「ったく、どこいったんだ」
イラついた声が思わず零れる。
アグライアが居ない。執務官が俺の所までそう、伝えに来たのだ。
どうやらその前は浜辺に居て、そこから執務室に戻ってきたかも定かではないらしい。
浜辺から屋敷までの間のどこかだろうか、もしくは──と一度足を止めると、踵を返す。
俺の家の鍵は、開いていた。
「アグライア」
視線を巡らせながら名前を呼んでみても返事はない。
後ろ手に扉を閉めて歩を進める。寝室の扉を開けるとベッドで穏やかに眠るアグライアを見つけ溜息と同時に安堵にも似た吐息が零れた。
「おいアグライア。起きろ」
縁に座って肩を揺さぶるとアグライアは小さく身じろぎをする。
「んー……あれ、ファング……?」
「サボってんのか本当に調子が悪いのかどっちだ?」
「んー」
ゆるゆると焦点を結んだ真っ青の瞳がとろりと蕩けてまた閉じていく。
もう一度肩を揺らすと、まるで猫のように手に擦り寄ってくる。
銀色の髪を撫でそうになるのを堪えて強く肩を揺らした。
「もうちょっと、だけ」
「早く起きねぇと襲っちまうぞ」
一瞬、アグライアの動きが止まった。
けれど目を開く様子はなくて、それどころか顔を背けられてしまう。
「いいのか?」
返答はない。思わず頬が緩んだ。
覆い隠すように身をかがめて耳元で名前を呼ぶと驚いたように小さく震える体。
遠くで時刻を告げる鐘の音が鳴っている。
重なった唇の柔らかさと甘い香りに目をすうっと細めるとまるで吸い寄せられるかのように手がアグライアの髪を撫でた。
ゆるりと廻る思考を投げ出してただ、キスを繰り返す。
「ん。もっと」
「あいつらお前のこと探してたぞ」
「いい」
よくないだろうが、と落とそうとした声は伸びてきた腕に遮られ、首に絡んだ腕は陽だまりのように温かい。
思わず溜息が落ちる。どうやら自分は、彼に大層甘いらしいと常々思っていた。
引き寄せられるままに唇を重ね、その名前を呼ぶ。
緩く回る思考の渦の中で言い訳の言葉を探しながら、ただ行為に没頭していく。
「っは、ぁっ......」
指を動かすごとに甘い声が、まるで花開くように咲いては部屋に散っていく。
最低限乱した服の、中途半端さが背徳を煽って胸の奥底がじりじりと燃えるような焦がれるような感覚にくらりと視界が揺らいだ。
「んっ……あ、やっ」
「嫌か?」
涙を零すアグライア自身を包み込むように撫でるとふるりと震えたソレがまた涙を零した。
雫を塗り込むように親指で熱く熟れた鈴口を撫でると甘い声が散らばる。
「や、ぁっあ、あ」
求めてくる手に、瞳に堪らなく欲情する自分がいて。
いっそ、壊してしまいたい。けれど、それは恐ろしい。
潤んだ瞳が瞬きをするたびに頬を濡らして、その頬に舌を這わすと塩の味が舌に刺さる。
「……ふぁ、…ぐ…」
「ん。なんだ」
「ぁ……っ」
甘い吐息を零しながら言葉を紡ぐ口元に耳を寄せるとアグライアは小さく笑った。
「すき」
じわりと体中が温かくなる感覚がして、それを通り越して頬が熱い。
不覚をとったと思ったのと同時にただただその言葉が嬉しくて愛しくて、重ね合わせた視線を離せないでいた。
とろんと融けた瞳が問うように向けられる。
「ああ。俺もだ」
「……ん」
まるで陽だまりのような笑顔。
沢山の温かな感情が入り乱れては融けてどうしようもない衝動に変わっていく。
内部を解していた指を抜くとアグライアは小さく震えた息を吐き出した。
汗ばんだ肌を撫でて力の抜けた腰を捕まえると真っ青の瞳が一瞬揺らぐ。
首に回された手はそれでも先を求めるように絡みついている。
「入れるぞ」
アグライアが小さく頷いたのと同時に、宛がった俺自身の熱を埋め込んでいく。
「ん、あ、ぅぁ、あっ!」
「っ......大丈夫、か?」
「んぅ、はぁっ……はっ」
苦しげに息を吐き出しながら、アグライアは弱く頷く。
重ねた肌の触れ合う温かなぬくもりを感じながら緩く腰を動かすと甘く悩ましい声が次々に部屋に散らばる。
「ひ、あっ、んぁっ」
「アグライア」
温かい。熱い。
けれど安心できる熱。
「ふぁっ、ぁ、……んっ、ぁっ......もっと」
求められるままに、律動を繰り返して何度も何度も最奥を穿つ。
何も考えられず思考は真っ白でまるですべてが抜け落ちてしまったようだった。
そしてその空白に流れ込んでくる温かさに満たされ、自然と笑みが零れる。
「あ、ぁっひ、ぅ……あ、ぁっ」
「もっと、よく見せろ」
「あ、やぁっ、んっ」
首に回されていた手を外して、指を絡める。
そして開いた手で片脚を持ち上げて肩にかけるとより深い場所まで侵入したせいか、アグライアは一際甘い声を零した。
「うあ、あっ、あ、も……だめっ、あ、うぁっ」
穿つたびにスプリングが軋む。そしてその音を甘い嬌声が塗り潰していく。
嫌々と首を左右に振るアグライアの髪を撫でると内部がきゅうと収縮した。
涙を流して濡れるアグライア自身は今にも果ててしまいそうなほど赤く充血し、俺が動くたびに億劫そうに揺れている。
ただただ、胸の中が温かなもので満ちていく感覚。
「俺もっ......そろそろ限界そうだ」
「ひ、あっ、あっ!も、や……」
弱いところを抉るように突き上げれば上擦った嬌声が零れて、びくりと震える体。
締め付けられるたびに背骨を這い上がる快楽に苛まれつつ意識が白く霞むまで求めあう。
「あ、だめ、いっ、あ……あ!──っん、あ!」
一際強い快楽に体を震わせ、絶頂へ上り詰めていく感覚に目の前がくらりと歪む。
視界の端で迸る白を見ながら最奥まで呑み込まれていた楔を引き抜いた。
同時に目の前が白く爆ぜる。
全身を貫くような快楽に思考は呑み込まれて、ただ、満たされていく感覚だけが残る。
「っはぁ……はぁっ」
まじりあった白濁をぼんやりと見下ろす。
どれくらい経ったかは分からないが、絡めた指の温かさに思考は引き戻され、それと同時に後悔にも似たような感情に苛まれる。
「ん、は......ファング」
「──なんだ?」
複雑な感情がぐるぐると渦巻く。
「だいすき」
それでもまぁ、いいか。
なんて、思考を満たした温かさに俺は考えることを放棄した。