Deep in the heart


「なあレギオン。お前ってさ、アルさんの何がそんなに好きなの?」


何の前振りもなく、突然そんなことを言い出したのはレヴィアだった。

「……なんでそんなん聞くんすか?」

フルーツ牛乳の紙パックを手の中で弄びながら、レギオンは聞き返した。
レヴィアは普段、意外と他人の恋愛事情には首を突っ込まない。本人がそういう主義だと言っていたが、厄介ごとに巻き込まれるのが嫌だ、というのが本音のようだった。
それがこうも明け透けに尋ねてくるなど、実に珍しい。レギオンならずともそう思うだろう。

「ん〜、単なる興味?」

「その割に、今までちっとも聞かなかったじゃないすか」

「や、聞かない主義なんだけどさ。一応そういう主義なんだけど、やっぱ不思議なんだよな」

「何が?」

煙草を購入してきたアルが遅れて輪に加わる。

「オレがアルさんのどこを好きなのか気になるんだって。下世話な話っすよね?」

軽く肩をすくめながら、レギオンは笑い飛ばす。
が、対するアルは真顔で返した。

「それは……俺も気になる」

「「ハイィィ!?」」

左右から同時に大声が上がり、アルは二人を交互に見やる。彼らのリアクションの意味がよくわかっていないかのような表情だ。

「……何も二人いっぺんに言うことなくね」

「いやいや。アルさん、もしかしてアルさんも知らないの?」

「言われてみれば具体的には聞いたことないし。だから」

聞かせろ。
その言葉が省略されているのは、火を見るより明らかだった。

「本人目の前にして言えって言うんすか」

「面と向かって言ってくれないと、俺が聞けないだろ」

「あっはは、負けを認めろって」

どう見ても面白がっている様子で、レヴィアはレギオンを肘で小突いた。それを大げさに痛がってみせながら、レギオンは唇を尖らせる。

「べ・つ・にレヴィアさんに負けたわけじゃないっすからね」

「わかったわかった」

さっさと言えとばかりにレヴィアは身を乗り出した。それにつられてか、アルもまたレギオンに顔を近づけた。

「えーと、そっすね……可愛いとこ、とか?」

「疑問かよ!」

鋭いツッコミが、レヴィアから繰り出される。だが、当のアルは納得していない様子だ。

「……具体的に俺のどこが可愛いわけ?」

「え……それも言わなきゃだめすか?」

「言わなきゃコロッケ没収な」

「コロッケパンからコロッケ抜いたら、キャベツの千切り挟んだだけのチンケなパンになるじゃないすか!」

「ほらほら、いいから。何が可愛いって?」

レギオンのコロッケにかける熱い叫びを一蹴し、レヴィアはさらに詰め寄る。アルもまた、力強く頷く。
二人分の熱い(?)眼差しを受け、仕方なさそうに、だが思い切りよくレギオンは語り始めた。

「見た目すげぇかっこいいのに中身可愛いっしょ。意外とぐーたらしてるとことか…」

「そんだけ?」

「いやまだまだ言い足りないっす!男前だし〜、銀髪で髪サラサラだし〜、強いし〜、気が利くし〜、体柔らかいし〜、何だかんだで甘えさせてくれるし〜、いい匂いするし〜、スタイルいいし〜、脱いでもスゴイし〜、最後にもっかい男前だし〜、言えないようなトコでも相性抜群だし、何もかもが最高ってことっす!!」

「へ、へぇ。……そうかよ」

あまりの開き直りっぷりに軽く引き気味で、レヴィアはそれだけを応じる。隣に座るアルをチラと見やり、彼はそちらへ話を振ることに決めた。

「じゃあさ。アルさんはどう?」

「……もしかして、レギオンのことをここで語れと?」

口調は穏やかながらアルの声色が変化した。ついでに周囲の気温も急降下したようでさえあった。

「あのアルさん。何か、コワイんだけど」

「意表をつかれて動転してる」

「レギオンにばっか聞くのも不公平だし、一応聞かせてよ」

アルの訴えも軽く流し、レヴィアは重ねて尋ねた。先ほどの反撃か、今度はレギオンまでもが興味津々の眼差しを向けている。
どうやらアルにも逃げ場はなさそうだった。

「仕方ないな……」

アルは小さく吐息し、唇を開いた。

が……。

それに続く言葉は、すぐには出てこない。

「アルさん〜?」

レギオンが不安そうにアルの顔を覗き込んだ。

「……今、考えてるから。もうちょっと待って」

早くも言葉を失いかかっている二人の前で、アルはなおも神妙な顔つきで考え込んでいた。そして彼はようやく、眉間に軽くしわを刻んだままで話し始めた。

「そうだな……貸した物はなかなか返さないし、好き嫌い多いし、私物変なの多いし、勝手に俺のネクタイ使ってたりもするし、仕事邪魔するし、いっそいつでもどこでも迫って来ようとするし……」

そこまで言ってもなお、アルは首を傾げている。面と向かってマイナス要素ばかりを並べ立てられたレギオンは、まさに青菜に塩状態でシンナリしきっている。

「でも……」

アルはレギオンの頬を摘んで、口元をほころばせた。

「そんなレギオンも、俺は好き」

「ア、アルさん〜〜!!」

「はいはい」

アルに抱き着くレギオンを横目に見ながら、レヴィアは呆れたように笑う。

そんなレヴィアに、レギオンが勝ち誇ったような笑みを向ける。

「どうすか!オレらのラブラブっぷりは!シヴァさんよりラブラブっすよ!!」

「……いやそれは無い」

キラキラとハートマークを周囲に撒き散らしながら言うレギオンに、アルは真顔で言った。
固まったレギオンにレヴィアは一気に吹き出して、笑い転げた。