。
それなのに容赦なく刺激を与えられるものだから、段々と思考が蕩けていく。
ぐりぐりと親指で強く押される度に、びくんと腰が跳ねた。

「くらでぃお、きもちい?」

耳元で囁かれる甘い声。
ぞわりと鳥肌が立つ。

「ん、んん、ん……ん〜……っ」

「きもちいいよね?」

否定したいのに声が出ない。首を横に振るのが精一杯だった。
それでも、快楽を感じていることだけは伝わってしまったようだ。

「そっかあ」

にこにこと笑っているのだろう。声色から容易に想像がつく。
段々とクラウディオの息が上がってきたのを確認してから、アルカディアはハーフパンツをずり下ろして放り投げた。

「……っ、」

クラウディオは絶句してぱくぱくと唇を動かした。
この家に女性物の下着なんてない。つまり、ハーフパンツを脱がされてしまえばそこは丸見えになってしまうわけで。

「ば、かっ!」

咄嗟に枕を引っ掴んでアルカディアの顔面に叩きつけた。ぼふんとなんのダメージにもならなそうな情けない音が鳴る。

「んぶっ」

「も、離せっお前…調子に乗りすぎだ」

なんとか体を捻って脱出を試みるものの、力が入らない上に体勢が悪いのか上手くいかない。
そうしている間にもアルカディアの手がぐいっとクラウディオの肩を引き寄せ、混乱する彼の頬に口づけた。

「くらでぃお可愛い。だいすき」

ちゅ、と何度もキスを落としながら、アルカディアはうっとりと呟いた。

「……っ」

なんだそれは。
なんなんだその顔は。
そんな顔出来るなんて、知らなかった。

「っあ…」

不意打ちで耳に息を吹きかけられ、ぴくりと肩が揺れる。
そのまま首筋に舌を這わせられて、ぞくぞくとした感覚が背中を走る。

「っあ、あ……」

「くらでぃお、好き、可愛い、大好き」

「ぅ…っ」

アルカディアの指が、ゆっくりと下に降りていく。
そして辿り着いたのは、柔らかなお腹でも、膨らんだ胸でもない。
足の付け根をするすると撫でながらその足を開かせて、陰核に軽く触れた。

「っあ……っ!」

びくん、と一際大きく体が震えた。
そのまま指先で転がすように撫で回されれば、その度に大きくなっていく水音が耳に届く。
触れられるだけでぴりぴりとした快感が走る。

「……っ」

思わず目の前のアルカディアの服にしがみつく。そのままぎゅっと目を瞑った瞬間、ぐりっと押し潰された。
全身に電流が流れたような感覚に襲われる。

「っひ……っ!」

ビクビクッと身体が痙攣して、頭が真っ白になった。ぎゅうう、と無意識のうちにアルカディアの服を引きちぎらんばかりに握り締めてしまう。

「は…っ…は…ぁ……」

「くらでぃお、イっちゃった?可愛い」

はふはふと呼吸を整えていると、アルカディアは満足そうに微笑み、ご褒美と言わんばかりに頬に軽くキスをした。
こんな感覚初めてだ。気持ちいいとかそういう次元じゃない。もっと大きな何かが押し寄せてきて、一瞬で頭の中がいっぱいになる。
こんな、こんなの知らない。
あのクラウディオですら、もう訳が分からなくなってきた。

「は…ふ……っ」

それでもせめて声は出さないようにと、目の前のアルカディアの服に噛み付いた。それを察してくれたのか、アルカディアは少し困った顔をしてから優しく頭を撫でてくれた。

「可愛い」

「んん、ん、ん」

「大丈夫だよ、怖くないよ」

「ん、ん……」

「可愛い、可愛い、俺だけのくらでぃお」

甘すぎる言葉の数々にクラクラしてきた。
普段自分が攻める側にしかならないからだろうか。どうしたら良いか分からない。
ただひたすらに恥ずかしくて堪らない。

「ん、ん……っ!」

再びそこに触れた手の動きが再開される。今度は先程よりもずっと激しく、速く。
時折親指で陰核を押し潰しながら、もう片方の手で割れ目を広げるようにして撫でられる。

「っ、っ、〜〜〜っ!!」

あっという間にまた絶頂を迎えてしまった。
声にならない悲鳴を上げながら、びくん、と大きく仰け反る。

「…っ…ふ……ぅ…っ」

「はぁ……っ、くらでぃお、可愛い」

ちゅ、と口の端に滲んでいた唾液を舐め取られ、額に張り付いていた前髪をかき上げられる。

「くらでぃお」

──駄目だ、これは本当に駄目だ。
こんなに可愛らしく名前を呼ばれてしまったら、何もかも許してしまいそうになる。

「可愛い、可愛い。いい子いい子」

腕の中で自身の服を咥えながら震える愛しい恋人。何年も共に居て、初めて見た余裕のない姿。
女性の姿になっても、クラウディオはやっぱり綺麗だった。
ぐちゅ、と音を立てて中に指を入れる。 そこはすっかり蕩けきっていて、アルカディアの指を難無く受け入れた。

「ん、ん…っ…」

奥まで入れてからぐるりと回すと、小さく息を漏らす。
何度か出し入れを繰り返してからもう一本増やしてみると、流石に苦しかったのか眉を寄せた。

「ん、ぅ…っ」

「苦しい?」

「ん……っ」

こく、と僅かに首を縦に振る。
本当は止めて欲しいのだろうけど、ここでやめるわけにはいかない。
もう少しだけ我慢してねと囁いてから、更に指を増やした。

「っ、う……っ」

「ごめん、ちょっとだけ」

「ん……っ!」

ぐちゃり、と音を立てながら中を探る。ざり、と内壁のある一点を掠めた時、大きくクラウディオの身体が跳ねた。

「っ!?」

「ここだよね」

「っ、…っ…んん…っ!」

見つけた場所を執拗に責め立てると、面白いくらいに反応が返ってくる。
びくん、びくんと腰が震えて、段々と甘い吐息が漏れてきた。かたかたと服を掴む手が震えている。

「ふ、ぅっ…」

達したせいで感度が増したのだろう。
今までとは比べ物にならない程の快楽に、クラウディオは戸惑っていた。
怖い。気持ち良すぎて、頭がおかしくなりそうだ。
これ以上続けられたら、どうにかなってしまうかもしれない。
しかしそんな思いとは裏腹に、アルカディアの手は止まってくれなかった。
それどころか、どんどん激しさを増していく。
ぐっと強く押されて、クラウディオは思わず服を離してしまった。
同時に、甲高い悲鳴が上がる。
アルカディアは一度動きを止め、そろりとクラウディオの顔を見やった。

「っ……っ……」

ぼろぼろと涙を流しながら、必死に声を抑えている。
その様子に、ぞくぞくとしたものが背筋を走るのを感じた。
こんなの、誰が想像できる?いつもあんなに格好良くて強い彼が、自分の手で乱れて泣きじゃくるなんて。
ああ、もっと泣かせたい。もっと可愛いところが見たい。
もっとこの人を、壊したい。



「ぁ、あっ…♡…っ」

意識が朦朧とする。頭が真っ白になって、何も考えられない。
自分の口からは信じられないが、甘ったるい声が溢れ出ていた。
あれからもうどれほどの時間が経ったのかも分からない。
両手首を腰の前で掴まれて、何度も身体を突き上げられて、揺さぶられて。
仰け反っているせいか、視界には枕とヘッドボードしか映らない。

「っあ、ぁ、あっ……♡」

「可愛い、可愛い、くらでぃお」

ぱちゅんぱちんと肌がぶつかる音が響く度、頭の中まで犯されているような気分になる。
アルカディアが動く度に子宮の奥が押し潰され、ごつごつぶつけられれば目の前がチカチカする。

「っひ……!ぁ、あっ…♡」

「はぁ…っ、可愛い…」

「っ……ぅ…っ…〜〜〜ッ……!!♡」

ごちゅん、と思い切り突き上げられた瞬間、目の前に火花が散った。
声にならない悲鳴を上げながら、背中をさらに大きく仰け反らせる。
そのままガクンガクンと痙攣している間にもアルカディアは容赦なく抽挿を続けてきて、クラウディオは再び絶頂へと導かれた。

「っ…♡…っ……〜〜…♡♡♡」

「は…可愛い……」

あまりの快感に声すら出せない。
いつもアルカディアはこんな凄まじい快楽に襲われていたのか。戻ったらもっと優しくしてあげよう。
ほぼ飛んでいる意識の中、ぼんやりと他人事のように考える。

「…っ…♡…っ……ぅ…っ……♡」

「まだ寝ないでね」

「っ…ぇ……?」

絶頂の余韻に浸る間もなく、再び激しく動かれる。
休む暇もなく与えられる暴力的なまでの快楽に、クラウディオの思考は停止寸前だった。

「っ…!?…ぁ、ま、って…っ……ま……て…っ!」

「待たないよ」

そう言って微笑むアルカディアを見て、クラウディオは悟ってしまった。
──嗚呼、これは、駄目だ。
このままでは本当に狂ってしまう。

「っ……や、め…っ…!」

「やめない」

「っ…ぁる、…か……っ……!」

涙声で懇願しても、アルカディアは止まらない。
それどころかより一層激しく責め立てられて、クラウディオは限界を迎えた。

「っ…ぁ…っ……ぃ…っ……〜〜〜…っ……!!!♡♡♡」

がくんッと大きく全身を震わせて、ぷしゃっと潮を吹きながら達してしまう。
しかしそれでもアルカディアは動きを止める事はなく、むしろさらに速度を上げて攻め立ててきた。
ぐぽぐぽと音を立てながら抜き差しされる感覚に、脳みそまで掻き回されているようだ。

「っ…っ…ぅっ……♡」

「可愛い、可愛い」

「っ…っぅ……っ……〜〜〜っ…!!♡」

がくがくと震え続ける身体。頭の中に霞がかかる。
もう何も考えられない。ただひたすらに気持ち良い。それだけ。

「っ…っぁ……♡……っ…っ…♡」

最早意味の無い母音ばかりを零す唇からは唾液が流れ落ち、瞳は完全に蕩けて焦点が合っていない。
その姿を見たアルカディアがごくりと唾を飲み込む。
ああ、堪らない。もっとだ。もっとこの人を壊したい。
その一心で、さらに動きを速めた。
ごりゅごりゅと内壁を擦り上げ、奥深くまで一気に突く。

「っ…っ……っ……っ♡♡♡」

びくん、と一際大きく身体を跳ねさせ、クラウディオは達した。
掴んでいた彼の両手を離し、腰を強く引き寄せる。
そしてそのまま一番深いところへ叩きつけた。

「はぁっ…んん、くらでぃお…♡」

びゅーびゅーと熱い精液を注ぎ込まれ、クラウディオはびくんびくんと身体を跳ねさせる。
可愛すぎる。何なんだこの人は。どうしてここまで可愛いんだ。
愛しさが込み上げて、思わずゆるりと腰を揺らした。
すると、その刺激に反応したのか、きゅっと締め付けられる。
それにまた煽られ、一度出したにも関わらず硬さを取り戻した。
ぐちゃぐちゃと卑猥な水音を響かせながら、何度も腰を打ち付ける。

「あ゛♡…ぁ、あっ…♡…ゃ……もぉ……っ♡」

クラウディオは両手を顔に添えてがたがたと震えている。
呂律の回らなくなった舌足らずの口調が可愛い。
いやいやとかぶりを振る姿が可愛い。
ぼろぼろ涙を流しながら感じ入っている表情が可愛い。全てが可愛い。大好き。愛してる。もっと、もっと。

「っ…♡…っ…ぁ、あっ……♡」

「はぁっ……可愛い、可愛い、可愛い」

「っぅ、あっ……♡……っ♡♡」

「もっと見せて、もっと聞かせて、もっと泣かせてあげるから」

「っ♡……っ…〜〜〜っ♡♡♡」

がつがつと乱暴に突き上げられて、揺さぶられて、意識が飛びそうになる。
だが、意識を失う事は許されない。
アルカディアが許さない。

「っ♡……っ…♡……っ…〜〜〜ッ!!♡♡♡」

どちゅん!と思い切り子宮口を叩かれ、クラウディオは何度も声にならない悲鳴を上げた。
そのまま子宮口にぐりぐりと先端を押し付けられ、視界が明滅する。
身体中を駆け巡る強烈な快楽に、頭の中が真っ白になった。
もう無理。死ぬ。死んでしまう。

「む、り♡…っ……♡…むり…っ……♡」

「くらでぃおが無理って、珍しいね」

くすくすと楽しげに笑うアルカディアの声が聞こえる。
そんな事を言いながらも、彼は容赦なく責め立てて来るのだ。

「大丈夫?大丈夫だよね?だってくらでぃおだもん」

「っ♡…っ…あ゛…♡……っ…う゛…♡」

「ふふ、可愛い。可愛い」

「っ♡……っ♡…っ……♡」

「俺のもの。全部、ぜーんぶ、俺のもの」

「っ♡……っ……〜〜〜っ!!!♡♡♡」

がぽんッと勢い良く最奥まで貫かれて、クラウディオは全身を大きく仰け反らせた。
そのまま身体を震わせ続けていると、アルカディアはゆっくりと腰を引く。
ぱちんぱちんと頭の中で何かが弾けるような感覚。
ずるずると抜けていく陰茎が、入り口付近まで来たところで止まった。
もう飛ぶ。完全に飛んでしまう。そう思った瞬間、再び思いきり最奥まで穿たれた。

「ぁ゛…!?うぁ、あ゛…♡♡あ゛、あ゛、あ゛!!」

びくんびくんと身体を痙攣させ、クラウディオは絶頂を迎える。
とてつもない快感が襲ってきて、頭の中がスパークして、ばちんッと目の前が真っ暗になる。
しかし、アルカディアは止まらない。止まってくれない。
ずぽっ、ぐぽっと激しい抽挿を続けてくる。
クラウディオは身体を弓なりに逸らせながら喘ぎ続けた。
やがて再び熱を感じ、びゅるびゅると吐き出される精液に身体を震わせる。

「っ♡…〜〜〜っ……♡♡♡」

「はぁっ…気持ち…」

「っ♡……っ…♡……っ♡」

「くらでぃお?」

「っ♡……ぁ…♡…っ…〜〜っ♡」

「トんじゃった?」

アルカディアは困ったように笑って、愛おしそうに彼の頬を撫でた。

「起きて、くらでぃお。ひとりにしないで」

ぺち、と軽く頬を叩きながら言うが、返事はない。
どうやら本当に気絶してしまったようだ。
ぐ、と彼の中から名残惜しくも自身を引き抜くと、ごぷりと大量の精液が流れ出てくる。その光景を見て、ついごくりと喉を鳴らしてしまった。

「…あー……」

これはまずい。駄目だ。やり過ぎた。
というか中に出してしまった。大丈夫だろうか。
今更後悔しても遅いのだが、流石に反省した。
だって、見たこと無かった。あんな姿。
クラウディオが焦る姿も、混乱する姿も、泣きじゃくる姿も、快楽に溺れる姿も、全部、初めて見るものだった。
いつも冷静で、落ち着いていて、余裕があって、少し意地悪で、でも優しくて、大人っぽくて、そんな彼が。
乱れて、狂って、壊れて、泣いていた。
思い出すだけで興奮してしまう。
涙のあとがたくさん残ってしまった。拭っても消えなかった。

「………」

クラウディオの豊満な胸元に顔を埋めながら、考える。
怒られるかな。嫌われるかも。それは嫌だな。悲しいな。寂しいな。
むにゅ、と柔らかい乳房を揉みながら思う。
でもクラウディオがアルカディアを嫌いになるはずない。それは絶対。
だってクラウディオはアルカディアの事が大好きだから。どんな事をされても許してくれる。愛してくれる。受け入れてくれる。
そういう人だ。それが分かっているからこそ、アルカディアは彼の前でだけは素の自分でいられた。甘えられていた。
愛しているよ。大好きだよ。ずっと一緒にいようね。

「(触り心地いい…)」

むにむにと柔らかなそれを堪能する。癖になる。
元のクラウディオに戻って欲しい気持ちもあるけれど、この胸はこのままであってほしい気もする。あまりにも触り心地が良いから。
そのまま寝てしまいたい衝動に駆られつつも、何とか耐えた。
とりあえず後処理をしてあげないと。お風呂にも入れてあげたいし、着替えさせてあげる必要もあるだろう。
いつも彼は自分が気絶したあと、こんな風に世話を焼いてくれているのだ。
「よいしょ」と呟き、彼を横抱きにして持ち上げた。
そしてそのまま浴室へと向かうべく歩き出す。
すると腕の中の身体がぴくりと動いた。
起きたのかと思い顔を覗き込むが、彼はまだ眠っている。
可愛い。くすりと笑みを浮かべつつ、寝室を後にした。