What is
your name?








アッシュが、寝ている。
自分の、ベッドで。

その事実は、サファイアにとって、あまりにも衝撃的な事実だった。
彼と恋人関係になっても尚、アッシュは自分には決して気を許してくれないと、心のどこかで思っていたのだ。
しかし、それは思い違いだった。
今、目の前で眠りこけている彼は、完全に無防備だ。
その辺の猫よりも警戒心が強いアッシュが、こんなにも無防備な姿を見せてくれている。
その事実に、サファイアは感動した。
それと同時に、愛しさが込み上げてくる。
可愛い。可愛い。可愛い。
アッシュが、こんなにも愛しい。
改めて、自分とアッシュの関係に、サファイアは喜びを感じていた。
嬉しくて仕方がない。
彼と恋人関係になった日のことは、最早夢のように朧気だ。

「(俺みてぇなおっさんがなぁ…)」

まさか、こんなことになるなんて。
サファイアは、そんなことを考えていた。
こんなおっさんが、年下の男に惚れるなんて…と自嘲する一方で、それでも構わないと思ってしまう自分がいることに気付く。
それが答えなのだと、自覚している自分もいるのだ。
そう。もう自分は、彼から離れられないのだ。
彼との時間が何よりも愛おしくて仕方がないのだから。

それにしても相変わらず作り物のように整っている顔に、思わず見惚れてしまう。
本当に綺麗な顔をしていると思う。
この綺麗な顔が快楽に蕩ける様を何度も見たいとすら思ってしまうことに気付いたサファイアは、慌てて首を横に振った。
何を考えてるんだ、俺は。
そう思いながらも、サファイアの視線はアッシュの顔から離れようとしない。
そして、無意識に手が伸びる。
指先が頬に触れた瞬間、その感触に驚いたのかぴくりとアッシュの瞼が動いたような気がした。
だが、起きる気配はない。
サファイアは、そのまま手を滑らせた。親指で唇に触れると、ふにっと柔らかい感触が伝わってくる。それが楽しくて何度も指で押したり撫でたりしていると、アッシュが小さく唸ったような気がした。

「……」

この呑気に寝ている男のことを、自分は何も知らない。
そりゃ好きな酒とか食べ物、煙草の銘柄くらいは知っているけれど…。
それは全部、見てわかるものだけだ。
サファイアは、アッシュの寝顔を見つめながら考える。
きっと自分には知り得ぬような闇があるのだろう。

​​──だって、この男が自分と同じ人間だとは思えない。

他の連中がどう思っているかは知らないが、どうも人間の振りをしているように思えてならない。サファイアはアッシュのことを、自分とは違う別の生き物だと思っている節があった。
自身の故郷に伝わる伝説のように、我々人間を騙す狐なのではないかと。あっさり離れていって、手の届かないところでにんまり楽しそうに笑っているのではないか、と。
そう思うと、少し怖い。
──だからだろうか。
こんなにもアッシュが愛しいのは。
こんなにも、彼に近づきたいと思っているのは。

サファイアは、ゆっくりと身を屈めた。そして、アッシュの唇に自分のそれを重ねる。柔らかい感触が唇越しに伝わり、微かに煙草の香りが鼻腔を掠めた。
そのまま舌先で軽くノックすると、応えるかのようにアッシュが薄く口を開いた。熱い口内に入り込んだサファイアは自身のものを絡めるように動かす。上顎や歯茎の内側など敏感な場所をひと通り攻めた後、最後に軽く舌を吸ってから身を離した。
ぴくんとアッシュの身体が小さく跳ね、うっすらと目が開く。

「おはようさん」

「ん……」

ぼんやりとした表情のまま、アッシュはサファイアを見つめ返した。まだ意識が覚醒していないのだろう。どこか焦点の定まらない目でサファイアを見つめている。

「……どうした?」

小さく笑いながら、サファイアは再び顔を近づけた。今度は軽く触れるだけの口付けをし、その後すぐに離れて再び問う。
すると、ようやく脳が覚醒したのか、アッシュはゆっくり身体を起こした。

「…おはようございます」

「よく寝てたな。疲れてたのか?」

寝癖の着いた髪をくしゃりと掻いて、アッシュは独り言のように呟いた。

「…気を抜きすぎた」

​​──あぁ、この男は本当に自分を喜ばすのが上手だ。
たまに敬語が消えるのだってたまらない。
サファイアは、にやけそうになる顔を必死に抑えながらアッシュの頭を撫でた。
それを黙って受け入れている彼が可愛くて仕方がない。

「今日休みだろ?ゆっくりしたらどうだ?」

「……朝食作る」

そう言ってのそのそ起き上がり、アッシュはベッドから降りる。

「いいのか?俺に作らせりゃいいじゃねぇか」

「……私の方が上手い」

「言うねぇ〜」

サファイアは笑いながら答えた。確かにそうだ。料理も酒の趣味も、何もかも敵わないと思うほどに差があるのだから。
ゆっくり寝室を出ていく後ろ姿を見ながら、サファイアは伸びをした。
今日は何をしようか。サファイアとしてはその体を抱きたいが、アッシュの体調を優先させたい。
そんなことをぼんやりと考えながら、サファイアはベッドから出た。



朝食を食べ終え食後のコーヒーを飲みながら、二人はリビングで寛いでいた。
アッシュは新聞を読み、サファイアは煙草を吹かしている。じっと彼を観察していると、段々欲が湧いてきた。
やはり抱きたい。今すぐに。
その欲求は、この生活の中でどんどん強くなっていた。今までこんなことは無かったのに、アッシュと恋人になってからというもの、サファイアは自分がとても欲深い人間なのだなと感じるようになったのだ。
それだけ彼に惚れ込んだのかもしれないが、それでもいいと思った。それぐらい好きで堪らないし、一生側にいたいと思うほどに惚れ込んでいるのだから。そう認めてしまえば、心も軽かった。
そんなことを考えているうちに我慢出来なくなり、煙草を灰皿に押し付ける。
そして明確な意図を持って、サファイアはアッシュの首に手を這わせた。
ぴくりとアッシュの眉が動き、琥珀色の目がこちらを向く。

「……なんですか」

「ん?何がだ?」

サファイアは、わざととぼけてみせた。そのまま手を滑らせて胸元に触れると、アッシュが小さく息を吐く。だが、それだけだった。彼は特に抵抗せず、サファイアの好きなようにさせている。

「(……相変わらずかてぇな)」

その鍛え上げられた胸筋に触れながら思う。本当にこの男は、完璧すぎるのだ。顔も身体も心さえも全て。だからこそ崩してやりたいと思ってしまうのだが──。
サファイアは、そのまま手を下へと滑らせていく。引き締まった腹筋をなぞり、臍の周りをくるくると撫で回すと、アッシュが小さく身動ぎをした。

「っ……あの」

「…どうした?」

彼の眉間の皺が深くなる。嫌そうな顔が可愛くて、サファイアはつい声を出して笑ってしまった。
そして観念して直接お願いすることにした。

「抱かして」

アッシュはじっとサファイアを見つめる。
そして少し考えた後、彼は答えた。

「昨日したのに?」

「昨日は昨日だ」

サファイアは食い下がったが、アッシュは何も答えなかった。ただ黙って、じっとこちらを見つめている。

「頼むよ」

そう言って、サファイアはアッシュの手を取ると指先に口付けをした。そのまま手首に舌を這わせると、ぴくりとアッシュの腕が震える。

「………はあ」

小さく溜め息をついたアッシュに気を良くして、サファイアは立ち上がって彼の体を抱き上げた。でかい体を抱き上げるのはもう慣れてしまったな、と思いながら寝室へと連れて行く。
ベッドに放り投げる勢いで下ろせば、アッシュは不服そうな顔をしながらも大人しく横になった。

「貴方はいつも急で強引だ」

「悪いな」

サファイアは笑いながら、アッシュの上に覆い被さる。そして、再び口づけをした。

「っ……ん」

何度も角度を変えて貪るように口付けると、アッシュの息が上がってくるのがわかる。その隙を狙って舌を入れれば、すんなり迎え入れてくれた。そのまま絡ませ合い唾液を交換し合ううちに、段々と気分が高まってくるのを感じた。

「ん…ふ、」

アッシュの鼻にかかったような甘い声に煽られ、サファイアはどんどん行為に没頭していく。歯列をなぞり上顎を舐め上げれば、そこが弱いのかアッシュの身体が小さく跳ねた。
彼の反応一つ一つが可愛くて仕方がない。

「んぅ……っは」

苦しいのか、アッシュが身を捩らせる。サファイアは一度口を離してやった。銀色の糸が伸び、ぷつりと切れる。その光景すら扇情的だった。

「っは…はぁ…」

息を整えようと必死になる姿に煽られながら、サファイアは再び口付けをする。今度は先程よりも激しく口内を犯していった。歯列をなぞる度に身体を震わせている姿を見て嬉しくなり、執拗にそこばかり攻め立てる。

「んぅ…んっ、は……」

アッシュの手がサファイアの服を掴んだ。引き剥がそうとしているのだろうが、力が入っていないせいで縋るような形になっていることに彼は気づいていないようだ。
その姿がいじらしくて愛おしくて仕方がない。もっと虐めたいと思ってしまうほどに。

「…ちょっ…と…、まっ……」

流石に限界だったのか、アッシュが弱々しい力で胸を押し返してくる。しかしサファイアは気にせず続けた。

「んぅ…ふ、ぁ……んっ」

舌で上顎を擦れば堪らないといった様子で身を捩らせる姿に興奮する。逃げ惑う舌を絡め取り吸い上げると、彼の目から生理的な涙が流れ落ちた。それすらも勿体無いと思い拭い取っていると、次第に彼の舌の動きも緩慢になっていくのがわかる。頃合いを見計らって口を離せば、二人の間に銀色の橋がかかった。

「はっ…は、はぁ……」

苦しそうに呼吸をするアッシュの頬を撫でてやると、彼は気怠げにこちらを見てくる。その瞳には涙の膜が張っており、まるで宝石のように輝いて見えた。

「可愛い。可愛いなぁ…ほんっとに」

サファイアはうっとりとした表情で言うと、そのまま首筋に顔を埋める。そして強く吸い付いた。白い肌の上に赤い痕が残るのを見て満足そうな笑みを浮かべると、この男を抱き潰すために本格的に行動を開始した。



いつの間にこんな時間になっていたのだろうか。自身の下で組み敷かれている男は、もう完全に蕩けきっていた。
時刻は昼の2時を回ったところだ。
朝からずっと交わり続けているせいで、シーツは互いの体液でぐちゃぐちゃになっている。今更新しいものを用意したところで意味が無いだろう。

「ぅ…ん、ぁ……」

サファイアが腰を動かす度に、アッシュの口から小さな喘ぎ声が漏れる。既に何回も絶頂を迎えているからか、その身体は敏感になっているようだった。

「なぁ、俺のこと好きか?好きだって言えよ。なぁ」

耳元で囁きながら奥を突くと、きゅうっと中の締め付けが強くなった気がした。それに気分が良くなり更に奥へと入り込もうとする。ぐぽ、という音と共に亀頭が飲み込まれていく感覚に背筋が震えた。何度味わっても堪らない感覚だ。そのまま体重をかけるようにして押し進めれば、アッシュの口から悲鳴にも近い声が上がる。

「っ、ぁ……ぐ」

苦しそうに顔を歪める姿に興奮を覚えつつ、サファイアはアッシュのものを扱いた。すると中がキツく締まり、熱い媚肉に包まれる感覚にぞくりとする。

「アッシュ」

名前を呼びながら首筋を舐め上げると、彼の身体がびくりと跳ねた。そのまま舌を這わせていると汗がじんわりと滲み出てくるのを感じる。それがまた愛おしくて仕方ない。きっとアッシュはサファイアのものに染まっているのだろうという実感が得られているような気がして堪らなかった。
今この瞬間だけは、彼が自分だけを見ているこの瞬間は、本当に本当に堪らない瞬間だと言えるに違いない。
この優越感は何度味わっても飽きなかった。

「俺のこと好きか?」

どうしても、毎度確認せずにはいられなくなる。
この男が、自分に溺れていく様を見たいと思ってしまうからだ。本当に、自分に溺れてしまえばいいのにと思う。
一生離してやるものか。
自分以外の誰も見れないように、この男を縛り付けておけるのに。
サファイアはそう思いながら、再び問いを投げかけた。

「…っ、す……き…」

「どこが?」

「っ、は……ぁ」

サファイアの問いかけに答える余裕が無いのか、アッシュはただ荒い呼吸を繰り返すだけだった。その様子に苦笑しながらも動きを止めずにいると、段々と声が甘くなっていくのがわかる。そして、縋るように背中に爪を立てられるのを感じた。
その傷すらも愛おしいと思う自分はおかしいのだろうか。いや、おかしくてもいいと思うくらいには彼に溺れているのだろうが。

「ほーら」

サファイアは一度自身を引き抜いてから、今度は浅いところを小刻みに責め立てることにした。そうするとアッシュの口から上擦ったような声が漏れる。それが可愛くて仕方がなかった。何度もそれを繰り返すうちに段々と彼の口から漏れる声も大きくなり始めたようだ。

「んぁっ…ん、ふ……、ぁ」

既に理性が飛んでしまっているのだろう。いつものような芯の強さは感じられず、ただ快楽に身を任せている様子だ。それでもなお強い意志を持っているような美しい瞳は今は涙で濡れており、それがまた何とも煽情的であった。彼を苦しめるようなセックスをするつもりはないが、少しの加虐心と悪戯心が湧くのは許されたい。

「ここ好き?」

くぷくぷと浅いところだけを執拗に責め立てる。すると、アッシュの腰が揺れ始めるのを見て思わず笑みが溢れそうになった。

「んぁっ……、ぁっ…」

「気持ちいいな?」

サファイアの問いかけに答える余裕は変わらずないようで、ただ首を縦に振るのが精一杯のようだった。その様子に満足しながらサファイアは更に奥へ入り込むように腰を進める。ぐぽりという音と共に亀頭が柔らかな肉壁に包み込まれた瞬間、アッシュの身体が大きく跳ねた。
そのままゆっくりと前後に動かしてやると、それに合わせて中がひくついて絡みついてくる。あまりの気持ち良さに持っていかれそうになるのをグッと堪えながらピストン運動を繰り返すと、アッシュの口からは意味のない母音が漏れ続けていた。

「ぁ…、あっ……」

シーツを掴みながら悶える姿が艶めかしい。その姿を見ているだけで達してしまいそうになるほどの興奮を覚えたが、まだ駄目だと自分に言い聞かせた。もう少し楽しみたいのだ。この美しい男を自分の手で汚していく感覚を味わいたいのだから。

「はは…可愛い、可愛いなお前は」

めちゃくちゃに、どろどろに甘やかしてやりたい。
普段あんなに、全てに警戒しているような男なのだから。自分と居る時くらい何も考えずに居て欲しい。

「ぁっ…、うぁ……あっ」

ぱちぱちと視界を火花が散るような感覚に、アッシュは軽くパニックを起こしていた。サファイアによって散々虐め抜かれた身体はもう限界を迎えているというのに、それでもまだ終わらないのか。
ざわざわと魔力が波打つ。
意識が飛びそうだ。

「…っ♡……ッ♡♡」

ぎち、とアッシュの手に力が入った。
がくがく震える腕を叱咤して、すがりついていた彼の背中から手を離す。
瞬間、びきっとアッシュの爪が獣のように伸びた。
​​──駄目だ。傷つけるな。絶対。
その思いが、ぎりぎりでアッシュの意識を引き戻す。
そして、彼は無意識に枕を引っつかみ顔を埋めて、こみ上げる感覚に耐える。

「ふ……っ♡ぅ゛〜〜〜〜♡♡♡」

その仕草がサファイアの興奮を煽ったのか、更に強く腰を打ち付け始めた。どちゅっという音と共に亀頭が最奥まで入り込む感覚がして目の前が真っ白になる。全身が痙攣し呼吸すらままならない状態で何度も何度もそこばかり責められれば、もう何も考えられなくなった。
枕が裂ける感覚があったが、気にすることも出来ない。ただこの爪を隠すために、必死に耐え忍ぶ。

「はぁーっ♡はぁー……ッ♡♡」

この異貌の爪を見せないまま、サファイアを満足させることが大切だと考えて必死だった。
もう限界だというところで引き戻される意識と感覚のせいで気が狂いそうになる。だからアッシュは必死で枕を抱きしめ続けた。これを離したらまずい気がしてならなかったから。
しかし。

「よぉ。そろそろ顔見せろや」

そんな言葉と共に枕を剥ぎ取られ、アッシュの視界が明るくなる。
涙でぼやけた視界の中、見えたのはサファイアのギラついた瞳だった。

「ぁ……」

目が合った瞬間、サファイアの目が細められる。それと同時に中のものが大きくなったような気がしてアッシュは目を見開いた。
嫌な予感がして、本能的に逃げ出そうとするがもう遅い。がっちりと腰を掴まれて引き寄せられてしまったせいで逃げることも出来ずに奥深くまで入り込まれてしまう。その衝撃で一瞬意識が飛びかけた後、また激しいピストンが始まったことで現実に引き戻された。

「んぁ゛っ……♡♡ッ──♡♡♡」

ばちんっと肉同士がぶつかる音が響く。それと同時に強烈な快感が襲ってきたせいで、アッシュの身体が大きく仰け反った。しかしサファイアはその動きすらも許さないと言わんばかりに押さえ込んでくるため逃げることが出来ない。
それどころか更に激しく動かれてしまい、あまりの快楽に涙を流した。シーツの海の上でもがくことしか出来ず苦しそうな表情を浮かべる彼に構うことなく、サファイアは彼の中を犯し続けた。

「あ"っ……♡ぅ…っ♡ぁ゛あッ♡♡♡」

獣のような声が上がる。
思わず力が入る腕はサファイアに押さえつけられていて動かすことすら出来ない。伸びた爪を隠すことも叶わない。
ほぼ飛んでいる意識の中でアッシュはひたすらに焦り続けていた。
この爪を見られたくない。きっと大きく伸びているであろう牙も、見られたくない。見られて失望されるのが何より怖かったのだ。

「可愛い顔してんなァ。そんな牙あったのか」

そう言いながらサファイアはアッシュの顎を掴むと、ぐいっと上を向かせた。その拍子に彼の鋭い牙が露わになる。

「ぁ……ッ」

見られた、と思った瞬間血の気が引いた。
サファイアの目が細められる。
彼は完全に興奮しきっていた。

「なぁ、もっと見せてくれねぇか。可愛いお前の全部」

その言葉と共に更に激しく腰を動かされたため、アッシュは悲鳴を上げた。だがその声すらサファイアにとっては情欲を煽る要素にしかならないようで、彼は楽しそうに笑うとアッシュの首筋に噛み付いた。そのまま血を吸われる感覚に背筋が震えるが、同時に内壁を擦られるという刺激に襲われるため脳が処理しきれず思考がショートしてしまうようだった。
その間も容赦なく責め立てられ続ければもう限界はすぐそこまで来ていた。

「っ、あ゛……ぅッ♡」

「なぁ。お前の本当の名前、教えてくれよ」

耳元で囁かれた言葉に目を見開く。
どうして今、そんなことを聞くんだ。今この状態で言うことではないだろうと叫びたくなったが、喉から出るのは意味を持たない母音だけだった。
それでも必死に首を横に振りながら拒否の意を示すが、彼はそれを許さなかったらしい。中に入っているものの質量が増した気がしたかと思うと、思い切り最奥を穿たれ目の前が真っ白になるほどの快感に襲われたからだ。

「なぁ」

ごちゅんっ♡と音を立てて何度も叩きつけられる感覚に気が狂いそうになる。それでも必死に耐えていると、今度は浅いところを小刻みに擦られ始めた。その緩急のある動きに翻弄されながらも、アッシュはサファイアの問い掛けに答えようとはしなかった。

「アッシュ」

それは、サファイアが唯一、どうしても知りたかったことだった。
彼の好きな物よりも、彼の正体よりも。
この美しい男の名前が知りたかった。
本当の名前を、呼びたかったのだ。
優しい手つきで彼の爪を撫でてやれば、彼の瞳が僅かに揺れた気がした。

「っ……」

唇が微かに動くのが見える。しかしそれは音にならずに消えてしまったため、サファイアはもう一度問いかけた。

「アッシュ」

彼の目を見つめながらもう一度名前を呼ぶ。すると、アッシュが何かを言いたげに口を動かしたのが見えた。

「頼むよ」

懇願するような声色で言うサファイアの目は真剣そのもので、アッシュはどうしていいか分からなくなる。ただ漠然とした恐怖だけが押し寄せてきて居ても立っても居られなかった。無意識に自身の手を掴む腕から逃れようと後ずさるが、それは許さないと言わんばかりにもう片方の手で腰を押さえつけられてしまった。
そして、そのまま一気に最奥まで貫かれてしまえばもう為す術が無い。

「────ッ♡♡♡」

声にならない悲鳴を上げながら絶頂を迎えたアッシュの身体を押さえつけたまま、サファイアは尚もピストンを続けた。
ぐちゃぐちゃにして意識朦朧とした状態で言わせてやろうと、彼の好きな所をひたすらに責め続ける。

「ぁ、あっ♡ぁ゛ッ♡♡」

アッシュの口からはもう意味のある言葉は紡がれなかった。ただただ喘ぐだけの存在になった彼に愛おしさを覚えながら、サファイアはその首筋に強く噛み付いた。

「なぁ、アッシュ。お前の、本当の名前、教えてくれよ」

「ひ、ぅ……ッ♡♡ぁ゛ッ……♡♡♡」

返事を待つ余裕など無かった。ただこの美しい男の名前が知りたいのだ。どうしても。他のことなんてどうでもいいくらいに。
彼の名前を呼びながらひたすらに犯し続けると、とうとう観念したのかアッシュが口を開いたのが分かった。

「……っ、く………」

「ん?」

「っ、ぅ…、ぁ……」

何かを伝えようとしてくれていることは分かるが、はっきりと聞こえない。焦れったくなって更に激しく責め立てると彼はいやいやと言うように首を振った。その仕草にすら興奮を覚えつつ、返事を催促するようにまた奥を突き上げるとアッシュはシーツを握り締めながら必死に言葉を紡いだ。

「……くぁ、…ぃ…ぉ…」

小さな小さな声。
上手く聞こえなくて、彼の口元に耳を寄せる。

「もう一回」

「…く、らぅ、……でぃお」

音として空気を震わせて初めて、それが彼の名前なのだと気付くことが出来た。
そして彼が口にした瞬間、身体中にびりりと電流が流れたかのような感覚に囚われる。とても甘く響いたように感じられたのだ。恐らく自分は今笑っているのだろうと他人事のように考えるもそれもすぐに消えてしまう。今は目の前にいるこの男の名を呼ぶこと以外考えられなかったからだ。

「クラウディオ」

彼の名を口にすると、中がきゅうっと締まった。それが可愛くて何度も繰り返し名前を呼んでやる。その度に彼はびくびくと身体を跳ねさせて悦んだ。その反応を見て気を良くしたサファイアは徐々に腰の動きを速めていく。

「クラウディオ」

「ぁ…やめ…」

「クラウディオ」

「……ぁ、ぅ……っ♡」

耳元で名前を囁く度に中がきつく締まる。どうやら彼は耳が弱いらしいと気付いたところでサファイアは一度動きを止めると、耳元から顔を離して彼の瞳を覗き込んだ。快楽に溺れ切ってはいるがまだほんの少し理性が残っているらしいことは知っている。それを剥ぎ取るため敢えて煽るような言葉をかけた。

「可愛いなァ」

そして思いっきり突き上げてやるとアッシュは声にならない悲鳴を上げながら背中を仰け反らせた。びくんと身体が跳ね上がり、爪先が伸びる。絶頂が続いているらしく痙攣を繰り返す彼を見てサファイアはさらに追い込むかのように激しく腰を打ち付けた。

「ひっ……ぁ……っ♡ぅ"〜〜ッ♡♡♡」

「クラウディオ」

彼の名前を呼びながら一際強く打ち付ければ、びくんと大きく身体を跳ねさせながらアッシュはまた絶頂を迎えたようだった。それと同時にきつく締め付けられるものだからサファイアも限界を迎えて射精感が高まってくる。そのままピストンを続けていれば一気に下腹部に熱が集まり始めた。

「なぁ、クラウディオ」

「ぁ…っ♡ぅ……ッ♡♡」

再び耳元で名前を呼ぶと彼は嫌々と首を振って逃れようとするが逃すつもりは無い。そのまま何度もピストンを続けてやればアッシュの目からはぼろぼろと大粒の涙が溢れ始めた。それを見てサファイアは思わず舌なめずりをする。
ああ、可愛いなと思うと同時に支配欲のようなものが込み上げてきて止まらなかった。もっと泣かせたい、縋らせたい、自分にしか見せない顔を見たいという感情がどんどんと強くなる。

「クラウディオ、愛してるよ」

​​──だからいつか、お前の正体も教えてくれよ。

心の中でそう願いながら、サファイアはアッシュの中に欲望を全て吐き出した。

「ぁ……っ♡ぅ"〜〜〜〜♡♡♡」

どくんどくんと脈打つ感覚と共に熱いものが注がれていく感覚に背筋が震える。同時に襲ってくる快感に身悶えていると、不意にサファイアの手が伸びてきて顎を掴まれた。そのまま無理矢理視線を合わせられるが抵抗する気力など残っていない。されるがままになっていると、親指で牙をなぞられた。

「ぁ、あ……っ♡」

牙を撫でられる度に快感が襲ってくる。そして最後に感触を楽しむように先端にぐっと指を押し付けて、ようやく手を離してくれたのだが、それと同時にずるりと引き抜かれたせいでアッシュの口からは甘い吐息が漏れた。
栓を失った後孔からは白濁液が流れ出る感覚がした。

「あぁ、やっとお前の名前が知れた」

彼の大きな手がまるで壊れ物を扱うかのように優しく頬に触れてくる。
それだけでもぞくりとした感覚に襲われたが、その掌はすぐに離れていってしまった。

「いい名前だな。お前に合う」

「……ぃ」

「ん?」

ぼそりと何かを呟いたアッシュにサファイアが聞き返すと、彼は真っ赤な顔で睨み上げてきた。涙で潤んだ瞳のまま睨まれても全く怖くは無いのだが、それは言わないでおくことにした。

「言い、た…く、なかった…」

「なんでだよ」

そしてもぞもぞと拗ねるように布団を被って丸まってしまったアッシュに苦笑する。

「シャワー浴びねえか?シーツも汚ぇだろ」

「……………動けない」

「連れてってやるから。な?」

「…………」

彼は酷く疲れきっているらしい。ベッドの上で蹲っている状態で一歩も動けていない。
さすがにやりすぎた、と反省したサファイアはゆっくりとアッシュの体を抱き上げて風呂場へ運んで行った。



「戻っちまったなあ」

体を綺麗にして、ベッドのシーツも変えてソファーで一段落しつつアッシュの手を眺める。
鋭い爪も牙も、すっかり無くなってしまっていた。

「………」

むす、と黙り込んでいるアッシュがどこか拗ねた子供のような雰囲気で可愛らしい。

「悪かったよ。な、機嫌直してくれ」

「……別に怒ってない」

そう言いながらも声音は地を這うように低い。怒っているじゃないかと思いながらも、これ以上機嫌を損ねると面倒だと思い何も言わずにおいた。

「なぁ、また見せてくれよ、その牙とか爪とかさ」

「断る」

「なんでだよ。可愛いのに」

サファイアがそう言うと即座に睨まれた。しかしそんな表情すら愛おしく思えて仕方がない。
彼は、魔人族なのだろうか。それとも、もっと別の何かなのだろうか。

「不公平だ。貴方の本名も教えろ」

「えぇ〜?俺の名前はいいだろ〜。面白くねえし」

「ふざけるな」

げし、と腕を蹴られる。その仕草も可愛く感じてしまうのだからもう駄目だ。
サファイアは苦笑した。

「どうしても言わなきゃ駄目か?」

「不公平だ」

「またいつか教えるからよ、今は勘弁してくれや」

瞬間、アッシュの表情はまた不機嫌になった。
その反応を見てまた笑いそうになるのを堪えながら頭を撫でてやる。
ぶつぶつ文句を言いながらコーヒーを入れに行った背中を見送って、サファイアは煙草に火をつけた。