Winter Morning



この子の何にここまで惹かれたのだろう、とクラウディオはアルカディアを眺めながら思う。

今思えば、クラウディオは出会った当初から彼の姿に釘付けだった。
彼の存在は衝撃的だったのだ。初めて見た瞬間から、その神秘的な美しさの虜になってしまったのかもしれない。
人間離れした美しさにクラウディオですら感嘆の息を吐くその強さ。人間的な弱さと脆さを持ちながらも、その強さゆえにクラウディオは彼に惹かれていった。
殺しの技術を教えれば教えるほどその身に潜めた才能を開花させ、クラウディオが教えたことを吸収することで高みへと登っていく。それは、彼の中に眠る天性の才能のようなものだ。
クラウディオが惹かれたのはその外見と、強さだけなのか?いや、違う。

「んん〜…」

幸せそうに眠る彼の顔。
あれだけの強さを持っていながら、何故だかこの子を守らなければという使命感に駆られる。クラウディオがここまで他人に入れ込むこと自体が初めてなのだ。
自分自身が唯一の存在意義であると信じて生きてきたこの男が、それ以外のものに執着することは今までなかった。

「……アルカディア」

くしゃりとその髪に触れてみれば、アルカディアはふにゃりとその顔を歪めた。
クラウディオは思わず苦笑する。愛くるしい、その寝顔。夢の中で何かを見ているのだろうか、口元が少し笑っていた。
彼の仕草や言動、表情のひとつひとつが、クラウディオの心を掴んで離さない。
アルカディアの全てに、惹かれていた。
人差し指で彼の頬を突いてみる。ふに、と柔らかい感触がした。

「ん〜……」

彼は猫のように擦り寄り、クラウディオの指に自身の頰を擦り付ける。猫が甘えて頭を押しつけるような、そんな仕草で。
クラウディオは微笑みながら、慈しむようにアルカディアの頰に触れた。温かいその温度が手に伝わってきて、思わず笑みが溢れる。
人馴れしていない猫に懐かれたような感覚だ。事実、アルカディアはクラウディオにしか甘えない。
昔から警戒心が強く、なかなか他人に心を開かないアルカディアが唯一心の全てを開いたのは、クラウディオだけだ。
今まで数人、アルカディアが気を許す相手は現れたものの、完全に心を許しているかというとそうではない。クラウディオには、彼の中にある何かしらの不安を払拭できる何かがあるのかもしれない。

「ん、ぅ……」

クラウディオの指の感触に気づいたのか、アルカディアはゆっくりと目を開けた。真っ赤な瞳。この目もクラウディオは気に入っていた。
焦点の定まらない瞳がふらふらと宙をさまよい、そして最後にクラウディオの姿を捉える。
白く細い指が頰に触れるクラウディオの手に触れ、躊躇いがちに指を絡めた。まだ眠いのだろうか、とろんとした目でこちらを見つめ、小さく欠伸をする。
自分の中に渦巻く衝動を抑えるため、クラウディオはアルカディアの頰から手を離した。
アルカディアはクラウディオの手を追いかけるように、彼の指に自身の指を絡める。

「…おはよう」

「……ん」

クラウディオはアルカディアの頭を撫でた。ふわふわした柔らかい髪の感触が心地いい。少し癖がついた髪が愛おしいとさえ思う。
しばらくぼんやりしていたアルカディアだが、ゆっくりと体を起こした。くしくしと目を擦る仕草が子猫のようで可愛い、とクラウディオは密かに思う。

「ふぁ……」

大きな欠伸をして、アルカディアは自分の手を握ったり開いたりしている。眠気を覚ますためだろうか。その様子が本当に猫のようで、思わず笑みが溢れた。

「まだ早い。寝ていてもいいぞ」

時刻は7時前。休日にしては早い時間だ。
クラウディオの言葉に、アルカディアは少し考え込むように沈黙し、首を横に振った。

「起きる」

いつもならぐっすり眠り続けるのに、珍しいこともあるものだ。クラウディオは少し不思議そうにアルカディアを見る。

「今日は珍しく早起きだな」

「………おなかすいた」

クラウディオの言葉に、アルカディアはぽつりと呟く。そして、彼の顔を見て笑った。

「いっしょにごはん食べよ」



せっかく早起きしたのだからとこれまた珍しくアルカディアの誘いで朝食を買いに出かけることになった。
着替えて外出用のコートを羽織ったアルカディアは、マフラーを巻いていた。

「似合ってる」

他でもないクラウディオからのプレゼントなのだ。アルカディアは嬉しそうに笑って、マフラーに顔を埋める。

「あったかい」

「それはよかった」

玄関ドアを開けると、僅かにだが雪が降り始めていた。この国の冬は厳しい。特にこの地域では、冬になれば毎日のように雪景色が広がっているのだ。
刺すような冷気が頰をかすめ、クラウディオは思わず目を細めた。アルカディアも寒いのか、身を縮こまらせている。

「また雪が大変な季節だな」

歩きながらそう呟くと、アルカディアはこくりと頷いた。鼻先までマフラーに埋もれている姿はとても愛らしい。

「何を買うんだ?」

「ん〜…決めてない…コンビニ?」

アルカディアはそう言って首を傾げる。どうやら本当に何も考えていなかったらしい。たまにはコンビニ飯も悪くないか、とクラウディオは頷く。

「ならコンビニにしようか」

「やった…おれ、チキンたべたい」

子供のようにはしゃぐアルカディアを見て、クラウディオは密かに頰を緩ませた。今日の彼がいつもより随分と無邪気な気がするのは何故だろうか。



早朝だからか、店内には人の姿はない。レジに立つ店員が、覇気のない声で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれるだけだった。
アルカディアは早速パンコーナーに走っていく。

「メロンパンみっけ」

アルカディアは嬉しそうにメロンパンを手に取り、クラウディオが持つカゴに放り込む。いくつか気になったパンをクラウディオもカゴに入れ、アルカディアの後を追った。
今度はサンドイッチに目をつけたらしい。

「新発売…」

可愛らしいポップに書かれた『ヨーグルトとフルーツのサンド』という文字に、アルカディアの目が輝いた。ヨーグルトもフルーツも、アルカディアの大好物だ。勿論カゴに放り込む。
その後もいくつか商品をカゴに入れ、アルカディアの希望通りチキンも購入して店を出た。



アルカディアの頰が寒さでほんのりと赤くなっている。白く透き通るような肌なので、血管の色が映えやすいのだろう。
ちらちらと雪が降る中、コンビニの袋を下げて家路につく。少し浮かれ気味な様子のアルカディアが前を歩きながら時折ステップを踏んでいた。

「今日は随分機嫌がいいな」

クラウディオの言葉に振り向いたアルカディアは、どこか嬉しそうに微笑んでいた。

「夢見た」

「夢?」

「くらでぃおと、いっしょに出かける夢」

正夢にした、とアルカディアは嬉しそうに笑った。その笑顔が、あまりに美しくて、儚くて。思わず言葉に詰まるくらいの美しさを彼は持ち合わせていた。
ちょこちょこと寄ってきたアルカディアが、クラウディオの手をポケットから引きずり出す。

「うれし」

そのまま指を絡ませて、満足げに鼻歌を歌いながら歩みを進める。
夢心地のようなその表情はまるで花が綻ぶような笑顔にも見えて胸が締め付けられるような感覚がする。
クラウディオはアルカディアの手を握り返し、小さく笑う。

「そうだな」

その声が、自分のものではないみたいに優しい響きを帯びていることに内心驚く。しかし、それが不快だとは思わない。むしろ心地よいくらいだ。
この美しい青年が自分だけを見てくれていることが嬉しくてたまらないのだ。彼もまたクラウディオに執着し、心酔しているというのだからお互い様だが…彼はどうしてここまで自分に心を砕いてくれるのだろうか。

「くらでぃお、かえろ」

アルカディアのその言葉を合図に、二人は家路を急いだ。外は寒かったが、繋いだ手だけは温かかった。



家に帰れば、早速アルカディアはチキンを食べていた。相当お腹が空いていたのか、あっという間に食べ終わるといそいそと新たなパンに手を伸ばす。
クラウディオはというと、自分用に買ってきたパンを食べながらアルカディアの食事風景を眺めていた。
幸せそうに頰を緩めるその顔を見ていると、こちらまで幸せになってくる。パンにかぶりつくその口元はまるで小動物のようにもぐもぐとしているし、口の端にクリームがついてる始末だ。

「美味しい?」

「ん!」

懸命にご飯を食べる子猫のような、幼い子供のようなその仕草に、クラウディオは自然と頰が緩んでしまうのを感じた。
なんとなくテレビをつけると、ちょうどニュースが流れていた。どうやら一日天気が荒れるらしい。

「大雪か。今日はもう外には出ない方がいいな」

窓の外を見ると、雪は更に激しくなっていた。恐らく、夜まで降り続くだろう。

「雪遊びしたい」

「遊ぶには少し厳しい天気だが」

「むぅ……」

アルカディアは不服そうに唇を尖らせた。ディスクーシャは雪山で暮らす魔獣だ。本来の血が騒ぐのだろうか、アルカディアは昔から雪が積もると大喜びする。子供のように。

「…ん〜」

アルカディアは小さく呻き、クラウディオの体にもたれかかった。甘えるように頭を擦り付けてくる。

「ねえ」

「なんだ」

「抱っこ」

アルカディアはそう言って両手を広げた。どうやら抱きしめてほしいらしい。
クラウディオは苦笑しながらアルカディアを抱き上げ、膝の上に乗せた。
アルカディアは嬉しそうに笑って、クラウディオの首元に顔を埋めて、くん、と匂いを嗅いで笑みを深める。

「くらでぃおのにおいすき」

「私の?」

「うん。いいにおい」

そう言って、アルカディアはすんすんと鼻を鳴らしている。
前からアルカディアはクラウディオの匂いが好きだった。香水をつけていなくても、なぜかいい香りがすると。しかしそれは嗅覚が優れているせいもあるのだろう。

「ん〜〜…………」

しばらくクラウディオの首に鼻先を押し付けて堪能していたアルカディアだったが、やがて小さく呻いた。

「どうした?」

「くらでぃおやらしい匂いする」

そう言って、アルカディアは首筋にキスをした。ちゅ、と音を立てて吸い付く姿は猫のようだ。

「……お前なぁ」

「えろいにおい」

アルカディアはそう言いながらまた強く吸い付いた。ちり、とした痛みを感じて、ああ痕をつけているな、とぼんやり考える。

「こら、アルカディア」

「ふふ」

咎めようとすれば、アルカディアは悪戯っぽく微笑んだ。
そのまま再び首筋に舌を這わせ始めたアルカディアに、クラウディオはため息をついた。

「まったく…」

アルカディアは嬉々としてクラウディオの肌に赤い花を咲かせていく。彼の所有物だと言わんばかりに、いくつも咲かせて満足げに目を細めた。クラウディオはそんなアルカディアの髪を優しく撫でる。その感触が心地よいのか、アルカディアは目を閉じてされるがままになっていた。

「俺はね」

不意に、アルカディアは呟く。

「朝からするのも、好き」

そう言ったアルカディアの顔はどこか淫靡な色を帯びていた。

「……誘ってるのか?」

「さそってる」

アルカディアはクラウディオの耳を甘く食んだ。ぴくりと反応を示したクラウディオに、アルカディアは笑みを深めた。そのまま耳に吐息を吹き込むようにして囁く。

「したいな」

ぞくりと背筋を駆け抜けた感覚に、クラウディオは無言のままアルカディアを抱いて立ち上がった。突然の行動に驚いた様子を見せたアルカディアをそのまま寝室へと運ぶ。ベッドの上に下ろして覆い被されば、アルカディアは楽しげに笑った。

「積極的」

「誰のせいだ」

「俺のせい」

クラウディオの首に腕を回し、アルカディアは目を閉じた。その意図を察して、クラウディオは唇を重ねる。何度か触れるだけの口づけを交わした後、深く口付けた。互いの唾液を交換し合うような激しい口付け。

「んっ、ぅ」

苦しそうな声が聞こえても構わずに、口内を犯し続ける。
まだ朝の9時過ぎだ。窓の外は雪が降っていて、こんな日は外に出ることもできない。それならいっそこのまま目の前の美しい子を抱き潰してしまいたい。

「は、ぁ……くらでぃお……」

長い時間かけて口内を犯した後、ようやく解放してやると銀糸が二人を繋ぐ。
潤んだ目で見つめられて、ごくりと喉が鳴る。この美しい青年が自分のものなのだと思うだけで、興奮してしまう。

「くらでぃお、はやく」

熱に浮かされた声で催促されて、クラウディオは小さく笑うと、服を脱ぎ捨てた。



アルカディアの中をゆるゆると突きながら、ふとサイドテーブルに置いている時計を見た。時刻は既に正午を回っている。随分と長い間抱き合っていたらしい。

「んっ、あ、は…♥」

小さく喘ぐアルカディアの顔を覗き込めば、快楽に染まりきっていた。その目は虚ろで、視線が定まっていない。
中で何度も達しているせいか、既に意識が飛びかけているようだった。ただひたすらに甘い声で鳴いている。

「あっ、ぁ、ん……♥」

奥を突き上げれば、アルカディアは一際高い声を上げて体を震わせた。どうやらまた軽くイってしまったようだ。
びくん、と震えたアルカディアの体は、まだ絶頂から降りてこれないらしい。蕩けた表情を浮かべたまま、時折小さく痙攣を繰り返している。
クラウディオの首に回されていた腕は力なくシーツに落ちていて、その白い手を絡め取るように握ってやると、弱々しく握り返してきた。

「ん、んぅ…♥」

「気持ちいいか?」

「ん……きもち、い…♥」

素直な言葉に気をよくし、更に中を攻め立てる。結合部から聞こえる水音が酷く卑猥だった。

「ぁ、や♥んん、いく…♥」

「何度でも好きなだけイけば良い」

そう言ってアルカディアが一番感じる場所を強く突いてやると、アルカディアは背中を仰け反らせて果ててしまった。

「​​──っ♥♥…っっ♥♥♥」

同時に中が強く締まり、クラウディオもアルカディアの最奥に吐き出す。

「は…ぅ…♥は…はー……♥」

ぎゅううっと握られた手に力がこもり、アルカディアは荒い呼吸を繰り返した。余程強い快感だったのだろう。焦点の合わない瞳からはぽろぽろと涙が零れている。
持ち上げた細い足が小刻みに揺れて、まるで強請られているような気分になった。

「はふ…ぁ…は……」

「大丈夫か?」

「ん……」

こくりと小さく首を縦に振ったアルカディアは、少し落ち着いたのかゆっくりと息を吐き出した。

「…は…ぁ…♥きもち、よかった…♥」

「……煽るな」

「すきぃ…♥」

そう言って、アルカディアは甘えるように首に顔を埋めてきた。すり、と頬擦りする姿が愛らしくて、頭を撫でてやった。
じゃれつくように頬に何度も口付けてくるアルカディアの中から己を引き抜く。

「んっ、ぁ……♥」

名残惜しそうな声を上げたアルカディアだったが、すぐに蕩けた表情になり、物足りなさそうに腰を揺らしている。そんな仕草にも興奮してしまう自分に苦笑しながらも、再び挿れることはせずにそのまま抱き締め続けた。
腕の中でもぞもぞと動いたかと思えば、アルカディアはクラウディオの首筋に唇を寄せた。
ちゅ、と吸い付く音が聞こえると同時に微かな痛みが走る。どうやら痕をつけているらしい。「おい」と言えば、アルカディアは悪戯っぽく笑った後、今度は鎖骨の下にも強く吸い付いてきた。

「……また目立つところにつけたな?」

「うん」

悪びれもなく返事をすると、アルカディアは再びクラウディオの首筋に顔を埋めた。ぺろりと舐められた後、また強く吸われる。どうやらまだ満足していないらしい。

「こら」

窘めるように言うと、アルカディアは不満そうに口を尖らせた。

「やだ」

そう言って、今度は鎖骨の下あたりにも吸い付いた。また一つ、赤い花が咲く。アルカディアの唇が触れた箇所がじんわりと熱を帯びていくような錯覚に陥る程だ。

「んっ、ふ……♥」

アルカディアはとろんとした目でクラウディオの肌に吸い付くことに夢中になっている。時折漏れる吐息が艶めかしく、正直かなり目に毒だ。このままではまずいと思い、再び引き剥がそうとすると、アルカディアは小さく唸って抵抗した。まるでおもちゃを取られまいとする子猫のようだ。

「んっ、んん……♥」

アルカディアはクラウディオにしがみつくようにして強く吸い付き、最後に軽く歯を立ててから離れた。それから満足げに微笑むと、すりすりと頰ずりしてくる。子猫のような可愛らしい仕草だが、視覚的にはかなりいやらしいものだった。無自覚でやっているところが余計に性質が悪いともいえるだろう。

「くらでぃお、すき」

甘えた声でそう言って、アルカディアはクラウディオにぎゅうと抱きついた。どうやらすっかり甘えたモードらしい。

「くらでぃお、あったかい」

すりすりと頰を寄せてくる姿はまるで飼い主に甘える猫そのもの。可愛らしい仕草に思わず笑みがこぼれてしまう。いつもこうならいいのだが、アルカディアは気まぐれなのでそう上手くいくものではない。

「くらでぃお」

耳元で囁かれる声は砂糖菓子のように甘い響きを持っている。まるで毒のようにクラウディオの脳髄を犯していくのだ。その声色に逆らうことなどできるはずもなく、彼はそっと目を閉じたのだった。